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2017年10月25日 (水)

弦楽四重奏でエヴァンスを

※以下の記事は、2008年に別サイトに書いた記事を転載したものです。エヴァンス関連の文章として再録しておきます。

 うちの隣の隣の市にある中古ディスク店「フラミンゴ・レコーズ」恒例の倉庫市が週末にあったので、休日出勤の後でのぞいてきた。ちなみに今回買った中古盤は、最近ちょっと凝っているモーツァルトの舞曲集のLP(ボスコフスキー指揮の3枚組、ロンドン・レコード)、アルゲリッチとマイスキーのベートーヴェンのチェロ・ソナタ集CDの前半1枚目(後半の2枚目だけは持っていた。ドイツ・グラモフォン)、それから最後が、今、聴いているクロノス・カルテットの演奏した『ビル・エヴァンス作品集』のCDだ(ランドマーク)。

 ビル・エヴァンスは、ジャズ・ピアニストの中でも最もクラシック音楽に近い存在だろう。テクニックももちろんあるし、印象派風の和声感覚と繊細なタッチは、クラシック・ファンにも受け入れやすいはずだ。なにしろ彼には、自宅における練習風景を収めた『Practice Tapes No.1』なるCDがあり(没後に出たものだが)、これにはバッハの平均律を弾いたものまで入っている。エヴァンスは1980年の9月に亡くなっているが、現代音楽専門の弦楽四重奏団として知られるクロノス・カルテットが、エヴァンスの作品集を録音したのは、そのちょうど5年後にあたる秋のことだ。

 このCDの第一番目の曲は、もちろん彼の代表作である「ワルツ・フォー・デヴィ」。エヴァンス自身も、ソロやトリオで何度も録音を残しているが、最も有名なのは1961年の6月25日の日曜日にニューヨークのヴィレッジ・ヴァンガードで演奏された、その名も『Waltz For Debby』というアルバムに収録されたテイクだろう。というのもこのライヴの貴重さは、その11日後に共演していたベーシストのスコット・ラファロが、交通事故で亡くなるという結末が待っていることにもよる。もちろん録音当日には、そんなことは誰にも予想できなかったはずである。その演奏はある種完璧なまでに完成されていて、まったく後の悲劇につながる要素はないほど澄明な音楽が流れている(そのことが聞き手に、どこまでも青い夏空を眺めているときのような透明な悲しみを呼び起こすとしても)。

 さて弦楽四重奏で聴くエヴァンスの姪っ子「デビィ」のためのワルツだが、冒頭から原曲の雰囲気を壊すことなくうまくストリング・アンサンブルに移し替えていて、エヴァンスの演奏に慣れ親しんだ耳にもほとんど違和感はない。少しあって、ハイポジションで弾かれる低弦のピチカートが入ってくるが、これもラファロのベース演奏で聴き慣れた原曲のテイストどおり。初めて聴いたときは、チェロでベースのパートを模しているのかと思っていたのだが(このCDの後半には実際そういう編曲もある)、やがてこれは正真正銘ベースの音だとわかってくる。CDのクレジットを確認してみたら、なんとビル・エヴァンス・トリオのレギュラー・ベーシストのひとりであるエディ・ゴメスが参加していた!

 エヴァンスの演奏歴は、ベーシストの変遷でもって語られることが多い。その中でゴメスはラファロの次の次=三代目にあたり、最も長い期間をエヴァンスとともにしている。トリオ・メンバーだった当時は、どうしても天才ラファロと比べられただろうし、時には心ない中傷の言葉を受けたこともあったと思うけど、この弦楽四重奏バージョンでのゴメスは、本当に楽しそうにベースを弾いている。まるで、空の向こうのビルに聴かせようとでもいうように生き生きと・・・。このCD、現在は品切れ(デジタルミュージク版ならある)のようだが、クラシック・ファンにも楽しめる好企画盤なのでぜひ復活させてほしい。

※このアルバムには、ゴメスのほかにも、エヴァンスと共演歴のあるギターリスト、ジム・ホールが参加している。また全9曲の収録曲のうち1曲だけエヴァンス作曲以外の曲があり、それがマイルス・ディヴィス作の「ナルディス」というあたり、選曲もなかなか優れている。しかし、それもこのCDのプロデューサーが、オリン・キープニュースと聴けば、納得せざるを得ない(彼は、リバーサイド時代からずっとエヴァンスをプロデュースしていた盟友だ)。

※※余談だが、ドイツ・グラモフォンに、ゴリホフ(Osvaldo Golijov)というアルゼンチン生まれの作曲家の作品集『テネブレ、オセアナ、3つの歌曲』があり、これに収められた「テネブレ」(2002年)という曲にクロノス・カルテットが参加している。実はこのCDのジャケットは、ビル・エヴァンスがジム・ホールと共演した『アンダーカレント』というアルバムの表紙と同じデザイン。それは水面から顔だけを出して浮かんでいる女性の全身を、水中から撮ったモノクロームの写真(Toni Frissell というアメリカの女流写真家の作品)であり、名ジャケットとしてLP時代から有名だったもの。どういう意図なのかは、僕にもわからないけれど、クロノス・カルテットとエヴァンスのつながりとして見ると興味深いものがある。

□ ランドマーク, VICJ-5005

2017年9月30日 (土)

『On A Sunday Evening』ハイレゾ版

[Fantasy, FAN00095(CD)], 1976

 前回に引き続き、今春発売されたエヴァンス・トリオのもう一つの新作『On A Monday Evening』についても、遅ればせながらハイレゾ版で聴いてみた。「e-onkyo」でダウンロードしたものだが、こちらはなぜか「flac 192kHz/24bit ¥2,070」という選択肢しかない。ちなみにこの作品も、アナログLP版が出されている(当然、mp3バージョンもある)。これは近年の多様化するメディア状況を反映した結果でもある。

 1976年11月にウィスコンシン大学マジソン校のユニオン・シアターで行われたライヴ録音とのことで、当然ながら音質にも期待が高まる。会場のユニオン・シアターは、CD解説のアシュリー・カーン※1によれば、1,000席もある会場とのこと。 ただ実際、CD版も含め聴き比べてみたが、ホールトーンが少ない、やや平板な感じの音響になっている(なんとモノラル録音だった)。特に、ゴメスの弾くベースが、ボワーン・ボワーンとお風呂で聴くように響く部分がある。その中でエヴァンスのピアノは、程度の良いホールの楽器を使っているせいか、高音を中心に非常にきれいに捉えられている。これは大きな救いである。たとえば、「Someday My Prince Will Come」のピアノ・ソロ、1分前後の流れるような旋律などは、なかなか聴けるものではない。

 演奏曲目は、この時期のツアーでよく弾かれている曲が中心になっている。同じファンタジーから出ていたライヴ盤『The Paris Concert』が1976年11月5日収録なので、ヨーロッパ・ツアーから帰国した直後の記録ということになる。実際、「Sugar Plum」「Time Remembered」「Someday My Prince Will Come」「Minha (All Mine)」「All Of You」の4曲が、このパリ・ライヴと被っている(それぞれカットされている曲があるので、実際にはもっと被っていただろう※2)。「Sugar Plum」はエヴァンスの手になる比較的新しい曲で、1971年にコロンビアで残した意欲作『The Bill Evans Album』で発表されたもの。70年代の彼の作品中でも屈指の名曲と思うが、ここでもアルバム冒頭の曲として聴きごたえ十分だ。冒頭の長いピアノ・ソロが終わりベースとドラムが加わってくる瞬間は、いつ聴いても胸踊る瞬間である。このソロは3分以上続くときも多いが、今回のライヴでは2分程度で収めている。人懐っこい旋律が魅力の「Up With The Lark」を挟み、「Time Remembered」の深遠な響きを聴くと、もう録音のことは忘れて聴き入っている自分がいる。3分ちょっと過ぎから出るゴメスによるアルコ・ソロは、彼としても自慢できる出来ではないか。「T.T.T.」も上記『The Bill Evans Album』が初出。クラシックの12音技法をジャズナンバーに取り入れた曲としては最も成功した曲の一つだろうが、ここでもゴメスのテクニックには舌を巻くほかない。最後の「Some Other Time」はエヴァンスにとって名演度の高い曲で、実際、60年代にもいくつか印象的な録音を残しているが、70年代後半のトリオ演奏としては貴重だろう※3。テンポ・雰囲気等は有名なヴィレッジ・ヴァンガードでのファースト・トリオの演奏(1961年)によく似ていて、 過度に重くならず、心持ち早めのテンポでさらっと終えている。

 収録曲はただ1曲「All of You」を除いて、長くても6分ちょっとに収まる尺であり、アルバム全体としては実に落ち着いたトーンで進めたライヴとなっている。エヴァンスのプライヴェート上の安定ということもあるのだろうが、音楽的にはドラムスがマーティ・モレルからエリオット・ジグムンドに変わったことが大きいだろう。で、その「All Of You」だが、それぞれのソロも含めて10分近い長さになっている。三人とも心置きなく演奏していて、聴く方も新生エヴァンス・トリオの魅力を十分堪能できる。

1)Sugar Plum
2)Up With The Lark
3)Time Remembered
4)T.T.T. (Twelve Tone Tune)
5)Someday My Prince Will Come
6)Minha (All Mine)
7)All Of You
8)Some Other Time

Bill Evans (p)
Eddie Gomez (b)
Eliot Zigmund (ds)

1976/11/15 (Madison, Wisconsin)

※1 『マイルス・デイヴィス「カインド・オブ・ブルー」創作術 (モード・ジャズの原点を探る)』(DU BOOKS)の著者として有名(>こちら)。
※2 例えば、この年のライヴ記録で最も完全に残っていると思われる9月6日の「ケルン・コンサート」(>こちら)のセットリストとは、6曲が被っている。
※3 前年(1975年)に、トニー・ベネットとの共演で演奏したのが、きっかけとなったのだろうか。

2017年9月26日 (火)

『Another Time: The Hirversum Concert』ハイレゾ版

[Resonance, HLP-9031(LP)/HCD2031(CD)] 1968

 先週、筆者のメールアドレスにハイレゾ音源の配信サイト「e-onkyo」から「ウィークリー・ランキング」なるメールが届いた。なぜそのことをここに書くかと言えば、配信音源のランキング第1位が、エヴァンスの『Another Time: The Hirversum Concert』だったからである。これはある意味びっくり。トップ10中には、クラシックの特別割引商品が1つ入っているだけで、あとはJ-Popや洋楽といったポピュラー・ミュージックで占められている。こうした事情に通じているわけではないが、ジャズの商品としては異例なのではないだろうか?

 このアルバム自体は、こちらの発売予告記事でご紹介した発掘音源で、今年2017年4月にアナログLPだけという仕様で発売されたので驚いた憶えがある。咋月末には無事に?CDバージョンも発売になり、結局、我々は両方買わされるはめとなる(なった)のだが・・・今度はハイレゾ音源である。

 さっそく「e-onkyo」のサイトに飛んでみる。と、以下の7つのラインナップがある。
1. WAV 96kHz/24bi  ¥1,125
2. WAV 192kHz/24bit  ¥1,350
3. flac 96kHz/24bit  ¥1,125
4. flac 192kHz/24bit  ¥1,350
5. DSF 2.8MHz/1bit  ¥1,450
6. DSF 5.6MHz/1bit  ¥1,575
7. DSF 11.2MHz/1bit  ¥1,575

 いずれもCD(44.1kHz/16bit)よりも高音質。それでいて同盤のCDはネット店でも2千円ちょっと、LPにいたっては3千円以上したはずである。なので、この価格帯は魅力的に映る。しかもパソコンにダウンロードして、DACにつなげばすぐ聞けるというのは、なかなか便利だ。で、買ってみた。我が家の視聴環境だと、DSD256(DSD11.2)はネイティブで聴けないのだが、6. DSF 5.6MHz と値段が変わないので、7. DSF 11.2MHz の方をダウンロードした。しかもちょうど先週、「【9/22 moraメルマガ】本日、iOS向け音楽プレイヤー『mora player』がDSD11.2MHzまでの再生に対応いたしました!」というお知らせが届いていたので、さっそくiPhoneにDACをつなぎ試してみることにした。DSD音源は、PCM系に比べアナログライクと言われることが多いが、確かにあまりデジタル臭さを感じさせない落ち着いた音作りである。もしかして、CDの方が鮮度が高く感じられるかもしれない。それでもシンバルやハイハットの音は、しっかりと中央部に定位し、実在感が高い。何よりも会場の空間がよく表現されている。これはまさにハイレゾ、DSDのおかげだろう。

 本作は、1968年6月22日にオランダ・ヒルフェルスムで行われたスタジオ・ライヴの記録である。このところエヴァンスほかの発掘音源を次々と出しているレゾナンスが手がけたもの。先年、ジャック・ディジョネットを擁した新しいエヴァンス・トリオのメンバーが、ドイツ・フィリンゲンのMPSスタジオで行ったセッション録音盤『Some Other Time: The Lost Session from the Black Forest』(同年6月20日録音)が発売され大いに話題になったが、それもこの会社の手になるものだった。演奏曲の中で、直前(同年6月15日録音)の『At Montreux Jazz Festival』と共通なのは、「Embraceable You」および「Nardis」の2曲のみ。また、上記の2枚組『Some Other Time』とも、「You're Gonna Hear from Me」と「Very Early」「Turn out the Stars」の3曲しか被っていない。これらの中では、なんといっても「Embraceable You」が珍しい。「モントルー」盤で初めて取り上げた曲だが、まるで琵琶でも弾いているかのようなゴメスの硬派なソロが、こちらでも異彩を放っている。他の曲も、この時期、集中して取り上げた「You're Gonna Hear from Me」や「Alfie」のほかは、ほぼエヴァンスが長年弾き込んだと言えるナンバーが並んでいる。「Nardis」では、冒頭「シ・ミー」と上がるおなじみのテーマと、そこに「タッター」とたたみ掛ける合いの手が、いつもよりずっと短く、極めて斬新だ。これは「モントルー」盤でも聴かれるので、まさにディジョネット効果と言えるし、その後の長いドラム・ソロもまったく退屈させず聴かせるのはさすがだ。録音も上記のように非常に優れている。「新たな名盤の誕生だ!」。

 なお、雑誌「Jazz Japan」の Vol.85(OCT.2017) に、レゾナンスで当盤の発掘を進めたゼヴ・フェルドマン氏のインタビュー記事が掲載されている。またインタビューの最後には、「進行中のものがいろいろあるけれど,ビル・エバンスは78年にトリオが最後に来日したとき,日本の高知のクラブで収録されたものをはじめ,まだまだ貴重な音源が多くある。」とフェルドマンは語っていた。これが実現するのだとしたら、我々はしばらく待つ楽しみを味わえそうだ。

1)You're Gonna Hear from Me
2)Very Early
3)Who Can I Turn To?
4)Alfie
5)Embraceable You
6)Emily
7)Nardis
8)Turn Out the Stars
9)Five

Bill Evans (p)
Eddie Gomez (b)
Jack DeJohnette (ds)

1968/6/22 (Holland, Hilversum)

2017年9月24日 (日)

1965年秋の訪欧ツアーまとめ(補遺)

 今月初めから、1965年の秋にエヴァンスが単身ヨーロッパに渡って行ったツアーに関連する記事を書いていた。ひと段落ついたので、以下、記事中に触れられなかった点について、少し書いておきたい。

 1965年10月29日にベルリンのフィルハーモニーで収録されたとされるメドレーの第1曲「How Deep is The Ocean」について、今聴けるCD『Live In Europe 1965』盤(さらに元盤である『Together Again』LP・CD盤(Moon))には、コニッツのソロ(2コーラス目の後半あたり)にほぼ半コーラス分カットがあることを指摘しておいた。完全版はイタリア製のLP『Lee Konitz / Chet Baker / Keith Jarrett Quintet』(Jazz Connaisseur)に収められている。(その1)の注にも書いたことだが、このLPには同内容のCDがある。『Lee Konitz Meets Keith Jarrett, Chet Baker & Bill Evans』(Jazz View, CDD 031)がそれであり、前記事を書いた折には、当該CDがまだ手元に用意できていなかった。その後、調べてみると、このCDにおける「How Deep is The Ocean」の収録時間は「5:20」であることがわかった(下記画像を参照)。

Lee_konitzevans

 これは上記『Live In Europe 1965』盤等とほぼ同じタイムである。もしかしてこのCDにもカットがあるのだろうか。で、先日、ようやくこの音源を手に入れることができた。CDのタイム表示は、「5:33」 。それでも、LPの「約6:48」とは開きがある。実際に聴いてみると、途中のアルトサックス・ソロは、LPバージョンと同じ長さ。となると、どこにカットが・・・? 疑問に思いながら最後まで聴いていくと、テーマ再現部の終わり4小節の前で、なぜかフェードアウトしていた※1。CD化された時に、なぜあえてこのような面倒臭い処置をしたのかは不明である。が、結果、上記LPはやはり貴重だということがわかった。

 次も偶然、同じ「5:20」というタイムに関する話題。エヴァンス・レパトリーの「009 Beautiful Love」の記事で、Verve盤『At Town Hall Vol.1』のオリジナルLPには、この「Beautiful Love」は収録されていなかったということを僕は書いている。今ではほとんどのCDにボーナス・トラックとして収録されているが、元々は同じ Verve から出たベスト盤LP『The Best of Bill Evans』が初出だった。そのこと自体には問題がないのだが、念のためこのLPを取り出してきたら、なんとレーベル面に、A面第1曲「Beautiful Love」のタイムとして「5:20」との記載がある。

The_best_of_bill_evans

 最近のCD等には、この追加曲のタイムは「6:54」となっている。もしかして、こちらもカットがあるのかと思い、ターンテーブルにLPを乗せ計測してみた。しかし、その収録時間はほぼ「6:54」前後であり、演奏にも変わりはない。どうやらこれはLPのレーベル表記の方が間違っていたようだ。念のためと思い、もう一枚、自宅にあった国内盤再発LP『タウンホールのビル・エヴァンス』(Polydor, 23MJ 3039)をレコード・ラックから探し出してきた。こちらにはA面最後に「Beautiful Love」が、B面冒頭に「My Foolish Heart」が追加収録されているからである※2。ライナーノーツには「6:47」という表記があるが、やはり中身は同じ演奏であった。以上、これらのCD・LPを聴く際の参考になれば・・・。

※1 曲全体の構成は、こちら
※2 現在はもう一曲「One for Helen」も含む「+3」仕様のCDが多い。

2017年9月22日 (金)

010 How Deep is The Ocean

 1965年秋の訪欧ツアーに関する曲の最終回。前回取り上げた「Beautiful Love」とは、『Explorations』に収録されていた曲という点でも共通点がある。ただし、この曲の場合、録音記録は1960年代に集中している。

 曲の構成は、ABAC。各8小節づつで計32小節となる(特に記載のない演奏は、トリオ編成)。

1)『Explorations』(Riverside, 1961) 3:34
※スコット・ラファロ(b)、ポール・モチアン(ds)というファースト・トリオによる2枚目のアルバムから。こちらは本編に採用されたテイク1にあたる。よく言われることだが、この演奏の特徴は引っかかるようなリズムで出るテーマが、オリジナル曲のそれと大きく違い、すでに変奏されていること。3分半という短い尺だが、終わり近くにやっとテーマらしき旋律が顔を出す。全体の構成は、変奏されたピアノ・テーマ(1コーラス、T32)、ピアノ・ソロ(1コーラス、T32)、ピアノ・テーマ(1コーラス、T31)、後奏(3拍子のリズムを4回くりかえしてエンディングのフレーズ)。ピアノ・ソロでの流れるような音の連なりは何度聴いても新鮮で、耳をそばだてざるを得ない。
2)『Explorations - Original Jazz Classics Remasters』(Riverside, 1961) 3:48
※このテイク2は、『The Complete Riverside Recordings』にも収録されず、この「Original Jazz Classics Remasters」シリーズで初めて登場したバージョン。このテイクでも旋律は違うが、また引っかかるようなリズムで曲を始める。構成は、1)と同じ。こちらにも書いたことだが、テイク1のラファロは低音中心で弾いているのに対して、テイク2の方はハイポジションを多用している。
3)『Bill Evans Trio "Live"』(Verve, 1964) 5:55
※西海岸・カリフォルニアでのライヴというのは、エヴァンス的には珍しい。メンバーは、チャック・イスラエル(b)、ラリー・バンカー(ds)。1)2)とは違うテーマ変奏(AB部分)で始まる。ただこちらは次の(AC部分)でほぼ完全なピアノ・テーマを出す。その後、ピアノ・ソロ(2コーラス)、ベース・ソロ(2コーラス)、ピアノ・テーマ(1コーラス、T32)、後奏(T2の後、2拍子のリズムを3回くりかえしてエンディングのフレーズ)。まだまだ余裕を持ったテンポで弾いているし、イスラエルの歌うようなベース・ソロも絶妙。これは名演だろう。
4)『Live in Paris 1965』(Lonehill, 1965) 6:26
※3)と同じメンバーによる1965年の最初のヨーロッパ・ツアーでのライヴである。1988年にまさに『How Deep is The Ocean?』というタイトルのLP(Heart Note)で出たのが初出で、音質はやや落ちる。放送録音らしく、曲頭に曲名をフランス語訛りで呼ぶアナウンスが被る。初めて曲頭にゆっくりとしたルバートによるピアノ・テーマが入った(約T12分)。その後、通常速でのテーマ演奏、しかもオリジナルに近い旋律が続く。以下、ピアノ・ソロ(3コーラス)、ベース・ソロ(3コーラス)、ピアノ・テーマ(1コーラス、T32)、後奏(T2の後、2拍子のリズムを3回くりかえしてエンディングのフレーズ)という構成。ソロは3コーラスづつというフルサイズだが、テンポが速めになっているせいか、演奏自体は少しも長いとは感じない。イスラエルのベース・ソロの後、盛大な拍手が出るが、彼のベースはエヴァンス・トリオの歴史にあってもっと評価されてもいいのでは。
5)『Complete Live at Ronnie Scott's Club 1965 + Penthouse 1966』(So What, 1965) 約5:40
※こちらも3)4)と同じメンバーによるライヴ。構成は、ルバートによるピアノ・テーマ(A部分)〜通常速でのオリジナル・テーマ(BAC部分)、ピアノ・ソロ(3コーラス)、ベース・ソロ(3コーラス)、ピアノ・テーマ(1コーラス、T32)、後奏(T2の後、2拍子のリズムを3回くりかえしてエンディングのフレーズ)。元々は「Jazz 625」というテレビ番組として英国で収録されたもの。2セット分が撮られ、以前から映像ソフトとして何度も発売されてきたが、現在ではいずれも品切れ中のようだ。次善の策としてCDRながら当盤を上げておく(ただし「ロニー・スコッツ・クラブ」での演奏ではない)。やはりテンポは速めだが、エヴァンスのピアノはコロコロと玉のような音色で心地よい。そのおかげか、それほど早急な感じはしない。
6)LP『Lee Konitz / Chet Baker / Keith Jarrett Quintet』(Jazz Connaisseur, 1965) 5:48
※『ヨーロッパにおけるリー・コニッツ(as)、ニールス=ヘニング・オルステッド・ペデルセン(b)、アラン・ドウソン(ds)というメンバーとの一連のツアー演奏から。10月29日にベルリンのフィルハーモニーで収録されたとされるメドレーの1曲目にあたる(他の曲は「Detour Ahead」「My Melancholy Baby」)。冒頭、アルトサックスがルバートでいかにも雰囲気重視の前奏を始めた後、約T4分の序奏に乗って通常速のテーマ演奏につなげる。コニッツがそのまま2コーラスのソロを吹き、続いてピアノとベースがそれぞれ1コーラスづつのソロを取る。その後、コニッツのテーマ・ソロに戻り、最後T4をゆっくり吹いて次の曲に移る。『Live In Europe 1965』(Lonehill) 盤という復刻CDにも収録されているが、当該LPと比べると、『Live In Europe 1965』盤(さらに元盤である『Together Again』盤(Moon))には、コニッツのソロにほぼ半コーラス分(2コーラス目の後半あたりに)カットがあるので注意が必要だ。演奏自体は比較的ゆったりと流れて、コニッツとの共演では成功した方だろう。エヴァンスのソロも短いがさすがに味がある。
7)『Lee Konitz Trio & Quartet Featuring Bill Evans』(Magnetic Records, 1965) 6:39
※こちらは6)と同じツアーから、10月31日もしくは翌日11月1日にコペンハーゲンのチボリ・ガーデンで録音されたもの。この演奏は、リー・コニッツがピアノなしで2曲を披露したあと、マイクを握り「もしこの会場のどこかにビル・エヴァンスがいるなら、ステージに上がって一曲参加してもらいたいんだが。」と呼びかけて始まった。実際、このCD にも曲間にそのアナウンスが収録されている。こちらでは、わざわざ舞台上に呼び出しただけあって、テーマ演奏~始めのソロは、エヴァンスに取らせている。全体の構成は、ルバートによるピアノ・テーマ(AB部分)〜通常速でのオリジナル・テーマ演奏(AC部分)、ピアノ・ソロ(2コーラス)、アルトサックス・ソロ(3コーラス)、ベース・ソロ(1コーラス)、ピアノ&アルトサックス・テーマ(1コーラス、T31+集結和音)。またこの演奏には映像版が残っていて、それを見る限り引き続き「Beautiful Love」が演奏された。
8)『The Secret Sessions, Recorded at the Village Vanguard, 1966-1975』(Milestone, 1967) 6:04
※セット中、ディスク4に収録。ヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴ録音。ドラムス担当がフィリー・ジョー・ジョーンズと聞いて、派手なドラミングを想像される方も多いと思うが、意外におとなし目の進行に始まる。とは言え、ソロ部分では徐々に速度を上げ盛り上げていく。ベースはエディ・ゴメス。
9)『Jazzhouse』(Milestone, 1969) 5:45
※1969年11月の訪欧ツアーにおいて、コペンハーゲンのジャズハウス「モンマルトル」で行われたライヴを、後に発掘した音源である。8)とともに元々、録音や放送されることを前提した演奏ではないが、さすがはエヴァンス。水準を超えるパフォーマンスを見せている。深遠な響きに彩られたルバートによるピアノ・テーマ(A部分)に始まり、通常速でのオリジナル・テーマ演奏(BAC部分)につないでいる。以下、ピアノ・ソロ(4コーラス)、ベース・ソロ(3コーラス)、ピアノ・テーマ(1コーラス、T32)、後奏(T3の後、2拍子のリズムを3回くりかえしてエンディングのフレーズ)という構成。エディ・ゴメス(b)に、新鋭マーティ・モレル(ds)が加わった極めて流麗な演奏。こちらも曲が進むにつれてどんどんテンポアップしていき、最後のテーマ再現からエンディングは、かなりの速さとなる。ベースのゴメスが雄弁なのはこのライヴ全般の特徴だが、この曲でも聴きごたえ十分のソロを聴かせている。

<この1曲・この演奏>
 『Explorations』におけるファースト・トリオの演奏は、雰囲気は十分でいつ聴いても落ち着くが、(変奏で始まるという)凝った構成が好悪を分けるか。正直、ラファロのソロも聴きたかった。また、60年代後半の演奏は、流麗さにおいて勝るとは言え、この曲の演奏としては行き過ぎと感じる方も多いだろう。なにしろ、「海がどれくらい深いか、空がどれくらい高いか、(私がどれくらいあなたを愛しているか、わかる?)」という心からの訴えかけの歌なのだから。だとすれば、間を取って、1964年の『Bill Evans Trio "Live"』あたりがベストだろうか。

2017年9月18日 (月)

009 Beautiful Love

 引き続き、1965年秋の訪欧ツアー絡みの曲から。この曲は哀愁漂うニ短調の曲調もエヴァンスにぴったりだし、実際、前回聴いた「Detour Ahead」と同じく60年代初めから70年代まで、長く弾きつがれてきた曲だ。

 構成は、冒頭のみ「レミファ・ラー」と上がっていく部分が付くが、各部分はちょうど16小節単位で、AA'と同じコード進行を2度くりかえす(計T32=32小節) 。ただし、エヴァンスがこの曲を弾く場合、多くの場合A'の旋律を変えているので、A(=ab)+A'(=cb')という形式に聴こえる(この場合、小文字英字の各部分は8小節単位)。すべてトリオ演奏。

1)『The 1960 Birdland Sessions』(Fresh Sounds, 1960) 4:52
※スコット・ラファロ(b)、ポール・モチアン(ds)というファースト・トリオがバードランドで行ったライヴを、ラジオのエアチェックから拾った記録(1960年3月12日の演奏)。LP時代からブートレグとして有名だった。こちらは、冒頭の旋律がテーマ部分で2度繰り返される、AA'タイプ。全体の構成は、ピアノによるテーマ(1コーラス、T32)、ピアノ・ソロ(2コーラス、T32+T32)、ベース・ソロ(2コーラス、T32+T32)、ピアノ・テーマ(1コーラス、T32+後奏T4)。まだミディアム・テンポの演奏で、非常に落ち着いて聴こえる。録音は良くないが、それでもラファロとエヴァンスが随所で細かい絡みを見せているのがわかる。
2)『The Complete Riverside Recordings』(Riverside, 1961) 6:05
※1961年2月2日に行われたファースト・トリオによるセッション録音から、そのテイク1。この演奏以降では、エヴァンスの弾くテーマは、A(=ab)+A'(=cb')という形式に聴こえる。ピアノによるテーマ(1コーラス)、ピアノ・ソロ(4コーラス)、ベース・ソロ(2コーラス)、ピアノ・テーマ(1コーラス+後奏T4)というシンプルな構成。プロデューサーのオリン・キープニュースによれば、「録音当日の初めの頃に、彼は一度この曲を演奏した。私は発売可能のほうにこのテイク1を入れ、ビルは他の曲を次々に演奏していった。他の7曲を短時間で仕上げ、2巻のテープを録音後、彼は再びこの曲の演奏に戻り、そのテイク2のほうが気に入って発売ということになった。」という。実際、悪い演奏では全然ないし、何よりもピアノの艶のある音色、ソロでの流麗な進行がすばらしい。
3)『Explorations』(Riverside, 1961) 5:05
※こちらがオリジナルLPに収録されたテイク2。当然ながら2)のテイク1とよく似ていて、構成だけで言えばテイク1からピアノ・ソロを1コーラス減らしただけ。その分、最後の3コーラス目のソロを始め、エヴァンスはなかなか意欲的なソロを弾いている。ベース・ソロ時のバッキングで、暗闇に光る真珠のような音を落としていく様が独創的だ。
4)『Live in London』(Harkin, 1965) 7:32
※1965年にロンドン「ロニー・スコッツ・クラブ」を訪れた時のライヴから(こちらは3月2日分)。この時期までは、まだまだ落ち着いたテンポで奏されている。トラック冒頭の「Bill Evans Trio, Chuck Israels, Larry Bunker, and Bill Evans, Thank you」というアナウンスに短い拍手が被り、その拍手が終わらないうちにいきなりabcb'部分のb部分からピアノによるテーマが始まる(編集のようには聴こえないが)。その後は、ピアノ・ソロ(4コーラス)、ベース・ソロ(3コーラス)、ピアノ&ドラムス・ソロ(3コーラス、a:ピアノ〜b:ドラムス〜c:ピアノ〜b':ドラムス)、ピアノ・テーマ(1コーラス、abcと続いたあとb'の前半まで再現され、その後2拍子のリズムを2回+3回+3回弾いてエンディングのフレーズ)。
5)『Live In Europe 1965』(Lonehill, 1965) 4:20
※ヨーロッパにおけるニールス=ヘニング・オルステッド・ペデルセン(b)、アラン・ドウソン(ds)というメンバーとの一連のツアー演奏から。10月30日にベルリンのフィルハーモニーで収録された。このあたりから以前の演奏よりテンポも早まり、エヴァンスは極めて軽快なタッチで弾くようになる。構成は、ピアノによるテーマ(1コーラス)、ピアノ・ソロ(2コーラス)、ベース・ソロ(1コーラス。冒頭T4のみピアノ・ソロ)、ピアノ&ドラムス・ソロ(2コーラス、a:ピアノ〜b:ドラムス〜c:ピアノ〜b':ドラムス。aの前半:ピアノ〜aの後半:ドラムス〜bの前半:ピアノ〜bの後半:ドラムス〜cの前半:ピアノ〜cの後半:ドラムス〜b'の前半:ピアノ〜b'の後半:ドラムス)、ピアノ・テーマ(1コーラス、abcと続いたあとb'の前半まで再現され、その後2拍子のリズムを3回+3回+2回弾いてエンディングのフレーズ)。この演奏には動画バージョンもある。
6)DVD『BILL EVANS TRIO-CHARLES MINGUS SEXTET / EUROPEAN NIGHTS 1964-1971』(impro-jazz, 1965) 3:37
※こちらは5)と同じツアーから、翌日10月31日もしくは翌々日11月1日にコペンハーゲンのチボリ・ガーデンで録音されたもの。5)の『Live In Europe 1965』盤にも収録されているが、この演奏にも動画バージョンがありこの映像と比べると、『Live In Europe 1965』盤(さらに元盤である『Together Again』盤(Moon))には、一部カットがあることがわかった>>本サイトの記事「1965年秋の訪欧ツアーまとめ(その4)」を参照。
7)『At Town Hall Vol.1』(Verve, 1966) 6:54
※チャック・イスラエル(b)に、新たにトリオに加わったアーノルド・ワイズ(ds)とのホール・ライヴ。オリジナルLPの『At Town Hall』には、この「Beautiful Love」は収録されていなかった(LP『The Best of Bill Evans』(Verve)が初出)。が、今では元CDにボーナス・トラックとして収録されているので、便宜上、このディスク名で挙げておく。全体の構成は、ピアノによるテーマ(1コーラス)、ピアノ・ソロ(3コーラス)、ベース・ソロ(3コーラス)、ピアノ&ドラムス・ソロ(1コーラス:8小節ごと交換〜1コーラス:4小節ごと交換)、ドラムス・ソロ(2コーラス)、ピアノ・テーマ(1コーラス、abcと続いたあとb'の前半まで再現され、その後2拍子のリズムを3回+3回+2回弾いてエンディングのフレーズ)。ほぼフルサイズの演奏で、聴いた後の満足度は高い。
8)『The Secret Sessions, Recorded at the Village Vanguard, 1966-1975』(Milestone, 1968) 6:15
※セット中、ディスク6に収録。ドラムスは7)で組んだアーノロルド・ワイズだが、ベースはエディ・ゴメスに変わっている。ワイズが主導権を握り、前に前にと進む高速ライヴ。ペッティンガーは一連の演奏に「火花を散らすような」と書いている。テーマ提示の後、ベース・ソロが先に来て、ピアノ・ソロ、ピアノとドラムのバース交換と進むのが珍しい。
9)『Beautiful Love 1969』(Cool Jazz, 1969) 5:44
※1969年3月26日のオランダ・Hilversumでのスタジオ・ライヴ(CDR盤。詳しくは>>こちら)。一般のショップで買えるCDバージョンとしては、以前、Jazz Traffic レーベルから『Live In Hilversum 1969』という盤が出ていたが、品切れ状態のようなので、このサイトの本編はともかくこのような場では推薦しづらい。演奏としては、ようやくここでエディ・ゴメス(b)、マーティ・モレル(ds)というレギュラーメンバーが揃ったが、アグレッシヴさは変わらない。ゴメスの長い長いベース・ソロは一聴に値する。
10)『Buenos Aires Concert 1973, Vol. 2』(Jazzhus Disk, 1973) 12:23
※9)と同じメンバーによる初の南米ライヴ・ツアーからの記録。まさにエヴァンスらしいルバートによる前奏で始まる。これは初めてのこと。この後、ピアノによるテーマ(1コーラス)、ピアノ・ソロ(4コーラス)、ベース・ソロ(6コーラス)と続く。このソロの最後にゴメスが重音弾きを見せると観客は大いに沸く。次いでピアノとドラムスのバース交換になるのだが、ここでは8小節ごと交換(3コーラス)、4小節ごと交換(1コーラス半、ここは3回聴いたが、半コーラス分計算が合わない>>下記パリ盤も参照)、2小節ごと交換(1コーラス)、1小節ごと交換(2コーラス、最後のb'部分=8小節はピアノに戻る)と、間合いを詰めながら大きなクライマックスを築く。以下、ピアノ・テーマの再現以降は従来どおり。他の曲にも見られることだが、この時期になるとエヴァンス・トリオの演奏は、少しづつ落ち着きを加えてくる。実際、中山康樹氏も「2枚を通じて注目は久々の《ビューティフル・ラヴ》だが、エヴァンス・トリオのミニチュアが演奏しているような距離感がある。録音のせいだろうか。」との感想(<新エヴァンス>、p.243)。が、当日、演奏後の観客の盛り上がりようは、僕もこれまで聞いたことのないほど盛大だ。
11)『Live in Ottawa 1974』(Gambit, 1974) 1:48
※こちらもLP時代には『The Canadian Concert of Bill Evans』というブートレグで有名だった盤で、メンバーは9)10)と同じ。だが演奏タイムを見てもわかるように不完全バージョン。ちょうどテーマ演奏が終わったところでフェードアウトする。長めの前奏がいい雰囲気なだけに、残念。
12)『The Paris Concert Edition One』(Elektra Musician, 1979) 9:25
※最晩年のライヴで、この「Beautiful Love」を取り上げてくれたのは、本当に良かった。ルバートによる前奏は、複雑な和声に彩られる(1コーラス)。以下、ピアノ・テーマ(1コーラス)、ピアノ・ソロ(3コーラス)、ベース・ソロ(3コーラス)、ピアノ&ドラムス・ソロ(2コーラス半:8小節ごと交換、1コーラス:4小節ごと交換、1コーラス:2小節ごと交換、1コーラス:1小節ごと交換だが最後のb'部分=8小節はピアノに戻る)、ドラムス・ソロ(2コーラス)、ピアノ・テーマ(1コーラス、abcと続いたあとb'の前半まで再現され、その後2拍子のリズムを3回+3回+2回弾いてエンディングのフレーズ)という構成(この演奏もブエノスアイレス盤と同じく、半コーラス合わないが )。ゆったりと始まるが、最後はかなりスピードアップして終わる。この曲の演奏における一つの完成形。

<この1曲・この演奏>
 ファースト・トリオの演奏は、出だしから可憐かつある種せつない響きに惹きつけられてしまう。一見シンプルで、熱狂・興奮とは程遠い演奏だが、エヴァンス・トリオの佳演として、今後も新たなファンを増やし続けるだろう。ただ「Detour Ahead」の場合とは違い、この曲の演奏には他にもやりようはあるだろう。その意味では、『Town Hall』盤や『Paris Concert』盤が一番だという方がいたとしても不思議ではない。ぜひエヴァンス・トリオの代表曲のひとつとして、上記からお気に入りの演奏を探して欲しい。

2017年9月17日 (日)

008 Detour Ahead

 前回紹介した「My Melancholy Baby」と同じく、1965年秋の訪欧ツアーで演奏された曲のひとつである。ただこの曲には、1961年のヴィッレッジ・ヴァンガードにおける絶対的名演がある。また1970年代にもライヴで弾いているので、結果的に各時代の演奏が残ったと言える。

 曲の構成は、A(T8=8小節)、A'(T8)、 B(T8)、 A'(T10)で計34小節となる(特に記載のない演奏は、トリオ編成)。

1)『The Complete Village Vanguard Recordings, 1961』(Riverside, 1961) 7:17
※1961年6月25日、日曜日、スコット・ラファロ(b)、ポール・モチアン(ds)と組んだヴィッレッジ・ヴァンガードでの伝説的なライヴ演奏から。この日、「Detour Ahead」は2度演奏されているが、こちらが最初のもの(テイク1)。夜の第1セットの最後の曲であった。全体の構成は独特だ。テーマは、2)よりは速めに始まるが、よく歌われている(1コーラス、T34)。ピアノ・ソロ部分に入るとギア・チェンジし、対照的に倍の速度で奏される(1コーラス、倍速T17)。テーマ部分終わり近く、A'部分の最後4小節からリズムセクションは倍速リズムを刻むというような周到な用意がここにはある。なので、上記芸当がまったく唐突感なく、しかも易々と成し遂げられるのだ。続くラファロのソロも倍速(1コーラス、倍速T17)。最後のテーマが帰ってくる箇所で、エヴァンスはAA'B部分を倍速のまま刻むが、最後のA'部分でスローダウンする。この扱いによって、冒頭のテーマが帰ってくるような効果が出せる(1コーラス、倍速T12+通常速T10+短い後奏T2)。
2)『Waltz for Debby』(Riverside, 1961) 7:40
※こちらはオリジナルLPに採用されたテイク2。夜の第3セットの最初の曲として選ばれた。名盤『Waltz for Debby』のA面最後の曲として、世に有名な演奏である。ピアノによるテーマが、極限に近いくらいゆったりと立ち上がる様は、まさに神がかっている 。その後の構成は1)と同じ。ラファロのベースは、ちょっとした合いの手さえも、極めて雄弁だ。モチアンのブラシワークも、実に冴え渡っている。
3)『Live in London』(Harkin, 1965) 6:31
※1965年にエヴァンスは2度訪欧している。そのうち、最初のツアーで訪れたロンドン「ロニー・スコッツ・クラブ」でのライヴから(3月11日分)。メンバーは、チャック・イスラエル(b)、ラリー・バンカー(ds)に変わっているが、構成は1)2)と同じ。ただしテンポは心持ち速めで、その分各所で伸び縮みが少ない。この時はエヴァンスが来るというので、急遽、店内にグランドピアノを運び込んだという逸話もあるようだが、さすがプロ。安定感たっぷりに奏している。
4)『Live In Europe 1965』(Lonehill, 1965)  約4:50弱 ※後ろに続く曲との明確な切れ目は不明。
※ヨーロッパにおけるリー・コニッツ(as)、ニールス=ヘニング・オルステッド・ペデルセン(b)、アラン・ドウソン(ds)というメンバーとの一連のツアー演奏から。10月29日にベルリンのフィルハーモニーで収録されたとされるメドレーの2曲目にあたる(前の曲は「How Deep is The Ocean」、後の曲は「My Melancholy Baby」)。構成は、アルトサックスによる序奏、テーマ(1コーラス、T34)、ピアノ・ソロ(AA'部分、T16)、ベース・ソロ(B部分、T8)、アルトサックス・ソロ(テーマ風、A'部分、T9ののち次の曲へのブリッジ)。実質的なソロはないのでコニッツもそう変なことはしていない(笑)。おかげで雰囲気は十分だ。
5)『Definitive Rare Albums Collection 1960-66』(Enlightenment, 1965) 5:10
※4)と同じツアーから、こちらは5日後、パリでの録音と推測されるライヴ演奏。これには動画も残されている(『Bill Evans Live '64 - '75』Naxos)。ピアノによるテーマ(1コーラス)、ピアノ・ソロ(1コーラス、最後のA'部分はテーマ風+後奏T2)。エヴァンスの集中力はさすが。
6)『The Secret Sessions, Recorded at the Village Vanguard, 1966-1975』(Milestone, 1967) 5:02
※セット中、ディスク4に収録。1)2)と同じヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴだが、印象は真逆。同じ構成にもかかわらず、1)2)より2分以上演奏時間が短い。実際、テーマ提示が終わった後は、むしろハイテンポな曲に様変わりしている。全体としてかなり荒い印象。フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds)は、ベース・ソロの部分ではスティック同士を叩いてエディ・ゴメスをあおる。構成こそ変わっていないのだが、『Waltz』盤でのかの名曲が、このように変貌するとは誰が予想できただろう。通常速が戻ってくるテーマ再現部の2度目のA'部分では、最後4小節でリズムセクションが冒頭のテーマ演奏の最後のようにはっきりと倍速リズムを刻むので、最後は快活な印象で曲を終える。確かにこれは新機軸。ここまで明確ではないが、以降の演奏では同じ傾向が伺える。
7)『Live in Paris 1972 Vol.3』(What's Jazz, 1972) 5:20
※エディ・ゴメス(b)、マーティー・モレル(ds)を帯同して行ったこの年3回目の!ヨーロッパ・ツアーから。こちらもかなり快調なテンポで走る演奏だが、美しいホール・トーンのせいもあり、すっきりと流れる。構成は1)2)等と同じ。
8)『The Last Japan Concert 1978』(Jokerman, 1978) 5:31
※最後の来日公演の貴重な記録。神戸での演奏でこの曲が取り上げられた。テーマ部分のハーモニーの付け方から、すでに晩年のエヴァンスらしいトーンが感じられる。ドラムスはこちらもフィリー・ジョー・ジョーンズだが、6)よりはずっと落ち着きが感じられる(構成は同じ)。ベースは晩年の相棒マーク・ジョンソンで、ソロではまるで歌うように流麗なベースを弾いている。

<この1曲・この演奏>
 あたりまえの結論で申し訳ないとは思うが、2)の演奏の高みにはエヴァンスといえどもそう簡単には登れない・・・。ラファロの突然の死によって、1961年6月25日の演奏は決して取り返すことのできない「永遠の一日」になってしまったわけだが、それこそが後付けの理屈。エヴァンスたちにとっては、ありきたりの日々の一コマに過ぎなかったはずだ。にもかかわらず、その演奏はなんと特別に響くことか。3)や7)で聴くことのできる演奏は決して内容的に劣るものではないし、むしろかなりハイレベルの演奏と言っていいだろう 。が、ヴィレッジ・ヴァンガードにおける刹那的なまでの入魂を知る者は、その後の演奏にどうしてもわずかながらルーティーンさを感じてしまわざるを得ない。そのことこそが、エヴァンスを生涯苦しめたのだとしても。

2017年9月15日 (金)

007 My Melancholy Baby

 1965年秋の訪欧ツアーで、コニッツとともによく弾いた前世紀初頭のヒット曲。それ以外は、同時代のスタジオ録音が1回だけあるほか、サイドマン時代にトニー・スコットとのライヴ録音が一度残されている。「Come to me, my melancholy baby おいで、僕のメランコリー・ベイビー」・・・印象深い歌詞を持ち、たっぷりとバラード風に歌われる場合も多い。が、エヴァンスが絡んだ演奏は、いずれも軽快なタッチに仕上げている。

 曲の構成は、いずれも8小節づつで、ABAC(T32=32小節)。以下に録音リストを示す。

1)『Golden Moments』(Muse, 1959) 12:15 ※CD版は『At Last』(32. Jazz Records)
※この時期、よくサイドマンを務めていたトニー・スコット(cl)とのライヴ演奏を収めたLPから。他の共演者は、ジミー・ギャリソン(b)とピート・ラカロ(ds)。短い前奏とテーマを吹くのは、当然スコット。その後、スコットの長い長いソロが続くが、途中でラカロがあからさまにテンポをあおる。このクラリネット・ソロと続くエヴァンスのソロとで、優に10コーラスを越える。その後も、ギャリソンのアルコによるベースソロ、ラカロによるドラムス・ソロと、フルサイズのプレイが続く(さすがに長い!)。でも、このラカロのソロはなかなかのものだと思う。
2)『Live In Europe 1965』(Lonehill, 1965)  約6:55 ※前曲との明確な切れ目は不明。
※上記のように1965年秋、ヨーロッパにおけるリー・コニッツ(as)、ニールス=ヘニング・オルステッド・ペデルセン(b)、アラン・ドウソン(ds)というメンバーとの一連のツアー演奏から。10月29日にベルリンのフィルハーモニーで収録されたとされるメドレーの3曲目にあたる(他の曲は、「How Deep is The Ocean」「Detour Ahead」)。前曲の終わりからリー・コニッツ(as)が序奏めいたフレーズを紡ぎだし、アップテンポに切り替えて、テーマを1コーラス(T32)吹く。このコニッツの吹くテーマが、A部分の後半でなぜか短調に変わるあたりが珍しい。その後の展開は、アルトサックス・ソロ(2コーラス、T32+T32)、ピアノ・ソロ(2コーラス、T32+T32)、ベース・ソロ(2コーラス、T32+T32)、アルトサックス〜ドラムス〜ピアノ〜ドラムスのバース交換(1コーラス、T32)〜ドラムス・ソロ(1コーラス、T32)、アルトサックスによるテーマ(1コーラス、T32)、終結和音、という構成になる。ツアー初日の演奏だけに、3)4)に比べると、試し引き的なところもある。
3)『Lee Konitz Trio & Quartet Featuring Bill Evans』(Magnetic Records, 1965) 9:32
※2)の4日後、同じメンバーによる11月2日のストックホルムでのライヴ。ピアノによる長めの序奏(T16)、ピアノ・ソロによるテーマ(1コーラス)、A部分のみピアノ・ソロ〜その後アルトサックス・ソロ(5コーラス!)、ピアノ・ソロ(2コーラス)、ベース・ソロ(2コーラス、T32+T32。ただし2コーラス目はB部分のみソロ・フレーズを弾いていて、ほかはベースラインを弾いている)、アルトサックス〜ドラムス〜アルトサックス〜ドラムスのバース交換(1コーラス)〜ドラムス・ソロ(2コーラス)、アルトサックスによるテーマ(1コーラス)、エンディング(約T4の後、集結和音)。こちらにも書いたが、コニッツのソロはさすがに5コーラスともなると、後半部分の手詰まり感は否めない。一方、エヴァンスの流れるようなソロは好調。しかも最後の1コーラス以外、エヴァンスはほぼ右手だけで弾いている!
4)『Definitive Rare Albums Collection 1960-66』(Enlightenment, 1965) 9:02
※3)の翌日、パリでの録音と推測されるライヴ演奏。これには動画も残されている(『Bill Evans Live '64 - '75』Naxos)。ピアノ序奏(T8)、アルトサックスによるテーマ(1コーラス)、アルトサックス・ソロ(3コーラス)、ピアノ・ソロ(3コーラス)、ベース・ソロ(3コーラス)、A部分のみアルトサックス・ソロ〜その後ドラムス・ソロ(3コーラス)、アルトサックスによるテーマ(1コーラス)、終結和音。コニッツのソロで、ちょうどAA'部分を吹き終える箇所で、エヴァンスが高い F の音の一つ入れるが、これが非常に効果的なアクセントになっている。映像版では、エヴァンスのソロはやはり右手が中心で、左手の和音はほとんど弾いていないのがわかる。観客は、拍手以外にも随所で掛け声をかけるなど非常に乗っている。特にアラン・ドウソンのソロは、途中どんどんとアップテンポしていくので、大いに盛り上がる。
5)『A Simple Matter of Conviction』(Verve, 1966) 5:16
※こちらは唯一のセッション録音、しかもトリオ編成での演奏である。エヴァンスにとって、今後10年余に渡ってコンビを組むことになるエディ・ゴメス(b)とは、初めて取り組んだセッション録音であった。前奏なしでいきなりピアノによるテーマで始まる(1コーラス、T32)。以後、ピアノ・ソロ(2コーラス、T32+T32)、ベース・ソロ(2コーラス、T32+T32)、ピアノとドラムスの4小節づつのバース交換(2コーラス、T32)、ピアノによるテーマ(1コーラス、T32)、エンディング(約T4の後、集結和音)、という構成。小さなジャズクラブで聴いているようなインティメートな演奏である。大物ドラマー、シェリー・マンは、ソロの後ろでもさすがのさばきを見せている。

<この1曲・この演奏>
 1966年録音の録音について、ピーター・ペッティンガーは「ゴメスは<マイ・メランコリー・ベイビー>でその日一番のソロを展開したが、エヴァンスはリー・コニッツと最近ヨーロッパで一緒にツアーをしたときとまったく同じテンポ、キー、そして雰囲気で演奏した。」と書いている(『ビル・エヴァンス ジャズ・ピアニストの肖像』p.212)。実際、テンポ等は似ているのだが、やはりエヴァンスのトリオ演奏は別格。今回のように続けて聴いてみると、この演奏が始まるとホッとするのは僕だけではないだろう。一方、演奏の面白さ・聴いているときのスリル感から言えば、前年の4)あたりが推薦できるか。前年の訪欧ツアーでの演奏経験がなければ、満を持して挑んだヴァーヴにおけるセッション録音で、この曲を採り上げることはなかったはずだ。その意味では、リー・コニッツにも感謝すべきかもしれない。

2017年9月12日 (火)

Definitive Rare Albums Collection 1960-66(その1)

[Enlightenment, EN4CD9111] 1965

 前回の記事「1965年秋の訪欧ツアーまとめ(その5)」を書いた後で、念のため「Evans Detour Ahead 1965」等と検索していたら、あるCDセットの曲目クレジットが引っかかってきた。それが今回の記事のタイトルにある『Definitive Rare Albums Collection 1960-66』(Enlightenment)である。

 今年2017年春の発売。Enlightenment は英国のレーベルで、ジャズの旧作を廉価ボックスでまとめて発売している会社である。この4枚組セットは、HMVの商品説明によれば、

「『Conversations With Myself』、『At Shelly's Manne Hole』などの初期リーダーアルバムに、ジョージ・ラッセル『Jazz in the Space Age』、キャノンボール・アダレイ『Know What I Mean?』、オリヴァー・ネルソン『The Blues And The Abstract Truth』、デイヴ・パイク『Pike's Peak』といったサイド参加作、さらには、1964年デンマーク、65年フランス、イギリス、66年デンマークでの貴重なライヴ音源を4CDにパッケージ」

したものとある。このうち、「65年フランス」とクレジットされていた曲が、まさに前回の記事で触れた「Detour Ahead 」と「My Melancholy Baby」なのである。記載された演奏時間もかなり近く、いよいよ怪しい。

 実はこのセットには Amazon のデジタル・ミュージックで買えるバージョンがある。上記2曲も分売されていたので、試しに購入してみた(1曲・100円)。結果は「当たり」。ネット動画と聴き比べてみたが、同じ音源から作られているらしく速度・ピッチともにピッタリ一致する。となると、これらは中山康樹氏の『新・エヴァンスを聴け!』未収録、この『続・エヴァンスを聴け!』サイトの正規対象曲ということになる。

Disc 4
3)「Detour Ahead」
4)「My Melancholy Baby」

Bill Evans (p)
Niels-Henning Orsted Pedersen (b)
Alan Dawson (ds)
Lee Konitz (as) 4)のみ

1965/11/3 (Paris)

 11月3日という日付は、こちらのディスコグラフィーの記載に従っておいた。1週間続いたヨーロッパ・ツアーの最終盤ということもあり、ともになかなかの好演だと思う。このセットの収録曲には若干だが他にも気になるものがあるので、また機会をみて確認してみたい。

1965年秋の訪欧ツアーまとめ(その5)

 1965年11月2日には、エヴァンスのツアー一向は、スウェーデンのストックホルムに入る。Magnetic Records の『Lee Konitz Trio & Quartet Featuring Bill Evans』には、以下の2曲が収録されている。

04. All The Things You Are / What's New?
05. My Melancholy Baby

 演奏会場として「Johanneshov(s) Isstadion」とクレジット欄にあるが、これはストックホルムにある屋根付きのスケート場である。前年(1964年)7月に、かのビートルズが同じ会場で2日間・4公演、計2万6千人を集めたことでも知られている。「All The Things You Are」「What's New?」のメドレーは例によって、エヴァンスは参加していない(で、28分近く演奏しているので、これは聴くのが辛い!)。「My Melancholy Baby」には、ようやくエヴァンスが加わる。ピーター・ペッティンガーの『ビル・エヴァンス ジャズ・ピアニストの肖像』(水声社)では、このストックホルム公演についてこのように書かれている。

「エヴァンスの不機嫌さがより強調され、ピアノは残虐さを増していた。いきなり楽器に向かい戦いを挑み<デトゥアー・アヘッド>の最後には低音をガンと打ち付けると<カム・レイン・オア・カム・シャイン>をスライド・アウトさせて弾きはじめた(両曲とも未発表)。」(p.200)

 とはいえ、残された「My Melancholy Baby」を聴く限りは、それほど「不機嫌」な演奏とも思えない。コニッツとの共演では珍しく、エヴァンスの方が軽快・可憐に序奏を弾き始め、そしてここでは冒頭のテーマもエヴァンス担当だ。確かに、続くコニッツのソロは奔放で、だんだんととっちらかっていくが、エヴァンスのほぼ右手だけのソロに戻ると、逆にその流麗さが際立つ。

 以上、音源的にはこれでほぼ紹介し終えたと思うが、1965年秋の訪欧ツアーの「My Melancholy Baby」には、もう一種の別演奏があった(「素晴らトン子」さんから再度紹介されたのネット動画>>こちらのコメント欄)。コンサート・ホールでのライヴのようで、「Berlin, West Germany, October 29, 1965」とのクレジットがある。だが、ベルリン・フィルハーモニーは、『Berlin Jazz Piano Workshop 1965』の映像でもわかるように、ステージを観客が取り囲む「ワインヤード(葡萄畑)」形式であり、我々の動画の会場とは明らかに違う。

 またYoutube にはほかにも同じステージからの映像と思われる「Detour Ahead」もアップされている。こちらは何と「Live in Belgium, 1965」との表記。「ベルギー?」いやいや違うだろう。ほかに考えられるのは、コペンハーゲンのチボリだが、こちらの動画でエヴァンスが弾いているピアノは、「スタインウェイ」。チボリの時に使っていた「ホルヌング&ミューラー」とは違う。ところで、使用ピアノが「ホルヌング&ミューラー」という情報は、上記『ビル・エヴァンス ジャズ・ピアニストの肖像』によるのだが、同書のストックホルム公演に関する上記記述の直後にはこうある。

「パッケージの一環として、カルテットはセカンド・パリ・ジャズ・フェスティヴァルに出演し、翌日サレ・プレイエルでの演奏の模様は放送された。」(p.200)

 実は、この「Detour Ahead 」と「My Melancholy Baby」の2つの映像は、Naxos の「Jazz Icons」というDVDシリーズで出されている『Bill Evans Live '64 - '75』にも収録されている。実はそこにも「FRANCE 1965」というクレジットがある※。特に確証があるわけでもないが、今のところこのDVDに従い、パリでの演奏としておくのが妥当なところだろう。

03. Detour Ahead
04. My Melancholy Baby

 「My Melancholy Baby」では、最初、前日のストックホルムの時のようにエヴァンスが序奏を弾き始めるが、途中で背後のスペースを横切るコニッツを見て軽くうなづく。と、コニッツがテーマを吹き始めながら、ピアノの前に出てくる・・・という場面が、映像で確認できる。前日より落ち着いた印象のコニッツのソロの後、ありがいことにエヴァンスの右手が大活躍するソロの様子が、映像でもたっぷり堪能できる。その後、ベース・ソロ、ドラム・ソロと続き、観客も、口笛を吹くなど大いに沸いている。トリオによる「Detour Ahead」ではコニッツが抜けて、エヴァンスはより深く演奏に没入している。ベース、ドラムスのサポートぶりも、臨時編成とは思えないくらい。

※僕が所有するDVDには「FRANCE 1965」とあるが、Jazz Icons のサイトでは、なぜか「LIVE IN BERGIUM ◇ 1965」となっていて、HMVの当該商品のページもこちらのクレジットを載せている。ネット動画のクレジットもこちらを引いたか。>>この点、次の記事「Definitive Rare Albums Collection 1960-66(その1)」もご参照ください。

2017年9月11日 (月)

1965年秋の訪欧ツアーまとめ(その4)

 昨日、この項の(その3)において、1965年10月31日というクレジットのある『Together Again』(Moon)所収の「Beautiful Love」と、翌11月1日の収録と言われている動画版の「Beautiful Love」が同じ演奏ではないかということを指摘しておいた。ただし両者は演奏タイムが違う。今回は補遺として、両者の相違点を詳しく調べてみたいと思う。
注)Moon 盤の演奏については、現在最も手に入りやすいまとめCD『Live In Europe 1965』(Lonehill)のタイムを示す。また動画版については、市販DVDを紹介してもいいがこちらは入手困難かもしれない。とはいえ「素晴らトン子」さんからご紹介いただいた Youtube 動画の方も音声部が少し不安定なので、同じ映像を収録したこちらの動画(「This is a rare TV broadcast from Danish TV 1965 : Copenhagen, Denmark, Oct. 31, 1965」とクレジットのあるもの)を参照した。

 メランコリックなニ短調のテーマが印象的な曲だ。 この曲の構成は、冒頭のみ「レミファ・ラー」と上がっていく部分が付くが、 大きく見るとA+A'という16小節単位の繰り返しとなる。エヴァンスがこの曲を弾く場合、A'の旋律を変えているので、A(=ab)+A'(=cb')という形式に聴こえる(この場合、小文字英字の各部分は8小節単位)。今回聴く演奏もそうで、細かく違いを見ていくため、以下の解説では小文字の表記を使い説明する。

I ファースト・テーマ
1)Lonehill 盤(0:00〜) 1コーラス、abcb':ピアノT32(=32小節)
2)動画版(7:29〜) 1コーラス、abcb':ピアノT32
※1)、2)は、同じ演奏。
II ピアノ・ソロ
1)Lonehill 盤(0:35〜) 1コーラス、abcb’:ピアノT32
2)動画版(8:04〜) 1コーラス、abcb':ピアノT32
※ここも1)、2)は、同じ演奏。最後の4小節で、エヴァンスが次に出てくるA部分に直接つながっていくようなフレーズを出す(実際、下記 III の4小節目までピアノ・ソロが続く)。この処理は、10月29日のベルリンでの同曲演奏も同じ処理なので、エヴァンスの弾き間違い・数え間違いではないようだ。ここからAに戻るのかと思わないでもないのだが、そうすると小節数的には III のベース・ソロが4小節長くなってしまう。ちなみに上記ベルリンでの演奏では、II のピアノ・ソロの部分が2コーラス分あるため、その分全体の演奏時間も4分20秒と長めになっている。
III ベース・ソロ
1)Lonehill 盤(1:09〜) 1コーラス、a:この部分の4小節までピアノT4〜a:この部分の5小節目以降:ベースT4〜bcd':ベース約T21
2)動画版(8:39〜) 1コーラス、a:この部分の4小節までピアノT4〜a:この部分の5小節目以降:ベースT4〜bcd':ベースT24
※2)の小節数は前期のように計32で、計算どおり。1)もほぼ同じだが、15小節目あたりにわずかなカットがあり、その分短くなっている。
IV ピアノ&ドラム・ソロ
1)Lonehill 盤(1:40〜) 1コーラス半、a:ピアノT8〜b:この部分の始めの2小節目までベースT2〜b:この部分の3小節目以降ドラムT6〜c:ピアノT8〜b’:ドラムT8〜ドラムab:約T15
2)動画版(9:13〜) 2コーラス、a:ピアノT8〜b:この部分の始めの2小節目までベースT2〜b:この部分の3小節目以降ドラムT6〜c:ピアノT8〜b’:ドラム〜abcb’:ドラムT32
※bのドラム・ソロ冒頭に、ベースのペデルセンがなぜか III 部分の最後に入れたつなぎのフレーズを入れる。II の解説で書いたピアノの先取りのようなフレーズの影響だろうか。これは、II で触れたベルリンでの演奏にはない。1)には2コーラス目のbにあたる部分の7小節目の頭で「ブチッ」という明らかな編集跡がある。その後、ドラム・ソロの後半を省き、すぐエヴァンスの弾くラスト・テーマにつないでいる。ここは大きな省略。
V ラスト・テーマ
1)Lonehill 盤(2:30〜3:24) 1コーラス、abcと続いたあとb'の前半まで:ピアノT28、その後2拍子のリズムを3回+3回+2回弾いてエンディングのフレーズ
2)動画版(10:20〜約11:09) 1コーラス、abcと続いたあとb'の前半まで:ピアノT28、その後2拍子のリズムを3回+3回+2回弾いてエンディングのフレーズ
※ここも、1)、2)は同じ演奏。

 以上、コペンハーゲンのチボリ・ガーデンでの演奏と言われているエヴァンス・トリオの「Beautiful Love」を聴いてみた。エヴァンスの同曲演奏では、何と言っても『Explorations』のファースト・トリオのスタジオ録音が有名だ。その時の演奏に比べるとテンポもかなり早いし、急ごしらえのトリオだけに上記のように段取り的にバタバタした印象もある。だが、ベルリン、コペンハーゲンと2度も映像が残ったのは、やはり貴重と言えるのではないだろうか。

2017年9月10日 (日)

1965年秋の訪欧ツアーまとめ(その3)

 引き続き、1965年秋の訪欧ツアーを聴いていく。ドイツ・ベルリンのあと、エヴァンスたちはベルギーに飛んでいる。10月31日および11月1日の2日間、コペンハーゲンの有名なチボリ・ガーデンでのコンサート記録が残っている。ただし、これらの残された演奏が、どちらの日に収録されたかについては確証がない。というのも、各盤で記録が混同されているからである。まずは、「10月31日収録」だという演奏。この項の(その1)で紹介した『Together Again』(Moon)の前半がそれにあたる※1。

01.  All The Things You Are
02.  What's New?
03.  Come Rain or Come Shine
04.  Beautiful Love

 ちなみに「All The Things You Are」「What's New?」の2曲は、リー・コニッツ(as)、ニールス=ヘニング・オルステッド・ペデルセン(b)、アラン・ドウソン(ds)というピアノレス・トリオによる演奏。「Come Rain or Come Shine」と「Beautiful Love」は逆にコニッツが抜けて、ピアノ・トリオ編成になる。このうち「All The Things You Are」「What's New?」のみは Magnetic Records から出ていた『Lee Konitz Trio & Quartet Featuring Bill Evans』というCDにも収録されていて、こちらはジャケット面に「Copenhagen, November 1, 1965」というクレジットがある。またこちらには、「How Deep is The Ocean」(上記4人が揃ったカルテット編成)も1曲追加で入っている。

03. How Deep is The Ocean

 これらが別日の別演奏なら問題がないが、2つの盤の「All The Things You Are」「What's New?」は同じ演奏である。また(その1)で触れた「素晴らトン子」さんからご紹介いただいた Youtube 動画では、なんと「How Deep is The Ocean」が先に演奏され、その後すぐ「Beautiful Love」が続くのである※2。つまり、(既出のクレジットからは矛盾するとはいえ)これら「How Deep is The Ocean」と「Beautiful Love」の2曲は、少なくとも同じ日の演奏でなくてはならない。しかも、「How Deep is The Ocean」の動画の頭には、「素晴らトン子」さんご指摘のように、コニッツによる例の「もしこの会場のどこかにビル・エヴァンスがいるなら、ステージに上がって一曲参加してもらいたいんだが。」という呼びかけが入っている。この台詞は Magnetic Records 盤の「What's New?」と「How Deep is The Ocean」の曲間にも収録されていて、つまり「What's New?」〜「How Deep is The Ocean」〜「Beautiful Love」は、連続した演奏の記録だったということになる。これは驚きだ。

 その後、調べてみたらこの動画は、impro-jazz から出ている『BILL EVANS TRIO-CHARLES MINGUS SEXTET / EUROPEAN NIGHTS 1964-1971』というDVDで出ていたことがわかった(IJ 542)。こちらはネット動画よりやや画質が落ちるが、「What's New?」のベース・ソロ以降の3分ほどの映像に続き、コニッツの呼びかけ、「How Deep is The Ocean」「Beautiful Love」が収録されている。クレジットは、「Stockholm, Sweden, November 1, 1965」となっているが。Magnetic Records 盤には、続く11月2日にストックホルムで、「All The Things You Are」と「What's New?」の長い長いメドレー(27:44)も演奏していることから類推すると、コペンハーゲンにおいても「What's New?」の前に「All The Things You Are」があったろう。「Come Rain or Come Shine」については何の手がかりもないとはいえ、おそらく上記の5曲は、10月31日および11月1日のどちらか1日に演奏・収録されたのではなかろうか(あるいは、コンサート自体がどちらか1日しかなかった?)。

 ちなみにこの日の「How Deep is The Ocean」は、あえて舞台に呼び出しただけあって、エヴァンスによる美しい序奏、テーマ演奏、ソロと続き、ベルリンでの同曲とはやや趣きが変わっている。以前にも触れたが、「Beatiful Love」の映像でペデルセン(若干19歳!)がベースのハイ・ポジションを弾いている姿は、在りし日のスコット・ラファロを思い出させる。

※1 『Live In Europe 1965』(Lonehill)も同じ10月31日というクレジットだが、こちらはエヴァンスの演奏のみをまとめ収録しているので、「All The Things You Are」「What's New?」は未収録
※2 こちらのコメント欄にも書いたが、『Together Again』(Moon)の「Beautiful Love」と、動画版の「Beautiful Love」は、冒頭のテーマなどエヴァンスのピアノを聞く限り、同じ演奏に聞こえる。ただし、途中のベース・ソロ、ドラム・ソロに相違があり、『Together Again』(Moon)の方が明らかに短い。それについては、この項の(その4)で検証してみた。

2017年9月 9日 (土)

1965年秋の訪欧ツアーまとめ(その2)

 前回の続きで、1965年秋のエヴァンス訪欧の記録から、こちらは翌10月30日の演奏。前日と同じベルリン・フィルハーモニーにおける公演で、まず6人のピアニストが同じブルースをリレーで弾いて行くという珍しい記録が残っている。LP時代には『Piano Summit』(Philology W 102)というアイテムで知られており、『Live at The Festival』(Enja 2030)などと並んで、手に入れた時にはとてもうれしかったという記憶がある。

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 ヨアヒム・エルンスト・ブレントという有名なジャズ評論家がプレゼンテーターとなり、アール・ハインズ、テディ・ウィルソン、ジョン・ルイス、レニー・トリスターノ、ビル・エヴァンス、ジャッキー・バイアードというメンバーが入れ替わり立ち替わりステージに登場する(昨日と同じニールス=ヘニング・オルステッド・ペデルセン(b)、アラン・ドウソン(ds)が加わる)。

A面 01. Blues in D

 「in D」との表記だが、ペーター・ペッティンガーによれば「actually in C」だそうで、実際のキーも C のようである。ほかにエヴァンス絡みでは2曲。こちらはペデルセン、ドウソンを伴ったトリオ演奏である※。

B面 02. Beautiful Love
B面 06. Come Rain or Come Shine

 これらの演奏は、上記ヨアヒム・エルンスト・ブレント「Introduction」も含め、Lonehill 盤CD『Live In Europe 1965』にまとめられていて、今聴くには当然それが便利である。

 前日の記録に比べると心もちノイズが多いし、ごく一部不安定な箇所もあるが、聴きにくい訳ではまったくない。コニッツが参加していない分、エヴァンスはのびのびと弾いている。「Come Rain or Come Shine」あたりはこの一連のツアー中でも白眉の演奏だ。また、この日のステージはテレビで中継されたらしく、「Come Rain or Come Shine」以外は映像も残っている。かつて『Berlin Jazz Piano Workshop 1965』と題したスペイン製のDVDで出ていたこともある。「ブルース・リレー」あたりは当然演奏があった方が楽しい(ネット動画でも見ることができるので、検索してみてほしい)。

※ ただし同じ日ではなく、前日の演奏だったという可能性もゼロではない。

2017年9月 8日 (金)

1965年秋の訪欧ツアーまとめ(その1)

 1965年秋、ビル・エヴァンスは単身ヨーロッパに飛び、ベルリン、コペンハーゲン等で一連のコンサートを行った。現地でニールス=ヘニング・オルステッド・ペデルセン(b)、アラン・ドウソン(ds)と合流。そのトリオに、リー・コニッツがアルト・サックスで加わる。以前、その演奏を収めたCD『Together in Europe 1965』(Rainbow Seeker、LP時代からの古典的ブート『Together Again』(Moon)の再発盤)について記事を書いたが、先日、「素晴らトン子」さんから同じメンバーによる Youtube の動画があると教えていただいた。貴重な情報ありがとうございます(>>こちら)。特に、ライヴの途中、リー・コニッツから「もし会場のどこかにビル・エヴァンスがいるなら、「ステージに上がって一曲参加してもらいたいんだが。」と呼びかけられ、エヴァンスが登場する場面を動画で見ることができる。このあたりは、ファンには感涙ものだ。

 このときのツアーでは、10月の最終週から11月の初めにかけて、リー・コニッツを含むカルテット編成で、ベルリン、コペンハーゲン、ストックホルム、パリと回っているようである。演奏曲目が被っている上、しかもそれぞれのライヴ音源が複数のLP、CDにアト・ランダムに分散されていて、かなり複雑な状況を呈している。せっかく素晴らトン子さんから情報をいただいたので、この機会に少し整理をして見たいと思っている。

 さて、まずは『Together Again』(Moon)で、1965年10月29日にベルリンのフィルハーモニーで収録されたとされる以下のメドレーを聴く。

05.  How Deep is The Ocean / Detour Ahead / My Melancholy Baby

 このメドレー、コニッツ特有の一種茫洋としたソロに始まるのが特徴。 音質は雑音も少なく、なかなかきれいに録れている。『Together Again』のLP/CDで聴けるほか、Rainbow Seeker から『Together in Europe 1965』として再発されている。今なら、「続エヴァンス」でも紹介されている Lonehill 盤CD『Live In Europe 1965』の方が有名だろうか。

 翌日、(その2)で紹介予定の有名な「ピアノ・サミット」というLPで知られたワークショップが開かれており、同じピアノ・フェスティバル中の公演だったのだろう。ところでこのメドレーについては、以前、別のイタリア製LPでも出ていた。以下の盤がそれ。

「How Deep is The Ocean」;『Lee Konitz / Chet Baker / Keith Jarrett Quintet』(Jazz Connaisseur, JC113)※1
「Detour Ahead」「My Melancholy Baby」;『Lennie Tristano Solo in Europe / Lee Konitz Quartet in Europe』(Unique Jazz, UJ21)

 これらの盤は、一部では11月1日に行われたコペンハーゲン公演で演奏された同じ3曲のメドレーとする資料もあるが、やはりここで聴くことのできる演奏は、『Together Again』や『Together in Europe 1965』に収録されているものと同じものである。しかし、安心するのはまだ早い。念のため聴き比べてみたら「How Deep is The Ocean」などは、こちらのLPバージョンの方が約30秒も長い(LPの方は約5分48秒)。どうもこちらのコメント欄で触れた「Beautiful Love」と同様、LP バージョンの方は編集でカットされている可能性がある。エヴァンスのピアノ・ソロが出る前、コニッツのソロに拍手が出る位置のタイムが、LPが約3分2秒付近であるのに対し、CDでは約2分33秒と出が早い。途中のコニッツのソロ部分が、最後の3コーラス目で約半コーラス分短くなっているようだ※2。これだからLPは捨てられない。

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※1 この盤と同じ内容のCD『Lee Konitz Meets Keith Jarrett, Chet Baker & Bill Evans』(Jazz View, CDD 031)もあるが、こちらは僕は未確認。 >>その後、当該CDの収録内容について、実際に聴いて確認した(こちら)。
※2 「Detour Ahead」(約4分50秒弱、次の曲との切れ目の判定が難しい)、「 My Melancholy Baby 」(約6分55秒)は、LPもCDも同じ内容と思われる。この「切れ目」の問題で付け加えるならば、ここで取り上げた3曲メドレー中、2、3曲目は実際にコニッツのソロがつながっていてメドレーになっている。しかし1曲目の終わりはそこでいったん切れている。本文で触れたように、LPではもともと2枚に分かれて収録されていたことを考えると、「How Deep is The Ocean」だけはメドレーではなかったという可能性も否定できないだろう。

2017年8月20日 (日)

『Time Remembered: Life And Music Of Bill Evans』

 こちらの記事のコメント欄で、Pianotriomanzai 様から情報をいただいていたビル・エヴァンスのドキュメンタリー映画『Time Remembered: Life And Music Of Bill Evans』(監督ブルース・シュピーゲル)が、ついにDVD化された。以下は、HMVサイトへのリンク。

http://www.hmv.co.jp/artist_Bill-Evans-piano_000000000002112/item_Time-Remembered-Life-And-Music-Of-Bill-Evans_8051787

 エヴァンスへのインタビュー音源を始め、チャック・イスラエルやポール・モチアン、ジム・ホール、トニー・ベネットなどのおなじみの共演者たちの証言に、関連する演奏ビデオや既存音源を交互につなげていくという王道的な作り。修行時代〜マイルスとの出会い〜ファースト・トリオの結成と突然の別れ〜若きメンバーとの出会い〜そして死、という具合に、彼の生涯を追っていくにはうってつけの内容になっている。逆にコアなファンには、あまりワクワクするような展開ではないとしても。

 故郷ニュージャージーでの写真もたくさん見ることができるし、何よりプライベートを知る身内や友人たちの言葉は重みがある。特に実兄ハリーの奥さまパット・エヴァンスの証言には興味深いものも多かった(全体として、ハリーとの精神的なつながりについて、このドキュメンタリーの制作者たちは重要視しているようだ)。またクスリと女性問題についても、避けずにきちんと取り上げている。

 全体として演奏シーンがこま切れ状態なのが、やや残念。が、例外は夕日の海岸のシーンに流れる「Peace Piace」、そしてそれに直接続く『Kind of Blue』セッション。こちらはたっぷり収録されていて、映像だけでなく耳にも十分なご馳走だ※1。ちなみに最後のシーンで流れるのは、「My Foolish Heart」のラストで、これもさすがに美しい。モノクロームで撮られたエヴァンスの演奏シーンに被さっているが、おそらくその映像は別の時のもの。音楽自体は『Waltz for Debby』のライヴを使っていると思われる。

 輸入盤ながら、ありがたいことに日本語字幕もついている※2。1時間25分。

※1 「So What」の演奏風景(スタジオ・ライヴ)が音源に被るが、この映像でのピアノはエヴァンスではない。
※2 ただし、兄ハリーが自殺する1979年4月20日のシーンで、パット・エヴァンスが 「He'd gone out and got a gun and shot himself.」と言った証言中の「He」を、よりによって「ビルが」と誤訳していてびっくり(笑)。

2017年3月 4日 (土)

Jazz Olympus!

 3か月に一度くらい、不定期ながら会議のために上京することがある。会議場所(麹町)に近く、音楽関係の買い物にも便利な御茶の水に宿泊するのが常なのだが、先月も同じ用向きで出かけた折、たまたまこれまで使ったことにない宿泊施設で昭和初期創業のホテル「昇龍館」を選んでみた。会議も終わり、食事を済ませたあと、ディスクユニオンでマイルスのブート盤を2、3枚買う。そして、iPhoneのマップアプリを頼りにホテルに向かったのだが、アプリが示す建物にはなぜかジャズ喫茶らしきお店があり、ドアから大音量でピアノの音が聴こえてくる。一瞬、ここから入ろうかととも思ったが、いったん建物の裏(というか本当は表)にまわってみると、ホテルの入り口があったので、ほっとしてフロントに向かっていった。その場所は、先ほどの喫茶入り口からはちょうど反対側になるのだが、そこにもピアノの音が鳴り響いている。つまり、ホテル「昇龍館」のダイニングが、ジャズ喫茶「Jazz Olympus!」だった、というわけ。あまりの音量に一瞬、「ライヴ?」とも思ったが、中を見るとお客さんが2人ほど黙ってスピーカーがあるらしき方向を向いて座っているだけで、どうもそうではないらしい。いったんチェックインのため部屋に入りネットで調べてみると、実は有名なお店のようだ。その名前から想像されるように、JBLの往年の名スピーカー「Olympus」が店名の由来らしい。こちらのJBLのサイト「JBLが聴ける店」 にも当然紹介されている。オーナーの小松誠氏が脱サラして始めたというお店とのことで、「Olympus D50 S8R」を手にいれた経緯といい、そのスピーカーのセッティングの話といい、この記事は非常におもしろいのでぜひお読みください。

 またこのお店には、オーナーの方が長年集めてこられた4000枚を超えるLPコレクションがある。エヴァンスつながりで言えば、「Olympus D50 S8R」の左横の壁に、なんと『Easy to Love』のLPジャケットが飾ってあったので、これもびっくり(>>こちらのジャズ喫茶を紹介するサイト「ジャズ喫茶案内 Gateway To Jazz Kissa」でその写真を見ることができる(>>こちら)。日本盤オリジナルの『Easy to Love』なんて、実に渋い選択。まあ、ジャケットのエヴァンスの写真、左手でたばこをくわえているポーズが喫茶向きと言えばそうかも・・・。ちなみに宿泊客の朝の食事は、このジャズ喫茶でとることになるのだが、その時間帯はさすがに大音量のジャズはなし(BGM的にジャズが流れているだけ)。しかも「Olympus D50 S8R」やレコード棚にはちゃんとカバーがあてられていて、大事に保護されていたのが、印象的だった。在京の方にはすでによく知られたお店、お話だったかも知れないが、僕としてはまたぜひ尋ねてみたい場所がひとつ、御茶の水に増えた。

※ちなみに、このお店のオフィシャル・ブログもある>>こちら

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2017年2月27日 (月)

またも新作!『Another Time: The Hilversum Concert』

 昨日、一つ前の記事「『Waltz for Debby』日本盤LP(その2)」に、Pianotriomanzai さんから、近日発売予定のエヴァンスの新盤についてコメントをいただいた。ありがとうございます。

「こんにちは。
ご存知かと思いますが、レコード会社も商売が上手になりましたね。LPだけを先にだすなんて!
http://diskunion.net/jazz/ct/detail/1007332232

 調べてみると、僕の方には先週の土曜お昼に、HMVさんからメールマガジンで同じお知らせが届いていたようだ。

http://www.hmv.co.jp/artist_Bill-Evans-piano_000000000002112/item_Another-Time-The-Hilversum-Concert_7698068

http://www.hmv.co.jp/fl/5/704/1/

 昨年、『Some Other Time: The Lost Session From The Black Forest』を発掘した Resonance レコードの仕事。1968年の6月15日にライヴ録音された名盤『モントルー・ジャズ・フェスティヴァルのビル・エヴァンス』のちょうど一週間後、6月22日にオランダのヒルフェルスムで行われたコンサートの音源とのことである。ちなみに『Some Other Time: The Lost Session From The Black Forest』は、6月20日、ドイツでのスタジオ録音だった。これらのクレジットが正しいとするなら、エヴァンス・トリオは、この一週間のあいだでスイス〜ドイツ〜オランダと移動してきたことになる。なお「ヒルフェルスム」と表記されたまちの名前は、本盤のタイトルにもあるように「Hilversum」。これはエヴァンス史的に言えば、翌1969年のライヴCD『Waltz For Debby 1969』(「新エヴァンス、p.208」)や『Beautiful Love 1969』(ともに Cool Jazz)で知られた場所である※。エヴァンスの伝記作家ピーター・ペッティンガーも、『ビル・エヴァンス ー ジャズ・ピアニストの肖像』(水声社・刊)の中で、次のように記している。

「 モントルーの翌週、トリオはヒルヴァーサムというオランダの中心的なラジオ局のスタジオで、観客を前に演奏した。お祭りイヴェントの演奏は自由で気ままであったのに対し、ラジオ局独特の堅い雰囲気の為に、神経質な演奏へと変化した。しかしこれは出演者への敬意であると同時に、いずれの会場の観客たちも認めていることだが、どちらでも偉大な音楽が作られ、大いに観客を楽しませたことには変わりはない。」(p.220)

 ここで言われている「ラジオ局のスタジオで、観客を前に演奏した」ほかに、コンサートを開いた可能性もないわけではないが、今回の『Another Time: The Hilversum Concert』の音源提供元は「Netherlands Radio Union」とのことなので、おそらく両者は同じ演奏だろう。曲目は以下のとおり。

01. You're Gonna Hear from Me
02. Very Early
03. Who Can I Turn To?
04. Alfie
05. Embraceable You
06. Emily
07. Nardis
08. Turn Out the Stars
09. Five

 意外にも直前の『Some Other Time: The Lost Session From The Black Forest』とは、それほど被りはない。「2017年04月22日 発売予定」とのことなので、発売を期待して待ちたい。あ、そうそう。Pianotriomanzai さんのご発言にもあったように、フォーマットはなんと、「アナログLP完全先行発売」。アナログプレーヤーをお持ちでない方のため、一応念のため書いておきますが、「※CD発売は2017年9月を予定しております。 」とのこと。が、今回発売のLPには「限定盤」との記述もあり、やっぱり買ってしまうだろうなあ。

※1975年2月13日にも、エヴァンスは今回発売のLPと同じHilversumのVARAスタジオでドルフ・フォン・デル・リンデン指揮メトロポール交響楽団と、「Symbiosis」の2つの楽章を放送用に録音しているという。>>こちら

(2017年9月の追記)上記記事で触れたCDバージョンについては、HMVでは2017年08月25日に無事発売された。「英文解説36頁完全翻訳ブックレット付」という国内仕様盤もある。

>>本盤を実際に聴いたレビューはこちら

2017年2月 6日 (月)

『Waltz for Debby』日本盤LP(その2)

 今回は(その1)で紹介した『Waltz for Debby』の各日本盤LPを試聴してみた。

 例によって、結果は以下の順番で示す。
※SR-7015(日本ビクター,1963)、SFON-10039/40(日本ビクター2LP盤, 1966)、MW-2004(日本グラモフォン,1970)、SMJ-6118(ビクター音楽産業,1975)、VIJ-126(ビクター音楽産業,1984)/比較盤 初期ステレオLP(RLP-9399, 1961)

A面1.「My Foolish Heart」
1)音場
※広い(ベースが10時過ぎ、ピアノが2時前くらい)、広い、広い、広い、広い/狭い(ベースが11時前、ピアノが1時過ぎくらい)
2)冒頭のEの音
※2音、2音、2音、2音、2音/2音
3)4分40-41秒付近の音揺れ
※なし、なし、なし、なし、なし/なし
4)拍手の長さ(曲が終わっているかいないかにかかわらず、最初の拍手が聞こえてから、消えるまでを測った)&フェードアウト(FO)の有無
※約9秒&FOあり、約9秒&FOあり、約9秒&FOあり、約9秒&FOあり(FO後すぐ次の曲が始まる)、約9秒&FOあり(FO後すぐ次の曲が始まる)/約9秒&FOあり

2.「Waltz for Debby」(take2)
1)音場
※広い、広い、広い、広い、広い/狭い
2)拍手の長さ&フェードアウトの有無
※約4秒強&FOあり、約4秒強&FOあり、約4秒強&FOあり、約4秒&FOなし(曲間の空白もなし)、約4秒&FOなし(曲間の空白もなし)/約4秒強&FOあり

3.「Detour Ahead」(take2)
1)音場
※広い、広い、広い、広い、広い/狭い
2)拍手の長さ&フェードアウトの有無
※約4秒過ぎに急速にFO、約4秒過ぎに急速にFO、約4秒過ぎに急速にFO、約4秒過ぎに急速にFO、約4秒過ぎに急速にFO/約3秒過ぎに急速にFO

B面1.「My Romance」(take1)
1)音場
※広い、広い、広い、広い、広い/狭い
2)0秒からの冒頭和音の濁り、4秒、16秒および52秒の音揺れ
※なし、なし、なし、なし、なし/なし
3)拍手の長さ&フェードアウトの有無
※約8秒&FOあり、約8秒&FOあり、約8秒&FOあり、約8秒&FOあり(FO後約1秒後に次の曲が始まる)、約8秒&FOあり(FO後すぐ約1秒後に次の曲が始まる)/約8秒&FOあり

2.「Some Other Time」
1)音場
※広い、広い、広い、広い、広い/狭い
2)拍手の長さ&フェードアウトの有無
※約6秒&FOあり、約6秒&FOあり、約6秒&FOあり、約6秒&FOあり(FO後約1秒後に次の曲が始まる)、約6秒&FOあり(FO後約1秒後に次の曲が始まる)/約6秒強&FOあり

3.「Milestones」
1)音場
※広い、広い、広い、広い、広い/狭い
2)拍手の長さ&フェードアウトの有無
※約9秒&FOあり、約9秒&FOあり、約9秒&FOあり、約9秒&FOあり、約9秒&FOあり/約8秒過ぎに急速にFO

(考察)
 まず驚いたのは、最初期のSR-7015からして、音場がワイドに広がっていること。以前、1960年代中葉くらいまでアメリカ本国で出された初期LP盤を追ってみたが、そこでも「狭い」音場が普通だった。そのことから考えると、SR-7015は「広い」音場盤としては極めて早い時期の登場ということになる。さらに言えば、日本で出たLP盤はすべて「広い」音場盤であったことになる。となれば、嶋譲氏が「狭い」音場のCDについて「この処理はレコードの時代には覚えがない」と書かれたのも一理ある。
 また、初発売の1966年から1984年まで20年近く経過しているのに、それほどヴァリエーションがないこともわかった。基本的に2種。まず fontana 盤から日本グラモフォン盤までは、日本に送られてきたLP製作用のマスターテープが、共通なのかもしれない。一方、SMJ-6118、VIJ-126という後期ビクター盤は、カッティングがやり直されただけで、マスターテープはおそらく同じもの。1970年代あたりまでは日米の経済格差も大きかったろうし、そう易々とマスターテープを取り寄せたり、再マスタリングをしたりということができなかった、という事情もあるのかも知れない。このあたりは、日本で先行して普及したCDとは状況が違うのだろう。
 あと、CDでは代々問題となってきた、「My Foolish heart」の終わりと「My Romance」の冒頭にある音揺れ等についてだが、これは今回、すべての盤で認められなかった。

2017年2月 4日 (土)

『Waltz for Debby』日本盤LP(その1)

 本シリーズでは、『Waltz for Debby』盤の音場や拍手の長さ等を調べているが、今回は日本盤LPを試聴してみた。盤の選定にあたっては、taketoneさんのブログ『新エヴァンス日記』の労作「エヴァンス日本盤シリーズ」から、(1963~1969年)(1970~1979年)(1980~1989年)を参照させていただいている。いつもながらありがとうございます。

 とりあえず、試聴する盤の整理。

 まず国内初版LPと思われるのが、SR-7015(日本ビクター)で、いわゆる「ペラジャケ」盤(価格は1800円)。ジャケットには年号表記はないが、LPに付けられた帯に「ステレオ!モダン・ジャズ名盤蒐集会選定盤 三八年一月 そのII」とあるので、おそらく昭和38年=1963年初めの発売だろう。またジャケット裏面下に「Made And Sold By FONTANA RECORDS under rights from INTERDISC S.A.」との記載がある。『Waltz』盤等の原盤を持っていた Riverside は1963年に倒産。ヨーロッパで Riverside 盤を販売していた FONTANA RECORD 経由で、原盤を取り寄せたと言われている(ラベル上に「MANUFACTURED BY VICTOR COMPANY OF JAPAN LTD. YOKOHAMA - MADE IN JAPAN」とあるので、盤自体は日本製)。

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 おそらく続いて出たのが、SFON-10039/40(日本ビクター、2LP盤)。こちらも fontana 盤。taketoneさんの調査では、1966年の発売という。『Sunday at the Village Vanguard』盤と抱き合わせで、2枚組になっている(「《エリート・ジャズ・シリーズ》丸6 ビル・エヴァンス」とあり、『Waltz』盤の番号が、SFON-10040)。こちらも「YOKOHAMA」表記の日本製で、正直なところ初めて聴いたときは、音のきれいさ・素直さに驚いた。やはり料理と同じで、新鮮さに勝てるものはないのだろう。SR-7015とともに、これら初期盤は古い物だけにそうそう出るものではないが、1年に1、2回はオークションで見かけることがある。機会があれば聴いてみていただきたい。

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 1970年には、MW-2004(日本グラモフォン)が出ている。ジャケットが例の女性のシルエットではなく、白地にエヴァンスの演奏姿をあしらっているデザインになる。こちらは豪華な?見開きジャケット。これは当時、日本グラモフォンが出していたカラヤン盤などもそうであった。こちらになると、今でも時折、中古ショップやオークションで見かけることがある。Orpheum の後に Riverside レーベルを買い取ったのは、米 ABC レコードだったが、この会社が出していたレコードに倣って、赤土色のリングの上部に「R」の文字を載せたデザインを踏襲している。

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 ジャケット裏面に「丸P1975」との表記のある SMJ-6144 SMJ-6118(ビクター音楽産業)は、おそらく最も持っておられる方が多い『Waltz』のLP盤ではないだろうか。僕の家に元々あったのも、この盤。オリジナルLPに倣って、黒地に正方形をあしらったデザインである。今日も数枚の SMJ 盤がオークションに出品されている。

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 次いでVIJ-126(ビクター音楽産業)が1984年に出た。これが復刻版以外では、最後のLPバージョンだったろう。1986年には、最初のCD(VDJ-1536)が出ているのだから。LP時代の最後だっただけに、あまり数が出なかっただろうか。新しい盤にしては見かけることが少ない。無論、希少盤というほどでもないが。帯には「再カッティング」の文字がある。実際、盤を作る機材なども質があがっているのだろう。ちょっときらびやかな、ハイファイ風の音がする。我が家の試聴環境では、少しシンバルが騒がしいけれど。

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(2017/3/2の追記)akiseさんから番号違いのご指摘をいただき、訂正しました。確認不足で申し訳ありません。

2017年1月17日 (火)

『Waltz for Debby』定位問題の余白

 試聴記事は、資料探索の関係でしばしお休み。で、少し気軽な話題を書きます。

 前回の記事で、楠薫氏がすでに2006年に『Waltz for Debby』盤の「音揺れ」問題に言及しておられたという話を書いた(「アナログ録音はアナログで、デジタル録音はデジタルで聴け」(『ジャズ批評』誌の2006年1月号、p.62)。なので、僕も自分がこの間取り上げてきた音場や定位問題について、もしかして先行した指摘がなかったかどうか調べてみた。以下は、その結果。

 まずは、発売時期やシリーズによって、音場の広がりが違うことについて。実は、他の作品でも同様の傾向があるのでは、とうすうす感じていた。例えば『Exploretions』盤について、同じような聴き比べをされた方がいる。オーディオ・ビジュアル関係のSNS「Phile-webコミュニティ」の中のベルウッドさんの日記記事「探求の旅 (ビル・エヴァンス・トリオのハイレゾ比較)」で、以下の3つの盤が試聴された。投稿されたのは、2015年4月。

A)米国初版盤(OJCCD-037-2, 発売1987/01/01, Remaster - David Luke)
B)HDtrack 24bit-88kHz-9351-2, Original Jazz Classics, 発売2011)
C)米国Hybrid (Fantasy:025218733465, 発売:2004/08/17, Remaster - Joe Tarantino)

 その結果、

「A)→B)→C)といくに従って、定位がはっきりしてより外側へと分離していきます。ピアノが右、ベースが左、リズムセクションは左右に拡がりますがモチアン独特のブラシワークは左寄りの奥に聞こえます。B)とC)はほとんど同じような定位感なのですが、C)になるとピアノは右スピーカーの外側にまで拡がっていきます。」

と書かれている。これは僕が聴いた『Waltz for Debby』盤と、かなり似たような内容だ。

 次いで、それらOJC盤において、マスタートラックとボーナストラックで音場が違う混合版があるという点について。こちらは、2ちゃんねるの過去ログ倉庫「ビル・エヴァンス Bill Evans (1929-1980) part17」中の記事を引こう。

「507 :いつか名無しさんが:2014/04/28(月) 20:21:48.25 ID:???
60年代なんて子マスター、孫マスター、といった具合にコピーマスターテープが世界中にある。
いかに親マスターに近いテープからCDを起こしているかがすべてであり、マスタリングの音質を語る以前の問題である。
マスタリングの優劣を争うには元が同じでないと意味が無い。
初期のOJCのCDなんてどれが親マスターなのかわからなくなっていたんじゃないか? w
Waltz や Sundayではレギュラートラックのボケ、セパレーションの悪さと比較して、ボーナストラックの鮮明さ、左右chの分離の良さを聴けばそれがよくわかる。 」

 こちらの発言をされた方は、『Waltz』と『Sunday』のOJC盤において、レギュラートラックとボーナストラックを比較し、左右チャンネルの分離に違いがあることを、2014年の時点で、ちゃんと把握しておられた。すばらしい!

 最後は、楽器の定位について。「新大陸への誘い」というブログの2010年7月の記事「~Waltz for Debby ~ Bill Evans Torio」(ママ)から。引用個所の前段には、例の「地下鉄の音が入っている」話の検証があって、その続きがこちら。

「低音の音についてはこれぐらいにして、どうしてハイハットのスティックがシンバルに当った瞬間の音の広がりが不自然でどこの位置で叩いているのか定位せず、また拍手の音やグラスが当る音などの広がりが不自然でしたので、Kengoさんに、この録音はライブなのに、複数のマイクをたててミキシング時にパンボットなどで調整されているのですか?とお聞きしたところ、簡単なセッティングで録音されて2chに落とされているのでそれほど凝ったことはされていないのではとのことでした。
それと、Walz for Debbyにはいろんな盤があり、それによっても音質がかわり、国内盤と輸入盤ではR/Lチャンネルが逆になっている盤もあるとのことでした。

そんなことをお聞きしましたので、YA-1に刺さっているRCAケーブルの上下(左右)入れ替えてみました。左右のチャンネルが逆になれば音場が逆になるだけだと思ってましたが、なぜか見事に、シンバルも人の声も定位して自然な環境音が再現されました。」

 こちらの記事では、僕も感じていたドラムの定位が曖昧だという点を指摘されている。またこの方が試された左右の入力を反対にする・・・つまりエヴァンスのピアノを左に持ってくることは、僕もドラムの定位を確かめたときに、一度試してみました、実は(笑)。「見事に、シンバルも人の声も定位して」というところまでは感じなかったが、音場的に特に違和感もなく、落ち着いて聴こえたのも事実。以上、僕と似たような聴き方をしている方が、少なくとも何人かはいらっしゃったのだな、とちょっとホッとした夕べでした。

2017年1月15日 (日)

『Waltz for Debby』の視聴記事

 このブログでは、最近『Waltz for Debby』の音質等について試聴を続けている。無論、超有名盤だけに、既存の雑誌にもいくつか視聴記事がある。それらをいくつか紹介したい。

 その中ではこのブログでも何回か紹介している「ワークパーツ落とし」説を提起した嶋護(しまもり)氏の記事が有名だ。(『Stereo Sound』No.191の連載記事「レコード音楽随想 音盤の向こう側、2014年)。

「 ところで、広く知られたことだが、この2枚のアルバムには、LPであるかCDであるか配信であるかを問わず、テープがひっかかったような音揺れやドロップアウトや、(ステレオでは)一瞬音がモノーラルになってしまうといった欠点が、主に曲の始まりや終わり付近に目立つ。こうした欠点はもっとも初期に作られた、いわゆるオリジナル盤レコードにもあり、これもモノーラルかステレオかを問わない。(中略)  ところが、実は音揺れやドロップアウトとは無縁の『ワルツ・フォー・デビィ』と『サンデイ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』は、LPとCDを合わせても両手で数えられるほどながら存在するのである。(中略)
 話を『ワルツ・フォー・デビィ』のCDに絞ると、音揺れやドロップアウトと無縁なディスクは知る限り二つある(少しでも公正を期すために、聴いたCDすべてを別表で網羅する)。一つは、国内初版(ビクター音産VDJ1536)。もう一つは、ダグラス・サックスがマスタリングしたゴールドCD(米アナログ・プロダクションズCAPJ009)だ。」(p.282、下線は引用者が付加)

 そして、この二盤を「カッティングマスターを経由せず、ワークパーツから直に落として作られた」可能性を示唆された。これがいわゆる「ワークパーツ落とし」説の始まりである。なお、僕が試聴した『Waltz for Debby』のオリジナル盤には、「My Foolish Heart」の終わりや「My Romance」の始めには音揺れ等はなかった(>>こちら。あるいは、こちら)。無論、嶋氏が他の場所で音揺れ等を見つけたというのなら、話はわかる。確かに、嶋氏は「My Foolish Heart」の冒頭におけるフラッター(回転むら)の存在を、記事中で指摘している。ただしこのフラッターは、上記二盤も含め「すべてのLPとCDに例外なく存在する」とあるので、嶋氏がこの個所を上記二盤の場合における「音揺れ」とは判断していないことになる。

 他には、別冊ステレオサウンド『管球王国』の2012年WINTE号(Vol.63)の、「同一タイトルLP盤 新旧聴き比べ」という記事中で、『Waltz for Debby』アナログ盤の聴き比べが行われている(聴き手は、新忠篤氏と篠田寛一氏)。聴き比べた盤とは、1)オリジナル・モノラル盤(RLP 399)、2)日本グラモフォン盤(MW2004)、3)ビクター音楽産業盤(SMJ-6118)、4)アナログ・プロダクションズ盤(APJ009)の4種。こちらでも具体的な「音揺れ」個所についての記述はないが、たまたま「My Foolish Heart」を聴いているので、1)と4)の盤で「冒頭のピアノの音が、ちょっと震えているような感じ」がした、との感想がある。これは、嶋氏の指摘と一致する。ただし、2)の日本グラモフォン盤(MW2004)については、「これは冒頭のピアノの音も震えず、全体にいい音ですね。」とあり、フラッターが「すべてのLPとCDに例外なく存在する」との指摘とは一部矛盾があるが。

 さらに時代は遡るが、先日たまたま手に入れた『ジャズ批評』誌の2006年1月号に、楠薫氏による「アナログ録音はアナログで、デジタル録音はデジタルで聴け」という記事があり、ここでも『Waltz』盤についての記述がある※1。

「 例えばビル・エヴァンスの"Waltz for Debby"。オリジナルはテープが撚れた様なピッチのズレ、音揺れがあるが、Victorが1986年に発売したCDは音揺れも無く、再発LPのAnalogue ProductionsのPREMIUM Vinyl Pressing HQ-180も同様で同じマスターテープを使用していると思われる。」(p.62)

 「Victorが1986年に発売したCD」とは、上記「VDJ1536」のこと。またもう一枚は、フォーマットこそ違うが同じ「Analogue Productions」のプロダクトである。僕はこれまで、これらの盤に音揺れ等がないとの指摘は、嶋氏が言い出した話とばかり思ってきたが、少なくとも8年前には同じような指摘がなされていたことがわかって、びっくり※2。いずれにせよ、実際には上記の二盤以外にも、音揺れ等のない盤は多数見つかっている。僕個人としては、どなたかこの問題について、新たな検証記事を書いてくれることを切に望みたい。

※1 同じ号には、後藤誠一氏による「オリジナルLPとCDの対立なんて無意味だよ!」という記事もあり、『Waltz』盤の「リバーサイド・オリジナル盤、国内盤、OJC盤、アナログ・プロダクション盤、リマスターCD盤の聴き比べを行った」結果、「誰もがオリジナル盤が優れていると予測したが、オリジナル盤に軍配を上げる人はいなかった。なにせオリジナルは微妙にピッチが狂っていて、聴き辛いのだ。」と結論づけておられる。音質の評価は別にしても、少なくともピッチ云々の話は初めて聞く話だ。また調べたいことが増えた。
※2 「嶋護」と「楠薫」。名前のつくりも似ているし、両名とも1960年生まれという。なので、もしかして同一人物?と思わないでもなかったが、嶋氏は群馬県出身という情報もあり、福岡県北九州市のお医者さん、と上記記事中のプロフィール欄に記載のある楠氏とは、やはり他人?

2017年1月14日 (土)

006 The Boy Next Door

 『At Shelly's Manne-Hole』から、もう一曲。「The Boy Next Door」は、ミュージカル映画『若草の頃/Meet Me in St. Louis』(1944年)の中で、かのジュディ・ガーランドが歌った曲として有名である。邦題は「となりの彼氏」。とはいえ、その歌詞は、「彼氏」ならぬ、まだ存在さえ知られていない「となりに住んでいる青年」へのあこがれを歌ったもの。どちらかと言えば、「恋に恋している」という初々しさが、曲調にも現れている。「Wonder Why」同様、こちらも1960年代(こちらは前半)に、3度、計4回しか録音されていない。

 曲の構成は、AA':BB'で、AA'部分のメロディーは前奏のような扱い。1度しか現れない。以下に録音リストを示す(すべてトリオ演奏)。

1)『Explorations』(Riverside, 1961) 5:07
※オリジナルLPではカットされていた演奏。近年出されたCDには、大抵ボーナストラックとして収録されている。ピアノによる前奏・AA'部分(T36)、ピアノ・テーマ・BB'部分(1コーラス、T32)、ピアノ・ソロ(3コーラス、T32+T32+T32)、ベース・ソロ(1コーラス、T32)、ピアノ・テーマ(1コーラス、T32)、後奏(T4)。原曲もある程度そうなっているのだが、AA'部分ははっきりとした3拍子でなく、ルバートで自由に歌われる。ピアノ・テーマ部分に入ると、ドラムスのポール・モチアンがBおよびB'のそれぞれの後半部分をブラシを使って3拍子で叩き、リズムチェンジを周到に準備する。このあたりは前々回「004 Alice in Wonderland」で見てきたものと同じ手法だ。その後、ピアノ・ソロ部に入ると、いつのまにか軽快なワルツのリズムになっているという具合。スコット・ラファロのソロには、エヴァンスが最善の注意で美しいバッキングをつけている。ただし、1コーラスと短いのが、非常に残念。
2)『At Shelly's Manne-Hole』(Riverside, 1963) 5:22
※ピアノによる前奏・AA'部分、ピアノ・テーマ・BB'部分(1コーラス)、ピアノ・ソロ(2コーラス)、ベース・ソロ(2コーラス)、ピアノ・ソロ(1コーラス)、ピアノ・テーマ(1コーラス)、AA'部分を使った後奏、という構成。1)と比べるとテンポも速めで、動きのある演奏だ。これくらいのテンポの方が、メンバーたちも弾きやすそうに聴こえる。ドラムスのラリー・バンカーは、ほとんど初見に近い演奏だと思われるが、そんなことは微塵も感じさせない安定感がある。
3)『The Bill Evans Trio "Live"』(Verve, 1964) 5:52
※2)の約1年後に、カリフォルニア・ソーサリトのトライデント・クラブで収録されたライヴ演奏から。7月7日の公演からで、こちらが先にLPで発表された。2)よりも、もうワンテンポ速めになっているが、荒い演奏という感じはまったくない。ピアノによる前奏・AA'部分、ピアノ・テーマ・BB'部分(1コーラス)、ピアノ・ソロ(3コーラス)、ベース・ソロ(3コーラス)、ピアノ・テーマ(1コーラス)、AA'部分を使ったやや長めの後奏。ちなみにピアノによる前奏の最後で、珍しくエヴァンスが演奏をいったん止めて、「シックスティーン」云々のようなことをしゃべった後、和音を弾き直している。これはメンバーに話してかけているのだろうか?(曲について観客に語りかけているとするなら、かなり珍しいだろう)※。 
4)『The Complete Bill Evans on Verve』(Verve, 1964) 4:43
※こちらは、3)と同じトライデント・クラブでのライヴから、7月9日の演奏。『Complete』盤で発掘された別テイクである。ピアノによる前奏・AA'部分、ピアノ・テーマ・BB'部分(1コーラス)、ピアノ・ソロ(2コーラス)、ベース・ソロ(2コーラス)、B部分はピアノ・ソロ、B'部分はピアノ・テーマ(合わせて1コーラス)、AA'部分を使ったやや長めの後奏。当然、3)と似ているが、こちらの方が前奏もずっとシンプル。ソロも2コーラスづつと短めで、よりコンパクトな演奏になっている。チャック・イスラエルのベース・ソロも、非常にわかりやすい。

<この1曲・この演奏>
 『Explorations』のアウトテイクで聴くことのできる演奏は、非常に落ち着いた、ある意味、完成度の高いもので、単体で聴いた場合はボツにされるような演奏では全然ない。プロデューサーのオリン・リープニュースの回想には、

「われわれは1枚のアルバムにちょうど収まる以上の量をこなして、録音を終えた。どれをオミットするかということになり、エヴァンスが「ザ・ボーイ・ネクスト・ドア」を選んだのだが、これは結局、70年代のリイシューLPの中に収録された。」(『The Complete Riverside Recordings』のライナーノーツから)

とある。アルバム全体の統一感から、エヴァンス自身が合わない部分があると感じていたのだろう。後年の盤と比べると、少しリズムが重い感じは、まあ確かにある。その点、後年の2つのライヴ録音の存在価値は非常に高い。イスラエル(ベース)、ラリー・バンカー(ドラムス)というメンバーは、両ライヴとも同じ。録音も含めて考えれば、トライデント・クラブでの演奏(マスターテイク)の方に、原曲の「初々しさ」「楽しさ」を少しばかり多めに感じ取ることができる。いずれにせよ、それぞれが何度聴いても飽きない佳演になっていることは間違いない。

※(2017/2/4の追記)海外での生活経験が長く、ブログ「ビルエバンス Bill Evans の旅 レア 希少CDを探して」を書かれておられる suzuki12343 さんに、厚かましくもこのエヴァンスの台詞についてお聞きしてみた。「16才の気分で弾いてみようか。」と聴こえるとのこと。曲紹介の言葉としても、確かによく合っている。親切にご対応いただき、ご紹介のOKもいただいたので、ここにあらためて感謝とともに追記しておきます。ありがとうございました。>>記事本体は、こちら

2017年1月13日 (金)

005 Wonder Why

 昨年、エヴァンス・トリオの未発表スタジオ録音が発掘され大きな話題を呼んだ。今回のテーマ曲は、その『Some Other Time: The Lost Session From The Black Forest』を聴いたときに、「エヴァンスの愛奏曲のような気がしていたのだが。」と書いた曲。実は、意外に少ない計3回しか録音されていなかった。それも、1960年代に集中している。サラ・ヴォーンなども歌っているゆったりとしたスタンダード曲だが、エヴァンスは少し早足で、しかし可憐なイメージで弾いている。

 曲の構成は、A(T8=8小節)、A'(T8)、B(T8)、A”(T12)。以下に録音リストを示す(すべてトリオ演奏)。

1)『At Shelly's Manne-Hole』(Riverside, 1963) 5:15
※まず、単音で弾き始められる冒頭のテーマが、極めて印象的だ。ピアノ・テーマ(1コーラス、T36)、ピアノ・ソロ(1コーラス、T36)、ベース・ソロ(2コーラス、T36+T36)、ピアノ・テーマ(1コーラス、T36)、後奏(T6)。 チャック・イスラエルのベースは、ソロで本当にいい味を出している。このような朴訥かつインティメートなベースは、なかなか聴くことができない。飛び入りのように参加したドラマー、ラリー・バンカーも、安定したブラシ・ワークを聴かせている。
2)『The Secret Sessions, Recorded at the Village Vanguard, 1966-1975』(Milestone, 1967) 4:45
※ヴィレッジ・ヴァンガードのライヴを集成したセット物中、5枚目のディスクに入っている。ピアノ・テーマ(1コーラス)、ベース・ソロ(2コーラス)、ピアノ・ソロ(2コーラス)、ピアノ・テーマ(1コーラス)、後奏という構成。曲の入りは、1)とはまったく違って、「ドシラソファ」と音階を降りてきてテーマに入る形に変わった。正規録音ではないので確実なことは言えないが、キーもほぼ1度高いよう。当然、曲は明るめに響く。また、ドラムスがフィリー・ジョー・ジョーンズということもあって、最初のテーマからしてテンポも速いし、断然リズミックだ。このテーマにおけるB部分のメトロノーム数は、約168。ちなみに1)の同じ個所は、約144。フィリー・ジョーは、ブラシは使わずバスドラムやシンバル類も多用し、さらにリズムを追い込んでいく。 結果、後半に向かってテンポもどんどんと速くなっていき、1)より1コーラス多いにもかかわらず、演奏時間は30秒ほど短くなっている。テーマの後、いきなりエディ・ゴメスのソロとなる展開も意外性があるし、このソロ自体は非常に緻密な構成。イスラエルとはまた違う意味で、聴き応え十分だ。
3)『Some Other Time: The Lost Session From The Black Forest』(Resonance, 1968) 4:13
※唯一のセッション録音。こちらのキーは、きっちり1)より1度高い。ピアノ・テーマ(1コーラス)、ベース・ソロ(2コーラス)、ピアノ・ソロ(1コーラス)、ピアノ・テーマ(1コーラス)。こちらもシンプルな入りで始まって、やはりテーマ後にすぐベース・ソロが来る。この時期は、ゴメスとそのように打ち合わせていたのだろう。テンポも2)と同じくらいだが、2)ほどは後半でスピードアップしない。こちらのドラムスは、ジャック・デジョネット。ブラシを中心に、後半ではスティックを使い分けた、軽快なドラミングである。最後のテーマ再現で、B部分の最後に全員で「ルフト・バウゼ」(一瞬の間)を入れていて、これがとても効果的に決まっている。

<この1曲・この演奏>
 個人的には、やはり『At Shelly's Manne-Hole』盤の演奏が、最もしっくりくる。西海岸で、満を持したようにラリー・バンカーと出会って、彼の持ち味も生かした落ち着いた雰囲気の名演に仕上がっている。ほとんどリハーサルなしで臨んだライヴだと思うが、その割には他の収録曲も含め、よくまとまっている。特に根拠があって書いている訳ではないが、僕は時折、この時期のエヴァンスの演奏が、一番幸せそうに聴こえるときがある。その中でも、この盤で聴く「Wonder Why」の冒頭のテーマは、格別な親密さで僕の心を捉えて離さない。

2017年1月 9日 (月)

『The Village Vanguard Sessions』(その1)

 『Waltz for Debby』の初期ステレオLPを調べた流れで、関連盤として2枚組LP『The Village Vanguard Sessions』(Milestone, MSP-47002)を取り上げる。すでにMilestoneレーベルになっているが、1973年発売だから、そこそこ早い時期に出たものだ。2枚組なので見開きジャケットになるが、普通の仕様と違い、縦に広げる形になっているのが珍しい。で、その縦長スペースを使い、背広を着込んだエヴァンスのバスト・ショットをあしらっていて、なかなか凝ったデザインである。

Img_1275

 以下、収録曲を示す。

Side 1:
01.My Foolish Heart
02.My Romance(take1)
03.Some Other Time
Side 2:
04.Solar
05.Gloria's Step(take2)
06.My Man's Gone Now
Side 3:
07.All Of You(take2)
08.Alice In Wonderland(take2)
09.Porgy
Side 4:
10.Milestones
11.Detour Ahead(take2)
12.Waltz For Debby(take2)
13.Jade Visions(take2)

 見てのとおり、『Sunday』盤と『Waltz』盤の両ライヴLPのマスターテイクを、当日(1961年6月25日)の演奏順に並び替えたもの。ただそれだけではなく、ボーナストラックとして「Porgy (I Love You, Porgy)」を加えているところが、当時としては新機軸だったろう。マスタリングについては「Re-mastered, 1973, by Mike Reese (Fantasy/Studios; Berkeley, Cal.).」とある。ただ、この盤で注目されるのは、その音場である。これまで両盤の初期ステレオLPを聴いてきて、その音場が現行のCD等で聴けるものとは「やや」狭いことを指摘しておいた※。我が家の視聴環境での話だが、現行CD等が「ベースが10時過ぎ、ピアノが2時前くらい」であるのに比べ、初期ステレオLPは「ベースが11時前、ピアノが1時過ぎくらい」に聴こえていた。ところが、この『The Village Vanguard Sessions』盤は、驚いたことにさらに狭い音場、ほぼ11時55分から12時5分くらいの範囲で再生されるのである。ラファロのベースこそ中央やや左から聴こえるが、エヴァンスのピアノは右というより、最早ほぼ中央付近に位置している。海外から上記写真のLPが届いて、最初にターンテーブルに載せたときには、あやまってモノミックスの盤を購入してしまったかと思ったくらい。これまで聴いた音源とあまりに違うため、我が家のターンテーブルやレコード針との相性もあるかと思い、もう一種のターンテーブルでも聴いてみたのだが、やはり同じ音場であった。実際、同じ感想を持たれた方もいると見えて、エヴァンスの音源を「ニコニコ動画」に多数アップされている crimson さんという方が、本音源についてこのようなコメントをつけておられた。

「Milestoneの2枚組編集盤【The Village Vanguard Sessions】のA面を。ご存知の方はいらっしゃるかとは思いますが,、この盤は1973年にリマスターされた別ミックスです。モノラルに聞こえるかもしれませんが、中央寄りのステレオ・ミックス(会場の奥の席で聴いている感じ)です【イヤフォン推奨】。(後略)」(【JAZZ】BILL EVANS The Village Vanguard 別ミックスA面【レコード】から)

 ここで思い出すのは、初期CD=VDJ1536のこと。嶋譲氏が「レコード音楽随想 音盤の向こう側」(『Stereo Sound』No.191, 2014)という記事の中で、以下のように書いていることは、このブログでもすでに紹介した。念のため再掲しておこう。

「いっぽう、VDJ1536では、本来はステレオ・ピクチャーの左端にいるベースの位置が中央に寄ってしまっている。この録音ではもともとピアノが右チャンネル、ドラムスが左チャンネルにいて、中央は会場のアンビエンスや客のたてる音だけなので、いわば「空いている」ように感じられる。その隙間を少しでも埋めるべくベースを中央寄りに移動させたのであろうか。この処理はレコードの時代には覚えがないが、これ以降に出たCDには時々見られるようになった。」(p.283)

 嶋氏は、おそらく『The Village Vanguard Sessions』盤のことはご存じなかったのだろう。ただ、この盤の「超狭い音場」は『Sunday』盤と『Waltz』盤の音盤史の中でも、かなり特殊であるように思われる。ベースが中央に寄っているという VDJ1536 よりも、さらに狭いのである。似たような音場の盤がないかと探してみたが、なかなか見つからなかったのも事実だ。が、最近、やっと一枚の盤に辿り着いた。それは、『At The Village Vanguard』という1986年にFantasyから出たCD(FCD-60017)。

60017

 収録曲は以下の10曲である。

01.My Foolish Heart
02.My Romance (take1)
03.Solar
04.Gloria's Step(take2)
05.My Man's Gone Now
06.All Of You(take2)
07.Porgy(I Loves You Porgy)
08.Milestones
09.Waltz For Debby(take2)
10.Jade Visions(take2)

 ジャケット表には「OVER 60 MINUTES OF MUSIC」とある。おそらく『The Village Vanguard Sessions』の後継CDという感じなのだろうが、マスタリングについては「Digitally remastered directly from the original analog master tapes by Ed Michel, Fantasy Studios, Berkeley, CA」と記載されている。想像するに『The Village Vanguard Sessions』のアナログ・マスターテープを使って、デジタル・リマスターをしたのではないだろうか。このCDは、現在もUniversalからEUバージョンが発売されているようだ(00025218301725)。いずれにせよLP共々、当ライヴの音場等について、一石を投じる盤であることは間違いない。

※「Original Jazz Classics」というファンタジー社の再発売シリーズ、いわゆる「OJC盤」では、一部、狭い音場と広い音場とが混在しているものが出ていた>>詳しくは「OJC盤の謎」、(その1)(その2)へ。

2017年1月 5日 (木)

OJC盤の謎(その2)

 先日の続きで、今度は『Waltz for Debby』のOJC盤を調べてみた。自宅には以下の7種のOJC盤があった※1。なお、これらについては、マスターテイクとボーナストラックが混在している盤で、「Waltz for Debby」「Detour Ahead」「My Romance」は、2テイク続けて聴くことになる(「Porgy(I Love You, Porgy)」は、1テイクのみの追加)。

1)米国OJC CD(OJCCD 210-2)P1987/C1987
2)米国OJC CD(OJCCD 210-2)P1987/C1992
3)欧州OJC CD(0025218621021・UNIVERSAL名義)P&C1987/C1992
4)国内 廉価盤CD(UCCO9003)P1962,1987/C1992 2007発売
5)ドイツOJC CD(OJCCD 210-2・ZYX MUSIC名義)?/?
6)ドイツOJC CD(OJCD 210-2・bernhard mikulski名義)?/?
7)ドイツOJC デジパック仕様CD(OJC20 210-2・ZYX MUSIC名義)?/?

 このうち1)は、「Made in U.S.A.」。ジャケット右下のOJCマーク「ORIGINAL/JAZZ/CLASSICS/COMPACT DISC」の下地が白いタイプとなる(文字が黒字)。これまで、僕が「音揺れ等なし」として、このブログで紹介してきた盤である。CDケース背面のマスタリング情報には「Mastering--- Joe Tarantino,」とだけあり、年号表記はなし。マスタリング場所は「Fantasy Studios, Berkeley, CA.」である。またCDの総収録時間が手元のCDレシーバーの表記で「65:36」。真ん中の「Dead Wax」欄に記された原盤番号は「DIDX-010234  1」となっている※2。このCDは、マスターテイクのみ音場が狭く、ボーナストラックのみ音場が広いという混合バージョンとなる。しかも、音揺れ等は、なし。

 3)~4)は、OJCマークの下地が黒いタイプ(文字が白字)。これらについては、これまで「音揺れあり」と紹介してきたもの。3)のケース背面のクレジット欄には「Digital remastering, 1987--- Joe Trantino / (Fantasy Studios, Berkeley)」と、マスタリング年が明記されている。この3)の原盤番号は「00252  186 210-2  02 * 51767341」で「MADE IN GERMANY BY EDC」ともある。ちなみに、4)の原盤番号は「UCCO-9003  1A」であった。3)、4)とも、トータルタイムは「65:27」で、音場はすべてのトラックで左右に広がっているのが最大の特徴だ。で、音揺れ等は、やはりある。

 で、問題となるのが2)のタイプ。OJCマークの下地は黒い(文字が白字)。おそらく1990年代に発売された「Mede in U.S.A.」盤である。結構、売れたらしく、オークション等では、今でも千円以下で毎日のように出品されている。ケース背面には、こちらも「Digital remastering, 1987--- Joe Trantino / (Fantasy Studios, Berkeley)」とある。その他の表記は、3)とほとんど同じで、実質上3)にある「UNIVERSAL」の名義がないだけ。CDのラベル面を含む外見は、上記1)とまったく同じ。違うのは原盤番号で「DIDX-010234  3」となっている。実は最初、自宅にたまたまあったのがこの仕様の盤で、これを調べたため3)、4)と同じ「音揺れ等あり。音場が広がっている」とタイプと、僕は判断してきたのだった(トータルタイムも「65:27」と同じ)。

Ojccd2102

 今回、同じ米国OJCシリーズの『Sunday at the Village Vanguard』に、「音場が広がっている」タイプだけでなく「音場混合」タイプもあったということを受けて、急遽調べ直してみた(>>(その1)参照)。すると、やはりまったく同じパッケージながら、中身のCDには、僕が持っていた上記「DIDX-010234  3」が入っている盤もあれば、1)と同じ「DIDX-010234  1」が入っている盤もあることがわかった。つまり2)については、外観からはまるで見分けがつかず、ケースを開けて原盤番号を見ないと、どちらのタイプか判定できないということである※3。

 5)~7)は「Made in Germany」の『Waltz』盤となる。これらのうち5)と6)には、1)と同じ「白OJCマーク」がついている(7)は、裏面に「黒OJCマーク」あり)。「ZYX MUSIC」はドイツのレコード会社で、「bernhard mikulski」というのは、この会社の創業者の名前だという。4)はその新版らしく「20bit/REMASTERD」とラベル面に記載がある。原盤番号にはそれぞれCD番号がそのまま入っている。これらはすべて「音揺れ等なし、音場混合」および「トータルタイムが65:36」タイプであり、結果、1)と合わせ「白OJCマーク」グループは、同マスタリングと言えるだろう。理由はわからないが、RiversideがZYX MUSICにマスターテープを送った際に、たまたま1)タイプのテープが選ばれたということだろうか。

 ちなみにOJCの「音揺れ等あり」盤には、「『Waltz For Debby』の「ワークパーツ落とし」なるもの(OJC編・その2)」で指摘したように、「My Romance」冒頭における貼り付け疑惑もある※4。これらについては、曲後の拍手処理についてもいずれ調べてみたいと思うが、なかなか一筋縄ではいかない盤であることは確かだ。

※1 これらのほかに、現行のOJC盤として、以下のリマスター盤が出ている。

・米国OJC RemastersCD(OJC32326)P2010/C2010
・欧州OJC RemastersCD(0888072323261)P2010/C2010

 これらは曲順も違っており、ボーナストラックは最後にまとめられている。ということで上記各盤とは、はっきり別マスタリング。残念ながら「音揺れ等あり」。また「音場が広がっている」タイプである。
※2 これまで僕が確認した限りでは、このタイプの盤には「DIDX-010234  1」しか入っていなかった。
※3 今回、2)の米国OJC CD(OJCCD 210-2)仕様の盤を複数調べてみたが、「DIDX-010234  1」が3枚、「DIDX-010234  3」も3枚と、その分布は拮抗していた。
※4 「My Romance」の4秒時にある音揺れについては、きれいに消えている。これについては、音源に修正を施した可能性がある。>>「『Waltz For Debby』の「ワークパーツ落とし」なるもの(OJC編・その2)」を参照

2017年1月 3日 (火)

『Waltz for Debby』の初期ステレオLP(その4)

 今回は『Waltz for Debby』のB面を聴く。結果は以下の順番で示す。
※RLP-9399、RS-9399、RLP-9399(Orpheum・Turquoise)、RS-9399(BGP塗りつぶし)/比較盤 SMJ-6118(国内LP 1975)、VDJ1536(国内CD 1986)、CAPJ009(米国アナログ・プロダクションズ・ゴールドCD 1992)、VICJ-60141(国内XRCD 1998)、UCCO40001(国内プラチナSHM-CD 2013)

1.「My Romance」(take1)
1)音場
※狭い(ベースが11時前、ピアノが1時過ぎくらい)、狭い、狭い、(狭い)=下記注参照/広い(ベースが10時過ぎ、ピアノが2時前くらい)、狭い、広い、広い、広い
2)0秒からの冒頭和音の濁り、4秒、16秒および52秒の音揺れ
※なし、なし、なし、なし/なし、なし、なし、あり、あり
3)拍手の長さ(曲が終わっているかいないかに関わらず、最初の拍手が聞こえてから、消えるまでを測った)&フェードアウト(FO)の有無
※約8秒&FOあり、約8秒&FOあり、約8秒&FOあり、約8秒&FOあり/約8秒&FOあり(FO後約1秒後に次の曲が始まる)、約10秒強&FOなし(曲間の空白もなし)、約8秒&FOあり、約8秒&FOあり、約8秒&FOあり
(参考)
 米国CD版の『The Complete Village Vanguard Recordings, 1961』盤を聴くと、「My Romance」(take1)後の拍手は、約7秒過ぎからやや減衰し、すぐ次の「Some Other Time」が始まっている。実際のステージでもここは連続して演奏されているところなので、それでかまわないわけだが、この『Complete』盤では「Some Other Time」の冒頭にその拍手が少し被っているようにも聴こえる。となると、各音盤が約8秒過ぎでフェードアウトしているのは、そこをうまく処理したことになると考えていた。
 ところが、VDJ-1536を聴いたら、びっくり。約8秒過ぎでやや減衰したあとも約10秒まで拍手が続き、いったん途切れた後、約11秒後に「Some Other Time」が始まっている(注1)。こちらの方が一番自然に聴こえるが、録音時の原テープはどうなっていたのか。

2.「Some Other Time」
1)音場
※狭い、狭い、狭い、狭い/広い、狭い、広い、広い、広い
2)拍手の長さ&フェードアウトの有無
※約6秒&FOあり、 約6秒&FOあり、約6秒&FOあり、約6秒&FOあり/約6秒強&FOあり(FO後約1秒後に次の曲が始まる)、約14秒&FOなし(曲間の空白もなし)、約14秒後急速にFO、約11秒&FOあり、約14秒後急速にFO
(参考)
 曲後の拍手は、やはりVDJ-1536が、約14秒と一番長い。LP陣がフェードアウトしている約6秒後に拍手が減衰し、約7秒あたりからまた少し盛り返す。この部分、米国CD版の『The Complete Village Vanguard Recordings, 1961』盤では、拍手が始まっても減衰せず、約7秒過ぎには次の「Solar」にシームレスにつなげている。拍手は曲頭に完全に被っていて非常に自然なつなぎだが、VDJ-1536の拍手が本物であれば、『Complete』盤の方が編集ということになってしまう。

3.「Milestones」
1)音場
※狭い、狭い、狭い、狭い/広い、狭い、広い、広い、広い
2)拍手の長さ&フェードアウトの有無
※約8秒過ぎに急速にFO、約8秒過ぎに急速にFO、約8秒過ぎに急速にFO、約8秒過ぎに急速にFO/約9秒&FOあり、約9秒&FOあり、約4秒&FOあり、約4秒&FOあり、約4秒&FOあり
(参考)
 曲の終わりは、スコット・ラファロのベースが細かいスケールを弾いているうちから、男性客の「ハハハハハハハハハハハハハハハハ」と長い笑い声が被り、その後、拍手となる。実際、お客の笑い声で終わる「名盤」も珍しいだろう(笑)。
 最後の曲なので、LP盤や6曲しか入っていないアナログ復刻CDの場合、必ずフェードアウトが必要になる。実際の演奏でも、この曲は「Evening Set 2」のラスト曲なので、次の曲とつながってはいない。米国CD版の『The Complete Village Vanguard Recordings, 1961』の場合も、近年のCDと同じ「約4秒&FOあり」であった。

(全体考察)
 A面と少し違って、再発CDにも拍手の長さにばらつきが出ている。それにしても、VDJ-1536に記録された拍手情報は、各種コンプリート盤より長いものが多い。これは本当に驚きだ。停電で中断した曲や曲間の会話まで入っているので、何となく「コンプリート盤だけは無編集」と信じていたのだが、これは幻影であった! ちなみにVDJ-1536のライナーノーツには以下のように記されている。

「本CDマスターには、ファンタジー本社(米、バークレー)の保有するオリジナル・アナログ・マスター・テープをロスアンジェルスにあるJVCカッティング・センターに空輸し、ジョー・ガストワートとダン・ハーシュによりJVC/DAS-900デジタル・オーディオ・マスタリング・システムでデジタル・トランスファーされたものを使用しております。」

 今回の結果を見ると、マスタリングの際に、この記載どおり本当にオリジナルに近いマスターテープを使い、独自の編集が行われた可能性が高いだろう。
 一方、今回の試聴の結果、初期ステレオLP3枚(ないし4枚)は、同じマスターで作られていることがほぼわかった。特徴的には、「音場が再発・現行CDより狭い。曲間は基本フェードアウトする。曲尾・曲頭にテープの音揺れは認められない。」ということになろうか(注2)。その評価はさておき、これら「オリジナルLP」マスターは、嶋氏が「ワークパーツ落とし」と推測されたVDJ-1536とも、CAPJ009とも、それぞれまったく違う系統の音盤ということがわかった。むしろ嶋氏は、音揺れ等が「もっとも初期に作られた、いわゆるオリジナル盤レコードにもあり、これもモノーラルかステレオかを問わない」(『Stereo Sound』No.191の連載記事「レコード音楽随想 音盤の向こう側、2014年)と書いている。なので、逆にこれらオリジナルLPは、本物の「ワークパーツ」からダビングされているのだけれども、「音揺れ等がある」、つまり実質的には「ワークパーツ落とし」ではない、という一見矛盾するような考えを持っているということになる。「ワークパーツ落とし」とは一体何?

(注1)米国OJC版のLP(OJC-210)も、似たような約11秒の拍手(曲間)をとっているが、約8秒後の拍手がVDJ-1536とは違い、パラパラと薄いものになっているように聴こえる。この違いは現状手持ちの音源では説明がつかない。
(注2)初期モノラルLP(RS-399)は、ステレオテープからモノラルミックスで作られたと言われている。直接的な情報ではないので申し訳ないが、この盤の板起こしCDを聴く限り、拍手の長さは上記初期ステレオLPと一致する。

※(2017/1/8の追記)RS-9399盤で、ラベル下の「BILL GRAUER PRODUCTIONS INC.」の文字が銀色で塗りつぶされている盤を試聴することができたので、「Orpheum・Turquoise」の後に追記した。
(その3)の注記にも書いたが、この「BILL GRAUER PRODUCTIONS INC.」塗りつぶし盤は、他の曲はそうでもないが、「Waltz for Debby」や「My Romance」のベースソロあたりでは、他の初期盤に比べややベースがワイド寄りに響くかもしれない。もともとこれらの個所は、ベースの音が大きめに録られていて、少し音場が左寄りになる個所でもあるが(これは、「狭い」音場と言われているVDJ-1536などでも同じ傾向)。

2017年1月 2日 (月)

『Waltz for Debby』の初期ステレオLP(その3)

 今回から『Waltz for Debby』の初期ステレオLPを、曲順に試聴していく。(その1)で触れた初期ステレオLPのほかに、参考として比較的中古で手に入りやすい国内LP盤、嶋護氏が「ワークパーツ落とし」と推定したVDJ1536とCAPJ009の2CD、他に高音質をうたった再発CDを2つ選んで合わせて聴いてみた。

 結果は以下の順番で示す。
※RLP-9399、RS-9399、RLP-9399(Orpheum・Turquoise)、RS-9399(BGP塗りつぶし)/比較盤 SMJ-6118(国内LP 1975)、VDJ1536(国内CD 1986)、CAPJ009(米国アナログ・プロダクションズ・ゴールドCD 1992)、VICJ-60141(国内XRCD 1998)、UCCO40001(国内プラチナSHM-CD 2013)

 まずはA面から。

1.「My Foolish Heart」
1)音場
※狭い(ベースが11時前、ピアノが1時過ぎくらい)、狭い、狭い、狭い/広い(ベースが10時過ぎ、ピアノが2時前くらい)、狭い、広い、広い、広い
2)冒頭のEの音
※2音、2音、2音、1音/2音、2音、1音、2音、2音
3)4分40-41秒付近の音揺れ
※なし、なし、なし、なし/なし、なし、なし、あり、あり
4)拍手の長さ(曲が終わっているかいないかに関わらず、最初の拍手が聞こえてから、消えるまでを測った)&フェードアウト(FO)の有無
※約9秒&FOあり、約9秒&FOあり、約9秒&FOあり、約9秒&FOあり/約9秒&FOあり(FO後すぐ次の曲が始まる)、約9秒&FOなし(曲間の空白もなし)、約9秒&FOあり、約9秒&FOあり、約9秒&FOあり
(参考)
 米国CD版の『The Complete Village Vanguard Recordings, 1961』盤を聴くと、「My Foolish Heart」後の拍手は、やはり約9秒ある。LP、CDを問わず、いずれの盤も約9秒まで収録しているところをみると、ここはもしかすると自然に拍手が終わったものをそれぞれ生かしたのかもしれない(フェードアウトの有無は違うが)。
 また以前にも書いたが、この曲の56、57秒付近で、早い音型の1音が抜けているように聴こえる。これは初期LP以降、すべての盤に見られる現象。テープの音抜け等ではなく、たまたまダンパーの当たりが悪かっただけと思われる。

2.「Waltz for Debby」 (take2)
1)音場
※狭い、狭い、狭い、(狭い)=下記※※参照/広い、狭い、広い、広い、広い
2)拍手の長さ&フェードアウトの有無
※約4秒強&FOあり、 約4秒強&FOあり、約4秒強&FOあり、約4秒強&FOあり/約4秒強&FOなし(曲間の空白もなし)、約11秒&FOなし(曲間の空白もなし)、約4秒強&FOあり、約4秒強&FOあり、約4秒強&FOあり
(参考)
 米国CD版の『The Complete Village Vanguard Recordings, 1961』盤では、曲後の拍手は約8秒ほど続き、次の「All of You」(take2)が約9秒後から始まる。となると、VDJ1536の拍手が一番長いことになるのだが。どちらかに編集の手がはいっているということか。

3.「Detour Ahead」 (take2)
1)音場
※狭い、狭い、狭い、狭い/広い、狭い、広い、広い、広い
2)拍手の長さとフェードアウトの有無
※約3秒過ぎに急速にFO、約3秒過ぎに急速にFO、約3秒過ぎに急速にFO、約3秒過ぎに急速にFO/約4秒&FOあり、約6秒&FOなし(曲間の空白もなし)、約3秒強&FOあり、約3秒強&FOあり、約3秒強&FOあり
(参考)
 米国CD版の『The Complete Village Vanguard Recordings, 1961』盤でも、弱々しい少数の拍手が約3秒ほどで終わり、約6秒前にベースの試し弾きが2回入る(約10秒過ぎに「Gloria's Step」(teke3)が始まる)。LPの場合、ここでA面が終わるので、フェードアウトせざるを得ない。測定誤差かもしれないが、SMJ-6118 だけはフェードアウトまで1秒くらい長いようだ(1970年に出た国内LP MW-2004 も同じ)。VDJ1536も約6秒と長い。これらが正しければ、上記『Complete』盤にも編集の手が入っているということになる。
 参考までに、1973年に米国でMilestones名義で出た2LP盤『The Village Vanguard Sessions』を聴いてみたが、こちらの場合は明らかに編集で、まったく違う盛大な拍手が付けられている。ではと、国内CD版の『The Complete Riverside Recordings』を取り出してきたら、こちらは何と7秒くらい拍手が続いている(最後はフェードアウト。しかも上記ベースの試し弾きはなく、「Gloria's Step」(teke3)につなげている)。この点については、また調べ直してみる必要がありそうだ。

(中間考察)
 前回(その2)では、主に音場(定位)の観点から、「VDJ1536には、音揺れ等がないという点でも、そして定位の点でも、あまり手の加えられていない上質な音が残されているということだろうか」と僕は書いていたが、曲間の拍手の編集という点では、VDJ1536だけが特殊な状況にあるようだ。フェードアウトを使わずに、自然に次の曲の頭につなぐには、結構、技術がいると思われるが。

※(2017/1/8の追記)RS-9399盤で、ラベル下の「BILL GRAUER PRODUCTIONS INC.」の文字が銀色で塗りつぶされている盤を試聴することができたので、「Orpheum・Turquoise」の後に追記した。音揺れ等の有無、拍手の長さ等も他の3盤と同じである。ただ  ktdchon さんがすでに報告されていたように、「My Foolish Heart」の冒頭の音が1つしか聴こえない!
※※(2017/2/6の追記)先月末、レコードプレーヤーのカートリッジ(>>Ortofon OM 5E)、アンプ(>>Soulnote SA1.0-B)を入れ替えた。上記「BILL GRAUER PRODUCTIONS INC.」の文字が塗りつぶされているRS-9399盤を聴き直してみたところ、以前はそう感じなかったのだが、どうも電気的な増幅効果が加わっているような音質に聴こえる。スコット・ラファロでなく、エディ・ゴメスが弾いているとでもいう感じ。また、他の曲はそうでもないが、「Waltz for Debby」や「My Romance」のベースソロあたりでは、他の初期盤に比べややベースがワイド寄りに響くかもしれない。もともとこの個所は、ベースの音が大きめに録られていて、少し音場が左寄りになる個所でもあるが(これは、「狭い」音場と言われているVDJ-1536などでも同じ傾向)。やはり、音質や定位はシステムによってかなり傾向が変わるようだ。このあたりは視聴環境の違う他の方のご意見もお聞きしたいところだ(参考までにカートリッジ、アンプ以外の試聴機材は、レコードプレーヤーが Pro-ject Essential II、スピーカーが Eclipse TD307II。いずれも高級品ではないが、音場はタイトで、定位は出やすい方だと思う)。

2016年12月30日 (金)

OJC盤の謎(その1)

 先日、オークションで以前から欲しいと思っていた盤の出品があったのだが、ちょうど同じお店が『Sunday at the Village Vanguard』の「1990/10/25」発売というOJC盤を安く出していた。なので、合わせて落札してみた。というのも、同盤のOJC盤としては、「丸P&丸C 1987」というクレジットがある盤(OJCCD-140-2)しか僕は所有しておらず、もしかしてバージョン違いかと思ったからである。数日後、商品が郵便で届いた。封を切って中身を見てみると、なんとライナーノーツもケース内包のクレジットも、さらにCDのラベル面印刷も、上記とまったく同じものだったので、がっかり。買い取りに出すといっても、この種の外盤は、BOOK-OFFなどではせいぜい50円くらいだろう。ガソリン代にもならないな、などとあきらめ気分であった。

 ただその晩、特に期待もせず、届いたCDをCDデッキにかけてみた。この初期OJCバージョンのCDは、『Waltz for Debby』でも『Sunday at the Village Vanguard』でも、ボーナストラックがオリジナルLPに採用されたマスターテイクのすぐ直後に挿入される形を採っている。これはオリジナルの配列を壊すだけでなく、そのCDを鑑賞するときに同じ曲を2回連続して聴くことになり、一般のリスナーには非常に不評である。その最初のボーナストラック、2回目の『Gloria's Step』(take3)がスピーカーから流れてきたとき、驚くべきことがおこった。なんと、急にステレオの音場が広がったのである。もう一度、今度はマスターテイク(take2)の方を聴き直してみると、やはりそちらはベースが幾分中央寄りになっているバージョンであった。結局、このCD全体を通じて、マスターテイクは狭い音場のバージョン。にもかかわらず、ボーナストラックになると、急に左右に広がった音場のバージョンに変わるという奇妙な仕様であった。例えば「Jade Visions」という曲の場合、頭出しをして聴くと冒頭のベース音の出る位置がはっきり変わるので、簡単にその違いがわかる。

 ただ話はそれだけでは終わらない。このあと、僕は自宅にあった方のOJC盤はどうだったかと確認してみた。すると、こちらはまったく同じ収録曲、曲順、そしてラベル面印刷を持ちながら、最近のCDと同じく全曲が広がった音場のバージョンであったので、二度目のびっくり! どこか違いがないかよくよく調べてみると、CD面の中央の穴のまわり、LPで言うところの「Dead Wax」にあたる部分に、原盤番号のような数字が印字されていて、音場混合版が「DIDX-010264  3」(「DIDX-010264  2」も後に発見した。下記の注記参照)、広い音場版が「DIDX-010264  5」で、最後のところで違いがある。ちなみに、盤のトータルタイムも、音場混合版が「68:32」、広い音場版が「68:18」と、はっきり違っていた。繰り返すようだが、両盤のパッケージはまったく同じ。クレジット欄にはともに、

「Digital remastering, 1987 --- Joe Tarantino
(Fantasy Studios, Berkeley)

と記載されている。しかし、上記のようにマスタリング自体はまったく違うものである。これをどう考えたらいいのだろうか。この件に関連して、ktdchon さんはご自身のブログ「Jazz Classic Audio Life」で、「『Waltz For Debby』(VICJ-60008)と矛盾する 『Sunday At The Village Vanguard』(VICJ-60007)」という記事を書かれていて、同時期に発売された同じシリーズのCDでまったく音場が違うことに対し、疑問を呈されていた。しかし、今回は同じCDの、しかも連続して流される同じ曲で、音場が違うのである。これは商品としてどうだろう。

 ここまで考えてきたところで、以前、僕は『Waltz for Debby』のOJC盤でも、2種類のバージョンがあると、似たようなことを書いていたことに思いあたった(>>「『Waltz For Debby』の「ワークパーツ落とし」なるもの(OJC編・その1)」)。また先週、同盤の初期LPを聴いたときにも、その2種類あるOJC盤のうち、音揺れ等がない盤は音場が「コンパクトな音場」を持っていることを指摘しておいた(>>「『Waltz for Debby』の初期ステレオLP(その2)」)。しかし今回、再度、聴き直してみたところ、この音揺れ等がない方の『Waltz for Debby』OJC盤も、実は音場については混合版であったことがわかった。さらに上記『Sunday』盤と同様に、広い音場版も存在し、パッケージでは区別がつかない場合があるということも・・・。となると、これまでこのブログに書いてきたことも、訂正の必要が出てくる(泣)。以下、詳しくはまた次回に。

(2017/1/8の追記)その後、複数の盤を調べてみた。現在のところ、6種が見つかった。ちなみに、デジパック仕様の1つを除いて外観・パッケージはすべて同じ、というから、我々は買って中身を見るまでは、これらのうちどれが入っているかはわからない、ということになる(苦笑)。ちなみにパッケージ表面のOJCマークは、オリジナルジャケットの濃いブラウン調の背景に、白抜き文字で入っている。

1)米国OJC CD(OJCCD-140-2)P1987/C1987
 a 原盤番号 DIDX-010264  2 ※
 b 原盤番号 DIDX-010264  3 ※
 c 原盤番号 DIDX-010264  5
2)米国OJC CD(OJCCD-140-2 CDラベル面にPrestigeマーク入り)P1987/C1987
 a 原盤番号 DIDX-010264  2 ※
 b 原盤番号 OJCCD-140 S0325G ※
3)ドイツOJC CD(OJC20 140-2・bernhard mikulski名義)?/? ※※
4)ドイツOJC デジパック仕様CD(OJC20 140-2)?/? ※※※

 これらのうち、※マークをつけた3種が「音場混合」「68:32」タイプ。※※マークをつけた1種も「音場混合」タイプ。ただしタイム表示は「68:33」。さらに※※※マークをつけた1種も「音場混合」だが、タイムは表示はなぜか「68:34」タイプ(こちらはラベル面に「20BIT REMASTERED」とある)。これらタイム違いという点では、同じシリーズのドイツ製『Waltz』盤と事情が違う。残り1種が「音場が広がっている」「68:18」タイプであった。他にもあるかもしれないので、今後見つけ次第、追加したい。

2016年12月25日 (日)

Village Vanguardでエヴァンスは右側で弾いたのか?(補遺4)

 エヴァンス・トリオの有名なヴィレッジ・ヴァンガード・ライヴにおいて、前回の発言で紹介した「ドラムスの定位反転」問題を確認するために、ドラム・セットの音場という点を中心に録音を聴き直してみた。前回、比較視聴のため、リファレンス盤として『Portrait in Jazz』と『Explorations』を聴いておいた。これらでは、主としてドラムスは向かって左側から聴こえるが、その中では真ん中近くからハイハットの音が、その左からスネアドラムの音が聴こえているという<普通>の定位であった(ちなみにヴィレッジ・ヴァンガード・ライヴ盤における楽器の定位は、「左から、ベース、ドラムス、ピアノ」の順である)。

 で、その視聴結果だが、ある意味、予想されていたことだが、やはり昨日聴いた「Peri's Scope」(『Portrait in Jazz』)で判断できたような細かい定位は出ていない。ただ、jazzamurai さんからも指摘があったように、当日の録音全体を通じて、左側=ベース寄りでスネアとハイハットが混然と鳴っている。途中、ラウドシンバルが加わってくる場合があり、これはやや中央側から聴こえる。この点だけを捉えれば、一般的なドラム・セットの配置とは確かに逆になる。

 またエヴァンス・トリオが普通演奏するような曲では、スネア、ハイハット、ラウドシンバル以外の楽器、タムタム類やバスドラム、クラッシュシンバルなどは、元々ここぞというときしか使われない。また当日演奏された5セット・22曲の曲の中でも、ポール・モチアンが長いドラム・ソロを弾いている個所はあまりない。それでも「All of You」(take1&2)や「Solar」では、スコット・ラファロのベース・ソロに絡んで、タムタム類やバスドラムも駆使した短いソロが出る。これらの音は中央部近くで聴こえる場合も多く、一瞬、はっとさせられる。が、この場合も、音の出方は結構ばらついていて、やはり「はっきりとした定位が出ていない」という方が正しいだろう。ちなみに「Solar」の最後の部分で、シンバル類をスティックで小刻みに叩く音が左側から聴こえている。これはペダルを半分だけ踏んだハイハットを叩いている音だろう。その証拠に、8分29秒あたりで大き目に鳴らしたラウドシンバルの音が、背景でずっと響いている。

 元々、左右の楽器の定位をきちんと捉えることを主眼にした録音ではないので、それを反転させたところでドラムスの配置も逆になる、というわけではないのだろう。しかし上に見たように、スネア&ハイハットとラウドシンバルの位置関係は、通常の録音のようには聴こえない。今回この点を踏まえあらためて検索してみたところ、「ドラムセットの定位がおかしい」という意見も見つかった(>>こちら)。おそらくジャズ・ファンなら必ず1度は聴いたことのある、しかも録音が良いと評判の音源なのだが、こうしたところにも謎は残されている。この点でも、今回の発言が意識的な聴き直しのきっかけになれば幸いだ。

(2016/2/4の追記)エヴァンス・トリオの録音で、ドラムの各楽器の位置が非常に明確に聴き取れる録音として、『Bill Evans Album』の中の「T.T.T.」を挙げておく。途中、マーティー・モレルのドラム・ソロがあり、大小タムタムなどの移動もよくわかる。

2016年12月24日 (土)

Village Vanguardでエヴァンスは右側で弾いたのか?(補遺3)

 先日、この稿の(その1)(その2)で『The Complete Village Vanguard Recordings, 1961』のLPバージョンを紹介した折に、「Jazz Classic Audio Life」の 主筆 ktdchon さんから以下のような情報をコメント欄でいただいた。

「Amazon の The Complete Village Vanguard [12 inch Analog] のレビューに jazzamurai さんが書いておられました(無断で転載ごめんなさい)。

「ピアノを右に、ベースを左に配して、両者の掛け合いをクリアーに楽しめる。 ドラムについては、スネアとハイハットが左に来ているので、モチアンは左利きなのだろうか、と思ってしまうのだが…」

これは cherubino さんの説を裏付ける根拠になりますね。
CD でも こういうふうに聞こえるのか・・・?」

 確かになかなか興味深い話だ。ここで標準的なドラム・セットの配置を見ておくなら、奏者から見て左側から手前にまずハイハット、その右奥にスネアドラム、中央に小中のタムタム類とバスドラム、右側手前にフロアタム、右手奥にライドシンバル、さらにクラッシュシンバルが両側の奥に並ぶという感じだろうか。これを元に上記レヴューを読むならば、普通は奏者から見て左側、客席から見て向かって右側にあるはずのスネアドラムとハイハットが、なぜか左の方から聴こえてくる。これは一般的ではない。それゆえ、元発言者の jazzamurai さんは、「もしかして、エヴァンス・トリオのドラムス奏者ポール・モチアンは左利きだった?」と考えられたわけである。

 ただし、ktdchon さんも推定されておられるように、実は、ことはそう簡単ではない。「Village Vanguardでエヴァンスは右側で弾いたのか?(補遺1)」で紹介したヴィレッジ・ヴァンガードの舞台写真(らしきもの)を見ると、舞台上の楽器配置は一般的な「左からピアノ、ドラムス、ベース」であったという可能性がある。さらに、当日採用された録音方法では、ミキシング・アンプを使い、上記の楽器配置を「左からベース、ドラムス、ピアノ」という現在の録音記録に変えることが可能であった(「Village Vanguardでエヴァンスは右側で弾いたのか?(その5)」)。もしも、である。1961年6月25日のヴィレッジ・ヴァンガードで、この録音手法が採られたのだったとしたら、ドラムスを中心にピアノとベースの位置が反転したことになる。となれば、ドラム・セットの位相も反転していた・・・?

 この日、3本のマイクは各楽器に近接して置かれ、その音をかなりオン状態で拾っていたと考えられている。ドラムスに割り当てられたマイク1本では、理論上、音の方向に関する情報は拾えないので、楽器自体の定位情報は含まれていない(他の2つの楽器も状況は同じ)。しかし、例えば左側に置かれたピアノに向けられたマイクには、右隣のドラムの音も少なからず入る。また、右側に置かれたベースのマイクにも、左隣のドラムの音が割り込んでくる。つまり、ピアノのマイクには、ドラム・セットの向かって左手側にあるライドシンバルやフロアタムの音が比較的多く含まれる。また、ベースのマイクには、ドラム・セットの向かって右手側にあるスネアドラムおよびハイハットの音が比較的多く含まれることとなる。これが上記ミキシング操作で反転すると・・・確かに jazzamurai さんが感じられたような「スネアとハイハットが左に来ている」というような現象が起こっても、不思議ではないということになる。

 ただその説を検証する前には、いくつか準備が必要だ。まず最初に気になるのが、ポール・モチアンが本当に「左利き」でないということの証明。これには彼の実際の演奏風景を見るしかない。エヴァンス・トリオ時代の映像はさすがに見つからなかった。が、幸い動画サイトには彼のライヴ演奏が結構アップされていることがわかった(モチアンって、巨匠だったんですね!)。これを見ると、モチアンの叩いているドラム・セットは、特に変わった配置ではないようだ(例えば、こちら)。またスティックの持ち方は、いわゆるレギューラー・グリップ、右手は真直ぐに、左手は菜箸を持つように握っている。そのドラムスタイルは、右手でライドシンバルを叩き、左手はスネア、そして左足でハイハットを踏む、というのが基本のように見受けられる。彼が左利きかどうかまでは不明だが、少なくともドラム・セットの配置やそのドラミング手法は、極めて一般的だった、ということになる。

 次いで気になるのは、普通の録音でドラム・セットの配置が判定できるのか、という点だ。言い換えれば、位相が反転していない音源例があるか、ということでもある。それがあればリファレンス盤として耳慣らしもできるというもの。できれば、モチアンからみの事例が欲しいところだったが、時代的に言っても、彼が参加しているライヴ録音は少なく、しかもステレオはまずない。で、同メンバーによるスタジオ録音を聴いてみた。スタジオ・セッションだと定位操作の問題があるかもしれないので適切ではないのだが、仕方がない。まずは『Portrait in Jazz』。ちなみにこのアルバムの定位は、「左から、ドラムス、ピアノ、ベース」である。A面最後の曲である「Peri's Scope」を聴こう。この曲では、最初のテーマ部分でまずハイハットをスティックで刻む音が中央から聴こえ、スネアがその左横から控えめに加わってくる。この場面は、左手でスネアを叩き、手をクロスさせて右手でハイハットを刻んでいると思われる。なぜここで多数あるシンバル類の中でハイハットを叩いていることがわかるかと言えば、曲のリズムに合わせ響きを細かく止めているから。これはフットペダルのあるハイハットにしかできない。テーマが終わりピアノ・ソロに入ると、スネアに加え、ライドシンバルをチンチンと鳴らす音に変わるが、これはさっきのハイハットとは違い音場の左端の方から聴こえる(つまり右手で叩いている)。引き続きハイハットの音も中央あたりに入っているが、これは左足で鳴らしているようだ。こうして聴く限り、このアルバムではドラム・セットの定位は比較的きちんと録音されているようだ。『Explorations』も聴いてみたが、こちらは「左から、ベース、ドラムス、ピアノ」という順番。基本、ハイハットの刻みが真ん中あたりで鳴り、その左に両手でたたくスネア(もしくはブラシ)が来る、という音場になっている。次回、これらとヴィレッジ・ヴァンガード録音を聴き比べてみることにする。

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