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2017年3月 4日 (土)

Jazz Olympus!

 3か月に一度くらい、不定期ながら会議のために上京することがある。会議場所(麹町)に近く、音楽関係の買い物にも便利な御茶の水に宿泊するのが常なのだが、先月も同じ用向きで出かけた折、たまたまこれまで使ったことにない宿泊施設で昭和初期創業のホテル「昇龍館」を選んでみた。会議も終わり、食事を済ませたあと、ディスクユニオンでマイルスのブート盤を2、3枚買う。そして、iPhoneのマップアプリを頼りにホテルに向かったのだが、アプリが示す建物にはなぜかジャズ喫茶らしきお店があり、ドアから大音量でピアノの音が聴こえてくる。一瞬、ここから入ろうかととも思ったが、いったん建物の裏(というか本当は表)にまわってみると、ホテルの入り口があったので、ほっとしてフロントに向かっていった。その場所は、先ほどの喫茶入り口からはちょうど反対側になるのだが、そこにもピアノの音が鳴り響いている。つまり、ホテル「昇龍館」のダイニングが、ジャズ喫茶「Jazz Olympus!」だった、というわけ。あまりの音量に一瞬、「ライヴ?」とも思ったが、中を見るとお客さんが2人ほど黙ってスピーカーがあるらしき方向を向いて座っているだけで、どうもそうではないらしい。いったんチェックインのため部屋に入りネットで調べてみると、実は有名なお店のようだ。その名前から想像されるように、JBLの往年の名スピーカー「Olympus」が店名の由来らしい。こちらのJBLのサイト「JBLが聴ける店」 にも当然紹介されている。オーナーの小松誠氏が脱サラして始めたというお店とのことで、「Olympus D50 S8R」を手にいれた経緯といい、そのスピーカーのセッティングの話といい、この記事は非常におもしろいのでぜひお読みください。

 またこのお店には、オーナーの方が長年集めてこられた4000枚を超えるLPコレクションがある。エヴァンスつながりで言えば、「Olympus D50 S8R」の左横の壁に、なんと『Easy to Love』のLPジャケットが飾ってあったので、これもびっくり(>>こちらのジャズ喫茶を紹介するサイト「ジャズ喫茶案内 Gateway To Jazz Kissa」でその写真を見ることができる(>>こちら)。日本盤オリジナルの『Easy to Love』なんて、実に渋い選択。まあ、ジャケットのエヴァンスの写真、左手でたばこをくわえているポーズが喫茶向きと言えばそうかも・・・。ちなみに宿泊客の朝の食事は、このジャズ喫茶でとることになるのだが、その時間帯はさすがに大音量のジャズはなし(BGM的にジャズが流れているだけ)。しかも「Olympus D50 S8R」やレコード棚にはちゃんとカバーがあてられていて、大事に保護されていたのが、印象的だった。在京の方にはすでによく知られたお店、お話だったかも知れないが、僕としてはまたぜひ尋ねてみたい場所がひとつ、御茶の水に増えた。

※ちなみに、このお店のオフィシャル・ブログもある>>こちら

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2017年2月27日 (月)

またも新作!『Another Time: The Hilversum Concert』

 昨日、一つ前の記事「『Waltz for Debby』日本盤LP(その2)」に、Pianotriomanzai さんから、近日発売予定のエヴァンスの新盤についてコメントをいただいた。ありがとうございます。

「こんにちは。
ご存知かと思いますが、レコード会社も商売が上手になりましたね。LPだけを先にだすなんて!
http://diskunion.net/jazz/ct/detail/1007332232

 調べてみると、僕の方には先週の土曜お昼に、HMVさんからメールマガジンで同じお知らせが届いていたようだ。

http://www.hmv.co.jp/artist_Bill-Evans-piano_000000000002112/item_Another-Time-The-Hilversum-Concert_7698068

http://www.hmv.co.jp/fl/5/704/1/

 昨年、『Some Other Time: The Lost Session From The Black Forest』を発掘した Resonance レコードの仕事。1968年の6月15日にライヴ録音された名盤『モントルー・ジャズ・フェスティヴァルのビル・エヴァンス』のちょうど一週間後、6月22日にオランダのヒルフェルスムで行われたコンサートの音源とのことである。ちなみに『Some Other Time: The Lost Session From The Black Forest』は、6月20日、ドイツでのスタジオ録音だった。これらのクレジットが正しいとするなら、エヴァンス・トリオは、この一週間のあいだでスイス〜ドイツ〜オランダと移動してきたことになる。なお「ヒルフェルスム」と表記されたまちの名前は、本盤のタイトルにもあるように「Hilversum」。これはエヴァンス史的に言えば、翌1969年のライヴCD『Waltz For Debby 1969』(「新エヴァンス、p.208」)や『Beautiful Love 1969』(ともに Cool Jazz)で知られた場所である※。エヴァンスの伝記作家ピーター・ペッティンガーも、『ビル・エヴァンス ー ジャズ・ピアニストの肖像』(水声社・刊)の中で、次のように記している。

「 モントルーの翌週、トリオはヒルヴァーサムというオランダの中心的なラジオ局のスタジオで、観客を前に演奏した。お祭りイヴェントの演奏は自由で気ままであったのに対し、ラジオ局独特の堅い雰囲気の為に、神経質な演奏へと変化した。しかしこれは出演者への敬意であると同時に、いずれの会場の観客たちも認めていることだが、どちらでも偉大な音楽が作られ、大いに観客を楽しませたことには変わりはない。」(p.220)

 ここで言われている「ラジオ局のスタジオで、観客を前に演奏した」ほかに、コンサートを開いた可能性もないわけではないが、今回の『Another Time: The Hilversum Concert』の音源提供元は「Netherlands Radio Union」とのことなので、おそらく両者は同じ演奏だろう。曲目は以下のとおり。

01. You're Gonna Hear from Me
02. Very Early
03. Who Can I Turn To?
04. Alfie
05. Embraceable You
06. Emily
07. Nardis
08. Turn Out the Stars
09. Five

 意外にも直前の『Some Other Time: The Lost Session From The Black Forest』とは、それほど被りはない。「2017年04月22日 発売予定」とのことなので、発売を期待して待ちたい。あ、そうそう。Pianotriomanzai さんのご発言にもあったように、フォーマットはなんと、「アナログLP完全先行発売」。アナログプレーヤーをお持ちでない方のため、一応念のため書いておきますが、「※CD発売は2017年9月を予定しております。 」とのこと。が、今回発売のLPには「限定盤」との記述もあり、やっぱり買ってしまうだろうなあ。

※1975年2月13日にも、エヴァンスは今回発売のLPと同じHilversumのVARAスタジオでドルフ・フォン・デル・リンデン指揮メトロポール交響楽団と、「Symbiosis」の2つの楽章を放送用に録音しているという。>>こちら

(2017/3/4の追記)昨日HMVから届いたメールマガジンによれば、この作の発売日が4月23日に変更されたとのこと。1日延びた?(笑)

2017年2月 6日 (月)

『Waltz for Debby』日本盤LP(その2)

 今回は(その1)で紹介した『Waltz for Debby』の各日本盤LPを試聴してみた。

 例によって、結果は以下の順番で示す。
※SR-7015(日本ビクター,1963)、SFON-10039/40(日本ビクター2LP盤, 1966)、MW-2004(日本グラモフォン,1970)、SMJ-6118(ビクター音楽産業,1975)、VIJ-126(ビクター音楽産業,1984)/比較盤 初期ステレオLP(RLP-9399, 1961)

A面1.「My Foolish Heart」
1)音場
※広い(ベースが10時過ぎ、ピアノが2時前くらい)、広い、広い、広い、広い/狭い(ベースが11時前、ピアノが1時過ぎくらい)
2)冒頭のEの音
※2音、2音、2音、2音、2音/2音
3)4分40-41秒付近の音揺れ
※なし、なし、なし、なし、なし/なし
4)拍手の長さ(曲が終わっているかいないかにかかわらず、最初の拍手が聞こえてから、消えるまでを測った)&フェードアウト(FO)の有無
※約9秒&FOあり、約9秒&FOあり、約9秒&FOあり、約9秒&FOあり(FO後すぐ次の曲が始まる)、約9秒&FOあり(FO後すぐ次の曲が始まる)/約9秒&FOあり

2.「Waltz for Debby」(take2)
1)音場
※広い、広い、広い、広い、広い/狭い
2)拍手の長さ&フェードアウトの有無
※約4秒強&FOあり、約4秒強&FOあり、約4秒強&FOあり、約4秒&FOなし(曲間の空白もなし)、約4秒&FOなし(曲間の空白もなし)/約4秒強&FOあり

3.「Detour Ahead」(take2)
1)音場
※広い、広い、広い、広い、広い/狭い
2)拍手の長さ&フェードアウトの有無
※約4秒過ぎに急速にFO、約4秒過ぎに急速にFO、約4秒過ぎに急速にFO、約4秒過ぎに急速にFO、約4秒過ぎに急速にFO/約3秒過ぎに急速にFO

B面1.「My Romance」(take1)
1)音場
※広い、広い、広い、広い、広い/狭い
2)0秒からの冒頭和音の濁り、4秒、16秒および52秒の音揺れ
※なし、なし、なし、なし、なし/なし
3)拍手の長さ&フェードアウトの有無
※約8秒&FOあり、約8秒&FOあり、約8秒&FOあり、約8秒&FOあり(FO後約1秒後に次の曲が始まる)、約8秒&FOあり(FO後すぐ約1秒後に次の曲が始まる)/約8秒&FOあり

2.「Some Other Time」
1)音場
※広い、広い、広い、広い、広い/狭い
2)拍手の長さ&フェードアウトの有無
※約6秒&FOあり、約6秒&FOあり、約6秒&FOあり、約6秒&FOあり(FO後約1秒後に次の曲が始まる)、約6秒&FOあり(FO後約1秒後に次の曲が始まる)/約6秒強&FOあり

3.「Milestones」
1)音場
※広い、広い、広い、広い、広い/狭い
2)拍手の長さ&フェードアウトの有無
※約9秒&FOあり、約9秒&FOあり、約9秒&FOあり、約9秒&FOあり、約9秒&FOあり/約8秒過ぎに急速にFO

(考察)
 まず驚いたのは、最初期のSR-7015からして、音場がワイドに広がっていること。以前、1960年代中葉くらいまでアメリカ本国で出された初期LP盤を追ってみたが、そこでも「狭い」音場が普通だった。そのことから考えると、SR-7015は「広い」音場盤としては極めて早い時期の登場ということになる。さらに言えば、日本で出たLP盤はすべて「広い」音場盤であったことになる。となれば、嶋譲氏が「狭い」音場のCDについて「この処理はレコードの時代には覚えがない」と書かれたのも一理ある。
 また、初発売の1966年から1984年まで20年近く経過しているのに、それほどヴァリエーションがないこともわかった。基本的に2種。まず fontana 盤から日本グラモフォン盤までは、日本に送られてきたLP製作用のマスターテープが、共通なのかもしれない。一方、SMJ-6118、VIJ-126という後期ビクター盤は、カッティングがやり直されただけで、マスターテープはおそらく同じもの。1970年代あたりまでは日米の経済格差も大きかったろうし、そう易々とマスターテープを取り寄せたり、再マスタリングをしたりということができなかった、という事情もあるのかも知れない。このあたりは、日本で先行して普及したCDとは状況が違うのだろう。
 あと、CDでは代々問題となってきた、「My Foolish heart」の終わりと「My Romance」の冒頭にある音揺れ等についてだが、これは今回、すべての盤で認められなかった。

2017年2月 4日 (土)

『Waltz for Debby』日本盤LP(その1)

 本シリーズでは、『Waltz for Debby』盤の音場や拍手の長さ等を調べているが、今回は日本盤LPを試聴してみた。盤の選定にあたっては、taketoneさんのブログ『新エヴァンス日記』の労作「エヴァンス日本盤シリーズ」から、(1963~1969年)(1970~1979年)(1980~1989年)を参照させていただいている。いつもながらありがとうございます。

 とりあえず、試聴する盤の整理。

 まず国内初版LPと思われるのが、SR-7015(日本ビクター)で、いわゆる「ペラジャケ」盤(価格は1800円)。ジャケットには年号表記はないが、LPに付けられた帯に「ステレオ!モダン・ジャズ名盤蒐集会選定盤 三八年一月 そのII」とあるので、おそらく昭和38年=1963年初めの発売だろう。またジャケット裏面下に「Made And Sold By FONTANA RECORDS under rights from INTERDISC S.A.」との記載がある。『Waltz』盤等の原盤を持っていた Riverside は1963年に倒産。ヨーロッパで Riverside 盤を販売していた FONTANA RECORD 経由で、原盤を取り寄せたと言われている(ラベル上に「MANUFACTURED BY VICTOR COMPANY OF JAPAN LTD. YOKOHAMA - MADE IN JAPAN」とあるので、盤自体は日本製)。

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 おそらく続いて出たのが、SFON-10039/40(日本ビクター、2LP盤)。こちらも fontana 盤。taketoneさんの調査では、1966年の発売という。『Sunday at the Village Vanguard』盤と抱き合わせで、2枚組になっている(「《エリート・ジャズ・シリーズ》丸6 ビル・エヴァンス」とあり、『Waltz』盤の番号が、SFON-10040)。こちらも「YOKOHAMA」表記の日本製で、正直なところ初めて聴いたときは、音のきれいさ・素直さに驚いた。やはり料理と同じで、新鮮さに勝てるものはないのだろう。SR-7015とともに、これら初期盤は古い物だけにそうそう出るものではないが、1年に1、2回はオークションで見かけることがある。機会があれば聴いてみていただきたい。

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 1970年には、MW-2004(日本グラモフォン)が出ている。ジャケットが例の女性のシルエットではなく、白地にエヴァンスの演奏姿をあしらっているデザインになる。こちらは豪華な?見開きジャケット。これは当時、日本グラモフォンが出していたカラヤン盤などもそうであった。こちらになると、今でも時折、中古ショップやオークションで見かけることがある。Orpheum の後に Riverside レーベルを買い取ったのは、米 ABC レコードだったが、この会社が出していたレコードに倣って、赤土色のリングの上部に「R」の文字を載せたデザインを踏襲している。

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 ジャケット裏面に「丸P1975」との表記のある SMJ-6144 SMJ-6118(ビクター音楽産業)は、おそらく最も持っておられる方が多い『Waltz』のLP盤ではないだろうか。僕の家に元々あったのも、この盤。オリジナルLPに倣って、黒地に正方形をあしらったデザインである。今日も数枚の SMJ 盤がオークションに出品されている。

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 次いでVIJ-126(ビクター音楽産業)が1984年に出た。これが復刻版以外では、最後のLPバージョンだったろう。1986年には、最初のCD(VDJ-1536)が出ているのだから。LP時代の最後だっただけに、あまり数が出なかっただろうか。新しい盤にしては見かけることが少ない。無論、希少盤というほどでもないが。帯には「再カッティング」の文字がある。実際、盤を作る機材なども質があがっているのだろう。ちょっときらびやかな、ハイファイ風の音がする。我が家の試聴環境でも、前回紹介したkenplinさんの指摘どおり、少しシンバルが騒がしいけれど。

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(2017/3/2の追記)akiseさんから番号違いのご指摘をいただき、訂正しました。確認不足で申し訳ありません。

2017年1月17日 (火)

『Waltz for Debby』定位問題の余白

 試聴記事は、資料探索の関係でしばしお休み。で、少し気軽な話題を書きます。

 前回の記事で、楠薫氏がすでに2006年に『Waltz for Debby』盤の「音揺れ」問題に言及しておられたという話を書いた(「アナログ録音はアナログで、デジタル録音はデジタルで聴け」(『ジャズ批評』誌の2006年1月号、p.62)。なので、僕も自分がこの間取り上げてきた音場や定位問題について、もしかして先行した指摘がなかったかどうか調べてみた。以下は、その結果。

 まずは、発売時期やシリーズによって、音場の広がりが違うことについて。『Waltz for Debby』では、オリジナルLPや初期CDなどは狭い音場、最近のCD等では広い音場、というのが僕の試聴結果であった。kenplinさんとおっしゃる方の「kenplin box/音楽とオーディオ」というサイトに、「My Foolish Heart」について、同様の記述を見つけた(「My foolish heartを聴く」2014/06/13の記事

「〈マイ・フーリッシュ・ハート〉の比較をしてみた。
上から
RLP9399 リヴァーサイド・ステレオ・オリジナル
VIJ113  ビクター重量版
OJC210 OJC盤

オリジナルはレンジが広くない代わりに、ピアノの音が生き生きしている。
日本盤はワイドレンジになっているが、ポール・モチアンのシンバルがうるさい。
OJC盤は両者の中間のような音。

友人が聞きに来てくれた時にはオリジナルをかけるが、
普段はOJC盤で十分である。」

 この点については、他の作品でも同様の傾向があるのでは、とうすうす感じていた。実は『Exploretions』盤について、同じような聴き比べをされた方がいる。オーディオ・ビジュアル関係のSNS「Phile-webコミュニティ」の中のベルウッドさんの日記記事「探求の旅 (ビル・エヴァンス・トリオのハイレゾ比較)」で、以下の3つの盤が試聴された。投稿されたのは、2015年4月。

A)米国初版盤(OJCCD-037-2, 発売1987/01/01, Remaster - David Luke)
B)HDtrack 24bit-88kHz-9351-2, Original Jazz Classics, 発売2011)
C)米国Hybrid (Fantasy:025218733465, 発売:2004/08/17, Remaster - Joe Tarantino)

 その結果、

「A)→B)→C)といくに従って、定位がはっきりしてより外側へと分離していきます。ピアノが右、ベースが左、リズムセクションは左右に拡がりますがモチアン独特のブラシワークは左寄りの奥に聞こえます。B)とC)はほとんど同じような定位感なのですが、C)になるとピアノは右スピーカーの外側にまで拡がっていきます。」

と書かれている。これは僕が聴いた『Waltz for Debby』盤と、かなり似たような内容だ。

 次いで、それらOJC盤において、マスタートラックとボーナストラックで音場が違う混合版があるという点について。こちらは、2ちゃんねるの過去ログ倉庫「ビル・エヴァンス Bill Evans (1929-1980) part17」中の記事を引こう。

「507 :いつか名無しさんが:2014/04/28(月) 20:21:48.25 ID:???
60年代なんて子マスター、孫マスター、といった具合にコピーマスターテープが世界中にある。
いかに親マスターに近いテープからCDを起こしているかがすべてであり、マスタリングの音質を語る以前の問題である。
マスタリングの優劣を争うには元が同じでないと意味が無い。
初期のOJCのCDなんてどれが親マスターなのかわからなくなっていたんじゃないか? w
Waltz や Sundayではレギュラートラックのボケ、セパレーションの悪さと比較して、ボーナストラックの鮮明さ、左右chの分離の良さを聴けばそれがよくわかる。 」

 こちらの発言をされた方は、『Waltz』と『Sunday』のOJC盤において、レギュラートラックとボーナストラックを比較し、左右チャンネルの分離に違いがあることを、2014年の時点で、ちゃんと把握しておられた。すばらしい!

 最後は、楽器の定位について。「新大陸への誘い」というブログの2010年7月の記事「~Waltz for Debby ~ Bill Evans Torio」(ママ)から。引用個所の前段には、例の「地下鉄の音が入っている」話の検証があって、その続きがこちら。

「低音の音についてはこれぐらいにして、どうしてハイハットのスティックがシンバルに当った瞬間の音の広がりが不自然でどこの位置で叩いているのか定位せず、また拍手の音やグラスが当る音などの広がりが不自然でしたので、Kengoさんに、この録音はライブなのに、複数のマイクをたててミキシング時にパンボットなどで調整されているのですか?とお聞きしたところ、簡単なセッティングで録音されて2chに落とされているのでそれほど凝ったことはされていないのではとのことでした。
それと、Walz for Debbyにはいろんな盤があり、それによっても音質がかわり、国内盤と輸入盤ではR/Lチャンネルが逆になっている盤もあるとのことでした。

そんなことをお聞きしましたので、YA-1に刺さっているRCAケーブルの上下(左右)入れ替えてみました。左右のチャンネルが逆になれば音場が逆になるだけだと思ってましたが、なぜか見事に、シンバルも人の声も定位して自然な環境音が再現されました。」

 こちらの記事では、僕も感じていたドラムの定位が曖昧だという点を指摘されている。またこの方が試された左右の入力を反対にする・・・つまりエヴァンスのピアノを左に持ってくることは、僕もドラムの定位を確かめたときに、一度試してみました、実は(笑)。「見事に、シンバルも人の声も定位して」というところまでは感じなかったが、音場的に特に違和感もなく、落ち着いて聴こえたのも事実。以上、僕と似たような聴き方をしている方が、少なくとも何人かはいらっしゃったのだな、とちょっとホッとした夕べでした。

2017年1月15日 (日)

『Waltz for Debby』の視聴記事

 このブログでは、最近『Waltz for Debby』の音質等について試聴を続けている。無論、超有名盤だけに、既存の雑誌にもいくつか視聴記事がある。それらをいくつか紹介したい。

 その中ではこのブログでも何回か紹介している「ワークパーツ落とし」説を提起した嶋護(しまもり)氏の記事が有名だ。(『Stereo Sound』No.191の連載記事「レコード音楽随想 音盤の向こう側、2014年)。

「 ところで、広く知られたことだが、この2枚のアルバムには、LPであるかCDであるか配信であるかを問わず、テープがひっかかったような音揺れやドロップアウトや、(ステレオでは)一瞬音がモノーラルになってしまうといった欠点が、主に曲の始まりや終わり付近に目立つ。こうした欠点はもっとも初期に作られた、いわゆるオリジナル盤レコードにもあり、これもモノーラルかステレオかを問わない。(中略)  ところが、実は音揺れやドロップアウトとは無縁の『ワルツ・フォー・デビィ』と『サンデイ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』は、LPとCDを合わせても両手で数えられるほどながら存在するのである。(中略)
 話を『ワルツ・フォー・デビィ』のCDに絞ると、音揺れやドロップアウトと無縁なディスクは知る限り二つある(少しでも公正を期すために、聴いたCDすべてを別表で網羅する)。一つは、国内初版(ビクター音産VDJ1536)。もう一つは、ダグラス・サックスがマスタリングしたゴールドCD(米アナログ・プロダクションズCAPJ009)だ。」(p.282、下線は引用者が付加)

 そして、この二盤を「カッティングマスターを経由せず、ワークパーツから直に落として作られた」可能性を示唆された。これがいわゆる「ワークパーツ落とし」説の始まりである。なお、僕が試聴した『Waltz for Debby』のオリジナル盤には、「My Foolish Heart」の終わりや「My Romance」の始めには音揺れ等はなかった(>>こちら。あるいは、こちら)。無論、嶋氏が他の場所で音揺れ等を見つけたというのなら、話はわかる。確かに、嶋氏は「My Foolish Heart」の冒頭におけるフラッター(回転むら)の存在を、記事中で指摘している。ただしこのフラッターは、上記二盤も含め「すべてのLPとCDに例外なく存在する」とあるので、嶋氏がこの個所を上記二盤の場合における「音揺れ」とは判断していないことになる。

 他には、別冊ステレオサウンド『管球王国』の2012年WINTE号(Vol.63)の、「同一タイトルLP盤 新旧聴き比べ」という記事中で、『Waltz for Debby』アナログ盤の聴き比べが行われている(聴き手は、新忠篤氏と篠田寛一氏)。聴き比べた盤とは、1)オリジナル・モノラル盤(RLP 399)、2)日本グラモフォン盤(MW2004)、3)ビクター音楽産業盤(SMJ-6118)、4)アナログ・プロダクションズ盤(APJ009)の4種。こちらでも具体的な「音揺れ」個所についての記述はないが、たまたま「My Foolish Heart」を聴いているので、1)と4)の盤で「冒頭のピアノの音が、ちょっと震えているような感じ」がした、との感想がある。これは、嶋氏の指摘と一致する。ただし、2)の日本グラモフォン盤(MW2004)については、「これは冒頭のピアノの音も震えず、全体にいい音ですね。」とあり、フラッターが「すべてのLPとCDに例外なく存在する」との指摘とは一部矛盾があるが。

 さらに時代は遡るが、先日たまたま手に入れた『ジャズ批評』誌の2006年1月号に、楠薫氏による「アナログ録音はアナログで、デジタル録音はデジタルで聴け」という記事があり、ここでも『Waltz』盤についての記述がある※1。

「 例えばビル・エヴァンスの"Waltz for Debby"。オリジナルはテープが撚れた様なピッチのズレ、音揺れがあるが、Victorが1986年に発売したCDは音揺れも無く、再発LPのAnalogue ProductionsのPREMIUM Vinyl Pressing HQ-180も同様で同じマスターテープを使用していると思われる。」(p.62)

 「Victorが1986年に発売したCD」とは、上記「VDJ1536」のこと。またもう一枚は、フォーマットこそ違うが同じ「Analogue Productions」のプロダクトである。僕はこれまで、これらの盤に音揺れ等がないとの指摘は、嶋氏が言い出した話とばかり思ってきたが、少なくとも8年前には同じような指摘がなされていたことがわかって、びっくり※2。いずれにせよ、実際には上記の二盤以外にも、音揺れ等のない盤は多数見つかっている。僕個人としては、どなたかこの問題について、新たな検証記事を書いてくれることを切に望みたい。

※1 同じ号には、後藤誠一氏による「オリジナルLPとCDの対立なんて無意味だよ!」という記事もあり、『Waltz』盤の「リバーサイド・オリジナル盤、国内盤、OJC盤、アナログ・プロダクション盤、リマスターCD盤の聴き比べを行った」結果、「誰もがオリジナル盤が優れていると予測したが、オリジナル盤に軍配を上げる人はいなかった。なにせオリジナルは微妙にピッチが狂っていて、聴き辛いのだ。」と結論づけておられる。音質の評価は別にしても、少なくともピッチ云々の話は初めて聞く話だ。また調べたいことが増えた。
※2 「嶋護」と「楠薫」。名前のつくりも似ているし、両名とも1960年生まれという。なので、もしかして同一人物?と思わないでもなかったが、嶋氏は群馬県出身という情報もあり、福岡県北九州市のお医者さん、と上記記事中のプロフィール欄に記載のある楠氏とは、やはり他人?

2017年1月14日 (土)

006 The Boy Next Door

 『At Shelly's Manne-Hole』から、もう一曲。「The Boy Next Door」は、ミュージカル映画『若草の頃/Meet Me in St. Louis』(1944年)の中で、かのジュディ・ガーランドが歌った曲として有名である。邦題は「となりの彼氏」。とはいえ、その歌詞は、「彼氏」ならぬ、まだ存在さえ知られていない「となりに住んでいる青年」へのあこがれを歌ったもの。どちらかと言えば、「恋に恋している」という初々しさが、曲調にも現れている。「Wonder Why」同様、こちらも1960年代(こちらは前半)に、3度、計4回しか録音されていない。

 曲の構成は、AA':BB'で、AA'部分のメロディーは前奏のような扱い。1度しか現れない。以下に録音リストを示す(すべてトリオ演奏)。

1)『Explorations』(Riverside, 1961) 5:07
※オリジナルLPではカットされていた演奏。近年出されたCDには、大抵ボーナストラックとして収録されている。ピアノによる前奏・AA'部分(T36)、ピアノ・テーマ・BB'部分(1コーラス、T32)、ピアノ・ソロ(3コーラス、T32+T32+T32)、ベース・ソロ(1コーラス、T32)、ピアノ・テーマ(1コーラス、T32)、後奏(T4)。原曲もある程度そうなっているのだが、AA'部分ははっきりとした3拍子でなく、ルバートで自由に歌われる。ピアノ・テーマ部分に入ると、ドラムスのポール・モチアンがBおよびB'のそれぞれの後半部分をブラシを使って3拍子で叩き、リズムチェンジを周到に準備する。このあたりは前々回「004 Alice in Wonderland」で見てきたものと同じ手法だ。その後、ピアノ・ソロ部に入ると、いつのまにか軽快なワルツのリズムになっているという具合。スコット・ラファロのソロには、エヴァンスが最善の注意で美しいバッキングをつけている。ただし、1コーラスと短いのが、非常に残念。
2)『At Shelly's Manne-Hole』(Riverside, 1963) 5:22
※ピアノによる前奏・AA'部分、ピアノ・テーマ・BB'部分(1コーラス)、ピアノ・ソロ(2コーラス)、ベース・ソロ(2コーラス)、ピアノ・ソロ(1コーラス)、ピアノ・テーマ(1コーラス)、AA'部分を使った後奏、という構成。1)と比べるとテンポも速めで、動きのある演奏だ。これくらいのテンポの方が、メンバーたちも弾きやすそうに聴こえる。ドラムスのラリー・バンカーは、ほとんど初見に近い演奏だと思われるが、そんなことは微塵も感じさせない安定感がある。
3)『The Bill Evans Trio "Live"』(Verve, 1964) 5:52
※2)の約1年後に、カリフォルニア・ソーサリトのトライデント・クラブで収録されたライヴ演奏から。7月7日の公演からで、こちらが先にLPで発表された。2)よりも、もうワンテンポ速めになっているが、荒い演奏という感じはまったくない。ピアノによる前奏・AA'部分、ピアノ・テーマ・BB'部分(1コーラス)、ピアノ・ソロ(3コーラス)、ベース・ソロ(3コーラス)、ピアノ・テーマ(1コーラス)、AA'部分を使ったやや長めの後奏。ちなみにピアノによる前奏の最後で、珍しくエヴァンスが演奏をいったん止めて、「シックスティーン」云々のようなことをしゃべった後、和音を弾き直している。これはメンバーに話してかけているのだろうか?(曲について観客に語りかけているとするなら、かなり珍しいだろう)※。 
4)『The Complete Bill Evans on Verve』(Verve, 1964) 4:43
※こちらは、3)と同じトライデント・クラブでのライヴから、7月9日の演奏。『Complete』盤で発掘された別テイクである。ピアノによる前奏・AA'部分、ピアノ・テーマ・BB'部分(1コーラス)、ピアノ・ソロ(2コーラス)、ベース・ソロ(2コーラス)、B部分はピアノ・ソロ、B'部分はピアノ・テーマ(合わせて1コーラス)、AA'部分を使ったやや長めの後奏。当然、3)と似ているが、こちらの方が前奏もずっとシンプル。ソロも2コーラスづつと短めで、よりコンパクトな演奏になっている。チャック・イスラエルのベース・ソロも、非常にわかりやすい。

<この1曲・この演奏>
 『Explorations』のアウトテイクで聴くことのできる演奏は、非常に落ち着いた、ある意味、完成度の高いもので、単体で聴いた場合はボツにされるような演奏では全然ない。プロデューサーのオリン・リープニュースの回想には、

「われわれは1枚のアルバムにちょうど収まる以上の量をこなして、録音を終えた。どれをオミットするかということになり、エヴァンスが「ザ・ボーイ・ネクスト・ドア」を選んだのだが、これは結局、70年代のリイシューLPの中に収録された。」(『The Complete Riverside Recordings』のライナーノーツから)

とある。アルバム全体の統一感から、エヴァンス自身が合わない部分があると感じていたのだろう。後年の盤と比べると、少しリズムが重い感じは、まあ確かにある。その点、後年の2つのライヴ録音の存在価値は非常に高い。イスラエル(ベース)、ラリー・バンカー(ドラムス)というメンバーは、両ライヴとも同じ。録音も含めて考えれば、トライデント・クラブでの演奏(マスターテイク)の方に、原曲の「初々しさ」「楽しさ」を少しばかり多めに感じ取ることができる。いずれにせよ、それぞれが何度聴いても飽きない佳演になっていることは間違いない。

※(2017/2/4の追記)海外での生活経験が長く、ブログ「ビルエバンス Bill Evans の旅 レア 希少CDを探して」を書かれておられる suzuki12343 さんに、厚かましくもこのエヴァンスの台詞についてお聞きしてみた。「16才の気分で弾いてみようか。」と聴こえるとのこと。曲紹介の言葉としても、確かによく合っている。親切にご対応いただき、ご紹介のOKもいただいたので、ここにあらためて感謝とともに追記しておきます。ありがとうございました。>>記事本体は、こちら

2017年1月13日 (金)

005 Wonder Why

 昨年、エヴァンス・トリオの未発表スタジオ録音が発掘され大きな話題を呼んだ。今回のテーマ曲は、その『Some Other Time: The Lost Session From The Black Forest』を聴いたときに、「エヴァンスの愛奏曲のような気がしていたのだが。」と書いた曲。実は、意外に少ない計3回しか録音されていなかった。それも、1960年代に集中している。サラ・ヴォーンなども歌っているゆったりとしたスタンダード曲だが、エヴァンスは少し早足で、しかし可憐なイメージで弾いている。

 曲の構成は、A(T8=8小節)、A'(T8)、B(T8)、A”(T12)。以下に録音リストを示す(すべてトリオ演奏)。

1)『At Shelly's Manne-Hole』(Riverside, 1963) 5:15
※まず、単音で弾き始められる冒頭のテーマが、極めて印象的だ。ピアノ・テーマ(1コーラス、T36)、ピアノ・ソロ(1コーラス、T36)、ベース・ソロ(2コーラス、T36+T36)、ピアノ・テーマ(1コーラス、T36)、後奏(T6)。 チャック・イスラエルのベースは、ソロで本当にいい味を出している。このような朴訥かつインティメートなベースは、なかなか聴くことができない。飛び入りのように参加したドラマー、ラリー・バンカーも、安定したブラシ・ワークを聴かせている。
2)『The Secret Sessions, Recorded at the Village Vanguard, 1966-197』(Milestone, 1967) 4:45
※ヴィレッジ・ヴァンガードのライヴを集成したセット物中、5枚目のディスクに入っている。ピアノ・テーマ(1コーラス)、ベース・ソロ(2コーラス)、ピアノ・ソロ(2コーラス)、ピアノ・テーマ(1コーラス)、後奏という構成。曲の入りは、1)とはまったく違って、「ドシラソファ」と音階を降りてきてテーマに入る形に変わった。正規録音ではないので確実なことは言えないが、キーもほぼ1度高いよう。当然、曲は明るめに響く。また、ドラムスがフィリー・ジョー・ジョーンズということもあって、最初のテーマからしてテンポも速いし、断然リズミックだ。このテーマにおけるB部分のメトロノーム数は、約168。ちなみに1)の同じ個所は、約144。フィリー・ジョーは、ブラシは使わずバスドラムやシンバル類も多用し、さらにリズムを追い込んでいく。 結果、後半に向かってテンポもどんどんと速くなっていき、1)より1コーラス多いにもかかわらず、演奏時間は30秒ほど短くなっている。テーマの後、いきなりエディ・ゴメスのソロとなる展開も意外性があるし、このソロ自体は非常に緻密な構成。イスラエルとはまた違う意味で、聴き応え十分だ。
3)『Some Other Time: The Lost Session From The Black Forest』(Resonance, 1968) 4:13
※唯一のセッション録音。こちらのキーは、きっちり1)より1度高い。ピアノ・テーマ(1コーラス)、ベース・ソロ(2コーラス)、ピアノ・ソロ(1コーラス)、ピアノ・テーマ(1コーラス)。こちらもシンプルな入りで始まって、やはりテーマ後にすぐベース・ソロが来る。この時期は、ゴメスとそのように打ち合わせていたのだろう。テンポも2)と同じくらいだが、2)ほどは後半でスピードアップしない。こちらのドラムスは、ジャック・デジョネット。ブラシを中心に、後半ではスティックを使い分けた、軽快なドラミングである。最後のテーマ再現で、B部分の最後に全員で「ルフト・バウゼ」(一瞬の間)を入れていて、これがとても効果的に決まっている。

<この1曲・この演奏>
 個人的には、やはり『At Shelly's Manne-Hole』盤の演奏が、最もしっくりくる。西海岸で、満を持したようにラリー・バンカーと出会って、彼の持ち味も生かした落ち着いた雰囲気の名演に仕上がっている。ほとんどリハーサルなしで臨んだライヴだと思うが、その割には他の収録曲も含め、よくまとまっている。特に根拠があって書いている訳ではないが、僕は時折、この時期のエヴァンスの演奏が、一番幸せそうに聴こえるときがある。その中でも、この盤で聴く「Wonder Why」の冒頭のテーマは、格別な親密さで僕の心を捉えて離さない。

2017年1月 9日 (月)

『The Village Vanguard Sessions』(その1)

 『Waltz for Debby』の初期ステレオLPを調べた流れで、関連盤として2枚組LP『The Village Vanguard Sessions』(Milestone, MSP-47002)を取り上げる。すでにMilestoneレーベルになっているが、1973年発売だから、そこそこ早い時期に出たものだ。2枚組なので見開きジャケットになるが、普通の仕様と違い、縦に広げる形になっているのが珍しい。で、その縦長スペースを使い、背広を着込んだエヴァンスのバスト・ショットをあしらっていて、なかなか凝ったデザインである。

Img_1275

 以下、収録曲を示す。

Side 1:
01.My Foolish Heart
02.My Romance(take1)
03.Some Other Time
Side 2:
04.Solar
05.Gloria's Step(take2)
06.My Man's Gone Now
Side 3:
07.All Of You(take2)
08.Alice In Wonderland(take2)
09.Porgy
Side 4:
10.Milestones
11.Detour Ahead(take2)
12.Waltz For Debby(take2)
13.Jade Visions(take2)

 見てのとおり、『Sunday』盤と『Waltz』盤の両ライヴLPのマスターテイクを、当日(1961年6月25日)の演奏順に並び替えたもの。ただそれだけではなく、ボーナストラックとして「Porgy (I Love You, Porgy)」を加えているところが、当時としては新機軸だったろう。マスタリングについては「Re-mastered, 1973, by Mike Reese (Fantasy/Studios; Berkeley, Cal.).」とある。ただ、この盤で注目されるのは、その音場である。これまで両盤の初期ステレオLPを聴いてきて、その音場が現行のCD等で聴けるものとは「やや」狭いことを指摘しておいた※。我が家の視聴環境での話だが、現行CD等が「ベースが10時過ぎ、ピアノが2時前くらい」であるのに比べ、初期ステレオLPは「ベースが11時前、ピアノが1時過ぎくらい」に聴こえていた。ところが、この『The Village Vanguard Sessions』盤は、驚いたことにさらに狭い音場、ほぼ11時55分から12時5分くらいの範囲で再生されるのである。ラファロのベースこそ中央やや左から聴こえるが、エヴァンスのピアノは右というより、最早ほぼ中央付近に位置している。海外から上記写真のLPが届いて、最初にターンテーブルに載せたときには、あやまってモノミックスの盤を購入してしまったかと思ったくらい。これまで聴いた音源とあまりに違うため、我が家のターンテーブルやレコード針との相性もあるかと思い、もう一種のターンテーブルでも聴いてみたのだが、やはり同じ音場であった。実際、同じ感想を持たれた方もいると見えて、エヴァンスの音源を「ニコニコ動画」に多数アップされている crimson さんという方が、本音源についてこのようなコメントをつけておられた。

「Milestoneの2枚組編集盤【The Village Vanguard Sessions】のA面を。ご存知の方はいらっしゃるかとは思いますが,、この盤は1973年にリマスターされた別ミックスです。モノラルに聞こえるかもしれませんが、中央寄りのステレオ・ミックス(会場の奥の席で聴いている感じ)です【イヤフォン推奨】。(後略)」(【JAZZ】BILL EVANS The Village Vanguard 別ミックスA面【レコード】から)

 ここで思い出すのは、初期CD=VDJ1536のこと。嶋譲氏が「レコード音楽随想 音盤の向こう側」(『Stereo Sound』No.191, 2014)という記事の中で、以下のように書いていることは、このブログでもすでに紹介した。念のため再掲しておこう。

「いっぽう、VDJ1536では、本来はステレオ・ピクチャーの左端にいるベースの位置が中央に寄ってしまっている。この録音ではもともとピアノが右チャンネル、ドラムスが左チャンネルにいて、中央は会場のアンビエンスや客のたてる音だけなので、いわば「空いている」ように感じられる。その隙間を少しでも埋めるべくベースを中央寄りに移動させたのであろうか。この処理はレコードの時代には覚えがないが、これ以降に出たCDには時々見られるようになった。」(p.283)

 嶋氏は、おそらく『The Village Vanguard Sessions』盤のことはご存じなかったのだろう。ただ、この盤の「超狭い音場」は『Sunday』盤と『Waltz』盤の音盤史の中でも、かなり特殊であるように思われる。ベースが中央に寄っているという VDJ1536 よりも、さらに狭いのである。似たような音場の盤がないかと探してみたが、なかなか見つからなかったのも事実だ。が、最近、やっと一枚の盤に辿り着いた。それは、『At The Village Vanguard』という1986年にFantasyから出たCD(FCD-60017)。

60017

 収録曲は以下の10曲である。

01.My Foolish Heart
02.My Romance (take1)
03.Solar
04.Gloria's Step(take2)
05.My Man's Gone Now
06.All Of You(take2)
07.Porgy(I Loves You Porgy)
08.Milestones
09.Waltz For Debby(take2)
10.Jade Visions(take2)

 ジャケット表には「OVER 60 MINUTES OF MUSIC」とある。おそらく『The Village Vanguard Sessions』の後継CDという感じなのだろうが、マスタリングについては「Digitally remastered directly from the original analog master tapes by Ed Michel, Fantasy Studios, Berkeley, CA」と記載されている。想像するに『The Village Vanguard Sessions』のアナログ・マスターテープを使って、デジタル・リマスターをしたのではないだろうか。このCDは、現在もUniversalからEUバージョンが発売されているようだ(00025218301725)。いずれにせよLP共々、当ライヴの音場等について、一石を投じる盤であることは間違いない。

※「Original Jazz Classics」というファンタジー社の再発売シリーズ、いわゆる「OJC盤」では、一部、狭い音場と広い音場とが混在しているものが出ていた>>詳しくは「OJC盤の謎」、(その1)(その2)へ。

2017年1月 5日 (木)

OJC盤の謎(その2)

 先日の続きで、今度は『Waltz for Debby』のOJC盤を調べてみた。自宅には以下の7種のOJC盤があった※1。なお、これらについては、マスターテイクとボーナストラックが混在している盤で、「Waltz for Debby」「Detour Ahead」「My Romance」は、2テイク続けて聴くことになる(「Porgy(I Love You, Porgy)」は、1テイクのみの追加)。

1)米国OJC CD(OJCCD 210-2)P1987/C1987
2)米国OJC CD(OJCCD 210-2)P1987/C1992
3)欧州OJC CD(0025218621021・UNIVERSAL名義)P&C1987/C1992
4)国内 廉価盤CD(UCCO9003)P1962,1987/C1992 2007発売
5)ドイツOJC CD(OJCCD 210-2・ZYX MUSIC名義)?/?
6)ドイツOJC CD(OJCD 210-2・bernhard mikulski名義)?/?
7)ドイツOJC デジパック仕様CD(OJC20 210-2・ZYX MUSIC名義)?/?

 このうち1)は、「Made in U.S.A.」。ジャケット右下のOJCマーク「ORIGINAL/JAZZ/CLASSICS/COMPACT DISC」の下地が白いタイプとなる(文字が黒字)。これまで、僕が「音揺れ等なし」として、このブログで紹介してきた盤である。CDケース背面のマスタリング情報には「Mastering--- Joe Tarantino,」とだけあり、年号表記はなし。マスタリング場所は「Fantasy Studios, Berkeley, CA.」である。またCDの総収録時間が手元のCDレシーバーの表記で「65:36」。真ん中の「Dead Wax」欄に記された原盤番号は「DIDX-010234  1」となっている※2。このCDは、マスターテイクのみ音場が狭く、ボーナストラックのみ音場が広いという混合バージョンとなる。しかも、音揺れ等は、なし。

 3)~4)は、OJCマークの下地が黒いタイプ(文字が白字)。これらについては、これまで「音揺れあり」と紹介してきたもの。3)のケース背面のクレジット欄には「Digital remastering, 1987--- Joe Trantino / (Fantasy Studios, Berkeley)」と、マスタリング年が明記されている。この3)の原盤番号は「00252  186 210-2  02 * 51767341」で「MADE IN GERMANY BY EDC」ともある。ちなみに、4)の原盤番号は「UCCO-9003  1A」であった。3)、4)とも、トータルタイムは「65:27」で、音場はすべてのトラックで左右に広がっているのが最大の特徴だ。で、音揺れ等は、やはりある。

 で、問題となるのが2)のタイプ。OJCマークの下地は黒い(文字が白字)。おそらく1990年代に発売された「Mede in U.S.A.」盤である。結構、売れたらしく、オークション等では、今でも千円以下で毎日のように出品されている。ケース背面には、こちらも「Digital remastering, 1987--- Joe Trantino / (Fantasy Studios, Berkeley)」とある。その他の表記は、3)とほとんど同じで、実質上3)にある「UNIVERSAL」の名義がないだけ。CDのラベル面を含む外見は、上記1)とまったく同じ。違うのは原盤番号で「DIDX-010234  3」となっている。実は最初、自宅にたまたまあったのがこの仕様の盤で、これを調べたため3)、4)と同じ「音揺れ等あり。音場が広がっている」とタイプと、僕は判断してきたのだった(トータルタイムも「65:27」と同じ)。

Ojccd2102

 今回、同じ米国OJCシリーズの『Sunday at the Village Vanguard』に、「音揺れ等あり。音場が広がっている」タイプだけでなく「音揺れ等なし、音場混合」タイプもあったということを受けて、急遽調べ直してみた(>>(その1)参照)。すると、やはりまったく同じパッケージながら、中身のCDには、僕が持っていた上記「DIDX-010234  3」が入っている盤もあれば、1)と同じ「DIDX-010234  1」が入っている盤もあることがわかった。つまり2)については、外観からはまるで見分けがつかず、ケースを開けて原盤番号を見ないと、どちらのタイプか判定できないということである※3。

 5)~7)は「Made in Germany」の『Waltz』盤となる。これらのうち5)と6)には、1)と同じ「白OJCマーク」がついている(7)は、裏面に「黒OJCマーク」あり)。「ZYX MUSIC」はドイツのレコード会社で、「bernhard mikulski」というのは、この会社の創業者の名前だという。4)はその新版らしく「20bit/REMASTERD」とラベル面に記載がある。原盤番号にはそれぞれCD番号がそのまま入っている。これらはすべて「音揺れ等なし、音場混合」および「トータルタイムが65:36」タイプであり、結果、1)と合わせ「白OJCマーク」グループは、同マスタリングと言えるだろう。理由はわからないが、RiversideがZYX MUSICにマスターテープを送った際に、たまたま1)タイプのテープが選ばれたということだろうか。

 ちなみにOJCの「音揺れ等あり」盤には、「『Waltz For Debby』の「ワークパーツ落とし」なるもの(OJC編・その2)」で指摘したように、「My Romance」冒頭における貼り付け疑惑もある※4。これらについては、曲後の拍手処理についてもいずれ調べてみたいと思うが、なかなか一筋縄ではいかない盤であることは確かだ。

※1 これらのほかに、現行のOJC盤として、以下のリマスター盤が出ている。

・米国OJC RemastersCD(OJC32326)P2010/C2010
・欧州OJC RemastersCD(0888072323261)P2010/C2010

 これらは曲順も違っており、ボーナストラックは最後にまとめられている。ということで上記各盤とは、はっきり別マスタリング。残念ながら「音揺れ等あり」。また「音場が広がっている」タイプである。
※2 これまで僕が確認した限りでは、このタイプの盤には「DIDX-010234  1」しか入っていなかった。
※3 今回、2)の米国OJC CD(OJCCD 210-2)仕様の盤を複数調べてみたが、「DIDX-010234  1」が3枚、「DIDX-010234  3」も3枚と、その分布は拮抗していた。 ※4 「My Romance」の4秒時にある音揺れについては、きれいに消えている。これについては、音源に修正を施した可能性がある。>>「『Waltz For Debby』の「ワークパーツ落とし」なるもの(OJC編・その2)」を参照

2017年1月 3日 (火)

『Waltz for Debby』の初期ステレオLP(その4)

 今回は『Waltz for Debby』のB面を聴く。結果は以下の順番で示す。
※RLP-9399、RS-9399、RLP-9399(Orpheum・Turquoise)、RS-9399(BGP塗りつぶし)/比較盤 SMJ-6118(国内LP 1975)、VDJ1536(国内CD 1986)、CAPJ009(米国アナログ・プロダクションズ・ゴールドCD 1992)、VICJ-60141(国内XRCD 1998)、UCCO40001(国内プラチナSHM-CD 2013)

1.「My Romance」(take1)
1)音場
※狭い(ベースが11時前、ピアノが1時過ぎくらい)、狭い、狭い、(狭い)=下記注参照/広い(ベースが10時過ぎ、ピアノが2時前くらい)、狭い、広い、広い、広い
2)0秒からの冒頭和音の濁り、4秒、16秒および52秒の音揺れ
※なし、なし、なし、なし/なし、なし、なし、あり、あり
3)拍手の長さ(曲が終わっているかいないかに関わらず、最初の拍手が聞こえてから、消えるまでを測った)&フェードアウト(FO)の有無
※約8秒&FOあり、約8秒&FOあり、約8秒&FOあり、約8秒&FOあり/約8秒&FOあり(FO後約1秒後に次の曲が始まる)、約10秒強&FOなし(曲間の空白もなし)、約8秒&FOあり、約8秒&FOあり、約8秒&FOあり
(参考)
 米国CD版の『The Complete Village Vanguard Recordings, 1961』盤を聴くと、「My Romance」(take1)後の拍手は、約7秒過ぎからやや減衰し、すぐ次の「Some Other Time」が始まっている。実際のステージでもここは連続して演奏されているところなので、それでかまわないわけだが、この『Complete』盤では「Some Other Time」の冒頭にその拍手が少し被っているようにも聴こえる。となると、各音盤が約8秒過ぎでフェードアウトしているのは、そこをうまく処理したことになると考えていた。
 ところが、VDJ-1536を聴いたら、びっくり。約8秒過ぎでやや減衰したあとも約10秒まで拍手が続き、いったん途切れた後、約11秒後に「Some Other Time」が始まっている(注1)。こちらの方が一番自然に聴こえるが、録音時の原テープはどうなっていたのか。

2.「Some Other Time」
1)音場
※狭い、狭い、狭い、狭い/広い、狭い、広い、広い、広い
2)拍手の長さ&フェードアウトの有無
※約6秒&FOあり、 約6秒&FOあり、約6秒&FOあり、約6秒&FOあり/約6秒強&FOあり(FO後約1秒後に次の曲が始まる)、約14秒&FOなし(曲間の空白もなし)、約14秒後急速にFO、約11秒&FOあり、約14秒後急速にFO
(参考)
 曲後の拍手は、やはりVDJ-1536が、約14秒と一番長い。LP陣がフェードアウトしている約6秒後に拍手が減衰し、約7秒あたりからまた少し盛り返す。この部分、米国CD版の『The Complete Village Vanguard Recordings, 1961』盤では、拍手が始まっても減衰せず、約7秒過ぎには次の「Solar」にシームレスにつなげている。拍手は曲頭に完全に被っていて非常に自然なつなぎだが、VDJ-1536の拍手が本物であれば、『Complete』盤の方が編集ということになってしまう。

3.「Milestones」
1)音場
※狭い、狭い、狭い、狭い/広い、狭い、広い、広い、広い
2)拍手の長さ&フェードアウトの有無
※約8秒過ぎに急速にFO、約8秒過ぎに急速にFO、約8秒過ぎに急速にFO、約8秒過ぎに急速にFO/約9秒&FOあり、約9秒&FOあり、約4秒&FOあり、約4秒&FOあり、約4秒&FOあり
(参考)
 曲の終わりは、スコット・ラファロのベースが細かいスケールを弾いているうちから、男性客の「ハハハハハハハハハハハハハハハハ」と長い笑い声が被り、その後、拍手となる。実際、お客の笑い声で終わる「名盤」も珍しいだろう(笑)。
 最後の曲なので、LP盤や6曲しか入っていないアナログ復刻CDの場合、必ずフェードアウトが必要になる。実際の演奏でも、この曲は「Evening Set 2」のラスト曲なので、次の曲とつながってはいない。米国CD版の『The Complete Village Vanguard Recordings, 1961』の場合も、近年のCDと同じ「約4秒&FOあり」であった。

(全体考察)
 A面と少し違って、再発CDにも拍手の長さにばらつきが出ている。それにしても、VDJ-1536に記録された拍手情報は、各種コンプリート盤より長いものが多い。これは本当に驚きだ。停電で中断した曲や曲間の会話まで入っているので、何となく「コンプリート盤だけは無編集」と信じていたのだが、これは幻影であった! ちなみにVDJ-1536のライナーノーツには以下のように記されている。

「本CDマスターには、ファンタジー本社(米、バークレー)の保有するオリジナル・アナログ・マスター・テープをロスアンジェルスにあるJVCカッティング・センターに空輸し、ジョー・ガストワートとダン・ハーシュによりJVC/DAS-900デジタル・オーディオ・マスタリング・システムでデジタル・トランスファーされたものを使用しております。」

 今回の結果を見ると、マスタリングの際に、この記載どおり本当にオリジナルに近いマスターテープを使い、独自の編集が行われた可能性が高いだろう。
 一方、今回の試聴の結果、初期ステレオLP3枚(ないし4枚)は、同じマスターで作られていることがほぼわかった。特徴的には、「音場が再発・現行CDより狭い。曲間は基本フェードアウトする。曲尾・曲頭にテープの音揺れは認められない。」ということになろうか(注2)。その評価はさておき、これら「オリジナルLP」マスターは、嶋氏が「ワークパーツ落とし」と推測されたVDJ-1536とも、CAPJ009とも、それぞれまったく違う系統の音盤ということがわかった。むしろ嶋氏は、音揺れ等が「もっとも初期に作られた、いわゆるオリジナル盤レコードにもあり、これもモノーラルかステレオかを問わない」(『Stereo Sound』No.191の連載記事「レコード音楽随想 音盤の向こう側、2014年)と書いている。なので、逆にこれらオリジナルLPは、本物の「ワークパーツ」からダビングされているのだけれども、「音揺れ等がある」、つまり実質的には「ワークパーツ落とし」ではない、という一見矛盾するような考えを持っているということになる。「ワークパーツ落とし」とは一体何?

(注1)米国OJC版のLP(OJC-210)も、似たような約11秒の拍手(曲間)をとっているが、約8秒後の拍手がVDJ-1536とは違い、パラパラと薄いものになっているように聴こえる。この違いは現状手持ちの音源では説明がつかない。
(注2)初期モノラルLP(RS-399)は、ステレオテープからモノラルミックスで作られたと言われている。直接的な情報ではないので申し訳ないが、この盤の板起こしCDを聴く限り、拍手の長さは上記初期ステレオLPと一致する。

※(2017/1/8の追記)RS-9399盤で、ラベル下の「BILL GRAUER PRODUCTIONS INC.」の文字が銀色で塗りつぶされている盤を試聴することができたので、「Orpheum・Turquoise」の後に追記した。
(その3)の注記にも書いたが、この「BILL GRAUER PRODUCTIONS INC.」塗りつぶし盤は、他の曲はそうでもないが、「Waltz for Debby」や「My Romance」のベースソロあたりでは、他の初期盤に比べややベースがワイド寄りに響くかもしれない。もともとこれらの個所は、ベースの音が大きめに録られていて、少し音場が左寄りになる個所でもあるが(これは、「狭い」音場と言われているVDJ-1536などでも同じ傾向)。

2017年1月 2日 (月)

『Waltz for Debby』の初期ステレオLP(その3)

 今回から『Waltz for Debby』の初期ステレオLPを、曲順に試聴していく。(その1)で触れた初期ステレオLPのほかに、参考として比較的中古で手に入りやすい国内LP盤、嶋護氏が「ワークパーツ落とし」と推定したVDJ1536とCAPJ009の2CD、他に高音質をうたった再発CDを2つ選んで合わせて聴いてみた。

 結果は以下の順番で示す。
※RLP-9399、RS-9399、RLP-9399(Orpheum・Turquoise)、RS-9399(BGP塗りつぶし)/比較盤 SMJ-6118(国内LP 1975)、VDJ1536(国内CD 1986)、CAPJ009(米国アナログ・プロダクションズ・ゴールドCD 1992)、VICJ-60141(国内XRCD 1998)、UCCO40001(国内プラチナSHM-CD 2013)

 まずはA面から。

1.「My Foolish Heart」
1)音場
※狭い(ベースが11時前、ピアノが1時過ぎくらい)、狭い、狭い、狭い/広い(ベースが10時過ぎ、ピアノが2時前くらい)、狭い、広い、広い、広い
2)冒頭のEの音
※2音、2音、2音、1音/2音、2音、1音、2音、2音
3)4分40-41秒付近の音揺れ
※なし、なし、なし、なし/なし、なし、なし、あり、あり
4)拍手の長さ(曲が終わっているかいないかに関わらず、最初の拍手が聞こえてから、消えるまでを測った)&フェードアウト(FO)の有無
※約9秒&FOあり、約9秒&FOあり、約9秒&FOあり、約9秒&FOあり/約9秒&FOあり(FO後すぐ次の曲が始まる)、約9秒&FOなし(曲間の空白もなし)、約9秒&FOあり、約9秒&FOあり、約9秒&FOあり
(参考)
 米国CD版の『The Complete Village Vanguard Recordings, 1961』盤を聴くと、「My Foolish Heart」後の拍手は、やはり約9秒ある。LP、CDを問わず、いずれの盤も約9秒まで収録しているところをみると、ここはもしかすると自然に拍手が終わったものをそれぞれ生かしたのかもしれない(フェードアウトの有無は違うが)。
 また以前にも書いたが、この曲の56、57秒付近で、早い音型の1音が抜けているように聴こえる。これは初期LP以降、すべての盤に見られる現象。テープの音抜け等ではなく、たまたまダンパーの当たりが悪かっただけと思われる。

2.「Waltz for Debby」 (take2)
1)音場
※狭い、狭い、狭い、(狭い)=下記※※参照/広い、狭い、広い、広い、広い
2)拍手の長さ&フェードアウトの有無
※約4秒強&FOあり、 約4秒強&FOあり、約4秒強&FOあり、約4秒強&FOあり/約4秒強&FOなし(曲間の空白もなし)、約11秒&FOなし(曲間の空白もなし)、約4秒強&FOあり、約4秒強&FOあり、約4秒強&FOあり
(参考)
 米国CD版の『The Complete Village Vanguard Recordings, 1961』盤では、曲後の拍手は約8秒ほど続き、次の「All of You」(take2)が約9秒後から始まる。となると、VDJ1536の拍手が一番長いことになるのだが。どちらかに編集の手がはいっているということか。

3.「Detour Ahead」 (take2)
1)音場
※狭い、狭い、狭い/広い、狭い、広い、広い、広い
2)拍手の長さとフェードアウトの有無
※約3秒過ぎに急速にFO、約3秒過ぎに急速にFO、約3秒過ぎに急速にFO、約3秒過ぎに急速にFO/約4秒&FOあり、約6秒&FOなし(曲間の空白もなし)、約3秒強&FOあり、約3秒強&FOあり、約3秒強&FOあり
(参考)
 米国CD版の『The Complete Village Vanguard Recordings, 1961』盤でも、弱々しい少数の拍手が約3秒ほどで終わり、約6秒前にベースの試し弾きが2回入る(約10秒過ぎに「Gloria's Step」(teke3)が始まる)。LPの場合、ここでA面が終わるので、フェードアウトせざるを得ない。測定誤差かもしれないが、SMJ-6118 だけはフェードアウトまで1秒くらい長いようだ(1970年に出た国内LP MW-2004 も同じ)。VDJ1536も約6秒と長い。これらが正しければ、上記『Complete』盤にも編集の手が入っているということになる。
 参考までに、1973年に米国でMilestones名義で出た2LP盤『The Village Vanguard Sessions』を聴いてみたが、こちらの場合は明らかに編集で、まったく違う盛大な拍手が付けられている。ではと、国内CD版の『The Complete Riverside Recordings』を取り出してきたら、こちらは何と7秒くらい拍手が続いている(最後はフェードアウト。しかも上記ベースの試し弾きはなく、「Gloria's Step」(teke3)につなげている)。この点については、また調べ直してみる必要がありそうだ。

(中間考察)
 前回(その2)では、主に音場(定位)の観点から、「VDJ1536には、音揺れ等がないという点でも、そして定位の点でも、あまり手の加えられていない上質な音が残されているということだろうか」と僕は書いていたが、曲間の拍手の編集という点では、VDJ1536だけが特殊な状況にあるようだ。フェードアウトを使わずに、自然に次の曲の頭につなぐには、結構、技術がいると思われるが。

※(2017/1/8の追記)RS-9399盤で、ラベル下の「BILL GRAUER PRODUCTIONS INC.」の文字が銀色で塗りつぶされている盤を試聴することができたので、「Orpheum・Turquoise」の後に追記した。音揺れ等の有無、拍手の長さ等も他の3盤と同じである。ただ  ktdchon さんがすでに報告されていたように、「My Foolish Heart」の冒頭の音が1つしか聴こえない!
※※(2017/2/6の追記)先月末、レコードプレーヤーのカートリッジ(>>Ortofon OM 5E)、アンプ(>>Soulnote SA1.0-B)を入れ替えた。上記「BILL GRAUER PRODUCTIONS INC.」の文字が塗りつぶされているRS-9399盤を聴き直してみたところ、以前はそう感じなかったのだが、どうも電気的な増幅効果が加わっているような音質に聴こえる。スコット・ラファロでなく、エディ・ゴメスが弾いているとでもいう感じ。また、他の曲はそうでもないが、「Waltz for Debby」や「My Romance」のベースソロあたりでは、他の初期盤に比べややベースがワイド寄りに響くかもしれない。もともとこの個所は、ベースの音が大きめに録られていて、少し音場が左寄りになる個所でもあるが(これは、「狭い」音場と言われているVDJ-1536などでも同じ傾向)。やはり、音質や定位はシステムによってかなり傾向が変わるようだ。このあたりは視聴環境の違う他の方のご意見もお聞きしたいところだ(参考までにカートリッジ、アンプ以外の試聴機材は、レコードプレーヤーが Pro-ject Essential II、スピーカーが Eclipse TD307II。いずれも高級品ではないが、音場はタイトで、定位は出やすい方だと思う)。

2016年12月30日 (金)

OJC盤の謎(その1)

 先日、オークションで以前から欲しいと思っていた盤の出品があったのだが、ちょうど同じお店が『Sunday at the Village Vanguard』の「1990/10/25」発売というOJC盤を安く出していた。なので、合わせて落札してみた。というのも、同盤のOJC盤としては、「丸P&丸C 1987」というクレジットがある盤(OJCCD-140-2)しか僕は所有しておらず、もしかしてバージョン違いかと思ったからである。数日後、商品が郵便で届いた。封を切って中身を見てみると、なんとライナーノーツもケース内包のクレジットも、さらにCDのラベル面印刷も、上記とまったく同じものだったので、がっかり。買い取りに出すといっても、この種の外盤は、BOOK-OFFなどではせいぜい50円くらいだろう。ガソリン代にもならないな、などとあきらめ気分であった。

 ただその晩、特に期待もせず、届いたCDをCDデッキにかけてみた。この初期OJCバージョンのCDは、『Waltz for Debby』でも『Sunday at the Village Vanguard』でも、ボーナストラックがオリジナルLPに採用されたマスターテイクのすぐ直後に挿入される形を採っている。これはオリジナルの配列を壊すだけでなく、そのCDを鑑賞するときに同じ曲を2回連続して聴くことになり、一般のリスナーには非常に不評である。その最初のボーナストラック、2回目の『Gloria's Step』(take3)がスピーカーから流れてきたとき、驚くべきことがおこった。なんと、急にステレオの音場が広がったのである。もう一度、今度はマスターテイク(take2)の方を聴き直してみると、やはりそちらはベースが幾分中央寄りになっているバージョンであった。結局、このCD全体を通じて、マスターテイクは狭い音場のバージョン。にもかかわらず、ボーナストラックになると、急に左右に広がった音場のバージョンに変わるという奇妙な仕様であった。例えば「Jade Visions」という曲の場合、頭出しをして聴くと冒頭のベース音の出る位置がはっきり変わるので、簡単にその違いがわかる。

 ただ話はそれだけでは終わらない。このあと、僕は自宅にあった方のOJC盤はどうだったかと確認してみた。すると、こちらはまったく同じ収録曲、曲順、そしてラベル面印刷を持ちながら、最近のCDと同じく全曲が広がった音場のバージョンであったので、二度目のびっくり! どこか違いがないかよくよく調べてみると、CD面の中央の穴のまわり、LPで言うところの「Dead Wax」にあたる部分に、原盤番号のような数字が印字されていて、音場混合版が「DIDX-010264  3」(「DIDX-010264  2」も後に発見した。下記の注記参照)、広い音場版が「DIDX-010264  5」で、最後のところで違いがある。ちなみに、盤のトータルタイムも、音場混合版が「68:32」、広い音場版が「68:18」と、はっきり違っていた。繰り返すようだが、両盤のパッケージはまったく同じ。クレジット欄にはともに、

「Digital remastering, 1987 --- Joe Tarantino
(Fantasy Studios, Berkeley)

と記載されている。しかし、上記のようにマスタリング自体はまったく違うものである。これをどう考えたらいいのだろうか。この件に関連して、ktdchon さんはご自身のブログ「Jazz Classic Audio Life」で、「『Waltz For Debby』(VICJ-60008)と矛盾する 『Sunday At The Village Vanguard』(VICJ-60007)」という記事を書かれていて、同時期に発売された同じシリーズのCDでまったく音場が違うことに対し、疑問を呈されていた。しかし、今回は同じCDの、しかも連続して流される同じ曲で、音場が違うのである。これは商品としてどうだろう。

 ここまで考えてきたところで、以前、僕は『Waltz for Debby』のOJC盤でも、2種類のバージョンがあると、似たようなことを書いていたことに思いあたった(>>「『Waltz For Debby』の「ワークパーツ落とし」なるもの(OJC編・その1)」)。また先週、同盤の初期LPを聴いたときにも、その2種類あるOJC盤のうち、音揺れ等がない盤は音場が「コンパクトな音場」を持っていることを指摘しておいた(>>「『Waltz for Debby』の初期ステレオLP(その2)」)。しかし今回、再度、聴き直してみたところ、この音揺れ等がない方の『Waltz for Debby』OJC盤も、実は音場については混合版であったことがわかった。さらに上記『Sunday』盤と同様に、広い音場版も存在し、パッケージでは区別がつかない場合があるということも・・・。となると、これまでこのブログに書いてきたことも、訂正の必要が出てくる(泣)。以下、詳しくはまた次回に。

(2017/1/8の追記)その後、複数の盤を調べてみた。現在のところ、6種が見つかった。ちなみに、デジパック仕様の1つを除いて外観・パッケージはすべて同じ、というから、我々は買って中身を見るまでは、これらのうちどれが入っているかはわからない、ということになる(苦笑)。ちなみにパッケージ表面のOJCマークは、オリジナルジャケットの濃いブラウン調の背景に、白抜き文字で入っている。

1)米国OJC CD(OJCCD-140-2)P1987/C1987
 a 原盤番号 DIDX-010264  2 ※
 b 原盤番号 DIDX-010264  3 ※
 c 原盤番号 DIDX-010264  5
2)米国OJC CD(OJCCD-140-2 CDラベル面にPrestigeマーク入り)P1987/C1987
 a 原盤番号 DIDX-010264  2 ※
 b 原盤番号 OJCCD-140 S0325G ※
3)ドイツOJC CD(OJC20 140-2・bernhard mikulski名義)?/? ※※
4)ドイツOJC デジパック仕様CD(OJC20 140-2)?/? ※※

 これらのうち、※マークをつけた3種が「音揺れ等なし、音場混合」「68:32」タイプ。※※マークをつけた1種も「音揺れ等なし、音場混合」タイプ。ただしタイム表示は「68:33」。さらに※※※マークをつけた1種も「音揺れ等なし、音場混合」だが、タイムは表示はなぜか「68:34」タイプ(こちらはラベル面に「20BIT REMASTERED」とある)。これらタイム違いという点では、同じシリーズのドイツ製『Waltz』盤と事情が違う。残りが「音揺れ等あり。音場が広がっている」「68:18」タイプである。他にもあるかもしれないので、今後見つけ次第、追加したい。

2016年12月25日 (日)

Village Vanguardでエヴァンスは右側で弾いたのか?(補遺4)

 エヴァンス・トリオの有名なヴィレッジ・ヴァンガード・ライヴにおいて、前回の発言で紹介した「ドラムスの定位反転」問題を確認するために、ドラム・セットの音場という点を中心に録音を聴き直してみた。前回、比較視聴のため、リファレンス盤として『Portrait in Jazz』と『Explorations』を聴いておいた。これらでは、主としてドラムスは向かって左側から聴こえるが、その中では真ん中近くからハイハットの音が、その左からスネアドラムの音が聴こえているという<普通>の定位であった(ちなみにヴィレッジ・ヴァンガード・ライヴ盤における楽器の定位は、「左から、ベース、ドラムス、ピアノ」の順である)。

 で、その視聴結果だが、ある意味、予想されていたことだが、やはり昨日聴いた「Peri's Scope」(『Portrait in Jazz』)で判断できたような細かい定位は出ていない。ただ、jazzamurai さんからも指摘があったように、当日の録音全体を通じて、左側=ベース寄りでスネアとハイハットが混然と鳴っている。途中、ラウドシンバルが加わってくる場合があり、これはやや中央側から聴こえる。この点だけを捉えれば、一般的なドラム・セットの配置とは確かに逆になる。

 またエヴァンス・トリオが普通演奏するような曲では、スネア、ハイハット、ラウドシンバル以外の楽器、タムタム類やバスドラム、クラッシュシンバルなどは、元々ここぞというときしか使われない。また当日演奏された5セット・22曲の曲の中でも、ポール・モチアンが長いドラム・ソロを弾いている個所はあまりない。それでも「All of You」(take1&2)や「Solar」では、スコット・ラファロのベース・ソロに絡んで、タムタム類やバスドラムも駆使した短いソロが出る。これらの音は中央部近くで聴こえる場合も多く、一瞬、はっとさせられる。が、この場合も、音の出方は結構ばらついていて、やはり「はっきりとした定位が出ていない」という方が正しいだろう。ちなみに「Solar」の最後の部分で、シンバル類をスティックで小刻みに叩く音が左側から聴こえている。これはペダルを半分だけ踏んだハイハットを叩いている音だろう。その証拠に、8分29秒あたりで大き目に鳴らしたラウドシンバルの音が、背景でずっと響いている。

 元々、左右の楽器の定位をきちんと捉えることを主眼にした録音ではないので、それを反転させたところでドラムスの配置も逆になる、というわけではないのだろう。しかし上に見たように、スネア&ハイハットとラウドシンバルの位置関係は、通常の録音のようには聴こえない。今回この点を踏まえあらためて検索してみたところ、「ドラムセットの定位がおかしい」という意見も見つかった(>>こちら)。おそらくジャズ・ファンなら必ず1度は聴いたことのある、しかも録音が良いと評判の音源なのだが、こうしたところにも謎は残されている。この点でも、今回の発言が意識的な聴き直しのきっかけになれば幸いだ。

(2016/2/4の追記)エヴァンス・トリオの録音で、ドラムの各楽器の位置が非常に明確に聴き取れる録音として、『Bill Evans Album』の中の「T.T.T.」を挙げておく。途中、マーティー・モレルのドラム・ソロがあり、大小タムタムなどの移動もよくわかる。

2016年12月24日 (土)

Village Vanguardでエヴァンスは右側で弾いたのか?(補遺3)

 先日、この稿の(その1)(その2)で『The Complete Village Vanguard Recordings, 1961』のLPバージョンを紹介した折に、「Jazz Classic Audio Life」の 主筆 ktdchon さんから以下のような情報をコメント欄でいただいた。

「Amazon の The Complete Village Vanguard [12 inch Analog] のレビューに jazzamurai さんが書いておられました(無断で転載ごめんなさい)。

「ピアノを右に、ベースを左に配して、両者の掛け合いをクリアーに楽しめる。 ドラムについては、スネアとハイハットが左に来ているので、モチアンは左利きなのだろうか、と思ってしまうのだが…」

これは cherubino さんの説を裏付ける根拠になりますね。
CD でも こういうふうに聞こえるのか・・・?」

 確かになかなか興味深い話だ。ここで標準的なドラム・セットの配置を見ておくなら、奏者から見て左側から手前にまずハイハット、その右奥にスネアドラム、中央に小中のタムタム類とバスドラム、右側手前にフロアタム、右手奥にライドシンバル、さらにクラッシュシンバルが両側の奥に並ぶという感じだろうか。これを元に上記レヴューを読むならば、普通は奏者から見て左側、客席から見て向かって右側にあるはずのスネアドラムとハイハットが、なぜか左の方から聴こえてくる。これは一般的ではない。それゆえ、元発言者の jazzamurai さんは、「もしかして、エヴァンス・トリオのドラムス奏者ポール・モチアンは左利きだった?」と考えられたわけである。

 ただし、ktdchon さんも推定されておられるように、実は、ことはそう簡単ではない。「Village Vanguardでエヴァンスは右側で弾いたのか?(補遺1)」で紹介したヴィレッジ・ヴァンガードの舞台写真(らしきもの)を見ると、舞台上の楽器配置は一般的な「左からピアノ、ドラムス、ベース」であったという可能性がある。さらに、当日採用された録音方法では、ミキシング・アンプを使い、上記の楽器配置を「左からベース、ドラムス、ピアノ」という現在の録音記録に変えることが可能であった(「Village Vanguardでエヴァンスは右側で弾いたのか?(その5)」)。もしも、である。1961年6月25日のヴィレッジ・ヴァンガードで、この録音手法が採られたのだったとしたら、ドラムスを中心にピアノとベースの位置が反転したことになる。となれば、ドラム・セットの位相も反転していた・・・?

 この日、3本のマイクは各楽器に近接して置かれ、その音をかなりオン状態で拾っていたと考えられている。ドラムスに割り当てられたマイク1本では、理論上、音の方向に関する情報は拾えないので、楽器自体の定位情報は含まれていない(他の2つの楽器も状況は同じ)。しかし、例えば左側に置かれたピアノに向けられたマイクには、右隣のドラムの音も少なからず入る。また、右側に置かれたベースのマイクにも、左隣のドラムの音が割り込んでくる。つまり、ピアノのマイクには、ドラム・セットの向かって左手側にあるライドシンバルやフロアタムの音が比較的多く含まれる。また、ベースのマイクには、ドラム・セットの向かって右手側にあるスネアドラムおよびハイハットの音が比較的多く含まれることとなる。これが上記ミキシング操作で反転すると・・・確かに jazzamurai さんが感じられたような「スネアとハイハットが左に来ている」というような現象が起こっても、不思議ではないということになる。

 ただその説を検証する前には、いくつか準備が必要だ。まず最初に気になるのが、ポール・モチアンが本当に「左利き」でないということの証明。これには彼の実際の演奏風景を見るしかない。エヴァンス・トリオ時代の映像はさすがに見つからなかった。が、幸い動画サイトには彼のライヴ演奏が結構アップされていることがわかった(モチアンって、巨匠だったんですね!)。これを見ると、モチアンの叩いているドラム・セットは、特に変わった配置ではないようだ(例えば、こちら)。またスティックの持ち方は、いわゆるレギューラー・グリップ、右手は真直ぐに、左手は菜箸を持つように握っている。そのドラムスタイルは、右手でライドシンバルを叩き、左手はスネア、そして左足でハイハットを踏む、というのが基本のように見受けられる。彼が左利きかどうかまでは不明だが、少なくともドラム・セットの配置やそのドラミング手法は、極めて一般的だった、ということになる。

 次いで気になるのは、普通の録音でドラム・セットの配置が判定できるのか、という点だ。言い換えれば、位相が反転していない音源例があるか、ということでもある。それがあればリファレンス盤として耳慣らしもできるというもの。できれば、モチアンからみの事例が欲しいところだったが、時代的に言っても、彼が参加しているライヴ録音は少なく、しかもステレオはまずない。で、同メンバーによるスタジオ録音を聴いてみた。スタジオ・セッションだと定位操作の問題があるかもしれないので適切ではないのだが、仕方がない。まずは『Portrait in Jazz』。ちなみにこのアルバムの定位は、「左から、ドラムス、ピアノ、ベース」である。A面最後の曲である「Peri's Scope」を聴こう。この曲では、最初のテーマ部分でまずハイハットをスティックで刻む音が中央から聴こえ、スネアがその左横から控えめに加わってくる。この場面は、左手でスネアを叩き、手をクロスさせて右手でハイハットを刻んでいると思われる。なぜここで多数あるシンバル類の中でハイハットを叩いていることがわかるかと言えば、曲のリズムに合わせ響きを細かく止めているから。これはフットペダルのあるハイハットにしかできない。テーマが終わりピアノ・ソロに入ると、スネアに加え、ライドシンバルをチンチンと鳴らす音に変わるが、これはさっきのハイハットとは違い音場の左端の方から聴こえる(つまり右手で叩いている)。引き続きハイハットの音も中央あたりに入っているが、これは左足で鳴らしているようだ。こうして聴く限り、このアルバムではドラム・セットの定位は比較的きちんと録音されているようだ。『Explorations』も聴いてみたが、こちらは「左から、ベース、ドラムス、ピアノ」という順番。基本、ハイハットの刻みが真ん中あたりで鳴り、その左に両手でたたくスネア(もしくはブラシ)が来る、という音場になっている。次回、これらとヴィレッジ・ヴァンガード録音を聴き比べてみることにする。

2016年12月23日 (金)

『Waltz for Debby』の初期ステレオLP(その2)

 『Waltz for Debby』盤の中には、スコット・ラファロの弾くベースの定位が、中央寄りになっている初期CDが何枚かある※1。僕が実際に自分の耳で聴いてみた盤は、以下のとおり。

・国内初版CD(VDJ1536)1986
・米国OJC CD(OJCCD 210-2)1987
・米国CD 『The Complete Riverside Recordings』(RCD-018-2)1987
・国内再版CD(VICJ23517)1991
・国内CD 『コンプリート・リヴァーサイド・レコーディングス』(VICJ60400-411)1999
・ドイツOJC CD(OJCCD 210-2・ZYX MUSIC)?※2

 これらはすべてCDだったが、先日、こちらの発言で紹介した『The Complete Village Vanguard Recordings, 1961』のLPバージョン(RIV-36005-01)も、実は同じ仲間だとわかった。ただし、これまでこれらベースを中央寄りにした盤は、否定的な文脈で語られてきた。例えば、嶋譲氏も「レコード音楽随想 音盤の向こう側」(『Stereo Sound』No.191, 2014)という記事の中で上記初期CD=VDJ1536について、以下のように書いている。

「いっぽう、VDJ1536では、本来はステレオ・ピクチャーの左端にいるベースの位置が中央に寄ってしまっている。この録音ではもともとピアノが右チャンネル、ドラムスが左チャンネルにいて、中央は会場のアンビエンスや客のたてる音だけなので、いわば「空いている」ように感じられる。その隙間を少しでも埋めるべくベースを中央寄りに移動させたのであろうか。この処理はレコードの時代には覚えがないが、これ以降に出たCDには時々見られるようになった。」(p.283)

 この記事を読んだ後、僕も手持ちの再発LPをいくつか聴いてみた。

・国内LP(MW-2004)1970
・国内LP(SMJ-6118)1976

 確かにこれらの盤では、ラファロのベースは<音場>の左端にいて、右端のエヴァンスのピアノと見事に対比される。ソロがフィーチャーされるとき、例えばA面3曲目の「Detour Ahead」の中間部などでは、左スピーカーに張り付くように位置し、時にスピーカーの外に音が飛び出すような効果を見せている。これは、上記CD群以外の他のCD、ユニヴァーサルから毎年出される現行CDにも共通の仕様であり、『Waltz』盤としてはおなじみの<音場・定位>なのである。そうであってみれば、嶋氏がベースを中央に寄せたCDの方を、ある種、特殊なものとして見たのもまったく不思議はない(僕も、昨日まではそう思っていた。実際、最初期のステレオ録音には、クラシックなどでも極端に音場を左右に分けているものがある)。

 今回、初期ステレオLPを試聴するにあたり、僕が一番気になっていたのは、このベースの定位の問題であった。で、実際に聴いてみた。なんとリヴァーサイド盤2種(RLP-9399、RS-9399)、オルフェウム盤1種(RLP-9399)いずれも、上に見たような左右に広がりきった<音場>というより、よりコンパクトな響きを持っていた。確かにベースは左に位置していて、常に左スピーカーを中心にその音が聴こえてくる。しかしスピーカーの端を飛び出すような派手な広がり効果は認められない。初期LPと前後して、上記再発LPを聴いてみるとその差は歴然であり、むしろ後者の方に派手なステレオ効果を加えるというような「操作」を感じてしまうほどである。

 今回の試聴では、初期LPにおける<音場>は、VDJ1536に近いという結果となった。つまりVDJ1536には、音揺れ等がないという点でも、そして定位の点でも、あまり手の加えられていない上質な音が残されているということだろうか。ただし、これはあくまで僕の視聴環境での結果であり、他の方にその結果を押し付けられるようなものではないだろう。実際のヴィレッジ・ヴァンガードでも、各楽器のソロをフィーチャーするようなときは、そこに割り当てたマイクからのボリュームを上げ、他の楽器を背景にもってくる、というような頻繁な音量操作がなされたはずである(そうでなければ満足な音楽ソフトにはならない)。そうしたこともあって、LPを通して聴いてみると、曲によって微妙な定位の「ずれ」は認められる。僕が書いたことが絶対正しい、というようなことは主張できるはずもない。『Waltz』盤探求のためにも、これらのソフトを持っていらっしゃる方は、ぜひ上記視点からお聴きになって、その結果をお教えいただければ幸いである。

※1 この種の盤は、『Sunday at the Village Vanguard』盤にも見られる。例えば、VDJ-1519(1986)、VICJ-23551(1991)、VICJ-60007(1997)
※2 これらの盤は、すべて「My Foolish heart」の終わりと、「My Romance」の冒頭に音揺れ等がない。ちなみに速報的に書けば、今回聴いた初期ステレオLPも!

2016年12月22日 (木)

『Waltz for Debby』の初期ステレオLP(その1)

 12月以降、1961年6月25日にニューヨークのヴィレッジ・ヴァンガードで行われたエヴァンス・トリオの伝説的ライヴの現場について、様々な角度から調べてきた。一連の記事で得られた当面の結論としては、その実態を知るには、やはり『Waltz for Debby』の初期LP、特に当時の録音テープに一番近いステレオ盤を調べるほかないと思うようになった。現行のCDはSN比など音質的には向上している部分もあるが、リマスター時に音質や各種バランス等に手を加えている可能性が高い。その点、アナログ時代の録音は、音質をデジタル的にいじることができなかった分、録音原盤(テープ)に記録された音を比較的素直に反映していると思われる。まずは、『Waltz for Debby』盤について。この盤には、初期ステレオ盤と呼べるものが何枚かある。このうち本家リヴァーサイド・レーベルからは、「RLP-9399」「RS-9399」という2盤が出ている。ラベルの色は、ともに黒。違うのは番号のみというややこしさ。このうちどちらがオリジナルかについては、諸説あるようだが、日本では「RLP-9399」の方をオリジナルとする言説が目立つ。例えば、「ちょっとめずらしい?じゃず・レコード盤???Vol.17」という記事など、よく読まれているようだ。

「「Waltz for Debbyのオリジナルって音揺れありませんか?」とよく聞かれる。「Waltz for Debby」のステレオ盤・RS企画番号のレコードは殆ど偏芯していてSPUなどの重針圧カートリッジだとあまり感じないが、軽針圧のカートリッジで聴くと偏芯を見事に拾い音揺れする。コレが実に気持ち悪い。厳密に言うと「Waltz for Debby」のRS番号は再プレスで、たぶんリバーサイド後期にプレスされたレコードであると思う。」(以上、上記サイトからの引用)

 また、MOJOさんという方のブログ「MOJO's Blog」記事、 「あっ それ オリジ盤じゃないですよ」にも下記のような記事があり、その影響も大きいと思われる。

「どうやら"RLP 9399" はファースト・ロットのみのようで、これが余程少なかったとみえ、 滅多にお目にかかれない。
(アメリカ東海岸在住の老齢のディーラーによると400-800枚程度とのこと)

『ワルツ・フォー・デビー』はステレオ・モノラル問わず、最近オリジ盤相場が かなり上がっているようですが、"RS 9399"に大枚をはたかないようご注意あれ!!!」(以上、上記サイトからの引用)

 根拠こそ書かれていないが、ロット数など少し具体的な記述もある。市場で見かける数は、確かに「RLP-9399」の方が少ないし、価格も高めだろう。ただ最近、アメリカのオークションでは「RS-9399」も結構、高騰していて、500ドル以上するものもある。

 一方で、某掲示板には、以下のような情報も載っている。

「skylarkで会いましょう」
542 :名無しさん@そうだ選挙にいこう:02/05/03 08:33
質問です。どなたか、教えてください。
「Bill Evans"Waltz for Debby"(RLP-9399)のオリジナル・ステレオ盤を二枚もってますが、レーベルの番号表記が「RLP9399」と「RS9399」の二種類なんです。どちらが真正オリジナルなのでしょうか?」
543 :名無しさん@そうだ選挙にいこう:02/05/03 10:17
>>542 この頃はRSナンバーとRLPナンバーがありどちらがオリジナルかどうか断言できません
このレコードに関して溝の太いものでジャケットの色がグレーっぽいのが判断の材料になります
544 :名無しさん@そうだ選挙にいこう:02/05/03 10:48
>543
542ですが、ジャケットの色は、「RLP9399」がピンクぽくって、「RS9399」はグレーというかちょっと青っぽいです。
後者の方がやや溝が太めで、音がソリッドなニュアンスがあるので、多分そっちがgenuineなのかな、と思います。
ただ、その盤は偏心がひどくて、音程がふらつくので、聞いていると気持ちが悪くなるのですが(苦笑)。
546 :543:02/05/03 13:03
>>544
直接比べてみたことはありませんがRSナンバーが圧倒的に多く感じます
ジャケットから判断するとRSの方がオリジナルっぽいですね

 ジャケットの色も時に話題になるようで、他にも「左のジャケット写真は、上も下もステレオだが、上のより青みがかかったものの方がより初期プレスに近いらしい。レーベル面の表記は、上は”RS9399”、下は”RLP9399”となっている。」と書かれている方もいらっしゃる(「JAZZ AND BEYOND...」HP参照)。確かに色目は若干違う。どちらの説にせよ、僕が知りたいのは根拠であるのだが、はっきりとしたことは何も示されていない。なお「ちょっとめずらしい?じゃず・レコード盤???Vol.17」には、「スタンパーはオリジナル・スタンパーでオルフェイム盤まで使用されることになる。」という記述がある。確かにこの両盤の「Dead Wax Info」は、手書きの「RLP-12-9399-A/B」で共通と差がない。また同じ記事には、「RLP-9399」について「ジャケットの裏写真もつぶれが無く初回印刷であることは間違えない。」とある。実際、このエヴァンスの顔写真だけ見ると「RS-9399」はかなり画像がつぶれているのだが、それが決定的な証拠にはならないだろう(時代が新しいから印刷技術の向上できれいになっているということも考えられる)。いずれにせよ、両者ともに古い 、としか言いようがない。ただ、「RS-9399」盤は偏芯しているものが多いというのは、どうやら公然の事実のようだが※1。

 あと、「RLP-9399」という番号の盤には、上の引用中に記載のあるオルフェウム盤というバージョンもあり、これも1960年代中葉まで遡ることのできる盤だ※2。ラベルの色はターコイズ(青緑)色に変わっており、こちらも「Dead Wax Info」は、手書きの「RLP-12-9399-A/B」。音質も前2盤に劣らない、という評判である(かつては3、4千円で売っていたらしい。今現在は状態のいいものは1万円前後はするようだ)。今回、これら3種の初期盤を聴き比べる機会があったので、次回以降、具体的な音の状況をご報告したい。

Rlp9399

※1 「RS-9399」には、ラベル下の「BILL GRAUER PRODUCTIONS INC.」の文字が銀色で塗りつぶされているものもあるという。(2016/12/23の付記 ktdchon さんからご自身のブログ「Jazz Classic Audio Life」における「銀色塗りつぶし盤」についての詳細な記事をご紹介いただいた。ありがとうございます。>>「Waltz For Debby / Bill Evans」
(2017/1/8の追記)この「BILL GRAUER PRODUCTIONS INC.」の文字が銀色で塗りつぶされている盤を試聴することができたので、この稿の(その3)(その4)で、試聴結果を記載した。内容・音質は、「My Foolish Heart」の冒頭の音が1つしか聴こえないことを除けば、他の初期盤と同じ。「海賊版」ではおそらくなさそう。ちなみに「Dead Wax Info」は、手書きの「RS 9399A/B」。ジャケットの色目はかなり紫。また裏のエヴァンスの顔写真は、RLP-9399と比べてほんの少し落ちるくらいで、他の盤よりずっと良質だ。
※2 リヴァーサイドは、1963年に創立者の一人ビル・グロウアーの死去により、活動を停止。翌年7月に倒産した。レーベルはオルフェウム・プロダクションが買収した。ちなみにラベルの色が青色の盤もあり、たまにオークション等で見かけることもあるが、こちらは僕は未確認。

2016年12月19日 (月)

Village Vanguardでエヴァンスは右側で弾いたのか?(補遺2)

 昨日書いた(補遺)編の続き。以下、まさに補遺として、これからの議論の参考になりそうな論点をいくつか挙げておきたい。

 演奏風景らしい写真が見られる<ベタ焼き>は、『The Complete Village Vanguard Recordings, 1961』のLPバージョンに含まれていた。このセットには、他にも特典付録があって、レコーディング時に書かれた記録用紙「RECORDING DATA SHEET --- Bill Grauer Productions, Inc」の複製3枚も付属している。実はこちらはCDバージョンのCDケースにも内封されていたもので、初出ではない。ただ原寸大(ほぼA4大)になったおかげで、細かい文字まで良く見えるようになった。実はその2枚目(1枚目のシートの裏面か)の欄外に、我々の議論に関係のありそうな手書きによる注記があった。今回、この復刻シートの方もあらためて紹介しておく。この注記部分を引用するのは、著作権に問題がないだろうから(多分)、掲載しておこう。

Sheet1_2

>>以下、読み取れる文字案
(EVANS right - other left - con cool  left side  a bit of nec.)?ssary)

 最初の「エヴァンスは右、その他は左」。これはまさしく録音時の定位のことを表しているのだろう(実際にそうなっている)。でも、その次がわからない。スペル的には「con」か。また最後の修正を受けた<閉じかっこ>部分も読み取りにくい。本日お昼休みに、たまに英語の通訳をやっている友人の女性に現物を見てもらった。そうしたところ、最後の単語は「necessary」(=必要)ではないかと言う(確かにそれが一番近い!)。しかし「全体の意味は不明」とのこと。まあ、本人たちにしかわからないような記号、注記の類だから仕方ないだろう。

 帰宅後、俗語に詳しい英和辞書を見たら、「con」には「だます」あるいは「反対に」というような意味もあるようだ。もしも昨日見たように、ヴィレッジ・ヴァンガードの舞台で「エヴァンスは左、その他は右」というような状況にあったと仮定しよう。その場合、この稿の(その5)で見たようにミキシングで定位を変えたことになるわけで、その注記として上記文面を読むことができないだろうか。つまり、
「エヴァンスは右=その他は左、とし、事実上の左サイドのようにだます。ちょっとした必要性あり。」
「エヴァンスは右=その他は左、とし、反対に事実上の左サイドへ振る。ちょっとした必要性あり。」
のような意味にとることはできないだろうか。
(2016/12/21の付記 他の読み方としては、上記「con」は「can」かもしれない。この場合、続く動詞は何かということになるが、その場合「cool」は「クールにする」ということになるか。全体の意味としては、「エヴァンスは右=その他は左、で、左サイドをクールにできる。ちょっとした必要性あり。」)

 いずれにせよ、もっと他の読み方も考えられるだろう。正直、今回の推定はいつも以上に、僕の想像が走り過ぎているかもしれない。この点、もっと英語の語法や録音現場に詳しい方のご意見をお待ちしております。ぜひ!

2016年12月18日 (日)

Village Vanguardでエヴァンスは右側で弾いたのか?(補遺1)

 今月初めから、ビル・エヴァンスのファースト・トリオがヴィレッジ・ヴァンガードで録音した伝説的なライヴについて、ずっと考えている。というのも、『Sunday at the Village Vanguard』『Waltz for Debby』という2つの名盤では、エヴァンスの弾くピアノの音は右側から聴こえてくるのである。が、1961年6月25日のヴィレッジ・ヴァンガードでは、実際ピアノの位置はどうだったろうか? 実はこの稿の(その1)で、僕は「実際の舞台写真は残っていないようだ。」と書いていた。確かに直接的な演奏写真は見つけられなかったからなのだが、「『Sunday at the Village Vanguard』のジャケット裏に、Back Room でくつろぐトリオメンバーのスナップ写真があるのみだ」とも注記しておいた。先日、いつものようにインターネットで検索をかけていたら、この「トリオメンバーのスナップ写真」のネガを直接、印画紙の上に置き焼き付けた画像(私がかつて関わっていた広報業界では、これを<ベタ焼き>と呼ぶ)を見つけることができた。これは、何とLP4枚組で出された『The Complete Village Vanguard Recordings, 1961』の特典付録だと言う。正直、僕はこの『Complete』盤をCDで3セット持っている(笑)。その上、LPバージョンまでとは思ったのだが、ここは現物を確かめたい気持ちがむくむくと起き上がってきた。なんとなれば、この<ベタ焼き>の画像をよく見ると、『Sunday』盤のジャケット裏に使われた3人の写真と同様のカットが中心なのだが、その前に1枚、その後に6枚ほど別のカットの写真がある。それがどうも演奏風景のようにも見えるのである。そうであれば、僕も「実際の舞台写真は残っていない」と書いた前言を訂正しなければならない。

 前説が長くなったが、インターネットで取り寄せておいたものが、今日お昼に届いた。さっそく<ベタ焼き>を見てみた(まだLPの方は取り出してもいない・・・)。ちなみにこれらの写真を撮ったのは、Steve Schapiro 氏。

<写真6>最初の1枚。左手遠景に座ったエヴァンスの上半身。やや画面右向き。エヴァンスは左手をちょうど眼鏡のつるを直すような位置に挙げている。右手手前いっぱいにベースを持ったラファロの上半身。演奏しているというより、左手のエヴァンスの顔を見て、合図を待っているような感じ。この写真の背景は、左半分は壁、というより抽象画のような絵ではないか(注1)。右半分はカーテン! 
※実はヴィレッジ・ヴァンガードの舞台には、カーテンがある(現在は赤色)。ということはこれはまさに舞台写真ではないだろうか。エヴァンスが座っているのは、まさに位置的に言ってピアノだろう。この写真は、舞台右手奥からラファロ越しに、(その1)でも触れた舞台左手の「定位置」に置かれたピアノに向かうエヴァンスを捉えた写真である可能性がある。つまり、エヴァンスはラファロの「向って左」にいて、舞台奥の方を向いている。
<写真7〜21>例のバックルームでくつろいでいるトリオの面々ほか。ジャケット裏に使われた写真は10番(注2)。
※これがあるからには、この一連の写真は、ヴィレッジ・ヴァンガードで撮られたものであることは確実だ。
<写真28〜30>ベースを弾くラファロの左向きの顔を、アップで(ベースのネック共に)撮ったもの。これらは確実に実際の演奏写真。このうち1枚目・28番目の写真には、ベースの向こうにエヴァンスの顔が半分だけ写っている。
※この写真28からも、エヴァンスはラファロの左にいて、ピアノの前に座り舞台奥の方を向いているという位置関係が、十分想像できる。
<写真31〜32>うつむいたエヴァンスの上半身(右向き)。
※詳細は不明だが、ピアノの鍵盤の前に立って、楽譜かコード表を見下ろしているような感じに見える。
<写真33>右向きのエヴァンスの横顔。背景の左3分の2は壁=抽象画、残り3分の1は例のカーテン。
※ピアノこそ写っていないが、僕たちが見慣れたエヴァンスの演奏風景に近い。先ほど見た写真6と同じ位置に座るエヴァンスを、アップで捉えたものだろう。舞台左手から舞台奥に向けて置かれたピアノに、エヴァンスが座っていたとするなら、こんなアングルになる。

 以上、今回は速報的に事実のみをお伝えしておく。この<ベタ焼き>の画像を公開されている方もあるので、興味のある方はぜひ確認してみてほしい。

(2016/12/19の付記)上記で説明した演奏時のものと思われる写真の撮影状況(筆者の想定)を図で表してみた。ドラムスはいっさい写真には写っていない。なので、その位置は、正直、完全に想像。もしかするとベースの右側かもしれないが、奥に写った壁との角度の関係でラファロは舞台の前方に立っているように見えるので(注3)、下記の想定の方が収まりやすいだろうと思うが、どうだろう。

Fig2

(注1)ヴィレッジ・ヴァンガードは、「1935年に開店した当初は、前衛芸術家の発表の拠点だった」という(Wikipediaから)。
(注2)これは縦長で撮った写真の下側をトリミングしたものだった。ネガにはトリミングの指定も書き込まれている。
(注3)写真6一枚での判断なので自分で書いていても微妙に思うが、もしラファロが中央奥に立っていたら、抽象画の書かれた方の壁は、もっと奥に下がっていくように見えるのではないだろうか。

2016年12月17日 (土)

004 Alice in Wonderland

 今回調べてみたら、エヴァンスとしてなんと2公演、計3回しか記録が残されていないと知ってびっくり。これも『Sunday at the Village Vanguard』を聴き過ぎた影響だろうか。あるいは、同じディズニーからみで、演奏回数もずっと多い「Some Day My Prince Will Come」と混同していただけかもしれないが・・・。

 曲の構成は、AA'BA'。以下に録音リストを示す(すべてトリオ演奏)。

1)『Sunday at the Village Vanguard』(Riverside, 1961) 6:57
※当日ヴィレッジ・ヴァンガードで最初に演奏された<テイク1>。ここでエヴァンスは、最初のテーマのAA'部分を時折ルバートを交えた2拍子で出す。次いで、B部分からは主にモチアンのドラムスが3拍子に移行させる準備をして、テーマが終わる頃には聴き手がそれとははっきり気づかない内に、はっきりとした3拍子へと曲をスィングさせていく。美しく印象的な出だし・・・。結局、2拍子の中にうまく3連符を紛れ込ませたり、またいったん2拍子に戻ったりして進んでいくわけで、こうした精妙な拍子替えは「Waltz for Debby」等でも見られるものだ。が、これを他の奏者がまねをしても、急にシフトチェンジをしたように聴こえるだけで、少しも良くない。ピアノ・テーマ(1コーラス、T64=64小節)、ピアノ・ソロ(2コーラス、T64+T64)、ベース・ソロ(2コーラス、T64+T64)、ピアノ・テーマ(1コーラス、T64)、後奏。ラファロは、冒頭から非常に意欲的なベースを弾いている。
2)『Sunday at the Village Vanguard』(Riverside, 1961) 8:32
※こちらは本編に採用された<テイク2>。ピアノ・テーマ(1コーラス)、ピアノ・ソロ(2コーラス)、ベース・ソロ(2コーラス)、ピアノ・ソロ(1コーラス)、ピアノ・テーマ(1コーラス)、後奏。スコット・ラファロのベース・ソロの1コーラス目には、エヴァンスが影のように寄り添い、控え目に和音を付けている。まさに息をのむような時間が味わえる。また2度目のピアノ・ソロ部で、B部分で聴かれる流麗な音符の流れはエヴァンスならでは。<テイク1>のすっきりした構成も悪くないが、こちらの方がたっぷりとトリオの演奏を味わえる。
3)『The Secret Sessons, Recorded at the Village Vanguard, 1966-1975』(Milestone, 1966) 5:09
※5年後の録音。ベースはエディ・ゴメスに、ドラムスはアーニー・ワイズに変わっているが、基本は変わっていない。始まりはやはり2拍子でゆっくりと、徐々にテンポアップしていく。ピアノ・テーマ(1コーラス)、ベース・ソロ(2コーラス)、ピアノ・ソロ(1コーラス)、ピアノ・テーマ(1コーラス)、後奏。こうして小節数を数えてみると、1)2)ではモチアンのドラムスが何も特別な拍を刻んでいないのに、しっかりトリオの根幹を押さえていたんだなあ、ということが判る。

<この1曲・この演奏>
 今回、ディスコグラフィーを調べていて、1975年夏にフランスでエディ・ゴメスとのデュオでこの曲を演奏している記録があった(ラジオ・フランスが放送したというが、詳細は不明)。でも、記録はそれだけ。エヴァンスらしい曲のひとつなのだが、結局、あまり気に入っていなかったのだろうか。無論、我々としてはヴィレッジ・ヴァンガードでの佳演だけでも十分なのだが。

2016年12月16日 (金)

003 So What

 言わずと知れた、『Kind of Blue』初出の名曲。基本テーマ(スケール)の構成は、AABA。オリジナルLPに掲載されたエヴァンスの解説によれば、

「 So What は、自由なリズム・スタイルによるピアノとベースのイントロで始まり、ひとつのスケールに基づく16小節、別のスケールに基づく8小節が続き、そして最初のスケールに基づく8小節、というシンプルな形式。」

とある。以下に録音リストを示す(特に記載のない演奏は、トリオ編成)。

1)『Kind of Blue』(Riverside, 1959) 9:22
※多くを語る必要はないだろう。黄金のメンバーによるセクステット編成。エヴァンスのピアノとポール・チェンバースのベースによる自由な前奏、基本スケール(T32=32小節)、トランペット・ソロ(2コーラス、T32+32)、このマイルスのソロに入って直後に放たれるジミー・コブによりシンバルの一撃はとみに有名。次いでジョン・コルトレーンのテナー・サックス・ソロ(2コーラス、T32+32)、キャノンボール・アダレイのアルト・サックス・ソロ(T32+32)、ピアノ・ソロ&バック・ホーン(T32)、ベースによる短いブリッジ(T7)、基本スケール(T30〜38、※拙稿「「So What」はどこでフェードアウトするか?」を参照)
2)『The Soft Land of Make Believe』(Bethlehem, 1960) 4:32
※エヴァンス、チェンバース(bass)、コブ(drums)という『Kind of Blue』のリズム・セクションが再度集結し、フランク・ミニオンが歌詞をつけて歌うという企画物の中の1曲。当然、エヴァンス・ファンのあいだではトンデモ盤の扱いがされているが、ピーター・ペッティンガーによればこの時期、このメンバーでバードランドに出演していたというからさらにびっくりである。確かに冒頭のチェンバース&エヴァンスのかけあいからして、『Kind of Blue』時の緊張感が欠けている。上記オリジナル盤の基本テーマで、ベースの有名なソロに合いの手風に加わるピアノ(後にホーンも加わる)の下降する2音のリフに、「So What」という歌詞が付いていて、これは笑うしかない。が、『kind of Blue』の詳細な解説本、『カインド・オブ・ブルーの真実』(アシュリー・カーン著)にも、このリフを「"Sooooo what"のリフ」と呼んでいるので案外、マイルスたちもそのつもりでこの曲に「So What」というタイトルを付けたのかも知れない(「So what」自体は、「だからどうした?」というような意味の口語。マイルスの口癖のひとつと言われている。中山康樹氏は否定しているが)。
3)『What's New』(Verve, 1969) 9:10
※フルート奏者、ジェレミー・スタイグとエヴァンス・トリオの共演盤。フルートとピアノによる短い前奏のあと、有名なピアノとベースの基本テーマが出るが、こちらのベースはエディ・ゴメス。チェンバースの重厚な趣きとは異質な感じがする。スピードも速い。このあとは、スタイグ独特のアグレッシヴなソロを聴くことができるが、それが好悪を分けるだろう。エヴァンス・トリオ的に言えば、この盤からドラムが若いマーティ・モレルに変わったことも影響しているか。
4)『Live in Rome 1979』のボーナストラック(Gambit, 1969) 6:10
※この<ローマ盤>(本当はドイツ・コブレンツでの収録)のボーナストラックとして収録されたもの。昔から何度も再発されたイタリア・ペスカラでのライヴ録音だが、この曲だけは『It Happened in....Pescara (1969-1989)』というLP盤で知られていた(注1)。が、この1969年7月の録音を集成したという触れ込みの『Waltz For Debby - The Complete 1969 Pescara Festival』(Lonehill)にはなぜか含まれていない。演奏は前盤よりもさらに速い。全員による前奏、基本テーマ(1コーラス)、ピアノ・ソロ(5コーラス)、ベース・ソロ(3コーラス)、基本テーマ(1コーラス)、後奏。録音は一番悪く、こもった感じで聴こえるのが残念なところ(途中、2度ハウリング音も混じる)。演奏自体は、そう悪いとも思えないのだが。
5)『Homewood』(Red Bird, 1970) 6:17『Solo Piano At Carnegie Hall 1973-78』のボーナストラック
※こちらもLP時代からブート盤で知られたライヴ。途中、極限に近くまでスピードアップしていく、荒い印象の演奏である。ピアノによるごく短い前奏、基本テーマ(1コーラス)、ピアノ・ソロ(4コーラス)、ドラム・ソロ(2コーラス。最初のコーラスの前半までピアノ・ソロ)、ベース・ソロ(3コーラス)、基本テーマ(1コーラス)、短い後奏。
6)『Blue in Green』(Milestone, 1974) 6:47
※カナダにおけるラジオ放送録音だけに、さすがに音質もいい。オリジナルよりは速いが、演奏全体がやや落ち着いた感じになっているのがわかる。エヴァンスが基本テーマ(スケール)に忠実に、最新の注意を持って、和音を置いていく様子が実によく判る。全員による前奏、基本テーマ(1コーラス)、ピアノ・ソロ(6コーラス)、ベース・ソロ(3コーラス。最終コーラス最後のA部分は、エヴァンスが引き取っている)、基本テーマ(1コーラス)、短い後奏。

<この1曲・この演奏>
 『Kind of Blue』の演奏を別格とするならば、やはり最後の『Blue in Green』盤がベストか。というのも、それ以前のトリオ演奏では、1960年代に頻繁にライヴでこの曲を演奏したマイルスの影響、しかもあまり良くない影響を感じないではないから(特に『'Four' & More』での圧倒的かつ独創的な演奏と言ったら!まあこの演奏に打たれない人はいたら、その方がおかしいだろう)。その意味で、『Blue in Green』盤では、エヴァンスは再度、自分の持ち味を見い出している。以後、晩年にももっと演奏していたら・・・

(注1)今回、当LPと上記復刻CDとを聴き比べてみた。前述のように、CD本編のクレジットがすでに誤りであり、もしかするとボーナストラックについても確認が必要と考えたからである。が、結果、両者はまったく同じ演奏であった。かつて、現在ほどエヴァンスのライヴ盤が聴けなかった時代には、たとえ1曲しかエヴァンスの曲が入っていないとわかっていても、それでも懸命になってこうした欧盤LPを探しまわっていたものだった。実に懐かしい。なおこのLPのクレジット欄には、「18-7-1969 Le Najadi (So What)」とあり、この「Le Najadi (So What)」を曲名として引いているディスコグラフィー本もある。が、他のナンバーを見てもわかるように、この( )内こそが曲名で、その前は演奏された場所名。「Le Najadi」という名のホテルも、実在するようだ。

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2016年12月 8日 (木)

Village Vanguardでエヴァンスは右側で弾いたのか?(その5)

 昨日の記事で、『Sunday at the Village Vanguard』と『Waltz for Debby』という両名盤で、「ベースが左、中央(やや左)にドラム、ピアノが右」という楽器配置を達成するには、

A)実際に、ヴィレッジ・ヴァンガードの舞台上に、「左からベース、ドラム、ピアノ」という順番に楽器を置いて演奏する。

という、まっとうな!方法のほかに、

B)録音時のミキシングで、ピアノを右側に持ってくる。

という2つ目の方法もあるのでは、という仮説を僕は書いた。それには当然、録音時におけるマイクやミキサー等のセッティングが関わってくる。以前書いた「『Waltz For Debby』の「ワークパーツ落とし」なるもの(その1)」で紹介させていただいた嶋護氏による論考「レコード音楽随想 音盤の向こう側」(『Stereo Sound』No.191, 2014)に、この点に関する詳しい情報が載っている。

「 当時、リヴァーサイドがジャズ・クラブで録音をする時は、テープレコーダーはスタジオ録音のようにモノーラルとステレオの2台を回すのではなく、ステレオ・デッキ一台にするのが慣習だった。この日もヴィレッジ・ヴァンガードには、2トラック・テープレコーダー、アンペックス351-2だけが持ち込まれた。(中略)
 機材はもちろんすべて真空管式だった。マイクは各奏者に1本づつあてられ、そのブランドはソニーのC37だったという記録もあるが、最終的にはすべてノイマンになったようだ。3本のマイクの信号は、マイク・プリ/ミキサーのアンペックスMX35で2チャンネルにミックスされ、そこからダイレクトに結線された351-2へ入った。」(p.280-281)※1

 株式会社ハイファイ堂さんのHPに、上記「アンペックスMX35」の写真等が紹介されていて、これを見るとかなり興味深い事実がわかる(>こちら)。入力端子は「MIC」入力が1〜4まで4つあり、このうち「MIC」3と4が、「LINE」1と2にそれぞれ切り替えられるようになっているようだ(入力端子は計6つあるが、同時入力できるのは4つまでではないか)。出力も「CH. A OUT」と「CH. B OUT」の2つのみ。素人の僕が見ても、非常にシンプルな構成であることがわかる。入力側には1から4までそれぞれ単独の「入力ボリューム」が付いている。さらに「CH. A」と「CH. B」の振り分けを調整するスライド式レバーが4つそれぞれにある(真ん中が「BOTH」)。ヴィレッジ・ヴァンガードでは、ピアノ、ベース、ドラムに割り当てられたマイクから3系統の音声が「MX35」にインし、それを上記調整レバーで右/左の各チャンネル用に振り分けた上、テープレコーダーの2つのトラックにアウトプットした、ということになる。

 さて、これからが本題。一般にクラシック音楽などの録音時には、舞台の正面に2本のマイクを立てて(あるいは吊り下げて)、これをメイン入力とする場合が多いと思われる(その2本しか使わないときは、特に「ワンポイント録音」と言うようだ)。また場合に応じ、楽器別にサブ・マイクを用い、パート別に細かな音を拾いミキシングするということもある(これを多用する場合、上記「ワンポイント録音」に対し、「マルチマイク録音」とも言う)。ただこの場合も、全体のバランス、つまり左右のバランスはメイン・マイクを中心にしっかり捉えていることが前提となっているだろう。これに対し、もし1961年6月25日のヴィレッジ・ヴァンガードで嶋氏のいう上記のセッティングが採られていたのなら、それはある意味、スタジオ録音的な発想で録られていると言える。なぜなら、楽器の定位やバランスは、マイク・セッティングではなく、ミキサー側で作り出していたことになるから。元々、舞台上における実際の楽器配置は、事実上まったく出力段階には反映されていない録音だったのである。その意味で、前回紹介した「楽器の定位は、ミキシングコンソールを使えば、RでもLでも中央でも、好きなように配置でき」るというご意見は、まったく正しい。そして、たとえ「ミックスダウンの段階で、ピアノをRに振り分けた」という事実があったとしても、今残された録音記録からは我々はその当否を判定することができないということになる※2。

 一般的には優秀な録音エンジニアなら、マルチマイク方式を採っても、きちんと現場に即したバランスに整えてくるものである。また上記のマイク・セッティングが、単純に「左からベース、ドラム、ピアノ」という楽器配置でなかったことの証拠には、無論ならない。ただ、マスターテープ(原テープ)にさかのぼっても、それがミキシング後の2チャンネル・テープである以上、「オリジナルな録音バランスはそこから再現できない」ということだけは、はっきりしたわけである。

 今回、ファースト・トリオのヴィレッジ・ヴァンガード・ライヴについて、長々と書いてきた割にはたいした結論には至らなかったようだ。お付き合いいただいた方には、申し訳ないような気もしないではない。今後は、そのマスターテープの!バランスがどうであったか?、それをいわゆる「ワークパーツ」が継承しているのか?、さらに初期LPは?、ということを追及するしかない。この点も、またいつか資料を集めて検討してみたい。

※1 例えば、ヘッドフォンで聴くと、ラファロのベースの音は、極めて近接して録られているように聞こえる。だから・・・と言うべきだろう。この時のライヴ盤は、一般に「音がいい」と言われ続けている。
※2 と書くと、何か我々が「だまされている」ように聞こえるかもしれないが、どのように優秀なステレオ録音であれ、左右のチャンネル(スピーカー)から出力された音を我々が両方の耳で聴いて、脳内で仮想的に現場の音場を再現しているだけなのである。「だまされている」という点では、同じようなものかもしれない。

2016年12月 7日 (水)

Village Vanguardでエヴァンスは右側で弾いたのか?(その4)

 ということで、このシリーズでは、1961年6月25日に行われたエヴァンス・トリオのヴィレッジ・ヴァンガード・ライヴの楽器配置について、3回にわたり他盤との比較を試みてみた。結果、おおむね以下のようなことがわかった。

1)エヴァンス・トリオのスタジオ録音では、リヴァーサイドは「左からベース、ドラムス、ピアノ」を採用したことが少なくとも2回ある。
2)それらセッション録音の直後に行われた当該ライヴ録音では、その「左からベース、ドラムス、ピアノ」を採用した。
3)ただしそうした配置を使った録音は、この回だけとなった。

 これらから推測される事実は、エヴァンス・トリオ初のヴィレッジ・ヴァンガード・ライヴを録音するにあたり、先行するスタジオ録音に倣って意識的に「左からベース、ドラムス、ピアノ」という楽器配置をリヴァーサイドが採ったということである。ただし、楽器・マイク等のセッティングに制約が少ないスタジオ録音とは異なり、ライヴ会場でそれを実現するには、いくつか解決すべき要素も残されている。無論、

A)実際に、ヴィレッジ・ヴァンガードの舞台上に、「左からベース、ドラムス、ピアノ」という順番に楽器を置いて演奏する。

という極めてあたりまえな解決方法もある。ただしこの場合は、(その1)でも触れたようにピアニストが他の奏者に背を向ける、あるいはあえて楽器のふたをはずし左向きで弾く、というような特殊なセッティングが必要となる。せっかく初のライヴ・レコードを録音するのに、そのようなある種、無理筋の配置を採るというのは、やや非現実的な選択と思わないでもない。だからこそ、その後のライヴ録音等でリヴァーサイド側も同じ設定をくりかえさなかったのではないだろうか。>>(その2)参照

 ただこれに関し、今回、エヴァンス・トリオの映像を再度見直してみた。結果、ひとつのヒント・参考となるであろう映像記録を見つけた。それは、当ブログの「Beautiful Love 1969(その2)」という記事で触れたスウェーデンのTV番組「Night Moods TV Show」での演奏(DVDが出ている)。スタジオでのライヴのようで、舞台部分・客席部分の全体構造を把握しづらいところもあるのだが、向かって左にマーティ−・モレルのドラムス、そのすぐ右奥にエディ・ゴメスのベース、そしてそのすぐ右前にエヴァンスが座っているのがはっきりわかる。彼のピアノはちょうど中央奥あたりから舞台右端前方へ楽器の先端がだんだん前に出てくるように斜めに置かれている。つまりベースを三角形の頂点にして、左の辺に沿ってドラムセットが、右の辺に沿ってピアノが置かれているという感じ(下記図参照)。ピアノのふた=反響板は付いたままなので、客席側にちゃんと音は飛んでいくし、エヴァンスも少し首を右側に振れば、他の奏者、少なくともモレルとはアイ・コンタクトが取れる。そしてこの配置ならヴィレッジ・ヴァンガードの狭い舞台でもおそらく採用可能で、またピアノの音はちゃんと右側から聴こえてくるのではないだろうか(厳密には、ドラムスとベースが逆だが)※1。

Fig1_2

 これで我々の疑問は解決と言いたいところだったが、もうひとつ別の方法も考えられる。それは・・・

B)録音時のミキシングで、ピアノを右側に持ってくる。

というものである。実は(その1)で紹介した Yahoo!知恵袋でも、akid_shinobuさんという方が「ミックスダウンの段階で、ピアノをRに振り分けたというだけではないでしょうか。/楽器の定位は、ミキシングコンソールを使えば、RでもLでも中央でも、好きなように配置できます。」と回答されていた。スタジオでのセッション録音では、そのような操作はむしろ日常茶飯事に行われているのだから、あり得ない話ではないだろう。次回にその説を検討した上で、この項を終えることとしたい。

※1 Verveでの初吹き込みとなった『Empathy』の内ジャケットに、トリオによる録音風景の写真がある。

Empathy01
 こちらも上記のfig.1のように、「左からドラムス、ベース、ピアノ」という順番になっている。ただし、収録曲を聴くと、なぜか左からピアノ(エヴァンス)、ベース(モンティ・バドウィック)、ドラムス(シェリー・マン)になっているが。

2016年12月 6日 (火)

Village Vanguardでエヴァンスは右側で弾いたのか?(その3)

 引き続きエヴァンス・トリオの楽器配置について。前回まではヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴ録音を聴いてきた。が、それらを聴いた限りでは、1961年のファースト・トリオの録音で、ピアノが右側から聴こえるという特殊性が浮かび上がっただけであった。しかし、このライヴから『Sunday at the Village Vanguard』『Waltz for Debby』という2盤をリリースしたリヴァーサイドとしても、「たまたまそうなった」という以上の思い・意図が何かしらあったはずである。なので、エヴァンス・トリオのリヴァーサイド盤についても、その楽器配置を調べてみた。スタジオでのセッション録音とライヴ盤を同列に論ずるのはどうかとも思ったが、レーベルの一般的傾向を見るために合わせて載せておく。

1)『New Jazz Conceptions』,1956
※残念ながらこの盤はモノラル録音。

2)『Everybody Digs Bill Evans』,1958
※左にサム・ジョーンズのベース、中央(やや左)にフィリー・ジョー・ジョーンズのドラム、そして中央(やや右)から右側にかけてエヴァンスのピアノが聴こえる。これは我々の<課題盤>6)に近い配置と言える。

3)『On Green Dolphin Street』,1959
※こちらもモノラル録音。

4)『Portrait in Jazz』,1959
※6)と同じくスコット・ラファロ、ポール・モチアンが参加している名盤。スタジオ録音で、モノラル盤・ステレオ盤の両方が作られ、それぞれに別々の「枯葉」が収録されたというユニークな盤である(再発売盤やCDでは、両バージョンが含まれている。そのあたりの事情はこちらで)。左にモチアンのドラム、中央にピアノ、右にラファロのベースというから、楽器配置もなかなかユニークだ。

5)『Explorations』,1961
※こちらもラファロ、モチアンというファースト・トリオが残した貴重なセッション録音。左にラファロのベース、中央にモチアンのドラム、そして中央(やや右)から右側にかけてエヴァンスのピアノが聴こえる。これも6)に近い配置である!(ただし、「I Wish I Knew」は、左からピアノ、ベース、ドラムのように聴こえる盤もある。)

6)『Sunday at the Village Vanguard』『Waltz for Debby』,1961 Live
※<課題盤>。ベースが左、中央(やや左)にドラム、ピアノが右。

7)『Moon Beams』『How My Heart Sings!』,1962
※事故で亡くなったラファロの代わりに、チャック・イスラエルが加わったいわゆるセカンド・トリオのセッション録音。モチアンのドラムが左、ピアノが中央、イスラエルのベースが右。

8)『At Shelly's Manne-Hole』『Time Remembered』,1963 Live
※タイトルどおりシェリーズ・マン・ホールでのライヴ録音。イスラエルのベースが左、ピアノが中央、ラリー・バンカーのドラムが右。

 こうして見てくると<課題盤>=6)で見られる「左からベース、ドラム、ピアノ」という配置は、2)、5)でも採用されていたことがわかる。また4)、7)では、「左からドラム、ピアノ、ベース」という順番も試みられている。この時期はモノラル録音からステレオ録音に切り替わる移行期にあり、各社が最新の技術をいかに効果的に使い、売り上げにつなげるかを競っていたと想像される。楽器の配置についてもスタンダードは確立されておらず、上記のような試行錯誤が続いていたのだろう。その意味では、6)が「左からベース、ドラム、ピアノ」とされたことも、現在、我々が考えるほどには特殊なことに思われなかったのではないだろうか。次回はそうしたことを前提に、6)の録音状況について再度考えてみることにしたい。

2016年12月 5日 (月)

Village Vanguardでエヴァンスは右側で弾いたのか?(その2)

 昨日の続き。予告どおりエヴァンス・トリオの楽器配置について検証してみた。

 まずは直接的なところで、ヴィレッジ・ヴァンガードでの歴代のライヴ録音を聴いてみたい※1。というのも、ジャズ・クラブ等でライヴ録音を行う場合、演奏が行われる舞台の形態や大きさ、客席との距離・段差の有無などが、楽器配置に大きな影響を与えると思われる。つまり、ここでヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴ録音に対象を絞れば、一致した条件での比較ができるだろう。

1)『Sunday at the Village Vanguard』『Waltz for Debby』,1961
※これが我々の<課題盤>。エヴァンスのピアノが右側から聴こえ、中央(やや左)にポール・モチアンのドラム、左側にスコット・ラファロのベースが位置する。ただし、taketone さんのブログ記事「ワルツ・フォー・デビー日本盤CDリマスターのすべて【ビクター編】」や、ktdchon さんのブログ記事「『Waltz For Debby』(VICJ-60008)と矛盾する 『Sunday At The Village Vanguard』(VICJ-60007)」に詳しく書かれていることだが、これらの盤の中には、ラファロのベースが中央寄りになっている初期CDがある。僕も聴いてみたが、VDJ-1519(1986)、VICJ-23551(1991)、VICJ-60007(1997)の3枚がそれにあたる(いずれも『Sunday at the Village Vanguard』盤の番号)。レーベルは言わずと知れた Riverside※2。

2)『California Here I Come』,1967
※Verve 移籍後のライヴ録音。こちらでは、エヴァンスのピアノが中央から聴こえる。そのやや右にフィリー・ジョー・ジョーンズのドラムが、そして反対側・ピアノの左側からエディ・ゴメスのベースが聴こえてくる。これを可能にするためには、どのような楽器配置があるだろうか。ヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴではないが、参考となる映像がある。それは1965年にロンドンで収録されたBBCのテレビ番組「JAZZ625」。ここではスタジオ収録ながら、真ん中前方にエヴァンスのピアノが、そのやや右後方に置かれた高台にラリー・バンカーのドラム、その左=ピアノの左後方に先ほどとは少し低い高台に乗ったチャック・イスラエルのベース、という配置が見られる。これならば、上記のような聴こえ方が可能だろう(ただし、この映像に付いている音声記録はモノラル)。ほかに、『Live in Paris, 1965』(Lonehilljazz, LHJ10289)というCDのカバー写真にも、同じような配置の演奏風景が使われているので見てほしい※3(下段のリンク参照)。

3)『Since We Met』『Re: Person I Knew』『From the 70's』,1974
※次は Fantazy 時代のライブ。ここではやや定位が甘い個所もあるが、ピアノは基本的に左側(ソロの時が判定しやすい)。真ん中にゴメスのベース、そのやや右にマーティー・モレルのドラムが位置する。これはエヴァンス・トリオに限らず、ごく一般的に見られる楽器配置なのではないだろうか(エヴァンス・トリオの映像記録を見ても、おそらくこの配置が多いだろう)。

4)『Turn Out The Stars; The Final Village Vanguard Recordings June 1980』,1980
※Warner が発掘した最晩年のライヴ集である。こちらも上記3)と同じく左側にピアノ、中央にマーク・ジョンソンのベース、その右にジョー・ラバーベラのドラムという順番。昨日の記事で紹介したヴィレッジ・ヴァンガードの舞台写真に見られるように、ピアノは鍵盤を客席の方に向けて置いているようで、エヴァンスの左手(低い音)は左端の方から、右手(高い音)はやや中央寄りから聴こえてくる。

 以上、このように見てきた限りでは、ピアノが右側という配置は、1)以外に見つけることができなかった。この続きは長くなったので、次回に。

※1 上記以外にも、エヴァンス・トリオのヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴ録音はある。『The Secret Sessons, Recorded at the Village Vanguard, 1966-1975』や、その補遺盤『Getting Sentimental』(1978)がそうだが、これらはモノラル録音のため楽器配置が判定できないので、今回の検証からははずしている。
※2 ちなみに同じレーベルから出ているボビー・ティモンズのヴィレッジ・ヴァンガード・ライヴ『In Person』は、すでに(その1)で紹介したが左から、ピアノ、ベース、ドラムの順であった。
※3 どの演奏時に撮影されたかは記載がないが、撮影者は「David Redfern」とのクレジットがある。

2016年12月 4日 (日)

Village Vanguardでエヴァンスは右側で弾いたのか?(その1)

 このサイトではビル・エヴァンスが遺した演奏をずっと聴いてきているが、多くの場合それはピアノ・トリオという編成を採っている。以前、こちらで『Some Other Time: The Lost Session From The Black Forest』という新発見演奏を聴いた折、「この盤ではゴメスのベースが、常に右にあるのが少し聴き慣れない印象を与える。」と僕は書いた。以来、トリオ編成時にピアノ(エヴァンス)とベース、ドラムの位置関係が、どのようになっているかについては、少しまとめて調べてみたいと思っていた。

 ところでこの点に関して、『Sunday at the Village Vanguard』『Waltz for Debby』という名盤を生んだ1961年6月25日、ニューヨークのジャズクラブ、ヴィレッジ・ヴァンガードで行われた有名なライヴについては、少し特殊な事情があるようだ。というのも、これらの盤(のステレオ仕様盤)では、エヴァンスの弾くピアノの音は右側から聴こえてくるのである。なぜそれが特殊なのか? 実はピアノという楽器、それも一般に公衆演奏に使うグランドピアノは、鍵盤の奥に実際に音が出る弦が収められている箱状の部分がある。それには開閉可能なふた(屋根)が付いていて、鍵盤に向かって右側が開くようになっている。つまり楽器の右側に音が広がっていくため、(比較的セッティングが自由なスタジオ録音と違い)ライヴ演奏では鍵盤に向かって右側を客席に向けて置く必要があるのである※。この場合、演奏者は楽器の左側に座り、楽器側、つまり右側を向くことになる。ソロ演奏の場合は、舞台中央に楽器を置き、奏者はその少し左側に座る。一方、トリオ演奏のようなアンサンブル形態を採る場合は、舞台の左側にピアノを置き、舞台中央側を見ながら演奏するのが一般的だろう。右側にピアノを置くと、必然的に他の奏者に背中を向けて座ることになり、コンタクトがとりにくいからである。

 では、当日のヴィレッジ・ヴァンガードでは、どうだったろうか? 残された録音では、確かに右側のスピーカーからピアノの音が聴こえてくるが、そのような配置だったのだろうか? 
実際の舞台写真は残っていないようだ(『Sunday at the Village Vanguard』のジャケット裏に、Back Room でくつろぐトリオメンバーのスナップ写真があるのみだ>>この点に関しては修正が必要だ。2018/12/18に追加で記事を書いたのでぜひご参照ください(補遺1))。
 このことに疑問を持つ方もいらっしゃると見えて、Yahoo!知恵袋でもいくつかこの手の質問を見つけることができる。自分のステレオで右側からピアノが聴こえることで、もしかして左右の位相が逆転しているのではと考えたのだろう。ちなみにその中のひとつに、「先日ニューヨークに行った時、ビレッジバンガードに行ってきましたが、ピアノは観客から見て左に配置されていました。」と書かれた方がいる。確かにこれは、我々の疑問解決の参考になりそうだ。

 僕自身は、残念ながらヴィレッジ・ヴァンガードに行ったことはありません! が、その舞台写真は、ネットでもいくつか見ることができる。店内全体の様子を含めた写真は、世界の有名バーを紹介するこちらのサイトで見ることができる。写真では店の奥に赤いカーテンを引いたおなじみの舞台が見える。意外に狭い舞台である。トリオが乗ると、もういっぱいいっぱいという感じである。そして客席は手前に向かって広がっているように見える。こちらのサイトの記事によれば「店内も独特だ。奥のステージを頂点とする三角形の構造で、唯一無二の音場感をもたらしてくれる。」とのことなので、おそらく僕の見立てで間違いないだろう。いずれにせよ、今、見ることのできるヴィレッジ・ヴァンガードの写真では、王道どおりピアノ(スタインウェイ)が舞台の左側に置かれている。正確に書けば、クラシックのように完全にピアノが横を向いているというより、奏者は客席左手を背に鍵盤に向かい、楽器全体は右奥に向けて斜めに置かれているのだが、いずれにせよピアノが舞台の左側にある点は変わらない。実際、動画サイトでもいろいろな奏者による最近のヴィレッジ・ヴァンガード・ライヴを見ることができる。僕が視聴した限りでは、そのすべてでピアノは左側にあり、右側に他のメンバーがいるものばかり。その逆は見つけられなかった。

 無論、このことは1961年当時、現在と同じ配置だったことの証明にはならない。ただ、ひとつ参考になる盤がある。先に見たYahoo!知恵袋の回答で、同じリヴァーサイドから出されたボビー・ティモンズ(ピアノ)をリーダーとしたヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴ盤『In Person』(1961年9月1日録音)では、ピアノが右側から聴こえるという回答がある。が、僕の手元にある盤(Victor日本盤 SMJ-6110)では、ティモンズのピアノは左から聴こえる。またジャケット裏側に彼の演奏風景があり、それは右向きに楽器に向かう彼ひとりが写っているだけ。なのでトリオ全体の配置はわからないのだが、奥にヴィレッジ・ヴァンガードらしきカーテンが見えるところから推測するに、ピアノの右側が客席を向いていたに違いない。しかも彼のすぐ背後にもカーテンが迫っているので、ピアノは舞台左手にあるはずだ(それは現在のスタインウェイとは違う、ずっと使い込まれたもののようだが)。ということで、今の僕は、エヴァンスが舞台右側でピアノを弾いていたということを証明するものは何も見つけることができないでいる。

Img_1236

 今回は問題提起だけになってしまったが、次回からエヴァンスの実際の演奏を聴きながら、引き続きこの問題について考えていきたい。

※ピアノ2台で演奏する曲もあって、その場合、へこんだ部分をうまく組み合わせ、向かい合わせに配置することが多い(奏者も2台のピアノをはさんで向かい合うことになる)。右側のピアノは、客席に通常とは逆側(左側)を見せることになるので、大抵そのふたは取りはずしてしまう。

2016年11月10日 (木)

エヴァンス新作『On A Monday Evening』

 先日、「めぼしいエヴァンス盤が出ない」と書いたばかりだが、本日(2016/11/10)、HMVからエヴァンスの完全新作(ライヴ盤)の発売情報がメールで届いた。タイトル名は『On A Monday Evening』。これは、うれしい誤算だ。

 発売元は、ユニバーサルミュージックで、カタログ番号は「UCCO1172」とのこと。以下は、そのメールに付けられたリンク先に掲載された情報(本日現在、HMVのサイトで、「Bill Evans (piano)」や『On A Monday Evening』と検索しても、予約画面は出るがなぜか下記の説明は出ない)。

【金曜販売開始商品】【日本先行発売(海外2/3)】【SHM-CD】
●奇跡の発掘! ビル・エヴァンスの晩年を代表する名盤『アイ・ウィル・セイ・グッドバイ』『ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング』と同じメンバーによる完全未発表コンサート音源(海賊盤でも過去に流通なし)が、40年の時を経て届けられる。
●ジャズ・ピアノの詩人の円熟期の煌めきを捉えた、全ジャズ・ファン必聴盤。
●ライナーノーツは、マイルス・デイヴィスやジョン・コルトレーン等の書籍で知られるアシュリー・カーンが執筆(日本盤は翻訳付)。
<パーソネル> ビル・エヴァンス(p) エディ・ゴメス(b) エリオット・ジグムンド(ds)
★1976年11月15日、マジソン、マジソン・ユニオン・シアターにてライヴ録音

(メーカー・インフォメーションより)

 収録曲は、次の8曲とクレジットされている。

01. シュガー・プラム
02. アップ・ウィズ・ザ・ラーク
03. タイム・リメンバード
04. T.T.T.
05. いつか王子様が
06. ミーニャ(オール・マイン)
07. オール・オブ・ユー
08. サム・アザー・タイム

 時期的には1976年2回目のヨーロッパ・ツアーの直後であり、作品的にはファンタジーから出た『The Paris Concert』(同年11月5日収録)の次に位置するライヴということになる。実際、かなりの曲がこのパリ・ライヴと被っている(ファンタジー盤には、「Up With The Lark」と「Some Other Time」がなく、代わりに「34 Skidoo」と「Turn Out The Stars」、「Waltz For Debby」が加わる(※コメント欄で  ktdchon さんにご指摘いただいた「T.T.T.」「T.T.T.T.」問題も、現物を聴いてから判定したい)。

 今の時点ではこれ以上の情報はないが、日本では2017年01月27日に海外より早く先行発売されるとのことなので、年明けを楽しみに待ちたい。

>その後、アマゾンでも、予約ができるようになった。

>>その後、何度か発売が延期になっている。今日(2016/2/4)現在、HMVのサイトでは「2017年03月17日 発売予定」となっている。

2016年11月 3日 (木)

DeAGOSTINI 版『Kind of Blue』

 最近、めぼしいエヴァンス盤が出ないと思っていたら、書店に『Kind of Blue』の、しかもLPが山積みになっている光景を見てびっくり。加えて、価格が990円(創刊号特別価格)だという。すでに皆さんもご存知だと思うが、DeAGOSTINI が発刊している「隔週刊ジャズ・LPコレクション」というシリーズ物である。無論、このアルバムはすでにLP、CDを問わず何枚も持っている。一瞬迷ったが、どの音源が収録されているかという興味で買ってみた。というのも、このサイトでも何回か触れているが、この名盤にはマスターテープに由来するピッチ違いのバージョンがあることが知られている。その他、「So What」にはフェイドアウト位置の違いもある。

「The Making of Kind of Blue It's Complete(その6)」
「「So What」はどこでフェードアウトするか?」

 帰宅後、調べてみると、いくつかのサイトにこの DeAGOSTINI 版『Kind of Blue』の音源・使用マスターについての記述を発見したが、なぜか上記ピッチ修正についてはばらばらな報告が上がっている。なので、さっそく自宅のLPプレーヤーで検証してみることにした。

 ちなみに冊子に付された「シリーズガイド」には、付属LPを「オフィシャル復刻版」と読んでいる。さらに「マスター・テープからのリマスターに可能な限り挑み、180gの重量盤レコードでアルバムをプレス。」とある。Amazon のカスタマーレビューで、「太郎」さんという方が「レコードはソニーUKのライセンスでオリジナルマスターからリマスタリングされていて180g重量盤のMADE IN EUです。MPOの刻印があるのでフランスの工場でのプレスです。(中略)追伸:音には影響はなかったのですがB面に1箇所プレスミスのような箇所があったので後日もう1枚購入したところ、こちらはマトリクスの枝番が2A、2B(最初に購入したのは1A、1B)でMPOの刻印はありませんでした。」と報告されている。ちなみに、僕が購入したものに封入されていたLPも、この方の買い替え盤と同じ、「2A、2B」の方であった。ピッチの差については、確実を期すために、LPプレーヤーとCDレシーバーとを同時に鳴らして確認してみた。比べたのは、ピッチ修正前・高めが国内初期盤(35DP 62)、ピッチ修正後・低めが「LIMITED EDITION」として出たLEGACY盤(CK 52861)である。

1)A面1曲目「So What」
 計測時間>約9:22
 後奏のフェードアウト位置>38小節後半あたりまで
 ピッチ>低め

2)A面2曲目「Freddie Freeloader」
 計測時間>約9:46
 ピッチ>低め

3)A面3曲目「Blue In Green」
 計測時間>約5:36
 ピッチ>低め

 この結果から推測されることは、このLPのマスターは現在一般的に売られている『Kind of Blue』のCDと同じバージョンということ。DeAGOSTINI がオフィシャル音源を所有しているソニーにマスターテープの提供を頼んだのであれば、当然と言えば当然の結果かもしれない。しかも「So What」において、後奏のフェードアウト位置が38小節後半あたりまであるのは、LP時代に使われたようなマスターではあり得ないことだ。SN比もかなり高く、歪み・ノイズも少ないことから想像するに、デジタルリマスターを使っているのではないだろうか。ステレオ初期盤(1AG、1AJ)を取り出してきて聴き比べてみたが、明らかにサーフェス・ノイズ、強奏時の歪み等が少ない。その分、アナログ本来の空気感・臨場感が減じている感は否めないかもしれないが・・・。とはいえ、決して買って損はないだけの音質であることは間違いない。アナログの『Kind of Blue』を、針音・雑音のないきれいな音質で楽しみたい方は、今すぐ書店に行くべきだろう。

※ちなみにこの聴取結果は、あくまで我が家のオーディオ環境に由来するものであることをお断りしておきたい。聴き取りに使用したLPプレーヤー(Pro-Ject Audio Essential II)は、ゴムひもでモーターとターンテーブルを直接つなぐという極めてシンプルな形式で、それゆえに僕は気に入っているとしても、当然、クォーツ制御のような機能は付いていない(ストロボスコープなどで回転数を測定したこともない)。なので、機械の個体差・誤差は多かれ少なかれあると思う(回転数が狂っていたら、収録時間やピッチも変わってくる)。また収録時間は手計測なので、どこまでトラックが続くかを判断する場合、同じ人が計っても秒単位での誤差が出る。その点、他の方の聴取結果を否定するものではありません(もし購入された方がいらっしゃったら、新たな聴取結果などぜひぜひご教授いただきたい)。

2016年5月10日 (火)

Homewood

[Red Bird, RB-101] 1970

 先月になるが、ktdchon さん(2016/5/27修正)がご自身の美しいブログ「Jazz Classic Audio Life」で、エヴァンスの1970年のトリオ・ライヴ『Homewood』を取り上げておられた(記事はこちら)。その折に、「ご紹介いただいた1970年のトリオ演奏のLPについて、なぜ「Homewood」というタイトルがついているのか、前々から知りたいと思っておりました。」ということでコメントを書かせていただいた。その疑問について、追加報告も含めてあらためて書いてみたいと思う。

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 まず「Homewood」の意味だが、この単語を普通の英和辞典で引いても出てこない。ということで大辞典(グランドコンサイス英和辞典/三省堂・刊)を引くと、「ホームウッド (1) 米国 Alabama 州中部の都市. (2) 米国 Illinois 州北東部の都市」とある。イリノイ州と言えば、シカゴのある州。地図を見ると、そのシカゴの近くに「Homewood」という地名がある。このライヴはまさにシカゴで収録されているので、前回の記事「Solo Piano At Carnegie Hall 1973-78(その3)」でこう書いていた。

「僕が所有しているLP盤には「Brordcasted by US-KCET-TV show <<Homewood>> on July 28, 1971」とのクレジットがある。もともと「Homewood」とは、シカゴの南にある都市の名前でもあるらしいが、要はテレビ番組のタイトルからLPの名前をとってきたということだろう。」

 上記クレジットからは、KCET-TVで放映されたshow番組の名前だとも読みとれる。「KCET」というコールサインは、ktdchon さんによれば「日本の Eテレのような局」とのこと。一方、ピーター・ペッティンガーの『ビル・エヴァンス ジャズ・ピアニストの肖像』では、

「 十一月にトリオはシカゴへ行き、テレビ番組のために一時間半のセット演奏を収録した。その映像はロサンゼルスで使われるために制作されたが、後にハリウッドのホームウッド・シアターから『ジャズ・サウンド・アンド・ア・クール・グルーヴ』という題名をつけられ放映された」(p.236)

とある。この説に従えば、「Homewood」とは、シアターの名前、ということになる。でも、テレビ番組をシアターから放映するものだろうか。一方、キース・シャドウィックの『ビル・エヴァンス ミュージカル・バイオグラフィー』では、

「 グループとヘレン・キーンは一九七〇年中に舞い込んできたTV出演の話を軽視しなかった。教育TVの連続番組『ホームウッド』の一時間スペシャル「プロフィール・イン・クール・ジャズ」が十一月初旬に収録された。」(p.306)

と書かれている。それぞれ言い分があるようだが、KCETのテレビ番組のためにトリオのライヴがシカゴで収録され、LAから放映されたことは間違いないようだ。放映日は、LPのクレジットによれば1971年の7月28日。何か手がかりがないかとネットでいろいろ検索してみたら、シンガーソングライターのレオン・ラッセルにも、エヴァンスと同じ「ホームウッド」という番組でのライヴ・セッションがあることがわかった。放映日もかなり近くて、1970年の12月5日だという。

https://theamazingkornyfonelabel.wordpress.com/tag/leon-russell-homewood-session-1970-kcet-bootlegs/

 また、これにはビデオ録画もあるようだ。

http://www.oocities.org/mergeop/video.html

 これらによれば、ハリウッドのシアターの名前は「The Vine Street Theatre」であり、建物のうしろに小さなスタジオを持っていた。番組の始まりに“The Vine Street Theatre presents Homewood”と表示されるようで、つまりこれは「ヴァイン・ストリート・シアター」がスポンサーになって「ホームウッド」という番組を提供しているということのように読める。であれば、やはり番組名というかショーの名前が「Homewood」ということになるのだろう。なお、上記ラッセルの番組は、PBS(=公共放送サービス Public Broadcasting Service)により全国放送されたようで、これも「このショーは全米中の二百あまりのTV局を通じて放映された。」というシャドウィックの言と一致する。

 で、今回、ついにこのラッセルの番組を見ることができた。権利関係がはっきりしないので、直接のリンクは避けておくが、Youtube で「Leon Russell Homewood」等と打って検索するとすぐ出てくるので、ご覧いただきたい(映像のタイトル名は、「Leon Russell - Homewood Sesson 1970-12-05」)。番組の最初に、まずラッセルの口上があり、その後、「original show intro」に入ると、街角の大きな電光看板が映る。上の看板には「VINE ST' / THEATRE」、下の看板に「PRESENTS / HOMEWOOD」とある。そしてその「PRESENTS / HOMEWOOD」の画面がそのまま放送局のモニター画面に変わり、それを眺めていた司会・解説者が語り出す・・・という具合。おそらくエヴァンスの番組も、このようなオープニング・タイトルをつけて放送されたのではないだろうか。

 ちなみにこのLPは、長いあいだCD化されていなかったが、『Solo Piano At Carnegie Hall 1973-78』(Valmont Record)のボーナストラックで復刻されている。それについてはこちらを参照。

2016年5月 2日 (月)

Some Other Time: The Lost Session From The Black Forest(その3)

 今回は<ディスク2>の方を聴く。

 こちらは本セッションのアウトテイク集的な意味合いもあるという。ディスクの最初と最後に置かれた「You're Gonna Hear From Me」は、この時期に集中的にライヴで演奏された曲のひとつ。今回はスタジオ録音である上にディジョネットのドラムも冴えていて、エヴァンスとしてこの曲の代表的演奏になったと言える。ただし、他にエヴァンスが比較的よく取り上げた曲は、「On Green Dolphin Street」「Lover Man」くらいしかないから、この<ディスク2>もレパートリー的にはかなり貴重と言える。しかも後者は、ハービー・マン、ジェレミー・スタイグという二人のフルーティストと共演したアルバム(1961、1969)で弾いていたものが有名だし、1974年夏、1978年夏のヨーロッパ・ライヴで取り上げたときも、管入りの編成が多い。それら少し雰囲気重視の演奏と比べると、今回はピアノソロであり、十分エヴァンスを聴いたという気になれる。演奏もかなり熱を帯びている。いずれにせよ<ディスク1>と合わせて考えても、このように意欲的なセッションは珍しい。ゴメスの証言によれば、エヴァンスはスタジオ録音にもかかわらず、「どんな曲を知ってる?」といきなりメンバーに呼びかけるのだという。若いドラマーを迎えて、新しいことを始めようとはりきっていたのだろうか。

 2曲目の「Walkin' Up」は、「モントルー1」のステージでも演奏されているが、他には『How My Heart Sings!』(1962)、『The Secret Sessions』(1966)でしか聴けない。いかにもエヴァンス作らしいちょっと複雑なテーマを持つ曲。5日前のライヴの時に比べてテンポがゆっくりめで、落ち着いた演奏になっている。スリリングさはやや後退しているが、ゴメスのソロのあと、ディジョネットとのバース交換が長目に聴けるのはうれしい。「Baubles, Bangles And Beads」と「What Kind Of Fool Am I?」は、<ディスク1>でも聴けるが、<ディスク2>ではいずれもトリオ。ディジョネットのドラムが入ると、雰囲気も明るめになる。前者はベースソロの入り方がなかなか凝っていて楽しめるが、後者の方はどういうわけかベースソロの前で唐突に終わってしまう。時間は3分弱。しかも最後にエヴァンスが、「チャンチャカチャンチャン・チャンチャン」と茶化したようなフレーズを弾いている。気に入らないところがあって自ら演奏を止めたようにも聴こえないではない。

 「Wonder Why」は、他には『At Shelly's Manne Hole』(1963)と『The Secret Sessions』(1967)でしか聴くことができない。僕は「シェリーズ・マン」盤のピアノの単音で始まるちょっとセンチメンタルなオープニングが大好きで、それを聴き慣れているせいか、エヴァンスの愛奏曲のような気がしていたのだが。「ブラック・フォレスト」盤では、シンプルにテーマ演奏が始まり、それが終わるとすぐにゴメスのベースソロに入るパターン。この流れは「シークレット・セッションズ」盤と同じで、この時期はゴメスとそう打ち合わせていたのだろう。三者は持ち味を十分出していて、これは完成度の高い好演だ。「How About You」は、上記「Lover Man」と並んで、上記『At Shelly's Manne Hole』のアウトテイク集『Time Remembered』で披露されていた曲。ほかにジョージ・ラッセルやワーン・マーシュとの共演でも弾いているほか、ソロセッションでも数回取り上げているが、トリオでの演奏は『Time Remembered』だけだろう。そのライヴでのドラムはラリー・バンカーであり、ブラシを中心にリズムを刻んでいた。が、ディジョネットは終始スティックでシンバルを叩いていて、その分、リズム感あふれるさわやかな演奏に仕上がっている。

 最後になったが、ソロで弾かれた「It's Alright With Me」は、他では聴けない曲だろう。弾き始めのルバートによるテーマ演奏は、極めて大胆。これを聴く限り、名演になる予感大なのだが・・・4分にも届かずフェードアウトする。弾き進むにつれて、だんだんインプロビゼーションが行き詰まってくる感じ。残念。

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