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2018年5月 4日 (金)

012 But Beautiful(その1)

 こちらで紹介した「パリ・コンサート1、2」の未発表曲のひとつ。同じく晩年に愛奏した「Theme from M*A*S*H (Suicide is Painless)」とかなりの盤が被っているが、こちらの曲には1960〜70年代にもいくつか演奏記録がある。1947年製作の米映画『Road to Rio』(邦題『南米珍道中』)の中でビング・クロスビーが歌った曲で、<愛(Love)は、sad で、mad で、good もしくは Bad なのかさえわからないけれど・・・but Beautiful>という気の利いた歌詞が、ゆったりと、しかもある種の諦念を込めて歌われていく。

 元曲の構成は、いずれも8小節づつで、 ABAB'(計32小節=T32)(テーマ冒頭のアウフタクトを除く)。

1)『Stan Getz & Bill Evans』(Verve, 1964)4:41
※エヴァンスがスタン・ゲッツ(ts)と共演した貴重なセッションである。3日間のセッションが組まれたが、この曲は5月6日の収録。他のメンバーは、ロン・カーターのベース、エルヴィン・ジョーンズのドラムス。原曲のキーはGのようだが、ここではCで始まる。ピアノによるテーマ前半(AB、T16)のあとサックスによるテーマ後半(AB'、T16) でEに転調する。ここまでで計1コーラス分。その後、Gsharpに転調したサックス・ソロ(AB、T16)が続き、同調のピアノ・ソロ(AB'、T16)が続く(計1コーラス)。最後はEに転調したサックスによるテーマ再現(AB'のみ、T16)、という構成となる。C>E>Gsharpと長3度づつ上がっていく転調は、「Theme from M*A*S*H」と同じで均整のとれたもの。ゲッツには Umbria Jazz における1989年の同曲の演奏映像がネット上に上がっているが、ここまで複雑なことはしていない。1964年の演奏自体は、「The Complete Bill Evans On Verve」盤 にもアウトテイクはなく、一発OKだったのかもしれない。エヴァンスは、ここではまだ、軽く可憐なサロン風の曲というイメージで弾いている。この演奏を含むアルバムは、10年後に「Previous Unreleased Recordings」シリーズとして出されるまで、未発表であった。
2)『Solo Piano At Carnegie Hall 1973-78』(Valmont Record, 1973)3:46
※上記1)の発掘LPが出たのが1974年ということで、エヴァンスはそれに触発されて、あるいは4)5)でのゲッツとの再会を機に、再び「But Beautiful」を取り上げたのかと想像も成り立ったが、この前年7月の演奏が見つかったので、それはどうも違うらしい。タイトルどおりソロでの演奏。半音づつ上がっていく和音を連ねた序奏付きで、テーマ&ソロで2コーラス弾いている(ABAB'+ABAB')。途中、ソロ後半(4度目)のA部分は倍速にして、残りのB'部分は元に戻しルバート気味にするなど、緩急もつけている。エンディングは初めの部分とは逆に半音づつ降りてくる印象的なものとなっている。実質、3分ちょっとの演奏だが、ホールの美しい響きを伴い、大いに盛り上がる。コードは、Csharp(以下、Csharpに聴こえる演奏がいくつかあるが、これはテープ・スピードの関係でそう聴こえる、という可能性も排除できない)。
3)Since We Met(Fantasy, 1974)5:32
※ヴィッレッジ・ヴァンガードでのライヴで、エディ・ゴメス(b)、マーティー・モレル(ds)という当時のレギュラー・トリオによる演奏(1月15日)。何かにつっかえるかのように始まるごく短い序奏のあと、ルバートによるピアノ・テーマ(1コーラス)があるが、テンポはやや速め。やがてリズムセクションも加わりピアノ・ソロ部分に入る(2コーラス)。その後、ピアノで再びテーマが出るが、最後のAB'部分はルバートに戻りきらびやかに終わる(1コーラス)。こちらもキーは、Csharp。明るく軽快な演奏で、モレルのブラシ・ワークが心地よい。
4)『Two Lonely People』(Jazz Birdie's of Paradise, 1974)5:17
※スタン・ゲッツとの再会ライヴ。オランダ、ラーレン国際ジャズ・フェスティバルでの演奏だが、ラジオ放送特有の雑音が混じるところから、エアチェック音源を元にしたと言われている(8月9日)。3)のトリオに、ゲッツが加わったカルテットによる。ピッチはわずかに高目だが、C。曲の構成も、ピアノによるテーマ前半がルバートになっているほかは1)のセッション録音と同じである。ピアノの音は最初かなり割れ気味だが、ゲッツのサックスは、やわらかな音で録れている。
5)『But Beautiful』(Milestone, 1974)5:26
※ラーレン音源については、先に4)のブート盤が出て(1994年)、その2年後、このオフィシャル盤が出た(ただし新発見曲は4曲)。こちらには1週間後、ベルギーのジャズ・ミデルハイムに出演したときの音源が組み合わされている。こちらもカルテット演奏で、短い序奏からピアノによるテーマ(AB)まで、ゆったりとした進行。その後のゲッツのソロのメロウな音色、吹き上がり方は、10年前のセッション録音を凌駕していて、サックス・ソロが終わると、会場から自然と拍手が出る。アルバムのタイトルになっているだけのことはある。各ソロのAB'部分の最後で、ゴメスが3連符混じりのペダルノートを弾いているのが目立つ。
6)DVD『Bill Evans Live '64 - '75』(Naxos, 1975)約5:11
※「Bill Evans In Lousiana Licensed by DR TV, Filmed in Denmark, 1975」というクレジットから察するに、1975年初頭のヨーロッパ・ツアー時(一説では2月21日)、デンマークでの録画。「DR TV」はデンマーク放送協会の略称で、この放送局が製作したテレビ番組ということだろう。「ルイジアナ」とは、米ルイジアナ州であるはずはなく、デンマークのコペンハーゲンの北約35kmにある美術館「ルイジアナ近代美術館」のことと思われる。邸宅を改築して美術館にしているそうで、そういえばタイトルバックや背景に、現代アートらしい黒いドローイングが映し出されている。ドラムスは、新鋭エリオット・ジグムントに変わっている。観客はなしで、3人は向かい合って演奏している。短い序奏付きで、こちらもコードはCsharpに聴こえる。ルバートによるピアノ・テーマ前半(AB)に、リズムセクションが入ったテーマ後半(AB')が続く(計1コーラス)。以後、ピアノ・ソロ(1コーラス)、ピアノによるテーマ再現(1コーラス)と進むが、テーマ後半(6度目)のA部分は倍速にして、残りのB'部分は徐々にルバート気味に戻していく(計1コーラス)。まだまだ軽快さの残る演奏で、ジグムントの意欲的な関与が光る。
7)『Bill Evans-Tony Bennett Album』(Fantasy, 1975)3:37
※大物歌手トニー・ベネットとのデュエット。キーはG。長めの前奏があって、ベネットの歌が入ってくるが、前半のAB部分はややルバート気味でゆったりと歌われる。エヴァンスのピアノは無音部分をいかした弾き方で、2)のソロ等とは明らかに違っている。後半はややスイング感が出てAB'部分に。1コーラス終えると半音上がり、ピアノのみでA部分が続く。A部分の最後、「But Beautiful」の歌詞でベネットが戻り、B’部分を歌って終わる。ベネットは過度に声を張り上げず、一つひとつの歌詞を噛みしめるように歌っている。ちなみに、彼には60歳も年下である歌手のレディー・ガガとの同曲のデュエットもあり、そのスタジオビデオは動画サイトでも人気のようだ(2014年。収録曲はアルバム『Cheek to Cheek』に所収)。途中、ベネットが感極まったガガの涙を拭く有名な場面がある。
8)『Eloquence』(Fantasy, 1975)3:42
※『Montreux III』として出ていた 同年7月のモントルー・ジャズ・フェスティバルでのライヴ。ただし「But Beautiful」は、元々のアルバムには収録されておらず、アウトテイク集『Eloquence』が初出であった。ゴメス(b)とのデュオ。ドラムレスならでは簡素さが活かされた演奏で、エヴァンスもあまり旋律・和声をいじらず、2コーラス分をさらりと弾いている。
9)『Getting Sentimental』(Milestone, 1978)5:32
※ヴィレッジ・ヴァンガードでの1978 年1月15日のライヴ。ドラムスがフィリー・ジョー・ジョーンズ、ベースは新人のマイケル・ムーア、という新しいトリオでの演奏となる。コードを探るような深い響きの序奏は、すでに晩年のエヴァンスだ。ルバートによるピアノ・テーマ前半(AB)に、リズムセクションが入ったテーマ後半(AB')が続き(計1コーラス)、ピアノ・ソロ(1コーラス)へと移っていく。テーマの再現となる3コーラス目は、AB'のみとなる2コーラス半の演奏で、B'部分はルバートでたっぷりと奏される。演奏自体もこれまでになくゆったりと落ち着いたもので、あのフィリー・ジョーが!、途中、ビートの頭でハイハットを踏むくらいで、エンディング以外はほとんどシンバル類を叩いていないのは驚きだ。
10)『Unreleased Live 1978』(Cool Jazz, 1978)4:27
※夏のヨーロッパ、ジャズ・フェスティヴァルを巡るツアーから、7月23日にイタリア・サンレモで行われたライヴ録音を収めている。こちらもトリオだが、ここからベース担当は、いよいよマーク・ジョンソンに変わる。最初のAB部分がルバートで弾かれるのは普通だが、ソロの最後のB'部分が急にルバートになり、2コーラスだけで劇的に終わるのが特徴。フィリー・ジョーは、今回はブラシを使っている。録音はそれほど良くないが、各所で聴けるピアノの流麗な音符の流れが圧倒的である。
11)『Osaka 1978』(Couriers Of Jazz, 1978)4:34
※最後の来日公演から大阪でのホール・ライヴ(9月13日)。2コーラスの演奏だが、最初のCsharpの音階を下がってくる序奏のあとのピアノ・テーマ(AB)部分では、旋律やハーモニーをこれまでになく変奏している。構成は10)と同じ。ホールの音を拾った録音だけに、後半以降の会場の高揚感がよく伝わってくる。ジョンソンのベースは、持ち味を出してきている。
12)『The Last Japan Concert 1978』(Jokerman, 1978)5:13
※こちらは同じ来日公演から、神戸でのライヴ。テーマ演奏は、今回は通常どおり(ただし、キーはほぼDに聴こえる) 。11)とは対照的に落ち着いた雰囲気の演奏で、右手の細かい動きで旋律を彩るエヴァンスの特徴がよく出ている。

 この時期までの演奏は、おなじみのトリオのほか、サックス、ヴォーカルとの共演、ベースとのデュオ、さらにソロもあり、バラエティに富んでいるのが特徴。以下、例によってラスト・トリオの演奏は次回(その2)で。

2018年4月26日 (木)

011 Theme from M*A*S*H (Suicide is Painless)(その2)

 (その1)からの続き。ここからはすべて、ビル・エヴァンス(p)、マーク・ジョンソン(b)、ジョー・ラバーベラ(ds)という、いわゆるラスト・トリオの演奏となる。

9)DVD『Complete Last Performance』(Vap,1979)約4:01
※1979年1月30日に、アイオワ州立大学で行われたライヴを収めた映像。同大学の「Maintenance Shop」でのライヴということで、その名前の方がファンには通りがいいだろう。上記のDVDは、2回のセットを合わせた完全版になる。上記ラスト・トリオの最初期の演奏記録ということでも注目されるだろう。ひげを生やし薄いブルーのサングラスをかけたエヴァンス、「モニターを少し調整して下さい」と言った後、ためいきをひとつつき曲を弾き始める。どうもセッティングがうまくいっていなかったようだ。ただ演奏は極めてスマートなもの。ドラムスがラバーベラに代わり、前半からうるさく叩き続けるようなことはなくなった。最後のテーマ演奏で、エヴァンスが始めのA部分を弱音で弾き始めると、他のメンバーもさっと音量を下げるなど、この時期からお互いの意思疎通も十分なようだ(この段取りは、これ以後も採用される)。
10)『Live in Buenos Aires 1979』(What's Jazz, 1979)約4:29
※エヴァンスは、1979年の8月初め、ニューヨークにおいて、クインテット編成で『We Will Meet Again』(Warner Bros.)を録音。同16日には、ちょうど50歳の誕生日を仲間内で祝ってもらったのだが、上記アルバムが最後のスタジオ録音になるとは、誰も思わなかっただろう。その後、南米ツアーに出かけた折の記録がこれ。最初、2枚組のLPで出て、その後CD化された。最初のルバートで出るテーマが印象的な和声で彩られている。その後もあまり急速にはテンポアップせずに、この時期の演奏としては演奏時間は長い方。ただし、後半のエヴァンスのピアノはかなり勢いがある。ステレオなのだが、ピアノとベースが真ん中で、ドラムスが左という変わった音場である。
11)『Live at Lulu White's 1979』(Gambit, 1979)約4:24
※ボストンのジャズ・クラブ「Lulu Whites」でのライヴ(10月30日)。2セット全15曲が演奏されたというが、そのうち9曲の録音が残されている。「マッシュのテーマ」は2回演奏されたうち2度目のものとされる。客席のノイズはあるが、きれいなステレオで、各パートの動きもよく聴こえる。ジョンソンのベースは、以前の旋律をなぞるような形から少しづつ進化しているようだ。
12)『Homecoming』(Milestone, 1979)約4:12
※エヴァンスの母校サウスイースタン・ルイジアナ大学におけるライヴ、という特別な記録である(11月6日)。冒頭のテーマでは最初の2小節分を1オクターブ上げている。途中、ラバーベラのドラムスがテンポを煽り気味の感がないではないが、テクニックは見事。サーフェスノイズはあるが、残響も適度にあるステレオ。
13)『Bill Evans Trio / John Taylor Trio Featuring Marc Johnson』(Headless Hawk, 1979)約4:13
※その後、エヴァンス・トリオは、「二十一都市二十四日間」というヨーロッパ・ツアーに出る。そこでも「マッシュのテーマ」は、連日のように演奏されている。初めは有名な「パリ・コンサート」の記録(11月26日)だが、当初2枚組のLP・CDで出された折には未収録曲のひとつであった。ラジオ・フランスのサイトで配信されているほか、こちらの盤が初出。モノラルとステレオの両ヴァージョンが収められている。バランスのとれた安定した演奏だが、エヴァンスの弾くテーマ提示部分の最後で、ちょっとミスタッチのように聴こえる箇所がある。それがオリジナル盤に採られなかった理由だろうか。
14)『Live at Casale Monferrato』(Codec Records, 1979)約3:54
※「パリ・コンサート」の4日後、カザレ・モンフェラートで録音されたライヴ。最初『Last Trio In Italy』という名前でCDRで出て、その後、ハーフ・オフィシャル盤としてCD化されたのが、この盤である。エヴァンスの弾く最初のテーマから、やや弾き急いでいる感じの演奏。強奏で音が割れるせいもあるが、間奏部分の分散コードもやや荒っぽい。
15)『The Last Trio in Germany』(Cool Jazz, 1979)約3:55
※12月3日に、ドイツの「TREFFPUNKT JAZZ FESTIVAL」に出演したときの録音。『Treffpunkt Jazz Festival 1979』というタイトルでも出ている(Style)。きれいなステレオ録音で、今聴いてもその会場に居合わせたかのような臨場感がある(右からエヴァンス、ジョンソン、ラバーベラの順)。演奏は直前の14)ほど荒くないが、途中からどんどんと速くなり、一気呵成に駆け抜けていく。
16)(フランス・リヨンでのライヴからの未発表曲, 1979)
※Leon Terjanianによって撮影されたフィルム。このポートレイト映画については、ペッティンガー本(『ビル・エヴァンス―ジャズ・ピアニストの肖像』ピーター・ペッティンガー)」にも記載あり(p.307)。
17)『Live In Koblenz 1979』(Domino Record, 1979)約3:52
※この日の録音は、当初イタリア・ローマでの録音というふれこみで出ていたが、その後、1979年12月5日、ドイツ・コブレンツでの演奏とクレジットが変わり、さらに当日の全録音を収録していると目されるこのハーフオフィシャル盤『Live in Koblenz 1979』が出た。そこでは11曲が初出で、この「マッシュのテーマ」もその中の1曲。ドラマーがフィリー・ジョーからラバーベラに交代しいったん落ち着いた演奏も、このあたりではまたアグレッシブな曲に戻っている。ベースが真ん中で、ピアノとドラムスが左という変則的なステレオ。
18)CD『Live at Balboa Jazz Club Vol.1』(Jazz Lab, 1979)約4:06
※初出は Ivory から出ていたLPで、このときは『Vol.3』に入っていた(ややこしい!)。スペイン・マドリッドにあるボヘミア・ジャズ・クラブで12月12日に行われたライヴ。音場の狭いステレオで、これもピアノとベースが真ん中で、ドラムスが左という配置。間奏部分のアレンジは、同じようでいて日々変わっている。
19)DVD『The Evolution of a Trio / Concert and TV Broadcasts 1971-1979』(Jazz Music Performances, 1979)約4:14
※この動画は正直、詳細は未確認。「Barcelona, TV Broadcast, December 1979」とのクレジットがあり、解説文には「エヴァンスがマドリッドのボヘミア・ジャズ・クラブで演奏した直後」との記述があるので、この場所に入れておく。3曲入り。「Laurie」「My  Romance」に続いて収録されている。スタジオでの録画ということからか、この時期としてはやや余裕を持ったテンポで進められている(ちなみに Youtube に「Bill Evans Live in Barcelona (1980 Live Video)」という動画がアップされていて、そこでは「Blue in Green」が演奏されている。これはペッティンガー本に記述のある、バルセロナにおける「いくらか形式的なテレビ用の演奏」の方かもしれない)。
20)『Turn Out the Stars; The Final Village Vanguard Recordings June 1980』Disc.3(Warner Bros., 1980)約3;55
※ここからはいよいよエヴァンス最後の年、1980年に入る(4月にハーバード大学でトリオはジョン・ルイスと競演していて、その日も「マッシュのテーマ」を弾いたという記録もあるようだが)。こちらは6月6日のファースト・セットにおける演奏で、左からピアノ、ベース、ドラムスというこのトリオの標準的な配置。エヴァンスが認めた公式録音としては最後のライヴでもある。今回は速い方の演奏で、最後の第7テーマに入る前の間奏もぴたりと決まっている。
21)Blu-rey『The Last Trio Live '80 (Complete Edition)』(Vap, 1980)約4:23
※「最後のヨーロッパ・ツアー」から、ノルウェイのモルデにおけるライヴを聴くことができる、いや見ることができる(8月9日)。かつて4曲のみ収録のDVDが出ていたが、その後2010年に出たBlu-reyでは、11曲プラスインタビュー映像、さらに特典映像(フォトムービー)として「Knit For Mary F」が加えられた。「Theme from M*A*S*H」はその追加分に入っている。先年、『Live '80 〜 最後のヨーロッパ』というタイトルでCD化もされた。ジョンソンが得意のポルタメント奏法を多用して、極めて意欲的なベース・プレイを披露している。ラバーベラの押し出すリズムも心地よいグルーヴを生み出している。ミスタッチはあるものの、エヴァンスはそうした若い二人の演奏を心から楽しんでいて、演奏後は極めて明るい笑顔を見せている。放送局の収録だけに、音響バランスも最上の部類だ。
22)『The Last European Concert』(Gambit, 1980)約4:03
※8月15日、バート・ホニンゲン(ドイツ)での録音。「マッシュのテーマ」はライヴではファースト・セットの3、4曲目前後に、この日、最初のアップテンポの曲として演奏されることが多かったが、ここではアンコールとして弾かれている。ただし、冒頭のテーマがA部分の後半からしか収録されていない。途中、ミスタッチもあるが、ピアノの音、特に高音はエヴァンスの録音史上、トップと言えるくらい美しい。真ん中にピアノとドラムス、左にベースというステレオ。
23)『Consecration - The Last Complete Collection』Disc.1(Alfa, 1980)約4:14
※言わずと知れた、サンフランシスコのキーストン・コーナーでの最後の演奏記録から。8月31日・日曜日のライヴ録音で、『The Brilliant』という1枚物が初出だった。右からピアノ、ベース、ドラムスという配置のステレオ。冒頭、ゆったりと始まるテーマに深淵な和音とトロモロがついている。最後の第7テーマに入る前の間奏に聴かれるブロック・コードも、極めて壮絶。指がまわっていないところも散見されるが、この気迫十分の演奏の前にそれは些細なことにように思える。
24)『Consecration - The Last Complete Collection』Disc.4(Alfa, 1980)約4:10
※9月3日・水曜日の演奏。3日前の演奏より少し落ち着いた感じに聴こえる。弾き終えたあとに、エヴァンスがこれまで弾いた曲の紹介をする。
25)『Consecration - The Last Complete Collection』Disc.7(Alfa, 1980)4:04
※9月6日・土曜日の演奏。エヴァンスはこのあと1日(一説では2日)、キーストン・コーナーで演奏をし、ニューヨークに戻る。同月9日からニューヨークのファット・チューズデイズに出演し、2日目・10日のステージのあと演奏不能となり、15日にマウント・サイナイ病院で亡くなっている。にもかかわらず、極めてスピード感およびライヴ感のあふれた、ある意味、前を向いた演奏であることに、僕は素直に感動した。

<この1曲・この演奏>
 1)の『You Must Believe in Spring』セッションでのファースト録音以降、スタジオではついぞ録音されなかった曲。この盤での完成度の高さは驚異的だが、それをくりかえしても仕方がないこと。その意味では、ライヴの中でこそ新鮮さが保たれてきたわけで、結果、20回を優に超える記録がここに残されたと言える。その意味では、21)のモルデ・ライヴや、キーストンコーナーでの最後のライヴが、エヴァンスにとっての、この曲における到達点だったのではないだろうか。

2018年4月18日 (水)

011 Theme from M*A*S*H (Suicide is Painless)(その1)

 こちらで紹介した「パリ・コンサート1、2」の未発表曲のひとつ。朝鮮戦争における米軍の「移動野戦外科病院=Mobile Army Surgical Hospital」を舞台にした、ロバート・アルトマン監督のコメディ映画『M*A*S*H』のテーマ音楽から。作曲は、エヴァンスの愛奏した「Emily」と同じ、ジョニー・マンデル。エヴァンス史的には、1977年の『You Must Believe In Spring』が初出ということで、晩年のレパートリーのひとつと言える。サブタイトルにもなっている「自殺は痛みがない」という歌詞をビルがどう聞いたかは、もはや僕たちの想像を遥かに超えた事柄だろう。

 一度聴いたら耳に残る、いかにもナイーブな旋律を持つ曲だが、曲の本来の構成としては、アウフタクトによる冒頭の1拍を除けば、A(9.5小節=T9.5)+B(T8)という旋律のくりかえしという単純なもの(4分の4拍子) 。A部分の最後の音を延ばすとき、8小節目だけが4分の2拍子に変わるところがミソで、これはいいアクセントになっている。またエヴァンスはB部分の最後の2小節はいつも省略し、間奏に直接つなげている。なので以下、実質的にはA(T9.5)+B(T6)=T15.5で1コーラスとなる。

1)『You Must Believe in Spring』(Warner Bros., 1977)5:54
※ルバートによるピアノ・テーマ(1コーラス、T15.5)がGのキーで出て、その後テンポを上げて16小節分の流麗な間奏部分に入る。この部分が重要で、後半の8小節で転調、Eフラットでピアノのテーマを出す(1コーラス)。さらに16小節の間奏部分で再び転調し、今度はBでピアノ・テーマを出す、という凝った構成である。テーマ部分はあまり旋律を変奏せず、間奏部分で変化をつけている。このあとそれぞれ間奏を挟みながら、さらにもう一度Eフラット、Bと転調をくりかえし、7回目に最初のGのキーに戻る。最後の後奏では転調せずに終わる(約T10)。つまり調性上、G>Eフラット>B>G>Eフラット>B>Gと、きれいに長3度ずつ下がって循環していくという均整のとれた形になる。こうした発想は、まさにエヴァンスならでは。このセッション録音での上記構成が、この後のライヴ・バージョンの基本になっている。エディ・ゴメス(b)、エリオット・ジグムンド(ds)ともに流麗な伴奏。ソロこそないものの、ゴメスのソリスティックなベースはよく目立つし、さすがの出来だ。アップテンポとなる主部も、まだミディアム・テンポで非常にリリックな雰囲気の演奏である。
(注)この「エヴァンス・レパートリー」では、各演奏に対し原則的にCD等メディアに記載された演奏時間を記していたが、この「マッシュのテーマ」ではすべての演奏で構成がほぼ同じため、テンポの速さと演奏時間の長短が直結している。なので、この項では読者の皆さんの参考までに、おおむね演奏初めから終わりまでの時間を実測して記してある。
2)『Getting Sentimental』(Milestone, 1978)4:45
※ヴィレッジ・ヴァンガードでの隠し録りライヴ(1月15日)。最初のテーマ演奏は、極めてゆったりと始められるが、B部分に入ると徐々にテンポを上げ、間奏になだれ込む(以降、この形が主流になる)。その部分ではいきなりバシャバシャとドラムスが乱入してきて、まさに「何事が起こった?」という感じ。1)から5ヶ月弱しか経っていないのに、この差はやはりドラムスがフィリー・ジョー・ジョーンズに変わったことに帰すべきだろうか。ベースは、新人のマイケル・ムーア。ただしテンポは、これ以降の演奏ほど速くない。また、ドラマーの名誉のために付け加えておくなら、リズム的にはエヴァンスに驚くほどぴったりつけている。特にBの最後の部分でのタムタム類の使い方は、彼の真骨頂だろう。実際、これだけ合わせてくれると、合わせられた側も気持ちがいいだろうし、エヴァンスがフィリー・ジョーと好んで共演した理由もわからないではない。
3)『Grande Parade du Jazz '78』(Cool Jazz, 1978)約4:06
※フランス・ニースでの夏のライヴ・録音(7月7日)。リー・コニッツ等との共演で知られるツアーだが、「マッシュのテーマ」はトリオでの演奏である。テーマを弾き始めてすぐ、エヴァンスが何かを話している(「Suiside is ???」。曲名?)。ドラムスはフィリー・ジョーのまま。ドラムの音は目立つが、ステレオなのでこの手のものとしては比較的聴きやすい方だ。ベースには、いよいよマーク・ジョンソン(b)が登場するが、まだ前には出てきていない(次の演奏曲、「The Peacocks」でのエヴァンスとの一対一のからみはすごいが)。以下、8)までトリオは、同じメンバー。この頃から、曲が進むにつれテンポがだんだん速くなる傾向が見られる。
4)(モントルー・フェスティヴァルでの演奏記録, 1978)
※フランスでの演奏のあと、トリオはスイス・モントルーに飛び、なんとケニー・バレルと共演している(>こちら)。実はここでもトリオのステージで「マッシュのテーマ」を演奏したという記録があるが、未発表(このステージには映像記録もあるが、やはりこの曲は含まれていない)。
5)『Unreleased Live 1978』Track.10(Cool Jazz, 1978)約4:11
※7月19日にはイタリアに入り、テルニで行われた「Umbria Jazz 1978」に出演。そこでの演奏がこの4)となる。映像記録もあり昔から有名だった。これを見ると、ジョンソンは楽譜を見ながら弾いていて、曲が終わった後、エヴァンスが譜面台から落ちたベースの楽譜を笑顔で拾っている光景が見られる。モノラルだが、楽器間のバランスは悪くない。ただし、後半で数か所、テープの伸びが認められる。
6)『Unreleased Live 1978』Track.3(Cool Jazz, 1978)約3:59
※5)から数日後、23日にイタリア・サンレモでのライヴだが、テンポはさらに速めとなっていて、全体にアグレッシブに響く。冒頭に数度、鈴の音が入っているのが特徴。
7)『Osaka 1978』(Couriers Of Jazz, 1978)約4:27
※1978年のビル・エヴァンス最後の来日公演から、9月13日大阪厚生年金会館でのライヴを記録したもの。オープン・リールのテープ・レコーダーを使ったオーディエンス録音(ステレオ)とのことで、音場は遠くやや残響過多の気味があるが、雰囲気は十分だ。コンサート・ホールでの演奏ということが作用したのか、テンポはやや抑え気味になった。フィリー・ジョーは、かなりのはりきりようだが。
8)『The Last Japan Concert 1978』(Jokerman, 1978)約4:16
※こちらは5)と同じ1978年の来日時、9月の神戸での公演を収録したものだが、大阪公演とはどちらが先だったのだろうか。こちらはライン入力をカセットテープに拾ったものということで、より楽器に近いところで音が拾われている。最初の方ではベース音がピアノよりずっと大きく、おかげでジョンソンのベース・パートがよく聴こえている。ゴメスの幅広い音域を行ったり来たりする縦構造の伴奏とはかなり傾向が違う。テーマに合わせ、極めて旋律的・歌謡的なベースを弾き始めているのがわかる。

 これらの演奏では、フィリー・ジョーはいかにも叩き過ぎ(苦笑)。ただ、ここまでくると諦めを超えて、ある種の痛快さも感じざるを得ない。エヴァンス・トリオの「Theme from M*A*S*H 」が、このようにハイテンポかつエネルギッシュなレパートリーのひとつとして、愛奏されていくことになったのには、このドラマーの果たした役割が大きかったと言える。 以上、この曲は意外に演奏記録が多かった。以下9)以降は、いよいよラスト・トリオの演奏となるが、これは次回(その2)に。

2018年3月24日 (土)

パリ・コンサート 1979 アンリリースド・トラックス

[HEADLESS HAWK, HHCD-18404] 1979

 渋谷系から久しぶりにエヴァンス関連の新譜情報が届いた。ラスト・トリオ最大の名ライヴと言えば言わずと知れた『パリ・コンサート1・2』だが、これには未収録曲が2曲あったというのは、有名な話。

「近年になりその幻の2曲が、少数の熱心なエヴァンス・コレクターの間で出回りましたが、それはモノラル音源でした。
今回その2曲の激レアなステレオ音源が遂に発掘され、目出度くここに収録されました。 」(マザーズ・レコード「マザーズ通信」2018/2/19日号より)

 本盤の正式なタイトル名は『BILL EVANS TRIO / JOHN TAYLOR TRIO FEATURING MARC JOHNSON』。これではどういう内容か判別し難いので、マザーズ・レコードでは 《ビル・エヴァンス・トリオ / パリ・コンサート 1979 アンリリースド・トラックス +ジョン・テイラー・トリオ / ハンブルク 2000 フューチュアリング・マーク・ジョンソン》と呼んでいるようだ(本記事のタイトルにも、こちらを採用しておいた)。1979年11月26日、パリでのコンサートの演奏曲目は元々、エヴァンス関連のディスコグラフィや中山本などでは全16曲とされていて、ラジオ・フランスが放送用に収録していたテープが残っていた。プロデューサーのヘレン・キーンはそのテープからライヴ盤を作ったわけだが、ただそのうち3曲目「Theme from M*A*S*H」と16曲目「But Beautiful」だけは、収録時間の関係からか計2枚のオリジナル・アルバムには未収録だった。で、このCD-Rには、ついにその2曲が「ミックスも異なるモノラルとステレオの其々2ヴァージョン、計4トラック」含まれているという。

1)Theme from M*A*S*H(MONO) ※Suicide is Painless 表記。3)も同じ。
2)But Beautiful(MONO)
3)Theme from M*A*S*H(STEREO / Another broadcast version)
4)But Beautiful(STEREO / Another broadcast version)

Bill Evans (p)
Marc Johnson (b)
Joe LaBarbera (ds)

1979/11/26 (Paris)

 ざっと自宅のCDラックを眺めただけでも、両曲をともに含むライヴ・アルバムとしては『Getting Sentimental』『Unreleased Live 1978』 『Osaka 1978』『The Last Japan Concert 1978 』『Homecoming』『Live at Casale Monferrato』『The Last Trio In Germany 1979』『Live '80 〜 最後のヨーロッパ(映像あり)』『The Complete Last Concert in Germany』が見つかった※。ともに晩年のエヴァンスが愛奏した曲だけに選曲自体が貴重というわけでもないが、かの名作「パリ・コンサート」の日の演奏となると、やはり聴いてみたくなるのが人情というもの。これは、もしかして僕が聴いている盤固有の現象かもしれないが、2)の「But Beautiful」で時折、雑音が混じり、さらに右チャンネルの音が途切れるという問題がある。またこの「But Beautiful」においては、2)4)ともにラバーベラのブラシ音が、弱い。とはいえ、これらの点以外は、良好な録音である。特にエヴァンスのピアノの音は、高音を中心に非常に美しく録れている。ステレオ・ヴァージョンの楽器の定位は、左からピアノ、ベース、ドラムスの順で、これはオリジナル盤と同じ。演奏としては、これ以前のライヴに比べて、落ち着いたよく練れた表現で、このコンサートの他の曲と続けて聴いてもまったく遜色はない。無論、コンサートの全貌が明らかになった意義は大きいが、それ以上に両曲の完成度の高い演奏が、こうして記録に残ったことは、うれしい限りだ。

 なおこの盤には、以下、ラスト・トリオのベーシスト、マーク・ジョンソンが、ジョン・テイラーとジョーイ・バロンと組んだトリオによるドイツ・ハンブルクで行われたライヴ(2000年5月19日)が合わせて収録されている。ちなみに全5曲の内、最後の曲はエヴァンスもよく弾いた「How Deep is the Ocean?」(>こちら)。

※ほかに映像では、1980年1月にアイオワ州立大学で行われた「Maintenance Shop」でのライヴ (DVD『Complete Last Performance』に収録)があった。また1980年9月のキーストン・コーナー での一連の「ラスト・ライヴ」にも両曲を弾いたセットがあるようだ(9月6日)。

<追記1>こういう場合によくありがちなことだが、今回紹介したものとは別に、『Paul Motian Quartet / The Music Of Bill Evans』というCD-R盤があるようだ。こちらは大御所ポール・モチアンの1994年11月14日、ドイツ・ブレーメンでのパフォーマンスを収めたもので、そのボーナストラックにも「パリ・コンサート」から上記2曲がクレジットされている。僕は未聴だが、HEADLESS HAWK盤が手に入れにくいという方は、ネットで検索してみてください。
<追記2>ume さん(>poor_audioのブログ )という方から下記コメントで教えていただいた情報。Radio France の音楽専門サイト France Musique で、上記「パリ・コンサート」の放送用録音=全曲が mp3 で公開されているという(>こちら)。一部を聴いてみたが、なかなかきれいな音である。情報ありがとうございました。

2018年2月24日 (土)

『Bill Evans in Yugoslavia』

[Space Shower Network, XQAM1652] 1972

 「Dober večer. ドベル ヴェチェル(こんばんは)」というエヴァンスのスロヴェニア語のあいさつで始まるライヴ・・・12月に発売予告記事を書いておいたCD『Bill Evans in Yugoslavia / The 1972 Ljubljana Concert』がついに発売された。収録作品については、その記事にも書いたようにすでに既出の音源である(1972年6月1日、リュブリャナで収録)。このサイトとしては、当然のことながら音質等の比較とならざるを得ない。比較すべき音源は、今回の以下の3点。

1)『Complete Live At The Festival』Cool Jazz(CD-R)
2)『The 1972 Ljubljana Concert』Balcan(CD >こちら
3)『Bill Evans in Yugoslavia』Space Shower Network

 1)は低音に傾いた落ち着いた音調で、ノイズも少ないため一見、聴きやすい。それに比べ、2)はデジタル的な音作り。ピアノの高音こそきれいに響くが、全体にサーフェス・ノイズが被っている。今回の3)は、1)2)の中間といった感じ。1972年7月2日と10月3日に英BBC・ラジオで放送された音源のオリジナル・テープからの復刻というだけあって、2)にあった一部、不安定なところも解消しているようだ。

 ただ、これはヘッドフォン等で細かく聴いたときの話だが、音量が上がる部分にチリチリというごく小さなノイズが入っていて、これは実は1)と同じである。オリジナル・テープに入っているということなのかもしれないが、このチリチリ音を後処理で完全に消すことは難しいと思われる。なので、その意味ではチリチリ音のない2)は別音源だったと言えるかもしれない。以上、3枚ともモノラル。我が家の環境で聴く限り、音場的には1)が最もコンパクトで、中央よりほんの少し左に定位する。2)は広めの音場で、特にエヴァンスのMC(このライヴは、珍しくすべての曲にエヴァンスのMCが聴ける)には、ステレオ・プレゼンスがかかっているようにも聴こえる。ピアノは中央よりやや右から聴こえる。3)は、ほぼ中央、という違いもある。

 いずれにせよ、エヴァンスが最も精力的だった時期のライヴが、正規音源で聴けるようになったのはありがたい。ファンにとってはおなじみのレパートリーが続くようだが、「What Are You Doing The Rest Of Your Life?」あたりは、演奏回数もそれほど多くないだけに、メランコリックなメロディーが心に沁みる。トニー・オクスリーのブラシ・ワークとともに、記憶に留めておきたい演奏だ。

※追記 肝心なことを書き忘れた。enja から出ていたオリジナルのCD『Live At The Festival』 には 、「Nardis」1曲だけが収録されているが、これはきれいなステレオ録音であった(『Complete February 1972 Paris Ortf Performance』(DOMINO RECORDS)所収のものも同じ)。左にオクスリーのドラム、ゴメスのベースが中央、エヴァンスのピアノが右側から聴こえる。9分あたりから4分強続く派手なドラム・ソロは、当然ながらステレオの方が非常に映える。ということは、おそらく enja records にはサウンドボード録音があると思うのだが。

2017年12月15日 (金)

フェスティバル・リュブリャナの新盤発売

 ビル・エヴァンスは、1972年にユーゴスラヴィア(現スロヴェニア)のリュブリャナで行われたジャズ・フェスティバルに出演した。その時のライブ演奏を収めたCDの新盤が出るという。私たちの年代のファンは、フェスティヴァル後に出た「Nardis」1曲を収録したオムニバスLP盤『Live at the Festival』(enja)を中古屋で探していて、なんとか手に入れた後にそれがCD化され、それも喜んで購入したのもつかの間、今度はエヴァンスの出番すべてを収めたCD-R『Complete Live at Festival』がおなじみの Cool Jazz から出てまた大喜び・・・という経験をしているはずだ、多分。その後、こちらで紹介した『1972 Ljubljana Concert』(Balcan Records)で正式にCD化されたことがあったが、音質がいまいちということで、結局、Cool Jazz をレファレンスにしなければならないという結果になっていた※。

 で、今回、HMV から発売のアナウンスがあった『Bill Evans in Yugoslavia / Ljubljana Concert 1972』だが、今回は英国のBBCラジオが、1972年7月2日と10月3日に放送した音源を使っているらしく、以下のような紹介文が付いている。

「今回は当時英国のBBCラジオがイギリス向けに放送した音源をもとに丁寧に今話題のUltimate HQによるマスタリングで音質を向上させている。バックは朋友のエディ・ゴメス(ベース)と英国のトニー・オクスリー(ドラムス)。」

 曲目等は、前発言「弦楽四重奏でエヴァンスを」に寄せていただいた ktdchon さんのコメント通り「Balcan Records 3991029 と曲順がまったく同じでした。/※ラストの 「I'm Getting Sentimental Over You」 は/ロニー・スコッツでのライブなので収録されていませんが・・・」ということなので、特に初出曲があるわけでもないのだが、せっかくなので音質改善に期待して、発売日である2018年2月21日を待とう!

※15分を超える「Nardis」だけは、『Complete February 1972 Paris Ortf Performance(DOMINO RECORDS)にも収録されている。

2017年10月25日 (水)

弦楽四重奏でエヴァンスを

※以下の記事は、2008年に別サイトに書いた記事を転載したものです。エヴァンス関連の文章として再録しておきます。

 うちの隣の隣の市にある中古ディスク店「フラミンゴ・レコーズ」恒例の倉庫市が週末にあったので、休日出勤の後でのぞいてきた。ちなみに今回買った中古盤は、最近ちょっと凝っているモーツァルトの舞曲集のLP(ボスコフスキー指揮の3枚組、ロンドン・レコード)、アルゲリッチとマイスキーのベートーヴェンのチェロ・ソナタ集CDの前半1枚目(後半の2枚目だけは持っていた。ドイツ・グラモフォン)、それから最後が、今、聴いているクロノス・カルテットの演奏した『ビル・エヴァンス作品集』のCDだ(ランドマーク)。

 ビル・エヴァンスは、ジャズ・ピアニストの中でも最もクラシック音楽に近い存在だろう。テクニックももちろんあるし、印象派風の和声感覚と繊細なタッチは、クラシック・ファンにも受け入れやすいはずだ。なにしろ彼には、自宅における練習風景を収めた『Practice Tapes No.1』なるCDがあり(没後に出たものだが)、これにはバッハの平均律を弾いたものまで入っている。エヴァンスは1980年の9月に亡くなっているが、現代音楽専門の弦楽四重奏団として知られるクロノス・カルテットが、エヴァンスの作品集を録音したのは、そのちょうど5年後にあたる秋のことだ。

 このCDの第一番目の曲は、もちろん彼の代表作である「ワルツ・フォー・デヴィ」。エヴァンス自身も、ソロやトリオで何度も録音を残しているが、最も有名なのは1961年の6月25日の日曜日にニューヨークのヴィレッジ・ヴァンガードで演奏された、その名も『Waltz For Debby』というアルバムに収録されたテイクだろう。というのもこのライヴの貴重さは、その11日後に共演していたベーシストのスコット・ラファロが、交通事故で亡くなるという結末が待っていることにもよる。もちろん録音当日には、そんなことは誰にも予想できなかったはずである。その演奏はある種完璧なまでに完成されていて、まったく後の悲劇につながる要素はないほど澄明な音楽が流れている(そのことが聞き手に、どこまでも青い夏空を眺めているときのような透明な悲しみを呼び起こすとしても)。

 さて弦楽四重奏で聴くエヴァンスの姪っ子「デビィ」のためのワルツだが、冒頭から原曲の雰囲気を壊すことなくうまくストリング・アンサンブルに移し替えていて、エヴァンスの演奏に慣れ親しんだ耳にもほとんど違和感はない。少しあって、ハイポジションで弾かれる低弦のピチカートが入ってくるが、これもラファロのベース演奏で聴き慣れた原曲のテイストどおり。初めて聴いたときは、チェロでベースのパートを模しているのかと思っていたのだが(このCDの後半には実際そういう編曲もある)、やがてこれは正真正銘ベースの音だとわかってくる。CDのクレジットを確認してみたら、なんとビル・エヴァンス・トリオのレギュラー・ベーシストのひとりであるエディ・ゴメスが参加していた!

 エヴァンスの演奏歴は、ベーシストの変遷でもって語られることが多い。その中でゴメスはラファロの次の次=三代目にあたり、最も長い期間をエヴァンスとともにしている。トリオ・メンバーだった当時は、どうしても天才ラファロと比べられただろうし、時には心ない中傷の言葉を受けたこともあったと思うけど、この弦楽四重奏バージョンでのゴメスは、本当に楽しそうにベースを弾いている。まるで、空の向こうのビルに聴かせようとでもいうように生き生きと・・・。このCD、現在は品切れ(デジタルミュージク版ならある)のようだが、クラシック・ファンにも楽しめる好企画盤なのでぜひ復活させてほしい。

※このアルバムには、ゴメスのほかにも、エヴァンスと共演歴のあるギターリスト、ジム・ホールが参加している。また全9曲の収録曲のうち1曲だけエヴァンス作曲以外の曲があり、それがマイルス・ディヴィス作の「ナルディス」というあたり、選曲もなかなか優れている。しかし、それもこのCDのプロデューサーが、オリン・キープニュースと聴けば、納得せざるを得ない(彼は、リバーサイド時代からずっとエヴァンスをプロデュースしていた盟友だ)。

※※余談だが、ドイツ・グラモフォンに、ゴリホフ(Osvaldo Golijov)というアルゼンチン生まれの作曲家の作品集『テネブレ、オセアナ、3つの歌曲』があり、これに収められた「テネブレ」(2002年)という曲にクロノス・カルテットが参加している。実はこのCDのジャケットは、ビル・エヴァンスがジム・ホールと共演した『アンダーカレント』というアルバムの表紙と同じデザイン。それは水面から顔だけを出して浮かんでいる女性の全身を、水中から撮ったモノクロームの写真(Toni Frissell というアメリカの女流写真家の作品)であり、名ジャケットとしてLP時代から有名だったもの。どういう意図なのかは、僕にもわからないけれど、クロノス・カルテットとエヴァンスのつながりとして見ると興味深いものがある。

□ ランドマーク, VICJ-5005

2017年9月30日 (土)

『On A Sunday Evening』ハイレゾ版

[Fantasy, FAN00095(CD)] 1976

 前回に引き続き、今春発売されたエヴァンス・トリオのもう一つの新作『On A Monday Evening』についても、遅ればせながらハイレゾ版で聴いてみた。「e-onkyo」でダウンロードしたものだが、こちらはなぜか「flac 192kHz/24bit ¥2,070」という選択肢しかない。ちなみにこの作品も、アナログLP版が出されている(当然、mp3バージョンもある)。これは近年の多様化するメディア状況を反映した結果でもある。

 1976年11月にウィスコンシン大学マジソン校のユニオン・シアターで行われたライヴ録音とのことで、当然ながら音質にも期待が高まる。会場のユニオン・シアターは、CD解説のアシュリー・カーン※1によれば、1,000席もある会場とのこと。 ただ実際、CD版も含め聴き比べてみたが、ホールトーンが少ない、やや平板な感じの音響になっている(なんとモノラル録音だった)。特に、ゴメスの弾くベースが、ボワーン・ボワーンとお風呂で聴くように響く部分がある。その中でエヴァンスのピアノは、程度の良いホールの楽器を使っているせいか、高音を中心に非常にきれいに捉えられている。これは大きな救いである。たとえば、「Someday My Prince Will Come」のピアノ・ソロ、1分前後の流れるような旋律などは、なかなか聴けるものではない。

 演奏曲目は、この時期のツアーでよく弾かれている曲が中心になっている。同じファンタジーから出ていたライヴ盤『The Paris Concert』が1976年11月5日収録なので、ヨーロッパ・ツアーから帰国した直後の記録ということになる。実際、「Sugar Plum」「Time Remembered」「Someday My Prince Will Come」「Minha (All Mine)」「All Of You」の4曲が、このパリ・ライヴと被っている(それぞれカットされている曲があるので、実際にはもっと被っていただろう※2)。「Sugar Plum」はエヴァンスの手になる比較的新しい曲で、1971年にコロンビアで残した意欲作『The Bill Evans Album』で発表されたもの。70年代の彼の作品中でも屈指の名曲と思うが、ここでもアルバム冒頭の曲として聴きごたえ十分だ。冒頭の長いピアノ・ソロが終わりベースとドラムが加わってくる箇所は、いつ聴いても胸踊る瞬間である。このソロは3分以上続くときも多いが、今回のライヴでは2分程度で収めている。人懐っこい旋律が魅力の「Up With The Lark」を挟み、「Time Remembered」の深遠な響きを聴くと、もう録音のことは忘れて聴き入っている自分がいる。3分ちょっと過ぎから出るゴメスによるアルコ・ソロは、彼としても自慢できる出来ではないか。「T.T.T.」も上記『The Bill Evans Album』が初出。クラシックの12音技法をジャズナンバーに取り入れた曲としては最も成功した曲の一つだろうが、ここでもゴメスのテクニックには舌を巻くほかない。最後の「Some Other Time」はエヴァンスにとって名演度の高い曲で、実際、60年代にもいくつか印象的な録音を残しているが、70年代後半のトリオ演奏としては貴重だろう※3。テンポ・雰囲気等は有名なヴィレッジ・ヴァンガードでのファースト・トリオの演奏(1961年)によく似ていて、 過度に重くならず、心持ち早めのテンポでさらっと終えている。

 収録曲はただ1曲「All of You」を除いて、長くても6分ちょっとに収まる尺であり、アルバム全体としては実に落ち着いたトーンで進めたライヴとなっている。エヴァンスのプライヴェート上の安定ということもあるのだろうが、音楽的にはドラムスがマーティ・モレルからエリオット・ジグムンドに変わったことが大きいだろう。で、その「All Of You」だが、それぞれのソロも含めて10分近い長さになっている。三人とも心置きなく演奏していて、聴く方も新生エヴァンス・トリオの魅力を十分堪能できる。

1)Sugar Plum
2)Up With The Lark
3)Time Remembered
4)T.T.T. (Twelve Tone Tune)
5)Someday My Prince Will Come
6)Minha (All Mine)
7)All Of You
8)Some Other Time

Bill Evans (p)
Eddie Gomez (b)
Eliot Zigmund (ds)

1976/11/15 (Madison, Wisconsin)

※1 『マイルス・デイヴィス「カインド・オブ・ブルー」創作術 (モード・ジャズの原点を探る)』(DU BOOKS)の著者として有名(>こちら)。
※2 例えば、この年のライヴ記録で最も完全に残っていると思われる9月6日の「ケルン・コンサート」(>こちら)のセットリストとは、6曲が被っている。
※3 前年(1975年)に、トニー・ベネットとの共演で演奏したのが、きっかけとなったのだろうか。

2017年9月26日 (火)

『Another Time: The Hirversum Concert』ハイレゾ版

[Resonance, HLP-9031(LP)/HCD2031(CD)] 1968

 先週、筆者のメールアドレスにハイレゾ音源の配信サイト「e-onkyo」から「ウィークリー・ランキング」なるメールが届いた。なぜそのことをここに書くかと言えば、配信音源のランキング第1位が、エヴァンスの『Another Time: The Hirversum Concert』だったからである。これはある意味びっくり。トップ10中には、クラシックの特別割引商品が1つ入っているだけで、あとはJ-Popや洋楽といったポピュラー・ミュージックで占められている。こうした事情に通じているわけではないが、ジャズの商品としては異例なのではないだろうか?

 このアルバム自体は、こちらの発売予告記事でご紹介した発掘音源で、今年2017年4月にアナログLPだけという仕様で発売されたので驚いた憶えがある。咋月末には無事に?CDバージョンも発売になり、結局、我々は両方買わされるはめとなる(なった)のだが・・・今度はハイレゾ音源である。

 さっそく「e-onkyo」のサイトに飛んでみる。と、以下の7つのラインナップがある。
1. WAV 96kHz/24bi  ¥1,125
2. WAV 192kHz/24bit  ¥1,350
3. flac 96kHz/24bit  ¥1,125
4. flac 192kHz/24bit  ¥1,350
5. DSF 2.8MHz/1bit  ¥1,450
6. DSF 5.6MHz/1bit  ¥1,575
7. DSF 11.2MHz/1bit  ¥1,575

 いずれもCD(44.1kHz/16bit)よりも高音質。それでいて同盤のCDはネット店でも2千円ちょっと、LPにいたっては3千円以上したはずである。なので、この価格帯は魅力的に映る。しかもパソコンにダウンロードして、DACにつなげばすぐ聞けるというのは、なかなか便利だ。で、買ってみた。我が家の視聴環境だと、DSD256(DSD11.2)はネイティブで聴けないのだが、6. DSF 5.6MHz と値段が変わないので、7. DSF 11.2MHz の方をダウンロードした。しかもちょうど先週、「【9/22 moraメルマガ】本日、iOS向け音楽プレイヤー『mora player』がDSD11.2MHzまでの再生に対応いたしました!」というお知らせが届いていたので、さっそくiPhoneにDACをつなぎ試してみることにした。DSD音源は、PCM系に比べアナログライクと言われることが多いが、確かにあまりデジタル臭さを感じさせない落ち着いた音作りである。もしかして、CDの方が鮮度が高く感じられるかもしれない。それでもシンバルやハイハットの音は、しっかりと中央部に定位し、実在感が高い。何よりも会場の空間がよく表現されている。これはまさにハイレゾ、DSDのおかげだろう。

 本作は、1968年6月22日にオランダ・ヒルフェルスムで行われたスタジオ・ライヴの記録である。このところエヴァンスほかの発掘音源を次々と出しているレゾナンスが手がけたもの。先年、ジャック・ディジョネットを擁した新しいエヴァンス・トリオのメンバーが、ドイツ・フィリンゲンのMPSスタジオで行ったセッション録音盤『Some Other Time: The Lost Session from the Black Forest』(同年6月20日録音)が発売され大いに話題になったが、それもこの会社の手になるものだった。演奏曲の中で、直前(同年6月15日録音)の『At Montreux Jazz Festival』と共通なのは、「Embraceable You」および「Nardis」の2曲のみ。また、上記の2枚組『Some Other Time』とも、「You're Gonna Hear from Me」と「Very Early」「Turn out the Stars」の3曲しか被っていない。これらの中では、なんといっても「Embraceable You」が珍しい。「モントルー」盤で初めて取り上げた曲だが、まるで琵琶でも弾いているかのようなゴメスの硬派なソロが、こちらでも異彩を放っている。他の曲も、この時期、集中して取り上げた「You're Gonna Hear from Me」や「Alfie」のほかは、ほぼエヴァンスが長年弾き込んだと言えるナンバーが並んでいる。「Nardis」では、冒頭「シ・ミー」と上がるおなじみのテーマと、そこに「タッター」とたたみ掛ける合いの手が、いつもよりずっと短く、極めて斬新だ。これは「モントルー」盤でも聴かれるので、まさにディジョネット効果と言えるし、その後の長いドラム・ソロもまったく退屈させず聴かせるのはさすがだ。録音も上記のように非常に優れている。「新たな名盤の誕生だ!」。

 なお、雑誌「Jazz Japan」の Vol.85(OCT.2017) に、レゾナンスで当盤の発掘を進めたゼヴ・フェルドマン氏のインタビュー記事が掲載されている。またインタビューの最後には、「進行中のものがいろいろあるけれど,ビル・エバンスは78年にトリオが最後に来日したとき,日本の高知のクラブで収録されたものをはじめ,まだまだ貴重な音源が多くある。」とフェルドマンは語っていた。これが実現するのだとしたら、我々はしばらく待つ楽しみを味わえそうだ。

1)You're Gonna Hear from Me
2)Very Early
3)Who Can I Turn To?
4)Alfie
5)Embraceable You
6)Emily
7)Nardis
8)Turn Out the Stars
9)Five

Bill Evans (p)
Eddie Gomez (b)
Jack DeJohnette (ds)

1968/6/22 (Holland, Hilversum)

2017年9月24日 (日)

1965年秋の訪欧ツアーまとめ(補遺)

 今月初めから、1965年の秋にエヴァンスが単身ヨーロッパに渡って行ったツアーに関連する記事を書いていた。ひと段落ついたので、以下、記事中に触れられなかった点について、少し書いておきたい。

 1965年10月29日にベルリンのフィルハーモニーで収録されたとされるメドレーの第1曲「How Deep is The Ocean」について、今聴けるCD『Live In Europe 1965』盤(さらに元盤である『Together Again』LP・CD盤(Moon))には、コニッツのソロ(2コーラス目の後半あたり)にほぼ半コーラス分カットがあることを指摘しておいた。完全版はイタリア製のLP『Lee Konitz / Chet Baker / Keith Jarrett Quintet』(Jazz Connaisseur)に収められている。(その1)の注にも書いたことだが、このLPには同内容のCDがある。『Lee Konitz Meets Keith Jarrett, Chet Baker & Bill Evans』(Jazz View, CDD 031)がそれであり、前記事を書いた折には、当該CDがまだ手元に用意できていなかった。その後、調べてみると、このCDにおける「How Deep is The Ocean」の収録時間は「5:20」であることがわかった(下記画像を参照)。

Lee_konitzevans

 これは上記『Live In Europe 1965』盤等とほぼ同じタイムである。もしかしてこのCDにもカットがあるのだろうか。で、先日、ようやくこの音源を手に入れることができた。CDのタイム表示は、「5:33」 。それでも、LPの「約6:48」とは開きがある。実際に聴いてみると、途中のアルトサックス・ソロは、LPバージョンと同じ長さ。となると、どこにカットが・・・? 疑問に思いながら最後まで聴いていくと、テーマ再現部の終わり4小節の前で、なぜかフェードアウトしていた※1。CD化された時に、なぜあえてこのような面倒臭い処置をしたのかは不明である。が、結果、上記LPはやはり貴重だということがわかった。

 次も偶然、同じ「5:20」というタイムに関する話題。エヴァンス・レパトリーの「009 Beautiful Love」の記事で、Verve盤『At Town Hall Vol.1』のオリジナルLPには、この「Beautiful Love」は収録されていなかったということを僕は書いている。今ではほとんどのCDにボーナス・トラックとして収録されているが、元々は同じ Verve から出たベスト盤LP『The Best of Bill Evans』が初出だった。そのこと自体には問題がないのだが、念のためこのLPを取り出してきたら、なんとレーベル面に、A面第1曲「Beautiful Love」のタイムとして「5:20」との記載がある。

The_best_of_bill_evans

 最近のCD等には、この追加曲のタイムは「6:54」となっている。もしかして、こちらもカットがあるのかと思い、ターンテーブルにLPを乗せ計測してみた。しかし、その収録時間はほぼ「6:54」前後であり、演奏にも変わりはない。どうやらこれはLPのレーベル表記の方が間違っていたようだ。念のためと思い、もう一枚、自宅にあった国内盤再発LP『タウンホールのビル・エヴァンス』(Polydor, 23MJ 3039)をレコード・ラックから探し出してきた。こちらにはA面最後に「Beautiful Love」が、B面冒頭に「My Foolish Heart」が追加収録されているからである※2。ライナーノーツには「6:47」という表記があるが、やはり中身は同じ演奏であった。以上、これらのCD・LPを聴く際の参考になれば・・・。

※1 曲全体の構成は、こちら
※2 現在はもう一曲「One for Helen」も含む「+3」仕様のCDが多い。

2017年9月22日 (金)

010 How Deep is The Ocean

 1965年秋の訪欧ツアーに関する曲の最終回。前回取り上げた「Beautiful Love」とは、『Explorations』に収録されていた曲という点でも共通点がある。ただし、この曲の場合、1つを除き録音記録は1960年代に集中している。

 曲の構成は、ABAC。各8小節づつで計32小節となる(特に記載のない演奏は、トリオ編成)。

1)『Explorations』(Riverside, 1961) 3:34
※スコット・ラファロ(b)、ポール・モチアン(ds)というファースト・トリオによる2枚目のアルバムから。こちらは本編に採用されたテイク1にあたる。よく言われることだが、この演奏の特徴は引っかかるようなリズムで出るテーマが、オリジナル曲のそれと大きく違い、すでに変奏されていること。3分半という短い尺だが、終わり近くにやっとテーマらしき旋律が顔を出す。全体の構成は、変奏されたピアノ・テーマ(1コーラス、T32)、ピアノ・ソロ(1コーラス、T32)、ピアノ・テーマ(1コーラス、T31)、後奏(3拍子のリズムを4回くりかえしてエンディングのフレーズ)。ピアノ・ソロでの流れるような音の連なりは何度聴いても新鮮で、耳をそばだてざるを得ない。
2)『Explorations - Original Jazz Classics Remasters』(Riverside, 1961) 3:48
※このテイク2は、『The Complete Riverside Recordings』にも収録されず、この「Original Jazz Classics Remasters」シリーズで初めて登場したバージョン。このテイクでも旋律は違うが、また引っかかるようなリズムで曲を始める。構成は、1)と同じ。こちらにも書いたことだが、テイク1のラファロは低音中心で弾いているのに対して、テイク2の方はハイポジションを多用している。
3)『Bill Evans Trio "Live"』(Verve, 1964) 5:55
※西海岸・カリフォルニアでのライヴというのは、エヴァンス的には珍しい。メンバーは、チャック・イスラエル(b)、ラリー・バンカー(ds)。1)2)とは違うテーマ変奏(AB部分)で始まる。ただこちらは次の(AC部分)でほぼ完全なピアノ・テーマを出す。その後、ピアノ・ソロ(2コーラス)、ベース・ソロ(2コーラス)、ピアノ・テーマ(1コーラス、T32)、後奏(T2の後、2拍子のリズムを3回くりかえしてエンディングのフレーズ)。まだまだ余裕を持ったテンポで弾いているし、イスラエルの歌うようなベース・ソロも絶妙。これは名演だろう。
4)『Live in Paris 1965』(Lonehill, 1965) 6:26
※3)と同じメンバーによる1965年の最初のヨーロッパ・ツアーでのライヴである。1988年にまさに『How Deep is The Ocean?』というタイトルのLP(Heart Note)で出たのが初出で、音質はやや落ちる。放送録音らしく、曲頭に曲名をフランス語訛りで呼ぶアナウンスが被る。初めて曲頭にゆっくりとしたルバートによるピアノ・テーマが入った(約T12分)。その後、通常速でのテーマ演奏、しかもオリジナルに近い旋律が続く。以下、ピアノ・ソロ(3コーラス)、ベース・ソロ(3コーラス)、ピアノ・テーマ(1コーラス、T32)、後奏(T2の後、2拍子のリズムを3回くりかえしてエンディングのフレーズ)という構成。ソロは3コーラスづつというフルサイズだが、テンポが速めになっているせいか、演奏自体は少しも長いとは感じない。イスラエルのベース・ソロの後、盛大な拍手が出るが、彼のベースはエヴァンス・トリオの歴史にあってもっと評価されてもいいのでは。
5)『Complete Live at Ronnie Scott's Club 1965 + Penthouse 1966』(So What, 1965) 約5:40
※こちらも3)4)と同じメンバーによるライヴ。構成は、ルバートによるピアノ・テーマ(A部分)〜通常速でのオリジナル・テーマ(BAC部分)、ピアノ・ソロ(3コーラス)、ベース・ソロ(3コーラス)、ピアノ・テーマ(1コーラス、T32)、後奏(T2の後、2拍子のリズムを3回くりかえしてエンディングのフレーズ)。元々は「Jazz 625」というテレビ番組として英国で収録されたもの。2セット分が撮られ、以前から映像ソフトとして何度も発売されてきたが、現在ではいずれも品切れ中のようだ。次善の策としてCDRながら当盤を上げておく(ただし「ロニー・スコッツ・クラブ」での演奏ではない)。やはりテンポは速めだが、エヴァンスのピアノはコロコロと玉のような音色で心地よい。そのおかげか、それほど早急な感じはしない。
6)LP『Lee Konitz / Chet Baker / Keith Jarrett Quintet』(Jazz Connaisseur, 1965) 5:48
※『ヨーロッパにおけるリー・コニッツ(as)、ニールス=ヘニング・オルステッド・ペデルセン(b)、アラン・ドウソン(ds)というメンバーとの一連のツアー演奏から。10月29日にベルリンのフィルハーモニーで収録されたとされるメドレーの1曲目にあたる(他の曲は「Detour Ahead」「My Melancholy Baby」)。冒頭、アルトサックスがルバートでいかにも雰囲気重視の前奏を始めた後、約T4分の序奏に乗って通常速のテーマ演奏につなげる。コニッツがそのまま2コーラスのソロを吹き、続いてピアノとベースがそれぞれ1コーラスづつのソロを取る。その後、コニッツのテーマ・ソロに戻り、最後T4をゆっくり吹いて次の曲に移る。『Live In Europe 1965』(Lonehill) 盤という復刻CDにも収録されているが、当該LPと比べると、『Live In Europe 1965』盤(さらに元盤である『Together Again』盤(Moon))には、コニッツのソロにほぼ半コーラス分(2コーラス目の後半あたりに)カットがあるので注意が必要だ。演奏自体は比較的ゆったりと流れて、コニッツとの共演では成功した方だろう。エヴァンスのソロも短いがさすがに味がある。
7)『Lee Konitz Trio & Quartet Featuring Bill Evans』(Magnetic Records, 1965) 6:39
※こちらは6)と同じツアーから、10月31日もしくは翌日11月1日にコペンハーゲンのチボリ・ガーデンで録音されたもの。この演奏は、リー・コニッツがピアノなしで2曲を披露したあと、マイクを握り「もしこの会場のどこかにビル・エヴァンスがいるなら、ステージに上がって一曲参加してもらいたいんだが。」と呼びかけて始まった。実際、このCD にも曲間にそのアナウンスが収録されている。こちらでは、わざわざ舞台上に呼び出しただけあって、テーマ演奏~始めのソロは、エヴァンスに取らせている。全体の構成は、ルバートによるピアノ・テーマ(AB部分)〜通常速でのオリジナル・テーマ演奏(AC部分)、ピアノ・ソロ(2コーラス)、アルトサックス・ソロ(3コーラス)、ベース・ソロ(1コーラス)、ピアノ&アルトサックス・テーマ(1コーラス、T31+集結和音)。またこの演奏には映像版が残っていて、それを見る限り引き続き「Beautiful Love」が演奏された。
8)『The Secret Sessions, Recorded at the Village Vanguard, 1966-1975』(Milestone, 1967) 6:04
※セット中、ディスク4に収録。ヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴ録音。ドラムス担当がフィリー・ジョー・ジョーンズと聞いて、派手なドラミングを想像される方も多いと思うが、意外におとなし目の進行に始まる。とは言え、ソロ部分では徐々に速度を上げ盛り上げていく。ベースはエディ・ゴメス。
9)『Jazzhouse』(Milestone, 1969) 5:45
※1969年11月の訪欧ツアーにおいて、コペンハーゲンのジャズハウス「モンマルトル」で行われたライヴを、後に発掘した音源である。8)とともに元々、録音や放送されることを前提した演奏ではないが、さすがはエヴァンス、水準を超えるパフォーマンスを見せている。深遠な響きに彩られたルバートによるピアノ・テーマ(A部分)に始まり、通常速でのオリジナル・テーマ演奏(BAC部分)につないでいる。以下、ピアノ・ソロ(4コーラス)、ベース・ソロ(3コーラス)、ピアノ・テーマ(1コーラス、T32)、後奏(T3の後、2拍子のリズムを3回くりかえしてエンディングのフレーズ)という構成。エディ・ゴメス(b)に、新鋭マーティ・モレル(ds)が加わった極めて流麗な演奏。こちらも曲が進むにつれてどんどんテンポアップしていき、最後のテーマ再現からエンディングは、かなりの速さとなる。ベースのゴメスが雄弁なのはこのライヴ全般の特徴だが、この曲でも聴きごたえ十分のソロを聴かせている。
10)『Great American Music Hall 1975』(Cool Jazz, 1975)7:19
※サン・フランシスコ、アメリカン・ミュージック・ホールでのライヴから。ドラムスはエリオット・ジグムンドに変わっている。ベースのゴメスを、楽器につけたピックアップ・マイクで拾っているのだろうか。不自然なくらい音場が近く、こちらもゴメスが目立つ演奏となっている。

<この1曲・この演奏>
 『Explorations』におけるファースト・トリオの演奏は、雰囲気は十分でいつ聴いても落ち着くが、(変奏で始まるという)凝った構成が好悪を分けるか。正直、ラファロのソロも聴きたかった。また、60年代後半以降の演奏は、流麗さにおいて勝るとは言え、この曲の演奏としては行き過ぎと感じる方も多いだろう。なにしろ、「海がどれくらい深いか、空がどれくらい高いか、(私がどれくらいあなたを愛しているか、わかる?)」という心からの訴えかけの歌なのだから。だとすれば、間を取って、1964年の『Bill Evans Trio "Live"』あたりがベストだろうか。

2017年9月18日 (月)

009 Beautiful Love

 引き続き、1965年秋の訪欧ツアー絡みの曲から。この曲は哀愁漂うニ短調の曲調もエヴァンスにぴったりだし、実際、前回聴いた「Detour Ahead」と同じく60年代初めから70年代まで、長く弾きつがれてきた曲だ。

 構成は、冒頭のみ「レミファ・ラー」と上がっていく部分が付くが、各部分はちょうど16小節単位で、AA'と同じコード進行を2度くりかえす(計T32=32小節) 。ただし、エヴァンスがこの曲を弾く場合、多くの場合A'の旋律を変えているので、A(=ab)+A'(=cb')という形式に聴こえる(この場合、小文字英字の各部分は8小節単位)。

1)『The 1960 Birdland Sessions』(Fresh Sounds, 1960) 4:52
※スコット・ラファロ(b)、ポール・モチアン(ds)というファースト・トリオがバードランドで行ったライヴを、ラジオのエアチェックから拾った記録(1960年3月12日の演奏)。LP時代からブートレグとして有名だった。こちらは、冒頭の旋律がテーマ部分で2度繰り返される、AA'タイプ。全体の構成は、ピアノによるテーマ(1コーラス、T32)、ピアノ・ソロ(2コーラス、T32+T32)、ベース・ソロ(2コーラス、T32+T32)、ピアノ・テーマ(1コーラス、T32+後奏T4)。まだミディアム・テンポの演奏で、非常に落ち着いて聴こえる。録音は良くないが、それでもラファロとエヴァンスが随所で細かい絡みを見せているのがわかる。
2)『The Complete Riverside Recordings』(Riverside, 1961) 6:05
※1961年2月2日に行われたファースト・トリオによるセッション録音から、そのテイク1。この演奏以降では、エヴァンスの弾くテーマは、A(=ab)+A'(=cb')という形式に聴こえる。ピアノによるテーマ(1コーラス)、ピアノ・ソロ(4コーラス)、ベース・ソロ(2コーラス)、ピアノ・テーマ(1コーラス+後奏T4)というシンプルな構成。プロデューサーのオリン・キープニュースによれば、「録音当日の初めの頃に、彼は一度この曲を演奏した。私は発売可能のほうにこのテイク1を入れ、ビルは他の曲を次々に演奏していった。他の7曲を短時間で仕上げ、2巻のテープを録音後、彼は再びこの曲の演奏に戻り、そのテイク2のほうが気に入って発売ということになった。」という。実際、悪い演奏では全然ないし、何よりもピアノの艶のある音色、ソロでの流麗な進行がすばらしい。
3)『Explorations』(Riverside, 1961) 5:05
※こちらがオリジナルLPに収録されたテイク2。当然ながら2)のテイク1とよく似ていて、構成だけで言えばテイク1からピアノ・ソロを1コーラス減らしただけ。その分、最後の3コーラス目のソロを始め、エヴァンスはなかなか意欲的なソロを弾いている。ベース・ソロ時のバッキングで、暗闇に光る真珠のような音を落としていく様が独創的だ。
4)『Live in London』(Harkin, 1965) 7:32
※1965年にロンドン「ロニー・スコッツ・クラブ」を訪れた時のライヴから(こちらは3月2日分)。この時期までは、まだまだ落ち着いたテンポで奏されている。トラック冒頭の「Bill Evans Trio, Chuck Israels, Larry Bunker, and Bill Evans, Thank you」というアナウンスに短い拍手が被り、その拍手が終わらないうちにいきなりabcb'部分のb部分からピアノによるテーマが始まる(編集のようには聴こえないが)。その後は、ピアノ・ソロ(4コーラス)、ベース・ソロ(3コーラス)、ピアノ&ドラムス・ソロ(3コーラス、a:ピアノ〜b:ドラムス〜c:ピアノ〜b':ドラムス)、ピアノ・テーマ(1コーラス、abcと続いたあとb'の前半まで再現され、その後2拍子のリズムを2回+3回+3回弾いてエンディングのフレーズ)。
5)『Live In Europe 1965』(Lonehill, 1965) 4:20
※ヨーロッパにおけるニールス=ヘニング・オルステッド・ペデルセン(b)、アラン・ドウソン(ds)というメンバーとの一連のツアー演奏から。10月30日にベルリンのフィルハーモニーで収録された。このあたりから以前の演奏よりテンポも早まり、エヴァンスは極めて軽快なタッチで弾くようになる。構成は、ピアノによるテーマ(1コーラス)、ピアノ・ソロ(2コーラス)、ベース・ソロ(1コーラス。冒頭T4のみピアノ・ソロ)、ピアノ&ドラムス・ソロ(2コーラス、a:ピアノ〜b:ドラムス〜c:ピアノ〜b':ドラムス。aの前半:ピアノ〜aの後半:ドラムス〜bの前半:ピアノ〜bの後半:ドラムス〜cの前半:ピアノ〜cの後半:ドラムス〜b'の前半:ピアノ〜b'の後半:ドラムス)、ピアノ・テーマ(1コーラス、abcと続いたあとb'の前半まで再現され、その後2拍子のリズムを3回+3回+2回弾いてエンディングのフレーズ)。この演奏には動画バージョンもある。
6)DVD『BILL EVANS TRIO-CHARLES MINGUS SEXTET / EUROPEAN NIGHTS 1964-1971』(impro-jazz, 1965) 3:37
※こちらは5)と同じツアーから、翌日10月31日もしくは翌々日11月1日にコペンハーゲンのチボリ・ガーデンで録音されたもの。音声は、5)の『Live In Europe 1965』盤にも収録されているが、この演奏にも動画バージョンがありこの映像と比べると、『Live In Europe 1965』盤(さらに元盤である『Together Again』盤(Moon))には、一部カットがあることがわかった>>本サイトの記事「1965年秋の訪欧ツアーまとめ(その4)」を参照。
(2017/12/17の追記)下記コメント欄に寄せられた Pianotriomanzai さんからの情報によれば、この『BILL EVANS TRIO-CHARLES MINGUS SEXTET / EUROPEAN NIGHTS 1964-1971』というDVDのエヴァンス映像は、以前から『American in Europe Volume 1』という VHS ビデオで出ていたものと同じ、という情報をいただいた(Green Line, VIDJAZZ 35)。
7)『At Town Hall Vol.1』(Verve, 1966) 6:54
※チャック・イスラエル(b)に、新たにトリオに加わったアーノルド・ワイズ(ds)とのホール・ライヴ。オリジナルLPの『At Town Hall』には、この「Beautiful Love」は収録されていなかった(LP『The Best of Bill Evans』(Verve)が初出)。が、今では元CDにボーナス・トラックとして収録されているので、便宜上、このディスク名で挙げておく。全体の構成は、ピアノによるテーマ(1コーラス)、ピアノ・ソロ(3コーラス)、ベース・ソロ(3コーラス)、ピアノ&ドラムス・ソロ(1コーラス:8小節ごと交換〜1コーラス:4小節ごと交換)、ドラムス・ソロ(2コーラス)、ピアノ・テーマ(1コーラス、abcと続いたあとb'の前半まで再現され、その後2拍子のリズムを3回+3回+2回弾いてエンディングのフレーズ)。ほぼフルサイズの演奏で、聴いた後の満足度は高い。
8)『The Secret Sessions, Recorded at the Village Vanguard, 1966-1975』(Milestone, 1968) 6:15
※セット中、ディスク6に収録。ドラムスは7)で組んだアーノロルド・ワイズだが、ベースはエディ・ゴメスに変わっている。ワイズが主導権を握り、前に前にと進む高速ライヴ。ペッティンガーは一連の演奏に「火花を散らすような」と書いている。テーマ提示の後、ベース・ソロが先に来て、ピアノ・ソロ、ピアノとドラムのバース交換と進むのが珍しい。
9)『Beautiful Love 1969』(Cool Jazz, 1969) 5:44
※1969年3月26日のオランダ・Hilversumでのスタジオ・ライヴ(CDR盤。詳しくは>>こちら)。一般のショップで買えるCDバージョンとしては、以前、Jazz Traffic レーベルから『Live In Hilversum 1969』という盤が出ていたが、品切れ状態のようなので、このサイトの本編はともかくこのような場では推薦しづらい。演奏としては、ようやくここでエディ・ゴメス(b)、マーティ・モレル(ds)というレギュラーメンバーが揃ったが、アグレッシヴさは変わらない。ゴメスの長い長いベース・ソロは一聴に値する。
10)『Buenos Aires Concert 1973, Vol. 2』(Jazzhus Disk, 1973) 12:23
※9)と同じメンバーによる初の南米ライヴ・ツアーからの記録。まさにエヴァンスらしいルバートによる前奏で始まる。これは初めてのこと。この後、ピアノによるテーマ(1コーラス)、ピアノ・ソロ(4コーラス)、ベース・ソロ(6コーラス)と続く。このソロの最後にゴメスが重音弾きを見せると観客は大いに沸く。次いでピアノとドラムスのバース交換になるのだが、ここでは8小節ごと交換(3コーラス)、4小節ごと交換(1コーラス半、ここは3回聴いたが、半コーラス分計算が合わない>>下記パリ盤も参照)、2小節ごと交換(1コーラス)、1小節ごと交換(2コーラス、最後のb'部分=8小節はピアノに戻る)と、間合いを詰めながら大きなクライマックスを築く。以下、ピアノ・テーマの再現以降は従来どおり。他の曲にも見られることだが、この時期になるとエヴァンス・トリオの演奏は、少しづつ落ち着きを加えてくる。実際、中山康樹氏も「2枚を通じて注目は久々の《ビューティフル・ラヴ》だが、エヴァンス・トリオのミニチュアが演奏しているような距離感がある。録音のせいだろうか。」との感想(<新エヴァンス>、p.243)。が、当日、演奏後の観客の盛り上がりようは、僕もこれまで聞いたことのないほど盛大だ。
11)『Live in Ottawa 1974』(Gambit, 1974) 1:48
※こちらもLP時代には『The Canadian Concert of Bill Evans』というブートレグで有名だった盤で、メンバーは9)10)と同じ。だが演奏タイムを見てもわかるように不完全バージョン。ちょうどテーマ演奏が終わったところでフェードアウトする。長めの前奏がいい雰囲気なだけに、残念。
12)『The Paris Concert Edition One』(Elektra Musician, 1979) 9:25
※最晩年のライヴで、この「Beautiful Love」を取り上げてくれたのは、本当に良かった。ルバートによる前奏は、複雑な和声に彩られる(1コーラス)。以下、ピアノ・テーマ(1コーラス)、ピアノ・ソロ(3コーラス)、ベース・ソロ(3コーラス)、ピアノ&ドラムス・ソロ(2コーラス半:8小節ごと交換、1コーラス:4小節ごと交換、1コーラス:2小節ごと交換、1コーラス:1小節ごと交換だが最後のb'部分=8小節はピアノに戻る)、ドラムス・ソロ(2コーラス)、ピアノ・テーマ(1コーラス、abcと続いたあとb'の前半まで再現され、その後2拍子のリズムを3回+3回+2回弾いてエンディングのフレーズ)という構成(この演奏もブエノスアイレス盤と同じく、半コーラス合わないが )。ゆったりと始まるが、最後はかなりスピードアップして終わる。この曲の演奏における一つの完成形。

<この1曲・この演奏>
 ファースト・トリオの演奏は、出だしから可憐かつある種せつない響きに惹きつけられてしまう。一見シンプルで、熱狂・興奮とは程遠い演奏だが、エヴァンス・トリオの佳演として、今後も新たなファンを増やし続けるだろう。ただ「Detour Ahead」の場合とは違い、この曲の演奏には他にもやりようはあるだろう。その意味では、『Town Hall』盤や『Paris Concert』盤が一番だという方がいたとしても不思議ではない。ぜひエヴァンス・トリオの代表曲のひとつとして、上記からお気に入りの演奏を探して欲しい。

2017年9月17日 (日)

008 Detour Ahead

 前回紹介した「My Melancholy Baby」と同じく、1965年秋の訪欧ツアーで演奏された曲のひとつである。ただこの曲には、1961年のヴィッレッジ・ヴァンガードにおける絶対的名演がある。また1970年代にもライヴで弾いているので、結果的に各時代の演奏が残ったと言える。

 曲の構成は、A(T8=8小節)、A'(T8)、 B(T8)、 A'(T10)で計34小節となる(特に記載のない演奏は、トリオ編成)。

1)『The Complete Village Vanguard Recordings, 1961』(Riverside, 1961) 7:17
※1961年6月25日、日曜日、スコット・ラファロ(b)、ポール・モチアン(ds)と組んだヴィッレッジ・ヴァンガードでの伝説的なライヴ演奏から。この日、「Detour Ahead」は2度演奏されているが、こちらが最初のもの(テイク1)。夜の第1セットの最後の曲であった。全体の構成は独特だ。テーマは、2)よりは速めに始まるが、よく歌われている(1コーラス、T34)。ピアノ・ソロ部分に入るとギア・チェンジし、対照的に倍の速度で奏される(1コーラス、倍速T17)。テーマ部分終わり近く、A'部分の最後4小節からリズムセクションは倍速リズムを刻むというような周到な用意がここにはある。なので、上記芸当がまったく唐突感なく、しかも易々と成し遂げられるのだ。続くラファロのソロも倍速(1コーラス、倍速T17)。最後のテーマが帰ってくる箇所で、エヴァンスはAA'B部分を倍速のまま刻むが、最後のA'部分でスローダウンする。この扱いによって、冒頭のテーマが帰ってくるような効果が出せる(1コーラス、倍速T12+通常速T10+短い後奏T2)。
2)『Waltz for Debby』(Riverside, 1961) 7:40
※こちらはオリジナルLPに採用されたテイク2。夜の第3セットの最初の曲として選ばれた。名盤『Waltz for Debby』のA面最後の曲として、世に有名な演奏である。ピアノによるテーマが、極限に近いくらいゆったりと立ち上がる様は、まさに神がかっている 。その後の構成は1)と同じ。ラファロのベースは、ちょっとした合いの手さえも、極めて雄弁だ。モチアンのブラシワークも、実に冴え渡っている。
3)『Live in London』(Harkin, 1965) 6:31
※1965年にエヴァンスは2度訪欧している。そのうち、最初のツアーで訪れたロンドン「ロニー・スコッツ・クラブ」でのライヴから(3月11日分)。メンバーは、チャック・イスラエル(b)、ラリー・バンカー(ds)に変わっているが、構成は1)2)と同じ。ただしテンポは心持ち速めで、その分各所で伸び縮みが少ない。この時はエヴァンスが来るというので、急遽、店内にグランドピアノを運び込んだという逸話もあるようだが、さすがプロ。安定感たっぷりに奏している。
4)『Live In Europe 1965』(Lonehill, 1965)  約4:50弱 ※後ろに続く曲との明確な切れ目は不明。
※ヨーロッパにおけるリー・コニッツ(as)、ニールス=ヘニング・オルステッド・ペデルセン(b)、アラン・ドウソン(ds)というメンバーとの一連のツアー演奏から。10月29日にベルリンのフィルハーモニーで収録されたとされるメドレーの2曲目にあたる(前の曲は「How Deep is The Ocean」、後の曲は「My Melancholy Baby」)。構成は、アルトサックスによる序奏、テーマ(1コーラス、T34)、ピアノ・ソロ(AA'部分、T16)、ベース・ソロ(B部分、T8)、アルトサックス・ソロ(テーマ風、A'部分、T9ののち次の曲へのブリッジ)。実質的なソロはないのでコニッツもそう変なことはしていない(笑)。おかげで雰囲気は十分だ。
5)『Definitive Rare Albums Collection 1960-66』(Enlightenment, 1965) 5:10
※4)と同じツアーから、こちらは5日後、パリでの録音と推測されるライヴ演奏。これには動画も残されている(『Bill Evans Live '64 - '75』Naxos)。ピアノによるテーマ(1コーラス)、ピアノ・ソロ(1コーラス、最後のA'部分はテーマ風+後奏T2)。エヴァンスの集中力はさすが。
6)『The Secret Sessions, Recorded at the Village Vanguard, 1966-1975』(Milestone, 1967) 5:02
※セット中、ディスク4に収録。1)2)と同じヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴだが、印象は真逆。同じ構成にもかかわらず、1)2)より2分以上演奏時間が短い。実際、テーマ提示が終わった後は、むしろハイテンポな曲に様変わりしている。全体としてかなり荒い印象。フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds)は、ベース・ソロの部分ではスティック同士を叩いてエディ・ゴメスをあおる。構成こそ変わっていないのだが、『Waltz』盤でのかの名曲が、このように変貌するとは誰が予想できただろう。通常速が戻ってくるテーマ再現部の2度目のA'部分では、最後4小節でリズムセクションが冒頭のテーマ演奏の最後のようにはっきりと倍速リズムを刻むので、最後は快活な印象で曲を終える。確かにこれは新機軸。ここまで明確ではないが、以降の演奏では同じ傾向が伺える。
7)『Live in Paris 1972 Vol.3』(What's Jazz, 1972) 5:20
※エディ・ゴメス(b)、マーティー・モレル(ds)を帯同して行ったこの年3回目の!ヨーロッパ・ツアーから。こちらもかなり快調なテンポで走る演奏だが、美しいホール・トーンのせいもあり、すっきりと流れる。構成は1)2)等と同じ。
8)『The Last Japan Concert 1978』(Jokerman, 1978) 5:31
※最後の来日公演の貴重な記録。神戸での演奏でこの曲が取り上げられた。テーマ部分のハーモニーの付け方から、すでに晩年のエヴァンスらしいトーンが感じられる。ドラムスはこちらもフィリー・ジョー・ジョーンズだが、6)よりはずっと落ち着きが感じられる(構成は同じ)。ベースは晩年の相棒マーク・ジョンソンで、ソロではまるで歌うように流麗なベースを弾いている。

<この1曲・この演奏>
 あたりまえの結論で申し訳ないとは思うが、2)の演奏の高みにはエヴァンスといえどもそう簡単には登れない・・・。ラファロの突然の死によって、1961年6月25日の演奏は決して取り返すことのできない「永遠の一日」になってしまったわけだが、それこそが後付けの理屈。エヴァンスたちにとっては、ありきたりの日々の一コマに過ぎなかったはずだ。にもかかわらず、その演奏はなんと特別に響くことか。3)や7)で聴くことのできる演奏は決して内容的に劣るものではないし、むしろかなりハイレベルの演奏と言っていいだろう 。が、ヴィレッジ・ヴァンガードにおける刹那的なまでの入魂を知る者は、その後の演奏にどうしてもわずかながらルーティーンさを感じてしまわざるを得ない。そのことこそが、エヴァンスを生涯苦しめたのだとしても。

2017年9月15日 (金)

007 My Melancholy Baby

 1965年秋の訪欧ツアーで、コニッツとともによく弾いた前世紀初頭のヒット曲。それ以外は、同時代のスタジオ録音が1回だけあるほか、サイドマン時代にトニー・スコットとのライヴ録音が一度残されている。「Come to me, my melancholy baby おいで、僕のメランコリー・ベイビー」・・・印象深い歌詞を持ち、たっぷりとバラード風に歌われる場合も多い。が、エヴァンスが絡んだ演奏は、いずれも軽快なタッチに仕上げている。

 曲の構成は、いずれも8小節づつで、ABAC(T32=32小節)。以下に録音リストを示す。

1)『Golden Moments』(Muse, 1959) 12:15 ※CD版は『At Last』(32. Jazz Records)
※この時期、よくエヴァンスがサイドマンを務めていたトニー・スコット(cl)とのライヴ演奏を収めたLPから。他の共演者は、ジミー・ギャリソン(b)とピート・ラカロ(ds)。短い前奏とテーマを吹くのは、当然スコット。その後、スコットの長い長いソロが続くが、途中でラカロがあからさまにテンポをあおる。このクラリネット・ソロと続くエヴァンスのソロとで、優に10コーラスを越える。その後も、ギャリソンのアルコによるベースソロ、ラカロによるドラムス・ソロと、フルサイズのプレイが続く(さすがに長い!)。でも、このラカロのソロはなかなかのものだと思う。
2)『Live In Europe 1965』(Lonehill, 1965)  約6:55 ※前曲との明確な切れ目は不明。
※上記のように1965年秋、ヨーロッパにおけるリー・コニッツ(as)、ニールス=ヘニング・オルステッド・ペデルセン(b)、アラン・ドウソン(ds)というメンバーとの一連のツアー演奏から。10月29日にベルリンのフィルハーモニーで収録されたとされるメドレーの3曲目にあたる(他の曲は、「How Deep is The Ocean」「Detour Ahead」)。前曲の終わりからリー・コニッツ(as)が序奏めいたフレーズを紡ぎだし、アップテンポに切り替えて、テーマを1コーラス(T32)吹く。このコニッツの吹くテーマが、A部分の後半でなぜか短調に変わるあたりが珍しい。その後の展開は、アルトサックス・ソロ(2コーラス、T32+T32)、ピアノ・ソロ(2コーラス、T32+T32)、ベース・ソロ(2コーラス、T32+T32)、アルトサックス〜ドラムス〜ピアノ〜ドラムスのバース交換(1コーラス、T32)〜ドラムス・ソロ(1コーラス、T32)、アルトサックスによるテーマ(1コーラス、T32)、終結和音、という構成になる。ツアー初日の演奏だけに、3)4)に比べると、試し引き的なところもある。
3)『Lee Konitz Trio & Quartet Featuring Bill Evans』(Magnetic Records, 1965) 9:32
※2)の4日後、同じメンバーによる11月2日のストックホルムでのライヴ。ピアノによる長めの序奏(T16)、ピアノ・ソロによるテーマ(1コーラス)、A部分のみピアノ・ソロ〜その後アルトサックス・ソロ(5コーラス!)、ピアノ・ソロ(2コーラス)、ベース・ソロ(2コーラス。ただし2コーラス目はB部分のみソロ・フレーズを弾いていて、ほかはベースラインを弾いている)、アルトサックス〜ドラムス〜アルトサックス〜ドラムスのバース交換(1コーラス)〜ドラムス・ソロ(2コーラス)、アルトサックスによるテーマ(1コーラス)、エンディング(約T4の後、集結和音)。こちらにも書いたが、コニッツのソロはさすがに5コーラスともなると、後半部分の手詰まり感は否めない。一方、エヴァンスの流れるようなソロは好調。しかも最後の1コーラス以外、エヴァンスはほぼ右手だけで弾いている!
4)『Definitive Rare Albums Collection 1960-66』(Enlightenment, 1965) 9:02
※3)の翌日、パリでの録音と推測されるライヴ演奏。これには動画も残されている(『Bill Evans Live '64 - '75』Naxos)。ピアノ序奏(T8)、アルトサックスによるテーマ(1コーラス)、アルトサックス・ソロ(3コーラス)、ピアノ・ソロ(3コーラス)、ベース・ソロ(3コーラス)、A部分のみアルトサックス・ソロ〜その後ドラムス・ソロ(3コーラス)、アルトサックスによるテーマ(1コーラス)、終結和音。コニッツのソロで、ちょうどAA'部分を吹き終える箇所で、エヴァンスが高い F の音の一つ入れるが、これが非常に効果的なアクセントになっている。映像版では、エヴァンスのソロはやはり右手が中心で、左手の和音はほとんど弾いていないのがわかる。観客は、拍手以外にも随所で掛け声をかけるなど非常に乗っている。特にアラン・ドウソンのソロは、途中どんどんとアップテンポしていくので、大いに盛り上がる。
5)『A Simple Matter of Conviction』(Verve, 1966) 5:16
※こちらは唯一のセッション録音、しかもトリオ編成での演奏である。エヴァンスにとって、今後10年余に渡ってコンビを組むことになるエディ・ゴメス(b)とは、初めて取り組んだセッション録音であった。前奏なしでいきなりピアノによるテーマで始まる(1コーラス、T32)。以後、ピアノ・ソロ(2コーラス、T32+T32)、ベース・ソロ(2コーラス、T32+T32)、ピアノとドラムスの4小節づつのバース交換(2コーラス、T32+T32)、ピアノによるテーマ(1コーラス、T32)、エンディング(約T4の後、集結和音)、という構成。小さなジャズクラブで聴いているようなインティメートな演奏である。大物ドラマー、シェリー・マンは、ソロの後ろでもさすがのさばきを見せている。

<この1曲・この演奏>
 1966年録音の録音について、ピーター・ペッティンガーは「ゴメスは<マイ・メランコリー・ベイビー>でその日一番のソロを展開したが、エヴァンスはリー・コニッツと最近ヨーロッパで一緒にツアーをしたときとまったく同じテンポ、キー、そして雰囲気で演奏した。」と書いている(『ビル・エヴァンス ジャズ・ピアニストの肖像』p.212)。実際、テンポ等は似ているのだが、やはりエヴァンスのトリオ演奏は別格。今回のように続けて聴いてみると、この演奏が始まるとホッとするのは僕だけではないだろう。一方、演奏の面白さ・聴いているときのスリル感から言えば、前年の4)あたりが推薦できるか。前年の訪欧ツアーでの演奏経験がなければ、満を持して挑んだヴァーヴにおけるセッション録音で、この曲を採り上げることはなかったはずだ。その意味では、リー・コニッツにも感謝すべきかもしれない。

2017年9月12日 (火)

Definitive Rare Albums Collection 1960-66(その1)

[Enlightenment, EN4CD9111] 1965

 前回の記事「1965年秋の訪欧ツアーまとめ(その5)」を書いた後で、念のため「Evans Detour Ahead 1965」等と検索していたら、あるCDセットの曲目クレジットが引っかかってきた。それが今回の記事のタイトルにある『Definitive Rare Albums Collection 1960-66』(Enlightenment)である。

 今年2017年春の発売。Enlightenment は英国のレーベルで、ジャズの旧作を廉価ボックスでまとめて発売している会社である。この4枚組セットは、HMVの商品説明によれば、

「『Conversations With Myself』、『At Shelly's Manne Hole』などの初期リーダーアルバムに、ジョージ・ラッセル『Jazz in the Space Age』、キャノンボール・アダレイ『Know What I Mean?』、オリヴァー・ネルソン『The Blues And The Abstract Truth』、デイヴ・パイク『Pike's Peak』といったサイド参加作、さらには、1964年デンマーク、65年フランス、イギリス、66年デンマークでの貴重なライヴ音源を4CDにパッケージ」

したものとある。このうち、「65年フランス」とクレジットされていた曲が、まさに前回の記事で触れた「Detour Ahead 」と「My Melancholy Baby」なのである。記載された演奏時間もかなり近く、いよいよ怪しい。

 実はこのセットには Amazon のデジタル・ミュージックで買えるバージョンがある。上記2曲も分売されていたので、試しに購入してみた(1曲・100円)。結果は「当たり」。ネット動画と聴き比べてみたが、同じ音源から作られているらしく速度・ピッチともにピッタリ一致する。となると、これらは中山康樹氏の『新・エヴァンスを聴け!』未収録、この『続・エヴァンスを聴け!』サイトの正規対象曲ということになる。

Disc 4
3)「Detour Ahead」
4)「My Melancholy Baby」

Bill Evans (p)
Niels-Henning Orsted Pedersen (b)
Alan Dawson (ds)
Lee Konitz (as) 4)のみ

1965/11/3 (Paris)

 11月3日という日付は、こちらのディスコグラフィーの記載に従っておいた。1週間続いたヨーロッパ・ツアーの最終盤ということもあり、ともになかなかの好演だと思う。このセットの収録曲には若干だが他にも気になるものがあるので、また機会をみて確認してみたい。

1965年秋の訪欧ツアーまとめ(その5)

 1965年11月2日には、エヴァンスのツアー一向は、スウェーデンのストックホルムに入る。Magnetic Records の『Lee Konitz Trio & Quartet Featuring Bill Evans』には、以下の2曲が収録されている。

04. All The Things You Are / What's New?
05. My Melancholy Baby

 演奏会場として「Johanneshov(s) Isstadion」とクレジット欄にあるが、これはストックホルムにある屋根付きのスケート場である。前年(1964年)7月に、かのビートルズが同じ会場で2日間・4公演、計2万6千人を集めたことでも知られている。「All The Things You Are」「What's New?」のメドレーは例によって、エヴァンスは参加していない(で、28分近く演奏しているので、これは聴くのが辛い!)。「My Melancholy Baby」には、ようやくエヴァンスが加わる。ピーター・ペッティンガーの『ビル・エヴァンス ジャズ・ピアニストの肖像』(水声社)では、このストックホルム公演についてこのように書かれている。

「エヴァンスの不機嫌さがより強調され、ピアノは残虐さを増していた。いきなり楽器に向かい戦いを挑み<デトゥアー・アヘッド>の最後には低音をガンと打ち付けると<カム・レイン・オア・カム・シャイン>をスライド・アウトさせて弾きはじめた(両曲とも未発表)。」(p.200)

 とはいえ、残された「My Melancholy Baby」を聴く限りは、それほど「不機嫌」な演奏とも思えない。コニッツとの共演では珍しく、エヴァンスの方が軽快・可憐に序奏を弾き始め、そしてここでは冒頭のテーマもエヴァンス担当だ。確かに、続くコニッツのソロは奔放で、だんだんととっちらかっていくが、エヴァンスのほぼ右手だけのソロに戻ると、逆にその流麗さが際立つ。

 以上、音源的にはこれでほぼ紹介し終えたと思うが、1965年秋の訪欧ツアーの「My Melancholy Baby」には、もう一種の別演奏があった(「素晴らトン子」さんから再度紹介されたのネット動画>>こちらのコメント欄)。コンサート・ホールでのライヴのようで、「Berlin, West Germany, October 29, 1965」とのクレジットがある。だが、ベルリン・フィルハーモニーは、『Berlin Jazz Piano Workshop 1965』の映像でもわかるように、ステージを観客が取り囲む「ワインヤード(葡萄畑)」形式であり、我々の動画の会場とは明らかに違う。

 またYoutube にはほかにも同じステージからの映像と思われる「Detour Ahead」もアップされている。こちらは何と「Live in Belgium, 1965」との表記。「ベルギー?」いやいや違うだろう。ほかに考えられるのは、コペンハーゲンのチボリだが、こちらの動画でエヴァンスが弾いているピアノは、「スタインウェイ」。チボリの時に使っていた「ホルヌング&ミューラー」とは違う。ところで、使用ピアノが「ホルヌング&ミューラー」という情報は、上記『ビル・エヴァンス ジャズ・ピアニストの肖像』によるのだが、同書のストックホルム公演に関する上記記述の直後にはこうある。

「パッケージの一環として、カルテットはセカンド・パリ・ジャズ・フェスティヴァルに出演し、翌日サレ・プレイエルでの演奏の模様は放送された。」(p.200)

 実は、この「Detour Ahead 」と「My Melancholy Baby」の2つの映像は、Naxos の「Jazz Icons」というDVDシリーズで出されている『Bill Evans Live '64 - '75』にも収録されている。実はそこにも「FRANCE 1965」というクレジットがある※。特に確証があるわけでもないが、今のところこのDVDに従い、パリでの演奏としておくのが妥当なところだろう。

03. Detour Ahead
04. My Melancholy Baby

 「My Melancholy Baby」では、最初、前日のストックホルムの時のようにエヴァンスが序奏を弾き始めるが、途中で背後のスペースを横切るコニッツを見て軽くうなづく。と、コニッツがテーマを吹き始めながら、ピアノの前に出てくる・・・という場面が、映像で確認できる。前日より落ち着いた印象のコニッツのソロの後、ありがいことにエヴァンスの右手が大活躍するソロの様子が、映像でもたっぷり堪能できる。その後、ベース・ソロ、ドラム・ソロと続き、観客も、口笛を吹くなど大いに沸いている。トリオによる「Detour Ahead」ではコニッツが抜けて、エヴァンスはより深く演奏に没入している。ベース、ドラムスのサポートぶりも、臨時編成とは思えないくらい。

※僕が所有するDVDには「FRANCE 1965」とあるが、Jazz Icons のサイトでは、なぜか「LIVE IN BERGIUM ◇ 1965」となっていて、HMVの当該商品のページもこちらのクレジットを載せている。ネット動画のクレジットもこちらを引いたか。>>この点、次の記事「Definitive Rare Albums Collection 1960-66(その1)」もご参照ください。

2017年9月11日 (月)

1965年秋の訪欧ツアーまとめ(その4)

 昨日、この項の(その3)において、1965年10月31日というクレジットのある『Together Again』(Moon)所収の「Beautiful Love」と、翌11月1日の収録と言われている動画版の「Beautiful Love」が同じ演奏ではないかということを指摘しておいた。ただし両者は演奏タイムが違う。今回は補遺として、両者の相違点を詳しく調べてみたいと思う。
注)Moon 盤の演奏については、現在最も手に入りやすいまとめCD『Live In Europe 1965』(Lonehill)のタイムを示す。また動画版については、市販DVDを紹介してもいいがこちらは入手困難かもしれない。とはいえ「素晴らトン子」さんからご紹介いただいた Youtube 動画の方も音声部が少し不安定なので、同じ映像を収録したこちらの動画(「This is a rare TV broadcast from Danish TV 1965 : Copenhagen, Denmark, Oct. 31, 1965」とクレジットのあるもの)を参照した。

 メランコリックなニ短調のテーマが印象的な曲だ。 この曲の構成は、冒頭のみ「レミファ・ラー」と上がっていく部分が付くが、 大きく見るとA+A'という16小節単位の繰り返しとなる。エヴァンスがこの曲を弾く場合、A'の旋律を変えているので、A(=ab)+A'(=cb')という形式に聴こえる(この場合、小文字英字の各部分は8小節単位)。今回聴く演奏もそうで、細かく違いを見ていくため、以下の解説では小文字の表記を使い説明する。

I ファースト・テーマ
1)Lonehill 盤(0:00〜) 1コーラス、abcb':ピアノT32(=32小節)
2)動画版(7:29〜) 1コーラス、abcb':ピアノT32
※1)、2)は、同じ演奏。
II ピアノ・ソロ
1)Lonehill 盤(0:35〜) 1コーラス、abcb’:ピアノT32
2)動画版(8:04〜) 1コーラス、abcb':ピアノT32
※ここも1)、2)は、同じ演奏。最後の4小節で、エヴァンスが次に出てくるA部分に直接つながっていくようなフレーズを出す(実際、下記 III の4小節目までピアノ・ソロが続く)。この処理は、10月29日のベルリンでの同曲演奏も同じ処理なので、エヴァンスの弾き間違い・数え間違いではないようだ。ここからAに戻るのかと思わないでもないのだが、そうすると小節数的には III のベース・ソロが4小節長くなってしまう。ちなみに上記ベルリンでの演奏では、II のピアノ・ソロの部分が2コーラス分あるため、その分全体の演奏時間も4分20秒と長めになっている。
III ベース・ソロ
1)Lonehill 盤(1:09〜) 1コーラス、a:この部分の4小節までピアノT4〜a:この部分の5小節目以降:ベースT4〜bcd':ベース約T21
2)動画版(8:39〜) 1コーラス、a:この部分の4小節までピアノT4〜a:この部分の5小節目以降:ベースT4〜bcd':ベースT24
※2)の小節数は前期のように計32で、計算どおり。1)もほぼ同じだが、15小節目あたりにわずかなカットがあり、その分短くなっている。
IV ピアノ&ドラム・ソロ
1)Lonehill 盤(1:40〜) 1コーラス半、a:ピアノT8〜b:この部分の始めの2小節目までベースT2〜b:この部分の3小節目以降ドラムT6〜c:ピアノT8〜b’:ドラムT8〜ドラムab:約T15
2)動画版(9:13〜) 2コーラス、a:ピアノT8〜b:この部分の始めの2小節目までベースT2〜b:この部分の3小節目以降ドラムT6〜c:ピアノT8〜b’:ドラム〜abcb’:ドラムT32
※bのドラム・ソロ冒頭に、ベースのペデルセンがなぜか III 部分の最後に入れたつなぎのフレーズを入れる。II の解説で書いたピアノの先取りのようなフレーズの影響だろうか。これは、II で触れたベルリンでの演奏にはない。1)には2コーラス目のbにあたる部分の7小節目の頭で「ブチッ」という明らかな編集跡がある。その後、ドラム・ソロの後半を省き、すぐエヴァンスの弾くラスト・テーマにつないでいる。ここは大きな省略。
V ラスト・テーマ
1)Lonehill 盤(2:30〜3:24) 1コーラス、abcと続いたあとb'の前半まで:ピアノT28、その後2拍子のリズムを3回+3回+2回弾いてエンディングのフレーズ
2)動画版(10:20〜約11:09) 1コーラス、abcと続いたあとb'の前半まで:ピアノT28、その後2拍子のリズムを3回+3回+2回弾いてエンディングのフレーズ
※ここも、1)、2)は同じ演奏。

 以上、コペンハーゲンのチボリ・ガーデンでの演奏と言われているエヴァンス・トリオの「Beautiful Love」を聴いてみた。エヴァンスの同曲演奏では、何と言っても『Explorations』のファースト・トリオのスタジオ録音が有名だ。その時の演奏に比べるとテンポもかなり早いし、急ごしらえのトリオだけに上記のように段取り的にバタバタした印象もある。だが、ベルリン、コペンハーゲンと2度も映像が残ったのは、やはり貴重と言えるのではないだろうか。

2017年9月10日 (日)

1965年秋の訪欧ツアーまとめ(その3)

 引き続き、1965年秋の訪欧ツアーを聴いていく。ドイツ・ベルリンのあと、エヴァンスたちはベルギーに飛んでいる。10月31日および11月1日の2日間、コペンハーゲンの有名なチボリ・ガーデンでのコンサート記録が残っている。ただし、これらの残された演奏が、どちらの日に収録されたかについては確証がない。というのも、各盤で記録が混同されているからである。まずは、「10月31日収録」だという演奏。この項の(その1)で紹介した『Together Again』(Moon)の前半がそれにあたる※1。

01.  All The Things You Are
02.  What's New?
03.  Come Rain or Come Shine
04.  Beautiful Love

 ちなみに「All The Things You Are」「What's New?」の2曲は、リー・コニッツ(as)、ニールス=ヘニング・オルステッド・ペデルセン(b)、アラン・ドウソン(ds)というピアノレス・トリオによる演奏。「Come Rain or Come Shine」と「Beautiful Love」は逆にコニッツが抜けて、ピアノ・トリオ編成になる。このうち「All The Things You Are」「What's New?」のみは Magnetic Records から出ていた『Lee Konitz Trio & Quartet Featuring Bill Evans』というCDにも収録されていて、こちらはジャケット面に「Copenhagen, November 1, 1965」というクレジットがある。またこちらには、「How Deep is The Ocean」(上記4人が揃ったカルテット編成)も1曲追加で入っている。

03. How Deep is The Ocean

 これらが別日の別演奏なら問題がないが、2つの盤の「All The Things You Are」「What's New?」は同じ演奏である。また(その1)で触れた「素晴らトン子」さんからご紹介いただいた Youtube 動画では、なんと「How Deep is The Ocean」が先に演奏され、その後すぐ「Beautiful Love」が続くのである※2。つまり、(既出のクレジットからは矛盾するとはいえ)これら「How Deep is The Ocean」と「Beautiful Love」の2曲は、少なくとも同じ日の演奏でなくてはならない。しかも、「How Deep is The Ocean」の動画の頭には、「素晴らトン子」さんご指摘のように、コニッツによる例の「もしこの会場のどこかにビル・エヴァンスがいるなら、ステージに上がって一曲参加してもらいたいんだが。」という呼びかけが入っている。この台詞は Magnetic Records 盤の「What's New?」と「How Deep is The Ocean」の曲間にも収録されていて、つまり「What's New?」〜「How Deep is The Ocean」〜「Beautiful Love」は、連続した演奏の記録だったということになる。これは驚きだ。

 その後、調べてみたらこの動画は、impro-jazz から出ている『BILL EVANS TRIO-CHARLES MINGUS SEXTET / EUROPEAN NIGHTS 1964-1971』というDVDで出ていたことがわかった(IJ 542)※3。こちらはネット動画よりやや画質が落ちるが、「What's New?」のベース・ソロ以降の3分ほどの映像に続き、コニッツの呼びかけ、「How Deep is The Ocean」「Beautiful Love」が収録されている。クレジットは、「Stockholm, Sweden, November 1, 1965」となっているが。Magnetic Records 盤には、続く11月2日にストックホルムで、「All The Things You Are」と「What's New?」の長い長いメドレー(27:44)も演奏していることから類推すると、コペンハーゲンにおいても「What's New?」の前に「All The Things You Are」があったろう。「Come Rain or Come Shine」については何の手がかりもないとはいえ、おそらく上記の5曲は、10月31日および11月1日のどちらか1日に演奏・収録されたのではなかろうか(あるいは、コンサート自体がどちらか1日しかなかった?)。

 ちなみにこの日の「How Deep is The Ocean」は、あえて舞台に呼び出しただけあって、エヴァンスによる美しい序奏、テーマ演奏、ソロと続き、ベルリンでの同曲とはやや趣きが変わっている。以前にも触れたが、「Beatiful Love」の映像でペデルセン(若干19歳!)がベースのハイ・ポジションを弾いている姿は、在りし日のスコット・ラファロを思い出させる。

※1 『Live In Europe 1965』(Lonehill)も同じ10月31日というクレジットだが、こちらはエヴァンスの演奏のみをまとめ収録しているので、「All The Things You Are」「What's New?」は未収録
※2 こちらのコメント欄にも書いたが、『Together Again』(Moon)の「Beautiful Love」と、動画版の「Beautiful Love」は、冒頭のテーマなどエヴァンスのピアノを聞く限り、同じ演奏に聞こえる。ただし、途中のベース・ソロ、ドラム・ソロに相違があり、『Together Again』(Moon)の方が明らかに短い。それについては、この項の(その4)で検証してみた。
※3 (2017/12/17の追記)こちらの発言に寄せられた Pianotriomanzai さんからのコメントによれば、この『BILL EVANS TRIO-CHARLES MINGUS SEXTET / EUROPEAN NIGHTS 1964-1971』というDVDのエヴァンス映像は、以前から『American in Europe Volume 1』という VHS ビデオで出ていたものと同じ、という情報をいただいた(Green Line, VIDJAZZ 35)。僕も確認したので、ここに注記しておきます。貴重な情報、感謝いたします。

2017年9月 9日 (土)

1965年秋の訪欧ツアーまとめ(その2)

 前回の続きで、1965年秋のエヴァンス訪欧の記録から、こちらは翌10月30日の演奏。前日と同じベルリン・フィルハーモニーにおける公演で、まず6人のピアニストが同じブルースをリレーで弾いて行くという珍しい記録が残っている。LP時代には『Piano Summit』(Philology W 102)というアイテムで知られており、『Live at The Festival』(Enja 2030)などと並んで、手に入れた時にはとてもうれしかったという記憶がある。

Img_1631

 ヨアヒム・エルンスト・ブレントという有名なジャズ評論家がプレゼンテーターとなり、アール・ハインズ、テディ・ウィルソン、ジョン・ルイス、レニー・トリスターノ、ビル・エヴァンス、ジャッキー・バイアードというメンバーが入れ替わり立ち替わりステージに登場する(昨日と同じニールス=ヘニング・オルステッド・ペデルセン(b)、アラン・ドウソン(ds)が加わる)。

A面 01. Blues in D

 「in D」との表記だが、ペーター・ペッティンガーによれば「actually in C」だそうで、実際のキーも C のようである。ほかにエヴァンス絡みでは2曲。こちらはペデルセン、ドウソンを伴ったトリオ演奏である※。

B面 02. Beautiful Love
B面 06. Come Rain or Come Shine

 これらの演奏は、上記ヨアヒム・エルンスト・ブレント「Introduction」も含め、Lonehill 盤CD『Live In Europe 1965』にまとめられていて、今聴くには当然それが便利である。

 前日の記録に比べると心もちノイズが多いし、ごく一部不安定な箇所もあるが、聴きにくい訳ではまったくない。コニッツが参加していない分、エヴァンスはのびのびと弾いている。「Come Rain or Come Shine」あたりはこの一連のツアー中でも白眉の演奏だ。また、この日のステージはテレビで中継されたらしく、「Come Rain or Come Shine」以外は映像も残っている。かつて『Berlin Jazz Piano Workshop 1965』と題したスペイン製のDVDで出ていたこともある。「ブルース・リレー」あたりは当然演奏があった方が楽しい(ネット動画でも見ることができるので、検索してみてほしい)。

※ ただし同じ日ではなく、前日の演奏だったという可能性もゼロではない。

2017年9月 8日 (金)

1965年秋の訪欧ツアーまとめ(その1)

 1965年秋、ビル・エヴァンスは単身ヨーロッパに飛び、ベルリン、コペンハーゲン等で一連のコンサートを行った。現地でニールス=ヘニング・オルステッド・ペデルセン(b)、アラン・ドウソン(ds)と合流。そのトリオに、リー・コニッツがアルト・サックスで加わる。以前、その演奏を収めたCD『Together in Europe 1965』(Rainbow Seeker、LP時代からの古典的ブート『Together Again』(Moon)の再発盤)について記事を書いたが、先日、「素晴らトン子」さんから同じメンバーによる Youtube の動画があると教えていただいた。貴重な情報ありがとうございます(>>こちら)。特に、ライヴの途中、リー・コニッツから「もし会場のどこかにビル・エヴァンスがいるなら、「ステージに上がって一曲参加してもらいたいんだが。」と呼びかけられ、エヴァンスが登場する場面を動画で見ることができる。このあたりは、ファンには感涙ものだ。

 このときのツアーでは、10月の最終週から11月の初めにかけて、リー・コニッツを含むカルテット編成で、ベルリン、コペンハーゲン、ストックホルム、パリと回っているようである。演奏曲目が被っている上、しかもそれぞれのライヴ音源が複数のLP、CDにアト・ランダムに分散されていて、かなり複雑な状況を呈している。せっかく素晴らトン子さんから情報をいただいたので、この機会に少し整理をして見たいと思っている。

 さて、まずは『Together Again』(Moon)で、1965年10月29日にベルリンのフィルハーモニーで収録されたとされる以下のメドレーを聴く。

05.  How Deep is The Ocean / Detour Ahead / My Melancholy Baby

 このメドレー、コニッツ特有の一種茫洋としたソロに始まるのが特徴。 音質は雑音も少なく、なかなかきれいに録れている。『Together Again』のLP/CDで聴けるほか、Rainbow Seeker から『Together in Europe 1965』として再発されている。今なら、「続エヴァンス」でも紹介されている Lonehill 盤CD『Live In Europe 1965』の方が有名だろうか。

 翌日、(その2)で紹介予定の有名な「ピアノ・サミット」というLPで知られたワークショップが開かれており、同じピアノ・フェスティバル中の公演だったのだろう。ところでこのメドレーについては、以前、別のイタリア製LPでも出ていた。以下の盤がそれ。

「How Deep is The Ocean」;『Lee Konitz / Chet Baker / Keith Jarrett Quintet』(Jazz Connaisseur, JC113)※1
「Detour Ahead」「My Melancholy Baby」;『Lennie Tristano Solo in Europe / Lee Konitz Quartet in Europe』(Unique Jazz, UJ21)

 これらの盤は、一部では11月1日に行われたコペンハーゲン公演で演奏された同じ3曲のメドレーとする資料もあるが、やはりここで聴くことのできる演奏は、『Together Again』や『Together in Europe 1965』に収録されているものと同じものである。しかし、安心するのはまだ早い。念のため聴き比べてみたら「How Deep is The Ocean」などは、こちらのLPバージョンの方が約30秒も長い(LPの方は約5分48秒)。どうもこちらのコメント欄で触れた「Beautiful Love」と同様、LP バージョンの方は編集でカットされている可能性がある。エヴァンスのピアノ・ソロが出る前、コニッツのソロに拍手が出る位置のタイムが、LPが約3分2秒付近であるのに対し、CDでは約2分33秒と出が早い。途中のコニッツのソロ部分が、最後の3コーラス目で約半コーラス分短くなっているようだ※2。これだからLPは捨てられない。

Img_1629

※1 この盤と同じ内容のCD『Lee Konitz Meets Keith Jarrett, Chet Baker & Bill Evans』(Jazz View, CDD 031)もあるが、こちらは僕は未確認。 >>その後、当該CDの収録内容について、実際に聴いて確認した(こちら)。
※2 「Detour Ahead」(約4分50秒弱、次の曲との切れ目の判定が難しい)、「 My Melancholy Baby 」(約6分55秒)は、LPもCDも同じ内容と思われる。この「切れ目」の問題で付け加えるならば、ここで取り上げた3曲メドレー中、2、3曲目は実際にコニッツのソロがつながっていてメドレーになっている。しかし1曲目の終わりはそこでいったん切れている。本文で触れたように、LPではもともと2枚に分かれて収録されていたことを考えると、「How Deep is The Ocean」だけはメドレーではなかったという可能性も否定できないだろう。

2017年8月20日 (日)

『Time Remembered: Life And Music Of Bill Evans』

 こちらの記事のコメント欄で、Pianotriomanzai 様から情報をいただいていたビル・エヴァンスのドキュメンタリー映画『Time Remembered: Life And Music Of Bill Evans』(監督ブルース・シュピーゲル)が、ついにDVD化された。以下は、HMVサイトへのリンク。

http://www.hmv.co.jp/artist_Bill-Evans-piano_000000000002112/item_Time-Remembered-Life-And-Music-Of-Bill-Evans_8051787

 エヴァンスへのインタビュー音源を始め、チャック・イスラエルやポール・モチアン、ジム・ホール、トニー・ベネットなどのおなじみの共演者たちの証言に、関連する演奏ビデオや既存音源を交互につなげていくという王道的な作り。修行時代〜マイルスとの出会い〜ファースト・トリオの結成と突然の別れ〜若きメンバーとの出会い〜そして死、という具合に、彼の生涯を追っていくにはうってつけの内容になっている。逆にコアなファンには、あまりワクワクするような展開ではないとしても。

 故郷ニュージャージーでの写真もたくさん見ることができるし、何よりプライベートを知る身内や友人たちの言葉は重みがある。特に実兄ハリーの奥さまパット・エヴァンスの証言には興味深いものも多かった(全体として、ハリーとの精神的なつながりについて、このドキュメンタリーの制作者たちは重要視しているようだ)。またクスリと女性問題についても、避けずにきちんと取り上げている。

 全体として演奏シーンがこま切れ状態なのが、やや残念。が、例外は夕日の海岸のシーンに流れる「Peace Piace」、そしてそれに直接続く『Kind of Blue』セッション。こちらはたっぷり収録されていて、映像だけでなく耳にも十分なご馳走だ※1。ちなみに最後のシーンで流れるのは、「My Foolish Heart」のラストで、これもさすがに美しい。モノクロームで撮られたエヴァンスの演奏シーンに被さっているが、おそらくその映像は別の時のもの。音楽自体は『Waltz for Debby』のライヴを使っていると思われる。

 輸入盤ながら、ありがたいことに日本語字幕もついている※2。1時間25分。

※1 「So What」の演奏風景(スタジオ・ライヴ)が音源に被るが、この映像でのピアノはエヴァンスではない。
※2 ただし、兄ハリーが自殺する1979年4月20日のシーンで、パット・エヴァンスが 「He'd gone out and got a gun and shot himself.」と言った証言中の「He」を、よりによって「ビルが」と誤訳していてびっくり(笑)。

2017年3月 4日 (土)

Jazz Olympus!

 3か月に一度くらい、不定期ながら会議のために上京することがある。会議場所(麹町)に近く、音楽関係の買い物にも便利な御茶の水に宿泊するのが常なのだが、先月も同じ用向きで出かけた折、たまたまこれまで使ったことにない宿泊施設で昭和初期創業のホテル「昇龍館」を選んでみた。会議も終わり、食事を済ませたあと、ディスクユニオンでマイルスのブート盤を2、3枚買う。そして、iPhoneのマップアプリを頼りにホテルに向かったのだが、アプリが示す建物にはなぜかジャズ喫茶らしきお店があり、ドアから大音量でピアノの音が聴こえてくる。一瞬、ここから入ろうかととも思ったが、いったん建物の裏(というか本当は表)にまわってみると、ホテルの入り口があったので、ほっとしてフロントに向かっていった。その場所は、先ほどの喫茶入り口からはちょうど反対側になるのだが、そこにもピアノの音が鳴り響いている。つまり、ホテル「昇龍館」のダイニングが、ジャズ喫茶「Jazz Olympus!」だった、というわけ。あまりの音量に一瞬、「ライヴ?」とも思ったが、中を見るとお客さんが2人ほど黙ってスピーカーがあるらしき方向を向いて座っているだけで、どうもそうではないらしい。いったんチェックインのため部屋に入りネットで調べてみると、実は有名なお店のようだ。その名前から想像されるように、JBLの往年の名スピーカー「Olympus」が店名の由来らしい。こちらのJBLのサイト「JBLが聴ける店」 にも当然紹介されている。オーナーの小松誠氏が脱サラして始めたというお店とのことで、「Olympus D50 S8R」を手にいれた経緯といい、そのスピーカーのセッティングの話といい、この記事は非常におもしろいのでぜひお読みください。

 またこのお店には、オーナーの方が長年集めてこられた4000枚を超えるLPコレクションがある。エヴァンスつながりで言えば、「Olympus D50 S8R」の左横の壁に、なんと『Easy to Love』のLPジャケットが飾ってあったので、これもびっくり(>>こちらのジャズ喫茶を紹介するサイト「ジャズ喫茶案内 Gateway To Jazz Kissa」でその写真を見ることができる(>>こちら)。日本盤オリジナルの『Easy to Love』なんて、実に渋い選択。まあ、ジャケットのエヴァンスの写真、左手でたばこをくわえているポーズが喫茶向きと言えばそうかも・・・。ちなみに宿泊客の朝の食事は、このジャズ喫茶でとることになるのだが、その時間帯はさすがに大音量のジャズはなし(BGM的にジャズが流れているだけ)。しかも「Olympus D50 S8R」やレコード棚にはちゃんとカバーがあてられていて、大事に保護されていたのが、印象的だった。在京の方にはすでによく知られたお店、お話だったかも知れないが、僕としてはまたぜひ尋ねてみたい場所がひとつ、御茶の水に増えた。

※ちなみに、このお店のオフィシャル・ブログもある>>こちら

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2017年2月27日 (月)

またも新作!『Another Time: The Hilversum Concert』

 昨日、一つ前の記事「『Waltz for Debby』日本盤LP(その2)」に、Pianotriomanzai さんから、近日発売予定のエヴァンスの新盤についてコメントをいただいた。ありがとうございます。

「こんにちは。
ご存知かと思いますが、レコード会社も商売が上手になりましたね。LPだけを先にだすなんて!
http://diskunion.net/jazz/ct/detail/1007332232

 調べてみると、僕の方には先週の土曜お昼に、HMVさんからメールマガジンで同じお知らせが届いていたようだ。

http://www.hmv.co.jp/artist_Bill-Evans-piano_000000000002112/item_Another-Time-The-Hilversum-Concert_7698068

http://www.hmv.co.jp/fl/5/704/1/

 昨年、『Some Other Time: The Lost Session From The Black Forest』を発掘した Resonance レコードの仕事。1968年の6月15日にライヴ録音された名盤『モントルー・ジャズ・フェスティヴァルのビル・エヴァンス』のちょうど一週間後、6月22日にオランダのヒルフェルスムで行われたコンサートの音源とのことである。ちなみに『Some Other Time: The Lost Session From The Black Forest』は、6月20日、ドイツでのスタジオ録音だった。これらのクレジットが正しいとするなら、エヴァンス・トリオは、この一週間のあいだでスイス〜ドイツ〜オランダと移動してきたことになる。なお「ヒルフェルスム」と表記されたまちの名前は、本盤のタイトルにもあるように「Hilversum」。これはエヴァンス史的に言えば、翌1969年のライヴCD『Waltz For Debby 1969』(「新エヴァンス、p.208」)や『Beautiful Love 1969』(ともに Cool Jazz)で知られた場所である※。エヴァンスの伝記作家ピーター・ペッティンガーも、『ビル・エヴァンス ー ジャズ・ピアニストの肖像』(水声社・刊)の中で、次のように記している。

「 モントルーの翌週、トリオはヒルヴァーサムというオランダの中心的なラジオ局のスタジオで、観客を前に演奏した。お祭りイヴェントの演奏は自由で気ままであったのに対し、ラジオ局独特の堅い雰囲気の為に、神経質な演奏へと変化した。しかしこれは出演者への敬意であると同時に、いずれの会場の観客たちも認めていることだが、どちらでも偉大な音楽が作られ、大いに観客を楽しませたことには変わりはない。」(p.220)

 ここで言われている「ラジオ局のスタジオで、観客を前に演奏した」ほかに、コンサートを開いた可能性もないわけではないが、今回の『Another Time: The Hilversum Concert』の音源提供元は「Netherlands Radio Union」とのことなので、おそらく両者は同じ演奏だろう。曲目は以下のとおり。

01. You're Gonna Hear from Me
02. Very Early
03. Who Can I Turn To?
04. Alfie
05. Embraceable You
06. Emily
07. Nardis
08. Turn Out the Stars
09. Five

 意外にも直前の『Some Other Time: The Lost Session From The Black Forest』とは、それほど被りはない。「2017年04月22日 発売予定」とのことなので、発売を期待して待ちたい。あ、そうそう。Pianotriomanzai さんのご発言にもあったように、フォーマットはなんと、「アナログLP完全先行発売」。アナログプレーヤーをお持ちでない方のため、一応念のため書いておきますが、「※CD発売は2017年9月を予定しております。 」とのこと。が、今回発売のLPには「限定盤」との記述もあり、やっぱり買ってしまうだろうなあ。

※1975年2月13日にも、エヴァンスは今回発売のLPと同じHilversumのVARAスタジオでドルフ・フォン・デル・リンデン指揮メトロポール交響楽団と、「Symbiosis」の2つの楽章を放送用に録音しているという。>>こちら

(2017年9月の追記)上記記事で触れたCDバージョンについては、HMVでは2017年08月25日に無事発売された。「英文解説36頁完全翻訳ブックレット付」という国内仕様盤もある。

>>本盤を実際に聴いたレビューはこちら

2017年2月 6日 (月)

『Waltz for Debby』日本盤LP(その2)

 今回は(その1)で紹介した『Waltz for Debby』の各日本盤LPを試聴してみた。

 例によって、結果は以下の順番で示す。
※SR-7015(日本ビクター,1963)、SFON-10039/40(日本ビクター2LP盤, 1966)、MW-2004(日本グラモフォン,1970)、SMJ-6118(ビクター音楽産業,1975)、VIJ-126(ビクター音楽産業,1984)/比較盤 初期ステレオLP(RLP-9399, 1961)

A面1.「My Foolish Heart」
1)音場
※広い(ベースが10時過ぎ、ピアノが2時前くらい)、広い、広い、広い、広い/狭い(ベースが11時前、ピアノが1時過ぎくらい)
2)冒頭のEの音
※2音、2音、2音、2音、2音/2音
3)4分40-41秒付近の音揺れ
※なし、なし、なし、なし、なし/なし
4)拍手の長さ(曲が終わっているかいないかにかかわらず、最初の拍手が聞こえてから、消えるまでを測った)&フェードアウト(FO)の有無
※約9秒&FOあり、約9秒&FOあり、約9秒&FOあり、約9秒&FOあり(FO後すぐ次の曲が始まる)、約9秒&FOあり(FO後すぐ次の曲が始まる)/約9秒&FOあり

2.「Waltz for Debby」(take2)
1)音場
※広い、広い、広い、広い、広い/狭い
2)拍手の長さ&フェードアウトの有無
※約4秒強&FOあり、約4秒強&FOあり、約4秒強&FOあり、約4秒&FOなし(曲間の空白もなし)、約4秒&FOなし(曲間の空白もなし)/約4秒強&FOあり

3.「Detour Ahead」(take2)
1)音場
※広い、広い、広い、広い、広い/狭い
2)拍手の長さ&フェードアウトの有無
※約4秒過ぎに急速にFO、約4秒過ぎに急速にFO、約4秒過ぎに急速にFO、約4秒過ぎに急速にFO、約4秒過ぎに急速にFO/約3秒過ぎに急速にFO

B面1.「My Romance」(take1)
1)音場
※広い、広い、広い、広い、広い/狭い
2)0秒からの冒頭和音の濁り、4秒、16秒および52秒の音揺れ
※なし、なし、なし、なし、なし/なし
3)拍手の長さ&フェードアウトの有無
※約8秒&FOあり、約8秒&FOあり、約8秒&FOあり、約8秒&FOあり(FO後約1秒後に次の曲が始まる)、約8秒&FOあり(FO後すぐ約1秒後に次の曲が始まる)/約8秒&FOあり

2.「Some Other Time」
1)音場
※広い、広い、広い、広い、広い/狭い
2)拍手の長さ&フェードアウトの有無
※約6秒&FOあり、約6秒&FOあり、約6秒&FOあり、約6秒&FOあり(FO後約1秒後に次の曲が始まる)、約6秒&FOあり(FO後約1秒後に次の曲が始まる)/約6秒強&FOあり

3.「Milestones」
1)音場
※広い、広い、広い、広い、広い/狭い
2)拍手の長さ&フェードアウトの有無
※約9秒&FOあり、約9秒&FOあり、約9秒&FOあり、約9秒&FOあり、約9秒&FOあり/約8秒過ぎに急速にFO

(考察)
 まず驚いたのは、最初期のSR-7015からして、音場がワイドに広がっていること。以前、1960年代中葉くらいまでアメリカ本国で出された初期LP盤を追ってみたが、そこでも「狭い」音場が普通だった。そのことから考えると、SR-7015は「広い」音場盤としては極めて早い時期の登場ということになる。さらに言えば、日本で出たLP盤はすべて「広い」音場盤であったことになる。となれば、嶋譲氏が「狭い」音場のCDについて「この処理はレコードの時代には覚えがない」と書かれたのも一理ある。
 また、初発売の1966年から1984年まで20年近く経過しているのに、それほどヴァリエーションがないこともわかった。基本的に2種。まず fontana 盤から日本グラモフォン盤までは、日本に送られてきたLP製作用のマスターテープが、共通なのかもしれない。一方、SMJ-6118、VIJ-126という後期ビクター盤は、カッティングがやり直されただけで、マスターテープはおそらく同じもの。1970年代あたりまでは日米の経済格差も大きかったろうし、そう易々とマスターテープを取り寄せたり、再マスタリングをしたりということができなかった、という事情もあるのかも知れない。このあたりは、日本で先行して普及したCDとは状況が違うのだろう。
 あと、CDでは代々問題となってきた、「My Foolish heart」の終わりと「My Romance」の冒頭にある音揺れ等についてだが、これは今回、すべての盤で認められなかった。

2017年2月 4日 (土)

『Waltz for Debby』日本盤LP(その1)

 本シリーズでは、『Waltz for Debby』盤の音場や拍手の長さ等を調べているが、今回は日本盤LPを試聴してみた。盤の選定にあたっては、taketoneさんのブログ『新エヴァンス日記』の労作「エヴァンス日本盤シリーズ」から、(1963~1969年)(1970~1979年)(1980~1989年)を参照させていただいている。いつもながらありがとうございます。

 とりあえず、試聴する盤の整理。

 まず国内初版LPと思われるのが、SR-7015(日本ビクター)で、いわゆる「ペラジャケ」盤(価格は1800円)。ジャケットには年号表記はないが、LPに付けられた帯に「ステレオ!モダン・ジャズ名盤蒐集会選定盤 三八年一月 そのII」とあるので、おそらく昭和38年=1963年初めの発売だろう。またジャケット裏面下に「Made And Sold By FONTANA RECORDS under rights from INTERDISC S.A.」との記載がある。『Waltz』盤等の原盤を持っていた Riverside は1963年に倒産。ヨーロッパで Riverside 盤を販売していた FONTANA RECORD 経由で、原盤を取り寄せたと言われている(ラベル上に「MANUFACTURED BY VICTOR COMPANY OF JAPAN LTD. YOKOHAMA - MADE IN JAPAN」とあるので、盤自体は日本製)。

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 おそらく続いて出たのが、SFON-10039/40(日本ビクター、2LP盤)。こちらも fontana 盤。taketoneさんの調査では、1966年の発売という。『Sunday at the Village Vanguard』盤と抱き合わせで、2枚組になっている(「《エリート・ジャズ・シリーズ》丸6 ビル・エヴァンス」とあり、『Waltz』盤の番号が、SFON-10040)。こちらも「YOKOHAMA」表記の日本製で、正直なところ初めて聴いたときは、音のきれいさ・素直さに驚いた。やはり料理と同じで、新鮮さに勝てるものはないのだろう。SR-7015とともに、これら初期盤は古い物だけにそうそう出るものではないが、1年に1、2回はオークションで見かけることがある。機会があれば聴いてみていただきたい。

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 1970年には、MW-2004(日本グラモフォン)が出ている。ジャケットが例の女性のシルエットではなく、白地にエヴァンスの演奏姿をあしらっているデザインになる。こちらは豪華な?見開きジャケット。これは当時、日本グラモフォンが出していたカラヤン盤などもそうであった。こちらになると、今でも時折、中古ショップやオークションで見かけることがある。Orpheum の後に Riverside レーベルを買い取ったのは、米 ABC レコードだったが、この会社が出していたレコードに倣って、赤土色のリングの上部に「R」の文字を載せたデザインを踏襲している。

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 ジャケット裏面に「丸P1975」との表記のある SMJ-6144 SMJ-6118(ビクター音楽産業)は、おそらく最も持っておられる方が多い『Waltz』のLP盤ではないだろうか。僕の家に元々あったのも、この盤。オリジナルLPに倣って、黒地に正方形をあしらったデザインである。今日も数枚の SMJ 盤がオークションに出品されている。

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 次いでVIJ-126(ビクター音楽産業)が1984年に出た。これが復刻版以外では、最後のLPバージョンだったろう。1986年には、最初のCD(VDJ-1536)が出ているのだから。LP時代の最後だっただけに、あまり数が出なかっただろうか。新しい盤にしては見かけることが少ない。無論、希少盤というほどでもないが。帯には「再カッティング」の文字がある。実際、盤を作る機材なども質があがっているのだろう。ちょっときらびやかな、ハイファイ風の音がする。我が家の試聴環境では、少しシンバルが騒がしいけれど。

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(2017/3/2の追記)akiseさんから番号違いのご指摘をいただき、訂正しました。確認不足で申し訳ありません。

2017年1月17日 (火)

『Waltz for Debby』定位問題の余白

 試聴記事は、資料探索の関係でしばしお休み。で、少し気軽な話題を書きます。

 前回の記事で、楠薫氏がすでに2006年に『Waltz for Debby』盤の「音揺れ」問題に言及しておられたという話を書いた(「アナログ録音はアナログで、デジタル録音はデジタルで聴け」(『ジャズ批評』誌の2006年1月号、p.62)。なので、僕も自分がこの間取り上げてきた音場や定位問題について、もしかして先行した指摘がなかったかどうか調べてみた。以下は、その結果。

 まずは、発売時期やシリーズによって、音場の広がりが違うことについて。実は、他の作品でも同様の傾向があるのでは、とうすうす感じていた。例えば『Exploretions』盤について、同じような聴き比べをされた方がいる。オーディオ・ビジュアル関係のSNS「Phile-webコミュニティ」の中のベルウッドさんの日記記事「探求の旅 (ビル・エヴァンス・トリオのハイレゾ比較)」で、以下の3つの盤が試聴された。投稿されたのは、2015年4月。

A)米国初版盤(OJCCD-037-2, 発売1987/01/01, Remaster - David Luke)
B)HDtrack 24bit-88kHz-9351-2, Original Jazz Classics, 発売2011)
C)米国Hybrid (Fantasy:025218733465, 発売:2004/08/17, Remaster - Joe Tarantino)

 その結果、

「A)→B)→C)といくに従って、定位がはっきりしてより外側へと分離していきます。ピアノが右、ベースが左、リズムセクションは左右に拡がりますがモチアン独特のブラシワークは左寄りの奥に聞こえます。B)とC)はほとんど同じような定位感なのですが、C)になるとピアノは右スピーカーの外側にまで拡がっていきます。」

と書かれている。これは僕が聴いた『Waltz for Debby』盤と、かなり似たような内容だ。

 次いで、それらOJC盤において、マスタートラックとボーナストラックで音場が違う混合版があるという点について。こちらは、2ちゃんねるの過去ログ倉庫「ビル・エヴァンス Bill Evans (1929-1980) part17」中の記事を引こう。

「507 :いつか名無しさんが:2014/04/28(月) 20:21:48.25 ID:???
60年代なんて子マスター、孫マスター、といった具合にコピーマスターテープが世界中にある。
いかに親マスターに近いテープからCDを起こしているかがすべてであり、マスタリングの音質を語る以前の問題である。
マスタリングの優劣を争うには元が同じでないと意味が無い。
初期のOJCのCDなんてどれが親マスターなのかわからなくなっていたんじゃないか? w
Waltz や Sundayではレギュラートラックのボケ、セパレーションの悪さと比較して、ボーナストラックの鮮明さ、左右chの分離の良さを聴けばそれがよくわかる。 」

 こちらの発言をされた方は、『Waltz』と『Sunday』のOJC盤において、レギュラートラックとボーナストラックを比較し、左右チャンネルの分離に違いがあることを、2014年の時点で、ちゃんと把握しておられた。すばらしい!

 最後は、楽器の定位について。「新大陸への誘い」というブログの2010年7月の記事「~Waltz for Debby ~ Bill Evans Torio」(ママ)から。引用個所の前段には、例の「地下鉄の音が入っている」話の検証があって、その続きがこちら。

「低音の音についてはこれぐらいにして、どうしてハイハットのスティックがシンバルに当った瞬間の音の広がりが不自然でどこの位置で叩いているのか定位せず、また拍手の音やグラスが当る音などの広がりが不自然でしたので、Kengoさんに、この録音はライブなのに、複数のマイクをたててミキシング時にパンボットなどで調整されているのですか?とお聞きしたところ、簡単なセッティングで録音されて2chに落とされているのでそれほど凝ったことはされていないのではとのことでした。
それと、Walz for Debbyにはいろんな盤があり、それによっても音質がかわり、国内盤と輸入盤ではR/Lチャンネルが逆になっている盤もあるとのことでした。

そんなことをお聞きしましたので、YA-1に刺さっているRCAケーブルの上下(左右)入れ替えてみました。左右のチャンネルが逆になれば音場が逆になるだけだと思ってましたが、なぜか見事に、シンバルも人の声も定位して自然な環境音が再現されました。」

 こちらの記事では、僕も感じていたドラムの定位が曖昧だという点を指摘されている。またこの方が試された左右の入力を反対にする・・・つまりエヴァンスのピアノを左に持ってくることは、僕もドラムの定位を確かめたときに、一度試してみました、実は(笑)。「見事に、シンバルも人の声も定位して」というところまでは感じなかったが、音場的に特に違和感もなく、落ち着いて聴こえたのも事実。以上、僕と似たような聴き方をしている方が、少なくとも何人かはいらっしゃったのだな、とちょっとホッとした夕べでした。

2017年1月15日 (日)

『Waltz for Debby』の視聴記事

 このブログでは、最近『Waltz for Debby』の音質等について試聴を続けている。無論、超有名盤だけに、既存の雑誌にもいくつか視聴記事がある。それらをいくつか紹介したい。

 その中ではこのブログでも何回か紹介している「ワークパーツ落とし」説を提起した嶋護(しまもり)氏の記事が有名だ。(『Stereo Sound』No.191の連載記事「レコード音楽随想 音盤の向こう側、2014年)。

「 ところで、広く知られたことだが、この2枚のアルバムには、LPであるかCDであるか配信であるかを問わず、テープがひっかかったような音揺れやドロップアウトや、(ステレオでは)一瞬音がモノーラルになってしまうといった欠点が、主に曲の始まりや終わり付近に目立つ。こうした欠点はもっとも初期に作られた、いわゆるオリジナル盤レコードにもあり、これもモノーラルかステレオかを問わない。(中略)  ところが、実は音揺れやドロップアウトとは無縁の『ワルツ・フォー・デビィ』と『サンデイ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』は、LPとCDを合わせても両手で数えられるほどながら存在するのである。(中略)
 話を『ワルツ・フォー・デビィ』のCDに絞ると、音揺れやドロップアウトと無縁なディスクは知る限り二つある(少しでも公正を期すために、聴いたCDすべてを別表で網羅する)。一つは、国内初版(ビクター音産VDJ1536)。もう一つは、ダグラス・サックスがマスタリングしたゴールドCD(米アナログ・プロダクションズCAPJ009)だ。」(p.282、下線は引用者が付加)

 そして、この二盤を「カッティングマスターを経由せず、ワークパーツから直に落として作られた」可能性を示唆された。これがいわゆる「ワークパーツ落とし」説の始まりである。なお、僕が試聴した『Waltz for Debby』のオリジナル盤には、「My Foolish Heart」の終わりや「My Romance」の始めには音揺れ等はなかった(>>こちら。あるいは、こちら)。無論、嶋氏が他の場所で音揺れ等を見つけたというのなら、話はわかる。確かに、嶋氏は「My Foolish Heart」の冒頭におけるフラッター(回転むら)の存在を、記事中で指摘している。ただしこのフラッターは、上記二盤も含め「すべてのLPとCDに例外なく存在する」とあるので、嶋氏がこの個所を上記二盤の場合における「音揺れ」とは判断していないことになる。

 他には、別冊ステレオサウンド『管球王国』の2012年WINTE号(Vol.63)の、「同一タイトルLP盤 新旧聴き比べ」という記事中で、『Waltz for Debby』アナログ盤の聴き比べが行われている(聴き手は、新忠篤氏と篠田寛一氏)。聴き比べた盤とは、1)オリジナル・モノラル盤(RLP 399)、2)日本グラモフォン盤(MW2004)、3)ビクター音楽産業盤(SMJ-6118)、4)アナログ・プロダクションズ盤(APJ009)の4種。こちらでも具体的な「音揺れ」個所についての記述はないが、たまたま「My Foolish Heart」を聴いているので、1)と4)の盤で「冒頭のピアノの音が、ちょっと震えているような感じ」がした、との感想がある。これは、嶋氏の指摘と一致する。ただし、2)の日本グラモフォン盤(MW2004)については、「これは冒頭のピアノの音も震えず、全体にいい音ですね。」とあり、フラッターが「すべてのLPとCDに例外なく存在する」との指摘とは一部矛盾があるが。

 さらに時代は遡るが、先日たまたま手に入れた『ジャズ批評』誌の2006年1月号に、楠薫氏による「アナログ録音はアナログで、デジタル録音はデジタルで聴け」という記事があり、ここでも『Waltz』盤についての記述がある※1。

「 例えばビル・エヴァンスの"Waltz for Debby"。オリジナルはテープが撚れた様なピッチのズレ、音揺れがあるが、Victorが1986年に発売したCDは音揺れも無く、再発LPのAnalogue ProductionsのPREMIUM Vinyl Pressing HQ-180も同様で同じマスターテープを使用していると思われる。」(p.62)

 「Victorが1986年に発売したCD」とは、上記「VDJ1536」のこと。またもう一枚は、フォーマットこそ違うが同じ「Analogue Productions」のプロダクトである。僕はこれまで、これらの盤に音揺れ等がないとの指摘は、嶋氏が言い出した話とばかり思ってきたが、少なくとも8年前には同じような指摘がなされていたことがわかって、びっくり※2。いずれにせよ、実際には上記の二盤以外にも、音揺れ等のない盤は多数見つかっている。僕個人としては、どなたかこの問題について、新たな検証記事を書いてくれることを切に望みたい。

※1 同じ号には、後藤誠一氏による「オリジナルLPとCDの対立なんて無意味だよ!」という記事もあり、『Waltz』盤の「リバーサイド・オリジナル盤、国内盤、OJC盤、アナログ・プロダクション盤、リマスターCD盤の聴き比べを行った」結果、「誰もがオリジナル盤が優れていると予測したが、オリジナル盤に軍配を上げる人はいなかった。なにせオリジナルは微妙にピッチが狂っていて、聴き辛いのだ。」と結論づけておられる。音質の評価は別にしても、少なくともピッチ云々の話は初めて聞く話だ。また調べたいことが増えた。
※2 「嶋護」と「楠薫」。名前のつくりも似ているし、両名とも1960年生まれという。なので、もしかして同一人物?と思わないでもなかったが、嶋氏は群馬県出身という情報もあり、福岡県北九州市のお医者さん、と上記記事中のプロフィール欄に記載のある楠氏とは、やはり他人?

2017年1月14日 (土)

006 The Boy Next Door

 『At Shelly's Manne-Hole』から、もう一曲。「The Boy Next Door」は、ミュージカル映画『若草の頃/Meet Me in St. Louis』(1944年)の中で、かのジュディ・ガーランドが歌った曲として有名である。邦題は「となりの彼氏」。とはいえ、その歌詞は、「彼氏」ならぬ、まだ存在さえ知られていない「となりに住んでいる青年」へのあこがれを歌ったもの。どちらかと言えば、「恋に恋している」という初々しさが、曲調にも現れている。「Wonder Why」同様、こちらも1960年代(こちらは前半)に、3度、計4回しか録音されていない。

 曲の構成は、AA':BB'で、AA'部分のメロディーは前奏のような扱い。1度しか現れない。以下に録音リストを示す(すべてトリオ演奏)。

1)『The Complete Riverside Recordings』(Riverside, 1961) 5:07
※『Explorations』セッション時の録音だが、オリジナルLPではカットされていた演奏。近年出されている『Explorations』のCDには、大抵ボーナストラックとして収録されている。ピアノによる前奏・AA'部分(T36)、ピアノ・テーマ・BB'部分(1コーラス、T32)、ピアノ・ソロ(3コーラス、T32+T32+T32)、ベース・ソロ(1コーラス、T32)、ピアノ・テーマ(1コーラス、T32)、後奏(T4)。原曲もある程度そうなっているのだが、AA'部分ははっきりとした3拍子でなく、ルバートで自由に歌われる。ピアノ・テーマ部分に入ると、ドラムスのポール・モチアンがBおよびB'のそれぞれの後半部分をブラシを使って3拍子で叩き、リズムチェンジを周到に準備する。このあたりは前々回「004 Alice in Wonderland」で見てきたものと同じ手法だ。その後、ピアノ・ソロ部に入ると、いつのまにか軽快なワルツのリズムになっているという具合。スコット・ラファロのソロには、エヴァンスが最善の注意で美しいバッキングをつけている。ただし、1コーラスと短いのが、非常に残念。
2)『At Shelly's Manne-Hole』(Riverside, 1963) 5:22
※ピアノによる前奏・AA'部分、ピアノ・テーマ・BB'部分(1コーラス)、ピアノ・ソロ(2コーラス)、ベース・ソロ(2コーラス)、ピアノ・ソロ(1コーラス)、ピアノ・テーマ(1コーラス)、AA'部分を使った後奏、という構成。1)と比べるとテンポも速めで、動きのある演奏だ。これくらいのテンポの方が、メンバーたちも弾きやすそうに聴こえる。ドラムスのラリー・バンカーは、ほとんど初見に近い演奏だと思われるが、そんなことは微塵も感じさせない安定感がある。ベースは、チャック・イスラエル。
3)『The Bill Evans Trio "Live"』(Verve, 1964) 5:52
※2)の約1年後に、カリフォルニア・ソーサリトのトライデント・クラブで収録されたライヴ演奏から。7月7日の公演からで、こちらが先にLPで発表された。2)よりも、もうワンテンポ速めになっているが、荒い演奏という感じはまったくない。ピアノによる前奏・AA'部分、ピアノ・テーマ・BB'部分(1コーラス)、ピアノ・ソロ(3コーラス)、ベース・ソロ(3コーラス)、ピアノ・テーマ(1コーラス)、AA'部分を使ったやや長めの後奏。ちなみにピアノによる前奏の最後で、珍しくエヴァンスが演奏をいったん止めて、「シックスティーン」云々のようなことをしゃべった後、和音を弾き直している。これはメンバーに話してかけているのだろうか?(曲について観客に語りかけているとするなら、かなり珍しいだろう)※。
4)『The Complete Bill Evans on Verve』(Verve, 1964) 4:43
※こちらは、3)と同じトライデント・クラブでのライヴから、7月9日の演奏。『Complete』盤で発掘された別テイクである。ピアノによる前奏・AA'部分、ピアノ・テーマ・BB'部分(1コーラス)、ピアノ・ソロ(2コーラス)、ベース・ソロ(2コーラス)、B部分はピアノ・ソロ、B'部分はピアノ・テーマ(合わせて1コーラス)、AA'部分を使ったやや長めの後奏。当然、3)と似ているが、こちらの方が前奏もずっとシンプル。ソロも2コーラスづつと短めで、よりコンパクトな演奏になっている。チャック・イスラエルのベース・ソロも、非常にわかりやすい。

<この1曲・この演奏>
 『Explorations』のアウトテイクで聴くことのできる演奏は、非常に落ち着いた、ある意味、完成度の高いもので、単体で聴いた場合はボツにされるような演奏では全然ない。プロデューサーのオリン・リープニュースの回想には、

「われわれは1枚のアルバムにちょうど収まる以上の量をこなして、録音を終えた。どれをオミットするかということになり、エヴァンスが「ザ・ボーイ・ネクスト・ドア」を選んだのだが、これは結局、70年代のリイシューLPの中に収録された。」(『The Complete Riverside Recordings』のライナーノーツから)

とある。アルバム全体の統一感から、エヴァンス自身が合わない部分があると感じていたのだろう。後年の盤と比べると、少しリズムが重い感じは、まあ確かにある。その点、後年の2つのライヴ録音の存在価値は非常に高い。イスラエル(ベース)、ラリー・バンカー(ドラムス)というメンバーは、両ライヴとも同じ。録音も含めて考えれば、トライデント・クラブでの演奏(マスターテイク)の方に、原曲の「初々しさ」「楽しさ」を少しばかり多めに感じ取ることができる。いずれにせよ、それぞれが何度聴いても飽きない佳演になっていることは間違いない。

※(2017/2/4の追記)海外での生活経験が長く、ブログ「ビルエバンス Bill Evans の旅 レア 希少CDを探して」を書かれておられる suzuki12343 さんに、厚かましくもこのエヴァンスの台詞についてお聞きしてみた。「16才の気分で弾いてみようか。」と聴こえるとのこと。曲紹介の言葉としても、確かによく合っている。親切にご対応いただき、ご紹介のOKもいただいたので、ここにあらためて感謝とともに追記しておきます。ありがとうございました。>>記事本体は、こちら

2017年1月13日 (金)

005 Wonder Why

 昨年、エヴァンス・トリオの未発表スタジオ録音が発掘され大きな話題を呼んだ。今回のテーマ曲は、その『Some Other Time: The Lost Session From The Black Forest』を聴いたときに、「エヴァンスの愛奏曲のような気がしていたのだが。」と書いた曲。実は、意外に少ない計3回しか録音されていなかった。それも、1960年代に集中している。サラ・ヴォーンなども歌っているゆったりとしたスタンダード曲だが、エヴァンスは少し早足で、しかし可憐なイメージで弾いている。

 曲の構成は、A(T8=8小節)、A'(T8)、B(T8)、A”(T12)。以下に録音リストを示す(すべてトリオ演奏)。

1)『At Shelly's Manne-Hole』(Riverside, 1963) 5:15
※まず、単音で弾き始められる冒頭のテーマが、極めて印象的だ。ピアノ・テーマ(1コーラス、T36)、ピアノ・ソロ(1コーラス、T36)、ベース・ソロ(2コーラス、T36+T36)、ピアノ・テーマ(1コーラス、T36)、後奏(T6)。 チャック・イスラエルのベースは、ソロで本当にいい味を出している。このような朴訥かつインティメートなベースは、なかなか聴くことができない。飛び入りのように参加したドラマー、ラリー・バンカーも、安定したブラシ・ワークを聴かせている。
2)『The Secret Sessions, Recorded at the Village Vanguard, 1966-1975』(Milestone, 1967) 4:45
※ヴィレッジ・ヴァンガードのライヴを集成したセット物中、5枚目のディスクに入っている。ピアノ・テーマ(1コーラス)、ベース・ソロ(2コーラス)、ピアノ・ソロ(2コーラス)、ピアノ・テーマ(1コーラス)、後奏という構成。曲の入りは、1)とはまったく違って、「ドシラソファ」と音階を降りてきてテーマに入る形に変わった。正規録音ではないので確実なことは言えないが、キーもほぼ1度高いよう。当然、曲は明るめに響く。また、ドラムスがフィリー・ジョー・ジョーンズということもあって、最初のテーマからしてテンポも速いし、断然リズミックだ。このテーマにおけるB部分のメトロノーム数は、約168。ちなみに1)の同じ個所は、約144。フィリー・ジョーは、ブラシは使わずバスドラムやシンバル類も多用し、さらにリズムを追い込んでいく。 結果、後半に向かってテンポもどんどんと速くなっていき、1)より1コーラス多いにもかかわらず、演奏時間は30秒ほど短くなっている。テーマの後、いきなりエディ・ゴメスのソロとなる展開も意外性があるし、このソロ自体は非常に緻密な構成。イスラエルとはまた違う意味で、聴き応え十分だ。
3)『Some Other Time: The Lost Session From The Black Forest』(Resonance, 1968) 4:13
※唯一のセッション録音。こちらのキーは、きっちり1)より1度高い。ピアノ・テーマ(1コーラス)、ベース・ソロ(2コーラス)、ピアノ・ソロ(1コーラス)、ピアノ・テーマ(1コーラス)。こちらもシンプルな入りで始まって、やはりテーマ後にすぐベース・ソロが来る。この時期は、ゴメスとそのように打ち合わせていたのだろう。テンポも2)と同じくらいだが、2)ほどは後半でスピードアップしない。こちらのドラムスは、ジャック・デジョネット。ブラシを中心に、後半ではスティックを使い分けた、軽快なドラミングである。最後のテーマ再現で、B部分の最後に全員で「ルフト・バウゼ」(一瞬の間)を入れていて、これがとても効果的に決まっている。

<この1曲・この演奏>
 個人的には、やはり『At Shelly's Manne-Hole』盤の演奏が、最もしっくりくる。西海岸で、満を持したようにラリー・バンカーと出会って、彼の持ち味も生かした落ち着いた雰囲気の名演に仕上がっている。ほとんどリハーサルなしで臨んだライヴだと思うが、その割には他の収録曲も含め、よくまとまっている。特に根拠があって書いている訳ではないが、僕は時折、この時期のエヴァンスの演奏が、一番幸せそうに聴こえるときがある。その中でも、この盤で聴く「Wonder Why」の冒頭のテーマは、格別な親密さで僕の心を捉えて離さない。

2017年1月 9日 (月)

『The Village Vanguard Sessions』(その1)

 『Waltz for Debby』の初期ステレオLPを調べた流れで、関連盤として2枚組LP『The Village Vanguard Sessions』(Milestone, MSP-47002)を取り上げる。すでにMilestoneレーベルになっているが、1973年発売だから、そこそこ早い時期に出たものだ。2枚組なので見開きジャケットになるが、普通の仕様と違い、縦に広げる形になっているのが珍しい。で、その縦長スペースを使い、背広を着込んだエヴァンスのバスト・ショットをあしらっていて、なかなか凝ったデザインである。

Img_1275

 以下、収録曲を示す。

Side 1:
01.My Foolish Heart
02.My Romance(take1)
03.Some Other Time
Side 2:
04.Solar
05.Gloria's Step(take2)
06.My Man's Gone Now
Side 3:
07.All Of You(take2)
08.Alice In Wonderland(take2)
09.Porgy
Side 4:
10.Milestones
11.Detour Ahead(take2)
12.Waltz For Debby(take2)
13.Jade Visions(take2)

 見てのとおり、『Sunday』盤と『Waltz』盤の両ライヴLPのマスターテイクを、当日(1961年6月25日)の演奏順に並び替えたもの。ただそれだけではなく、ボーナストラックとして「Porgy (I Love You, Porgy)」を加えているところが、当時としては新機軸だったろう。マスタリングについては「Re-mastered, 1973, by Mike Reese (Fantasy/Studios; Berkeley, Cal.).」とある。ただ、この盤で注目されるのは、その音場である。これまで両盤の初期ステレオLPを聴いてきて、その音場が現行のCD等で聴けるものとは「やや」狭いことを指摘しておいた※。我が家の視聴環境での話だが、現行CD等が「ベースが10時過ぎ、ピアノが2時前くらい」であるのに比べ、初期ステレオLPは「ベースが11時前、ピアノが1時過ぎくらい」に聴こえていた。ところが、この『The Village Vanguard Sessions』盤は、驚いたことにさらに狭い音場、ほぼ11時55分から12時5分くらいの範囲で再生されるのである。ラファロのベースこそ中央やや左から聴こえるが、エヴァンスのピアノは右というより、最早ほぼ中央付近に位置している。海外から上記写真のLPが届いて、最初にターンテーブルに載せたときには、あやまってモノミックスの盤を購入してしまったかと思ったくらい。これまで聴いた音源とあまりに違うため、我が家のターンテーブルやレコード針との相性もあるかと思い、もう一種のターンテーブルでも聴いてみたのだが、やはり同じ音場であった。実際、同じ感想を持たれた方もいると見えて、エヴァンスの音源を「ニコニコ動画」に多数アップされている crimson さんという方が、本音源についてこのようなコメントをつけておられた。

「Milestoneの2枚組編集盤【The Village Vanguard Sessions】のA面を。ご存知の方はいらっしゃるかとは思いますが,、この盤は1973年にリマスターされた別ミックスです。モノラルに聞こえるかもしれませんが、中央寄りのステレオ・ミックス(会場の奥の席で聴いている感じ)です【イヤフォン推奨】。(後略)」(【JAZZ】BILL EVANS The Village Vanguard 別ミックスA面【レコード】から)

 ここで思い出すのは、初期CD=VDJ1536のこと。嶋譲氏が「レコード音楽随想 音盤の向こう側」(『Stereo Sound』No.191, 2014)という記事の中で、以下のように書いていることは、このブログでもすでに紹介した。念のため再掲しておこう。

「いっぽう、VDJ1536では、本来はステレオ・ピクチャーの左端にいるベースの位置が中央に寄ってしまっている。この録音ではもともとピアノが右チャンネル、ドラムスが左チャンネルにいて、中央は会場のアンビエンスや客のたてる音だけなので、いわば「空いている」ように感じられる。その隙間を少しでも埋めるべくベースを中央寄りに移動させたのであろうか。この処理はレコードの時代には覚えがないが、これ以降に出たCDには時々見られるようになった。」(p.283)

 嶋氏は、おそらく『The Village Vanguard Sessions』盤のことはご存じなかったのだろう。ただ、この盤の「超狭い音場」は『Sunday』盤と『Waltz』盤の音盤史の中でも、かなり特殊であるように思われる。ベースが中央に寄っているという VDJ1536 よりも、さらに狭いのである。似たような音場の盤がないかと探してみたが、なかなか見つからなかったのも事実だ。が、最近、やっと一枚の盤に辿り着いた。それは、『At The Village Vanguard』という1986年にFantasyから出たCD(FCD-60017)。

60017

 収録曲は以下の10曲である。

01.My Foolish Heart
02.My Romance (take1)
03.Solar
04.Gloria's Step(take2)
05.My Man's Gone Now
06.All Of You(take2)
07.Porgy(I Loves You Porgy)
08.Milestones
09.Waltz For Debby(take2)
10.Jade Visions(take2)

 ジャケット表には「OVER 60 MINUTES OF MUSIC」とある。おそらく『The Village Vanguard Sessions』の後継CDという感じなのだろうが、マスタリングについては「Digitally remastered directly from the original analog master tapes by Ed Michel, Fantasy Studios, Berkeley, CA」と記載されている。想像するに『The Village Vanguard Sessions』のアナログ・マスターテープを使って、デジタル・リマスターをしたのではないだろうか。このCDは、現在もUniversalからEUバージョンが発売されているようだ(00025218301725)。いずれにせよLP共々、当ライヴの音場等について、一石を投じる盤であることは間違いない。

※「Original Jazz Classics」というファンタジー社の再発売シリーズ、いわゆる「OJC盤」では、一部、狭い音場と広い音場とが混在しているものが出ていた>>詳しくは「OJC盤の謎」、(その1)(その2)へ。

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